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 僕は得体の知れない恐怖に怯え、身を縮めるようにテーブルの席に戻った。


「ルシール大丈夫? 顔青い……」


「そ、そうかな……」


 そう言いながらフレイが心配そうな表情で、僕の顔を覗き込んできた。またフレイに心配させてしまったようだ。


 というのも、空間把握スキルの範囲内なら、前より人の感情が読みやすくなった気がする。

 そのお陰で抑揚のない口調に無表情で判断しづらいかったフレイの表情も前よりわかりやすい。


 ――ん?


 それに、意識すれば、自分の表情も客観的に見ることができ、その表情は硬く強張ったものになっていることに気がついた。 


 ――……こんな顔じゃ、心配させてしまうよな……そうだ。こういう時こそスマイルだ。スマイルで心を落ち着かせよう。


【ルシールはスマイルを使った】


 ――ぉ、おおっ。か、顔が勝手に……


 ルシールはフレイを見てニッコリ微笑んだ。


 恐怖で強張り硬くなっていた表情や、知らぬ内に力が入り過ぎていた身体までほぐれていくのを感じた。


「ぁ……」


 ――ふぅ。これでもう大丈夫だ。でも、この感覚、何回やっても慣れないな。

 これをすると顔の表情筋が無理に引っ張られて違和感が‥‥って、あれ?


「フレイ?」


「ルシール不意打ち。心配して損した」


 じーっとこちらを見ていたフレイはそう言うと顔を背けてしまった。

 よく見れば、フレイの耳が少し赤くなっている。

 いらぬ心配をさせた僕に怒っているのだろう。


「フレイごめん。さっきまでは本当に大変だったんだ」


「大変だった? どうして?」


「実は……」


 少し迷ったけど僕は先ほど魔眼スキルで見た不可解な光景と、その時に感じた恐怖についてフレイに伝えた。


 フレイに伝えたのも幼馴染みであるアレスたちがあの場にいたからでもある。


 今は情報が少ないので状況が分からないから、ただ心配させるだけかもしれないけど……


 それでも、偶に会いに行っているフレイなら、様子を見て気を付けるように伝えることくらいはできるだろう思ったんだ。


 ――こんな根拠のない話を信じて貰えるか分からないけど……


「そんなことが……」


 淡々とした口調でそれだけ言ったフレイは、そのまま俯いてしまい――


「……」

「……」


 そのままフレイが黙り込んでしまった。


 ――そうだよな……


 さすがに今は一緒に活動しているとはいえ、魔眼で見た僕自身でも僕の目がおかしかったのかもと、信じきれないのに、僕とパーティーを組んで数ヶ月しか経っていないフレイも全てを信じることなんてできないだろう。


 僕はそのまま待つことにした。


 ただ時間だけが過ぎていき、外の賑わいもだんだんと小さくなり始めていた。そんな時だった――


「ねぇ君!!」


「ひゃい!!」


 突然、背後から声をかけられのだ。


 先ほどの光景を思い返していた僕は不意をつかれる形だったため、口から心臓が飛び出しそうなほど驚き、僕自身もどこから出したのか分からないほどの間抜けな奇声を発していた。


 慌てて両手で口を塞いだ僕を、俯いていたはずのフレイがじーっと視線を向けている。


 ――分かってるよ、バカって言いたいんでしょ。とほほ……


 僕はその視線から逃げるように、ゆっくりと声した背後へと振り返った。


 ――んん?


 すると、そこには長い髪を後ろで一つ結びにした金髪の碧眼のイケメンが笑顔で立っていた。


 すぐに周囲を探ったけど、その人物に連れらしい人物や、隠れてこちらを探るような怪しい人物は見当たらない。


 ――一人か……


 顔立ちは中性的で非常に整っていて、身につけたものも軽装だけど、どれも質の良さそうな物に見えた。おしゃれなマントも似合っててカッコいい。


 腰には細い長剣をさしているのだけど、風のシルエアのように、何かの細工が施された剣の柄だけが見える。


 ――冒険者? ……なのか?


「今の話。もっと詳しく聞かせてくれないかな?」


 その人物に怪しい素ぶりはみられず、そう言った彼の声は意外にも高い。


 彼は僕より少し年上に見えるけど、不思議とシルエットは穏やかな光で輝いて見え、光の強さからも判断すれば彼の魔力量はフレイよりも多いように感じる。


 ――信用はできそうなんだけどな……


「ど、どちらさまですか?」


「ああ、申し遅れていた。私はアーシェじゃない……アッシュと言う。

 訳あって私はある人物を捜しているんだが、君と今の話が気になって割り込んでしまった。あ、無論、勝手に盗み聞きしてしまったのはすまないと思っている」


 そう言った彼は頭を深く下げた。


「いえ……」


 ――ははは……謝ってくれるのはいいけど、完璧に偽名だよね。途中まで本名言いかけてたし……


 ただ、口調は怪しいけど、やはりシルエットから感じられる雰囲気は悪い人に見えない。それに……


 ――この人、強いかも……下手に刺激するのはやめとこう。


「それで……」


 頭を上げたアッシュさんが、僕とフレイに視線を向けている。名を名乗れってことだろう。


「あっ、僕はルシール。こっちは……」


「フレイ」


「そうか。ルシール君にフレイ君よろしく頼む。それで……先ほどの話しに戻るが……」


「あ、はい。それでアッシュさんは何が気になるんですか?」


「その異形という存在の話さ」


「……」


 ――まあ、別に隠すことでも、って普通の人に魔力って見れるのか? 感知はあるけど、存在そのものをシルエットで見るスキルって……無い。

 スキルショップには無かったから、これは見れないと思ってた方がいい、か……じゃあ、どうやって説明する? 


 僕がどう説明するべきか、悩み考えている間に、彼は勝手に僕の隣の位置にあるテーブルの椅子に腰掛けた。


「ルシール君……それで、どうかな?」


 ――先ほどの話を聞かれてるから誤魔化しはダメだし……


「……えっと……それが、今冷静になって考えてみると、ただなんとなくそう感じただけだったんです。

 大勢の騎士たちが隊列を組んで歩く姿なんて見たことなかったから、思わず僕もその雰囲気に呑まれてしまいました。


「そうなのかい?」


「はい。恥ずかしながらその大勢の騎士たちに圧倒されて怖くなったんです。

 それで騎士たちが異形の存在に見えただけなのかもしれません。だから、このことは気にしないで下さい」


 そう言うと僕はアッシュさんに向かって頭を下げ、彼の合図で頭を戻したところで、彼と視線が合う。


「そう……っ!? あれっ、君っ失礼。やはりそうだ。部屋が薄暗くなっていて気づかなかったが、ルシール君の瞳の色は少し赤いよね?」


 そう言った彼が顔を近づけ僕の瞳を覗き込んできた。あまりの早さに反応できない。


「アッシュさん顔近いですって……えっ? 僕は黒……ぐえっ「ルシールは少し赤目。それが何?」」


 僕が黒目ってことを言おうとしたら、フレイにおもいっきり足を踏まれた。


 ――いてて、なんで、僕の足を踏むんだよ……


 そのフレイは僕に構うことなく、不審に思ったらしい彼を、そのまま睨むように見ている。


 ――あれ……どういうこと? 僕は黒目じゃないの? ……え、え、何、フレイの言動では、今の僕は赤目になってるってこと? なんで? なんでだ、違いがあるとすれば、目が見えなくなって、スキルが増えたことくらいだ。

 ……あっ、ひょっとして、魔眼スキルのせいか?


 確認のためにフレイに視線を向けて見るが、そのフレイはずっと牽制するかのように、アッシュさんのほうを見てこちらを見てくれそうにない。


 ただ、今の感情を表しているかのようにフレイの魔力が激しく揺れているのが見える。


 ――フレイの魔力……ぁ、そうだよ。


 今は魔眼スキルを常時発動している状態だ。魔眼スキルの影響が出てたって不思議じゃない。


 僕はここで初めて、魔眼スキルを使用すると赤目になることに気がついた。


 ――ん、だがまてよ。ひょっとして赤目は魔族の特徴なのかな?


 そう思い至ったけど、すぐに僕は心の中で否定した。


 ――いや、それは大丈夫か。


 その理由は、数は少ないけど、僕は赤目の人族を見たことがあるからだ。


 僕がそんなことを考えていることなど、知る由もないアッシュさんは、無言になった僕を見て、ぽりぽりと頬を掻いた。


「……ははは、二人ともそんなに警戒しなくても、私は何もしないよ。

 ただ、私が捜している人物の特徴が黒髪赤目の少年だったってことだよ」


 そう言って目を細めたアッシュさんが僕の瞳と髪の色をジッと見て、頷き納得した表情を向けてくる。


 ――え、なに。この目はそんなにマズイの……


「そ、それで、何ですか」


「あはは、いやぁ、今日はツイてたよ。今回こそ当たりかな」


 アッシュさんがにっこりと笑みを向けてくる。


 ――今、今回こそって……


 イケメンのスマイルには破壊力があり、人の良さそうな笑顔でクラっとくるけど、生憎僕は男だし、騙されてなるもんか。


「それでルシール君。君を私の雇い主に会わせたいのだが、どうだ?」


 ――雇い主? え、何、ちょっと怖いんだけど……


「いやですっ、遠慮しますよ」


 彼は断られると思っていなかったのか絶句の表情でしばらく固まっていたが、再び動き出した彼は、前髪をゆっくりとかき上げると懲りずにニコリと笑みを向けてくる。


「そんな大したことじゃないんだ。ここで会ったのも何かの縁だと思わないか? だから、ね?」


「いえ、別に……」


 こちら側に必死に歩み寄ろうとするアッシュさんをあえて突き放した。そうしないとズルズルと流されそうで怖かったのだ。


「うっ、そう言わずに、やっと捜し当てたんだ。頼むよ」


 そう言って彼は両手を合わせて頭を下げた。もう何度目だろう。彼は頭をよく下げる。


 ――まあ、威圧的にこられるよりはいいんだけど……


「ルシール気をつける。五人目だって。その前の四人。違ってたから雇い主に消された」


「え、やっぱりそうなのフレイ」


 真剣な表情をした、と思われるフレイが、僕のほうを見てこくりと頷く。


「アッシュさん、違ってたら僕のことも消すんですか?」


「ははは、君たちは面白いことを言うね」


「いやいや、ぜんぜん面白くないです。僕は消されたくないだけですから……ん、フレイ?」


「ルシール、帰る」


 警戒を強めていたフレイが僕の手を掴み、立ち上がろうとした。


「あ、ああ……ま、待つんだ。ほんと、消すとかないから、なぜそう言う発想がでるのか理解できんが、どうか私を信じてくれ」


 慌ててアッシュさんが、僕とフレイの手を握ってきた。その手は意外にも柔らかい。


「むう」


 ――うーん、空間把握で確認したところで、アッシュさんの感情には穏やかで、とても嘘をついてるようには見えない、か。けどな……


「今日会ったばかりで、知らない人から信じてくれって言われても」


「……では、どうすれば信じてくれる?」


「はい。僕は五人目だから、誤認だったってことで見逃してください」


 ――五人と誤認……ふふふ。


「ルシール恥ずかしい。面白くないし寒いだけ」


「えっ」


「ふふふ、そうきたか。ふふふ……君たちは面白いな」


 アッシュさんはよほどおかしいのか、しばらく経つがまだクスクス笑っている。その様子に僕もまんざらでもない。


 ただ、フレイは逆に僕の足をグリグリ踏んで少し不機嫌そうだ。痛いぞフレイ。


「コホンッ、ではルシール君こうしよう」


「こうとは?」


「それわな、明日、ここに雇い主を連れてくる。それで会ってくれないか? そのフレイ君はルシール君のパーティーメンバーなんだろ? フレイ君も一緒にいていいから」


 その言葉に警戒していたフレイの少し弱まった気がする。すると、案の定――


「ん。分かった」


 あっさりとアッシュさんからの提案を受け入れてしまった。


「ちょ、ちょっとフレイ……大丈夫なのか?」


「大丈夫。もう面倒になった。会えば解決するそれでいい」


「あはは、面倒ですか。やっと会ってくれる気になったんだな。良かった。

 では、これで私は席を外すとしよう長居して悪かった」


「はい」


「ふふ、明日の昼、この場所で待ってる」


「ん、分かった」


「……はい」


 約束を取り付けたアッシュさんは満足そうに頷くと、さっさとギルドを出ていった。


「フレイ、本当に大丈夫と思うか?」


「うん、あの人。ルシールが異形のこと話しても当たり前に聞いてた。何か知ってそう、だから」


「ああ、そう言えばそうだな。僕の信憑性のないな話を、否定しなかったしな。肯定もしなかったけど」


「だから、気になった」


「何か分かれば、儲けもんってことか」


「うん」


 そこで気が抜けたのか、忘れていた疲れがどっと押し寄せ、難しく考えることを放棄した僕たちは、その後、すぐにギルドを出て宿へと向かった。


 正直ヘトヘトで歩くのもやっとだった。直ぐベッドに横になった僕は、その夜後悔した。


 なぜあの時、フレイと同じ部屋でいいと言ってしまったのかと……


 そうなのだ、フレイの寝相は悪かったんだ。僕とベッドは離れているのに、なぜか、何度も蹴り落とされる。何かの呪いかと恐怖した。


 最後は諦めて床で寝たんだけど、次の日朝、フレイに起こされ「ルシール寝相わるい? まだまだ子供」と鼻で笑われ涙が出た。


 早寝スキル不発、寝不足のため、早起スキル発動せず。ルシールは疲れがたまった。

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