表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/60

16

 〈フレイ視点〉


 私はフレイ。13歳。私の両親は小さな村で道具屋を営んでいた。家族は弟を含めて四人だった。


 でも、私の母はいつも二つ年下の弟をだけを可愛がっていた。私が弟に触れようとするだけで厳しく怒られた。私はお姉ちゃんなのにどうしてなの? といつも疑問に思っていた。


 少しずつおかしいとは思っていた。だってたまに会う隣の家に住むおばちゃんは私を見ると、時々知らない人の名前を言ったりもした。


 亡くなったその人に私が似てきたねと。美人になるよ。とも、そう言って笑ってくれた。


 その時もまだ意味が分からなく私は首を傾げただけだったけど、あとになってその意味はすぐに分かった。


 それは母が父に向かって「フレイを見て、また、あの人を思い出しているんでしょう」と、凄い剣幕で押し迫っている姿を何度も目撃したからだ。


 そう私の本当の母は私が生まれて直ぐに流行り病で亡くなっていた。


 不思議に思っていた。優しかった父もだんだん義母と弟を大事にして私を避けるようになっていったから……


 私にはもう居場所がなかった。それでも私にはいく居場所がない。


 だから私はこれ以上嫌われないよう、両親の顔色を伺い我儘を言わないようにもした。


 良い子にしておかないと家から追い出されてしまうんじゃないかと、怖かった。


 それでも義母の態度は変わらなかった。ちがう、それよりも悪くなったのかもしれない。


 上手くやっていたつもりなのに、私が人形みたいで気持ち悪いと事あるごとに父に詰め寄っていた。


 そんなある日、父も何かを決断したような面持ちで私に言った。


 道具屋は弟が継ぐから、ここにお前の住む場所はない。だからお前は、成人したらすぐにこの家から出て行きなさいと。その時は支度金くらいはくれてやると言った。


 今にして思えばこれは手切れ金だったんじゃないかと思う。


 すでに私は必要とされない、いらない子だった。


 この時の私は10歳だったけど、その時から父は、あからさまに私と眼を合わることせず会話を交わすこともなくなった。


 でも、この村の成人は12歳だ。つまり私に残された時間はあと二年しかないけど、あと二年は家から追い出されことはない。


 それが分かったでもよかったと思う。


 落ち込んでなんかやらない。落ち込んだところで、なにも変わらない。


 そらから私は考えた。二年後なにができるか、何だったらこんな私でも生活していけるのかを……でも中々、これといっていい考えがうかばかった。


 気晴らしに村の中を散歩していると、私と同じ年くらいの子供たちが冒険者ごっこをして遊んでいる姿を目撃した。


 それは何度となく見ていた、いつもと変わらない村の情景の一部だったけど、その日はなぜか声をかけられた。


 しばらく話しをして分かったけど、この子供たちは、私と同じ歳で冒険者登録できるようになる12歳になったら村を出て王都に行くんだと教えてくれた。


 それが今のパーティーメンバーのアレスと、ラインと、マリアだった。


 アレスと、ラインは農家の三男だと言っていたから食い扶持を減らすためだと分かったけど、マリアは違った。マリアは村長の娘だった。


 アリアは本当に冒険者に成りたいのだろうか、といつも疑問に思っていけど、マリアの態度を見ていたら何となく分かってきた。アレスに付いて行きたいんだと……


 結局、何も決まっていなかった私もアレスたちに付いて行くことにした。


 王都に行くまででもいいからとお願いした。王都に行けば何か私も変わることができるんじゃないかと思った。


 でも結局私は、そのままパーティーに居座ることになってしまった……


 と言うのも、この時は私はアレスたちにただ付いて行くだけのお荷物になりたくなかった。


 だから冒険者として最低限なにができるか必死に考えた。考えて思いついたのが魔法だった。


 幸い、実家は道具屋だったことで、日頃から店の当番をさせられていた私は、仕事の合間に初級魔法書を盗み見ることができた。


 必死に勉強して何とか成人前に私は水魔法を習得することができた。


 そして成人して12歳になったその日。私たちは村を出た。


 父がすまんと言って支度金に100万カラを私にくれたのにはびっくりした。けど何も言わずに受け取った。


 私の手持ちのお金は三千カラしかなかったら、非常にありがたかったけど、私は二度とこの村には戻るまいと心に誓った。


 ――――

 ――


 手持ちの少なかったアレスたちと危険な地域は乗合馬車を利用し、比較的安全地域では徒歩と、少し時間はかかったけど、二十日ほどで無事王都に着いた私たちは冒険者ギルドでルシールに出会った。


 第一印象は1つ年上なのに頼りない少年だった。


 でも初めての王都で右も左も分からない私たちに色々教えてくれるいい人だった。


 けど、一月もすると知識でも実力でもそのルシールを追い抜いた。


 ハッキリ言って何で冒険者をしているのか疑問に思う程に何もできない少年だった。


 アレスやラインの嘘には直ぐに引っ掛かり、誰でも知っている知識をほとんど何も知らない。


 本当にバカな人だと、努力しないダメな人だと思った。


 アレスたちも才能があったらしく周りからだんだんと認められるようになり、期待の目を向けらるようになった。


 ただ、私はアレスたちと違って周りから期待されていることに嫌気がさしていた。


 と言うのも最近私は伸び悩んでいた。


 魔法は努力で何とかできているけど、肝心の魔法系のスキルが身に付かない。


 自分には才能が無いのかもと、また、私は居場所が無くなってしまうんじゃないかと不安は募るばかりだった。


 そんなある日、ルシールが憧れのシャルロッテさんとパーティーを組んでいた。


 とても信じられなかった。


 シャルロッテさんはエルフ族でAランクの冒険者。その実力は既にSランクだとも言われていた。


 なんでもシャルロッテさんが昇格を断ったのだとかそんな話をよく耳にする。


 そんな憧れのシャルロッテさんに私たちは一度だけ話し掛けられたことがある。


 優しくて綺麗な人だった。としか覚えていない。アレスたちも多分そんな感じだった。


 みんなガチガチに緊張していたのを覚えている。


 それが何故、ルシールといるの?


 シャルロッテさんは誰ともパーティーを組まないと聞いていたのに……


 私が色々考えている内に、それに怒ったラインが決闘を申し込んでいた。

 私も思うところがあったから名乗り出ることした。


 そのときのルシールの反応にはイラッとしたけど、レベル差もあるんだし当然ラインが勝つと思っていた。


 でも、結果は違ったなんとルシールがそのラインに勝ってしまった。


 信じられなくて頬を何度も抓った。抓ったけど夢じゃなかった。そこで私はピンッときた。


 きっとシャルロッテさんに何か戦闘の手ほどきを受けたのだろうと……ずるい。


 私はルシールに嫉妬した。


 それでなのか、私も何かアドバイスを貰えれば何かが変わるかもと知れないと思った。


 無理についていく形になり、心苦しい気持ちはあったけど、私も居場所がなくなるのが怖くて必死だった。


 なんとかお願いして私はルシールたちに付いて行くことができた。


 でも、そこで驚愕の事実が発覚した。


 なんとルシールはスキルを買っていた。そんなの反則だ。お金でスキルを買うだなんて……


 ルシールが強くなった理由はシャルロッテさんのアドバイスとスキルを買って取得していたから強くなったんだ。


 ルシールの強さの秘密を知って、肩の力が抜けてしまった。私には到底真似できないと分かったからだ。


 でも、せめてシャルロッテさんから何かアドバイスだけでも貰おうと思った。


 トバリ町に付いて行くことになったけどシャルロッテさんの馬車小屋は凄かった。


 小屋の中は広く、乗り心地も快適だしシャルロッテさんが淹れてくれた紅茶とクッキーがすごく美味しい。


 ルシールが外でゴブリンを倒しながら何やら叫んでいるけど気にしない。だってクッキーが凄く美味しいから。


 多分ここでも私はルシールに、スキルが買えることに嫉妬していたのだ。


 でも食べているうちに、クッキーがあまりに美味しくて肝心なことを聞いていないことに気がつくまでに時間がかかってしまった。


 何故シャルロッテさんがルシールとパーティーを組むことにしたのかを……


 私は思い切ってお茶のついでにシャルロッテさんに聞いてみた。


 シャルロッテさんはにこりと笑って話してくれた。


「ルシールと会った当初、私はスキルのことを聞くだけで終わる筈だったの。みたことのないスキルを持っていたからね。

 でもルシールは文字すら読めなかったわ」と、笑いだした。


 私はここでも驚いた。


 だって文字の読み書きと、簡単な計算だけは義務化されみんなが習うことになっている。


 孤児院でも6歳から8歳までに習うと聞いた。


 私の村でさえ小さな学校に3年間は通うことになっていた。

 みんな家のお手伝いとか忙しくて午前中だけだったけどがそれでも読み書きと簡単な計算は覚えた。


 つまりルシールはそれ以外、スラムとかそれよりもっと酷い、私には分からないけど、まともな生活を送ってきていないことはわかった。


 私はショックを受けた。


 よくよく思い出して見れば、ルシールの行動はいつも一緒だった。


 私はルシールをいい人から臆病者のバカで努力しない、どうでもいい人と位置付けていた。


 事実、ルシールはスキルもなく臆病者だった。


 ルシールはいつも同じ依頼書を手に取っていた。今に思えば、それがだけは薬草採集の依頼書だと分かっていたから?


 周りに聞けるような仲間もいない、文字も読めないから学ぶこともできない。


 たぶん誰かに聞けば余計に自分の立場が悪くなると思っていたから? ちがう、読めないのが普通だと思っていたからだろうと思う。ほんとバカだ。


 でもバカなルシールが仲間をほしそうにしていたのはわかった。

 実際バカなルシールは騙されて囮にされそうになっていたと、良識ある冒険者がギルドに通報していたのを見たことがある。


 そんなルシールを私は自分で勝手に結論付けて自分より下だと決めつけていた。


 私は何様だろう。私は恥ずかしくなった。自分より過酷な生活をしてきた人がこんなにも身近にもいたんだと……


 私は自分が凄く小さな人間に思えて俯いてしまった。


 シャルロッテさんはそんな私を見て、また優しくて語りだした。


「私たちエルフ族でも上級精霊魔法を使える者は、何となくだけど人の心の色が見えるの。

 あの子、ルシールは不思議で珍しい子だった。何色にも染まってない透明な色だったわ。

 もともと使えそう……じゃなくてある人族を捜していたんだけど、そのついでに、そう、少しだけ、手伝ってあげようかなと思ったのよ。変わったスキルも持っていたしね、そう、初めはね」


 初めはね、と言った後につづく言葉をシャルロッテさんは笑って教えてくれなかった。


 でも、文字が読めるようになって学ぶことの大切さをシャルロッテさんに聞いたルシールは凄かった。


 たった一晩で初級魔法の第一魔法を全部使えるようになっていた。


 これにはシャルロッテさんも口には出していなかったけど驚いていた。


 私は驚きよりも、正直悔しかった。私は二つしか適性がない。


 シャルロッテさんは極めることが大切だとルシールに忠告したけど、さすがに、これは私を慰めてくれていたのだと分かる。


 私は家族に鍛えられて空気が読める女だから(自称)。


 でも、やっぱり悔しいからルシールのスプーンとフォークくらいは投げてもいいよね。


 ルシールはデリカシーが足りない。


 それでもルシールはやっぱり優しい、初めからそうだったけど、私は結構酷いことを言ってきた自覚はあるから余計に思う……


 私は努力しない人が嫌いだったから……なんでこうなったのだろうと思う自分がいる。


 もしかしたら誰にも頼ることのできなかった反動なのかな……


 それなのにルシールは口では文句を言っているけど何かと気にかけてくる。


 ふとした拍子に(家族)のことを思い出して寂しくなった時もそう、少し困ったなと思っているときもバカな話題を私に振ってくる。


 自分たちのことしか話さないアレスとラインたちとどこか違う。


 何気に料理も洗濯も上手……私たちのパーティーは誰も料理ができない。堅パンに干し肉と水だったし……


 たまにエッチな目で見ている時もあるけど、思春期の男の子はみんなそうだからこれは別にいいんと思っている……


 だってアレスやラインもそうだったから、んー、ラインの方がもっと酷かったかも……

 要するに私は気配りもできて理解もあるのだ(自称)。


 そして私は迷っている。いや、望んでいるのか? 空気が読める女ゆえの弊害だ。


 ルシールのお陰で魔力操作のスキルを買うことができた。


 父に貰った支度金に手を付けてしまったが、それでも後悔はしていない。


 魔力操作があると全然違から。魔力消費も少なくすむし、発動までの時間も短縮できて、魔法の命中率も上がった。


 思うように発動し、狙ったところに上手く攻撃できる様になった。


 元々持っていた魔力回復があるから今まで以上に魔法が長く使える。


 これならヌボの沼を出る頃には風魔法もレベル2になるんじゃないかと期待できる。


 そう悩みというのは、シャルロッテさんがくれた誓約の指環。

 シャルロッテさんがその指環を嵌めた指の意味だ。


 私は人族で左手薬指に指輪を嵌める意味は知っていた。

 義母が父にねだって買って貰ったことがあったからだ、かなり高額だったと思う。


 エルフ族は違うのだろうか? シャルロッテさんがあまりにも自然に左手薬指に指輪を嵌めから、私は嫉妬? したのだろうか、よく分からないけど、なんだか負けられないと何故か思ってしまった。


 気付けば私も左手薬指に付けていた。


 正気に戻りハッとした。ルシールに自然と視線がいったが、変わらぬ態度のルシールだったが恥ずかしくて視線を逸らしてしまった。


 バカルシールめ。


 まあルシールは世間知らずだ。その意味を知らなかったのだろうとすぐに思った。

 少しホッとしたけど残念にも思ってしまった。なんでだろう……


 でもまたルシールの態度に気に入らないことがあった。


 それは、このヌボの沼に入ってからルシールがシャルロッテさんに向ける視線の回数が私より多いんだ。

 自分で何を言ってるんだろうと思うけど気になってしまうからしょうがない。


 ――あ、また……


 私が三回の時、シャルロッテさんには五回も見ている。


 ――気に入らない……


 だから五回目の時に水魔法(ウォーターボール)を水鉄砲のように細く伸ばして飛ばした。


 するとルシールはびっくりして私の方を向くのだ。こんな水魔法、魔法書には無かったけど、思いのほか使い勝手がいいのでよしとする。


「ルシール、フレイちょっとそこで待って」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ