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明けましておめでとうございます。今年初投稿です。よろしくお願い致します。
10/14
屋代→祠に変更しました。
フレイと話し合った結果、危険察知が反応する場所には近寄らず先にゴブリンの数を減らすことにした。
今の僕たちの実力でもゴブリン程度なら問題ないから、フレイの地図があるから案外スムーズに進むことができる。
けど油断は禁物だ。ゴブリンは数が多いから、ちょっとした油断で周りを囲まれてしまう。
「うわぁ、またいたよ!」
「ん」
僕たちは周りを警戒しつつも、目についたゴブリンを片っ端から狩っていった。
「うげっ、こっちにも……こいつっ」
グキャァ……
「はぁ、はぁ……お、おお過ぎる〜」
「そんなこと分かってる。口じゃない。手を動かす」
「わ、分かってるよ。うっうっ」
森に入ってから既に二十体は狩っているだろうか。二人で狩るペースとしてはかなり早い。
そのため少しペースを落として慎重に進んでみたが、それでも僕たちが、ゴブゴブの森の中間の位置、開けた場所に差しかかった時には、狩った数も五十体を超えていた。
「ルシール、中間地点ついた。今日はここまでにしよ。無理はだめ」
フレイがそう言った場所は、少し開けていて二パーティーくらいなら一緒になって、休憩ができそうなスペースのある場所だった。
「ん? ああ、そうだね。ゴブリンの上位になる魔物の、ボブゴブリンもチラホラ目につき始めたもんな」
僕たちは、ゴブゴブの森に入ってから休む暇もなく狩つづけていた。そろそろお昼も過ぎている頃だろうか?
「うん。これだけゴブリンの数が増えていると……ひと月はゴブゴブの森に通って、その数を減らした方がいい」
「そっか〜そうだね。今だと儲かるし、ちょうどいいもんな」
フレイがコクりと頷き返してくれたが、彼女はふと、ある場所でその視線を止めた。
「どうしたフレイ? ああ」
彼女の視線の先には小さな祠があった。見た限り、穢気が漏れているわけでもないので、すぐに視線を手元に戻していたが、彼女はどこか寂しそうに胸元のグリくんを指で触れている。
「この森にもあったんだな」
「うん」
木陰に、腰掛けるのにちょうどいい切り株を見つけたので準備してきた携帯食を二人で食べた。
見通しのよい、この場所は他の冒険者もよく利用している。
それは、たまに食事の匂いに釣られて現れるゴブリンからの奇襲も、未然に防ぐことができるだ。
「そろそろ、報告に帰ろうか? 今日だけでえーっと……五十三体か。
半日だけで、これだけ狩れたんだ。結構な稼ぎだよ。今日はおいしいものでも食べない?」
「うん。ボアステーキ食べたい」
「僕も食べたかったんだ。よし、今日二人でボアステーキを……ん!? 誰か来る」
僕とフレイはこちらに近づいてくる複数の気配に何時でも動けるように中腰の姿勢をとり身構えた。
「がはははっ。ガラ、グレほら見てみろ! 俺の言った通りあっただろうが! 見覚えがあったんだよ」
「へぇ、ほんとにそれなのか? やけに簡単過ぎねぇかゲル?」
「ゲル、ガラアニキ。他の奴らが来る前に、さっさと取ってしまいましょうや」
リーダーらしい革の鎧に身を包んだ冒険者と、軽装のひょろっとした細身の冒険者、革のローブに身を包んだ冒険者が騒がしくこちらに近づいて来た。
その三人の共通している点といえば、無精髭を生やし埃っぽく、不潔そうに見えるということだ。お金のなかった僕でさえ、ここまで酷くはなかったと思う。
――イヤだな。近づきたくないよ。
「んあっ! おっと、ゲル、先客がいたぞ」
「構うこたぁねぇよ、あんなガキども。俺たちが見つけたんだ。文句は言わせねぇ!! なぁそこのガキどもっ!」
リーダーらしい、ゲルと言われた冒険者こちらを威嚇してか、目を細めて睨んでくる。
まあ、睨まれてはいるが、強くはないのか、それとも単に怖がらせるだけて、本気じゃないってことだろうか?
危険察知には何も反応しないので、どうしようかとフレイの顔を見てみるが、彼女は反応がない。いや、なんとなく困惑しているように感じた。
もう、だいたいのことは分かるようになってきた。
――わざわざ揉める必要もないか。
僕とフレイは、つい今しがた帰ろうと話していたところだし、それを、わざわざ揉め事になりなことに首を突っ込む必要はないだろうと思い首を振って邪魔はしないと三人に伝えた。
「へっ、分かればいいんだよ」
僕たちが邪魔をしないと分かった途端、自分たちよりも実力が下だと思ったのだろう。僕たちを鼻で笑うと、そのまま祠の方にずかずかと近づいて行った。
その後を残りの二人も追従していく。
――いったい何をする気だ?
「(フレイ、あれ、何するんだろうな?)」
「(分からない)」
フレイも俺と同じのようで、首を左右に振っては、そのまま冒険者の三人を眺めていた。
すると三人のうち、ローブに身を包んだ男が生活魔法のマッチボウ使い祠の中を照らし出した。
「おうおうおう。あったぞ。やっぱりこれであってるじゃねぇか」
「ああ、これは間違いねぇ。やったぜ、これ一つで30万カラなんて容易いもんだな……ぐへへへ!」
「ゲルアニキ、今日は久しぶりに色町ですね。へへへ」
――30万カラ?
「オラッ!」
次の瞬間、ゲルは祠に自身の腰から下げていた長剣を鞘ごと手に握り、それを祠向かって振り下ろした。
――あっ! 祠が。
祠はバキッ! っと音をたてて簡単に壊れた。そして中から黒く染まりかけた石がコロンと転がった。
「おお、これだ、これ。この聖石を持って帰ればいいんだよな」
「はい。ゲルアニキ」
「早く帰って色町だ」
「おうよ」
アニキと呼ばれていた奴が転がった石を手にニヤニヤとイヤな笑みを浮かべいた。それを見ていた僕は――
「おい、お前たち。お前たちは何を壊したと思ってる!」
頭が真っ白になり、気付けば三人の冒険者を怒鳴り付けていた。
「あん?」
「はあ! ガキが、横取りしようってか!」
「違う。お前たちは何を壊したか分かってるのかと聞いてるんだ!」
「はああ? お前バカか? おい、グレ。物を知らんガキに教えてやれ」
ゲルがグレという奴に向かって顎をしゃくって合図をした。
「あいよ。ったく。また面倒くせことを。おいガキ。冒険者は常に情報が命だろうが、お前は広場の掲示板を見ていないのか?」
「掲示板?」
フレイを見れば、彼女は何やら知っていたようで深刻そうな顔をしながらも黙って頷いている。
「ほう。そっちの嬢ちゃんは知ってるか。おい、ガキ、お前は冒険者辞めちまいな。
冒険者はごっこ遊びじゃねぇんだぞ。アニキが言うから今回だけ教えてやるが。いいか、これはエルフ族が設置したものだ」
グレの知ったか振りが発揮しているらしく、「確かにそう書いてたな」とゲルと、ガラが苦笑いを浮かべている。
――……そんなことくらい。僕だって知っている。
「これが他の森でも見つかってるんだぜ……し、か、も! 最近は、この祠が設置されている森から、禍々しい魔物がどんどん溢れだしている。
理由はよく分からんが、まあ、俺たちには関係ねぇが、これがエルフ族の仕業なんだとよ」
――ウソだ。そんな筈はない。
「だから俺たちはこの祠を壊した。何も間違っちゃいねぇ。この聖石を持って帰れば王国から報酬まで貰えるってもんだ。分かったかガキが」
ゲルが「まあ、これはやらねえがな」と得意気に聖石をポンポンと軽く叩いて見せる。
「もういいだろ。教えてやったんだ、本当なら俺たちは情報料を貰ったっていいんだが。まあ、今回は機嫌がいいから特別だ」
そう言ったゲルが部下の二人に「帰るぞ」と合図をした。
「そんなバカな……」
「あ、ゲルアニキ待ってくれ」
「じゃあな、ガキ。ぐへへ、涎が出るぜ」
――シャルさん……僕、分かりません……
僕は三人の冒険者から伝えられた言葉が、理解できず、ただぼーっと立ち尽くすことしかできなかったが、それもすぐに終わりを遂げ、シャルさんの言っていたことの方が正しいのだと認識させられた。
それは、意気揚々と肩で風をきって歩く三人の冒険者が僕とフレイの目の前を横切っている時だった。
「ゲルアニキ。なんか聖石から黒い煙が出てますぜ?」
「はっあ? 何を……げっ! な、何だ。なんだ? ふぅ、すぐに治まったじゃねぇか。脅かすなよ」
ゲルの肩に担いだ布袋から黒い煙が勢いよく溢れ出したが直ぐに煙は出なくなった。その時――
「何だったんで……ん?」
ググァァァッ!
「おいっ、グレ変な声出すな」
「ゲルアニキ俺は何も……」
グァァアアッ!
「おい。いい加減に……いぃぃ!?」
振り返ってこちらじゃなくさらに後方、祠の方を見たらしいリーダー格の冒険者が、驚きの表情を浮かべてすぐに前に向き直った。
「ゲルアニキ? いったい何を見た……へあ!? ……ひぃぃぃっ、な、なんだ。ゴブリンなのか!?」
――ゴブリン……!?
僕も釣られるように、後方の祠に振り返ると同時に危険察知が反応する。
――いぃ!?
「や、やばいぞフレイ。変なゴブリンが……デカイゴブリンが出てくる。ぼ、僕たちも逃げるぞ」
祠があった辺りには、黒い煙が集まっていた。その煙の上部からゴブリンらしき顔がチラチラ見えている。
それがどんどん大きく、なっていく。
「うん」
僕とフレイはすぐに走り出し、前方にいた三人の冒険者を追い抜こうとしたその時――
「おらっ!」
グレと呼ばれていた奴が、抜かそうとしたフレイに向かって体当たりをしてきたのだ。
ドンッ!「きゃ!!」
横に力強く押されたフレイはバランスを崩し、受け身が取れないまま地面に叩きつけられるように倒れた。
「おまえっ! フレイ大丈夫か!」
押したグレを睨みつけたが、奴は素知らぬ顔で駆け抜けていくだけで意味がないと分かり、僕は慌ててフレイに近づき手を引いて立ち上がらせたが、フレイが動かない。
「ほらフレイ、逃げないと」
逃げるように手を引っ張るがフレイは動かなかった。
「フレイ?」
フレイは首を左右に振って僕の手を離そうとする。
「逃げて……」
「何を言ってるだフレイ……!? ……もしかして足を捻ったのか?」
フレイはコクりと頷いて、だから先に行ってと大きなゴブリンに向き直って杖を構えた。
「くっ」
僕の脳裏にシャルさんの言葉がよぎる。
――「穢気の魔物は浄化がないと倒せないの」
これはフレイも知っていることだ。だからフレイは、走れなくなった自分が囮になろうと考えたのだろう。
「……分かった」
僕の声に少し安堵の表情を浮かべたフレイは、コクリと頷き返してきた。
悔しいことに三人はその隙に逃げ出し、もうその姿は見えない。ここに残っているのは僕とフレイだけだ。
――答えは決まっている。
僕はゴブリンからフレイを隠すように前に歩み出た。
「……なぜ?」
「なぜって、そんなこと決まっている。フレイも一緒だ! 僕がスキをつくるから、そのスキをみて一緒に逃げるんだ」
「……バカ」
「……ああ」
全身を露にしたゴブリンは五メートルほどの巨体だった。そのゴブリンが僕たちを見て汚ならしい笑みを浮かべていた。
『グアアァ。ハラガヘッタ。ニンゲン。グゲゲゲッ!』




