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15

 湿地帯を進む僕は、足下だけではなく全身ずぶ濡れになっている。


「あぅ」


 深そうな湿地帯を避けた先は水溜りに見えて濁った小さな沼だった。足が片方だけハマり大変な思いをした。必死に沼から抜いたけど、足は泥まみれで重さを増していた。


「はぁ……」


 気を抜けば無意識にため息が溢れてしまう。でもそんな時は……


「ひゃぅ」


 藁の外套は湿って冷たい雫を僕の背中の中へと運んでくれる親切設計。冷水を浴びて気持ちを切り替えろって、ね。


「……ルシール、ダメね」


  全身びしょ濡れ、片足は泥まみれの僕をシャルさんは残念な子を見るような目で見ている。


「ダメって……シャルさん……」


 フレイなんて後ろから水魔法(ウォーターボール)を器用に細く伸ばし水鉄砲の用に飛ばしてくる。


「ひゃあっ、冷たいだろフレイ。やめろよ」


「ルシール。汚い」


  フレイはそんなこと言って顔を背けるけど、ここは水属性と土属性の魔物ばかりで水魔法が使えない鬱憤を晴らしているんだと僕は思う。


「うぐっ、しょうがないだろ。僕は王都周辺しか知らないんだから。沼地の歩き方なんて知りませんもん」


「はぁ、そうよね。今度は〈危機回避〉か〈危険察知〉のスキルを買いましょう。このままだと身につける前に大ケガしそうで見てるこっちがハラハラするわ」


 シャルさんから何度目かのため息が聞こえた。〈危機回避〉と〈危険察知〉スキルがどんなスキルか知らないけど、シャルさんが言うのなら必要なんだろうと思うけど……


 ――あー、またシャルさんがため息を……


「……はい、僕もそう思います」


 僕は何故かスキルの身に付きが良くない。なかなか修得しないのだ。ごめんなさい嘘をつきました。一つもスキルを修得してません。


 購入して取得したスキルは普通にレベル上がるのに、シャルさんも不思議だと首を傾げている。


 本来なら、それらしいスキルの一つくらいは修得しててもおかしくないらしいのだ。


「レベル差のある地域なのにおかしいのよね」


「前回もそうだったわね」と、シャルさんはまた首を傾げてる。


 フレイだって今さっきレベルが1つ上がった時に〈危険察知レベル1〉を修得していた。


 ――むう、僕はの方がフレイよりもレベルの低いのに……


 フレイを横目に一瞥するとニンマリと笑みを浮かべ僕を見ているような気がしたので、気づかれる前にさっさと視線を戻した。


「それよりシャルさん。どの辺りまで行くんですか?」


「もう、そろそろだと思うのよね。穢気が少しずう濃くなってるから」


「そうですか……あれ、別れ道になってます。シャルさんどちらに行きます、か?」


 穢気が濃い方に行けばいいとシャルさんに聞いているけど、僕にはどちらの道も濃く見えて分からない。それでシャルさんに確認しようと思い後ろを振り返りったその瞬間――


「おわっ!? 痛っ!!」


「ちょっとルシール!!」


 僕の足に何かが絡み付いた。シャルさんや、フレイは上手く回避している。


「蔓っ!?」


 ――僕だけ、なんて間抜け……


 蔓のようなものは僕の片方の足に絡みつくと同時に力は強く引っ張り始めた。


 ――うぐぅ、凄い力だ……ひ、引っ張られる!


 最悪なことに足場がぬかるむ湿地帯だったことと、さらに別の蔓がもう片方の足に巻きつき引っ張られたことで、対抗らしい対抗をすることなく僕は体勢を崩し勢いよく転倒した。


「ぐあっ!」


 背中と後頭部に痛みが走った。背中から倒れ頭を打ち付けたようだ、痛みに意識を向けたその一瞬の内に、更に強力な力で僕は引っ張られた。


「「ルシール!!」」


 湿地帯で滑りがよく抵抗できない。シャルさんたちの声がだんだん遠ざかっていく。


 ――このままじゃ……


 何度も何かに掴まろうとするけど、滑ってどうすることもできない。僕はそのまま数十メートルほど引っ張られて……


 ――剣っ!?


 ようやく腰に下げていた二本の小剣に気がついた。僕はすぐにショートソードの方を両手で持ち地面に突き刺した。


「止まれっ!!」


 両手、両腕に痛みが走るが、その勢いを殺せない。


「ぐぅぅ……」


 それでも何度も、その剣を地面に突き立てることで少しずつ勢いを殺すことに成功した。


「と、止まった……けど……」


 これは付与魔法のおかげだ。それがなかったら突き刺した際、勢いとその衝撃に耐えきれず僕は両手に持った剣を手放していたと思う。


「ぐっ……」


 幸い掠りキズ程度で済んでいるけど、それでも絡み付く蔓の力は弱まることなく僕を引っ張り続けている。


 ――何なんだよ……!?


 蔓の先を手繰るよう視線を向けていくと、その先にウネウネと蠢く大きな植物が見えた。


「こいつ、絡み草か!?」


 絡み草は水気のある所なら何処にでも自生している植物だ。


 その絡み草が穢気を浴びて魔物化したのだろう。食肉植物みたいな鋭い棘が生えた二枚貝のような捕虫葉を開いたり、閉じたりしている。


 ――いぃぃ……!?


 その捕虫葉からは溶解液のような液体が滴れていた。


 ――あんなの浴びたら、たまったもんじゃない。


 地面に突き刺したショートソードを左手だけで掴み直すと、右手に風のシルエアを取った。


「い、いい加減に放れろよ!!」


 僕は、身体を捻る勢いと〈貫通〉スキルを絡めた一振りで足に絡まる蔓を絶ち斬った。


「はあ、はぁ、はぁ……」


 僕はすぐに立ち上がり絡み草を警戒しつつ息を整えた。

 引っ張られていただけだけど、逃れようとして知らないうちに体力をかなり消耗してしまったようだ。


 ――どうする……


 僕は絡み草の蔓を警戒するように見据え、額の汗を拭っているとシャルさんたちの声が後ろから聞こえた。


「ルシール!!」 


「シャルさん、フレイ!」


「無事で良かったわ」


 シャルさんは急いで追いかけて来てくれたらしく、外套ははだけ髪や、中に着ていた服までも水飛沫で濡れていた。


「すみません。シャルさんの付与魔法と風のシルエアのおかげです。助かりました」


「う、うん……」


 シャルさんはホッとしたような安堵の表情を浮かべいたけど、僕の身体中にできた擦り傷を見て眉間にシワを寄せていた。


 ――あ……


 僕は恥ずかしくなって慌てて治療スキルを使った。


「ルシール、あれくらい避けて」


 遅れてきたフレイもシャルさんと同じように衣類までびっしょりと濡れていた。


「あ、うん。ごめん」


 二人とも回避してたし、二人のびしょ濡れになった姿を見れば僕を必死に追いかけて来てくれたこともわかる。


 僕は自分が情けなくなり思わず俯いた。


「はい二人ともそこまでよ。今はそんなことより、目の前にいる魔物なんだけど、あんな魔物見たこと無いわね」


 ――そうだ。俯いてなんていられない。


 今度こそ、二人の前衛を務めようと両手に小剣を構えてみると……


「あれ、囲まれている!?」


「うん。六体いる」


 僕に絡みついた絡み草だけかと思っていけど、そうじゃなかった。

 僕たちは僕に絡みついた絡み草を含めた六体の絡み草に囲まれていた。


「大丈夫よ。前の二体から狩るわよ。ルシールは貫通で右の方ね。私が左を殺るわ」


「はい、任せてください」


「フレイは私の後方から付いてきて、私が左手の絡み草を殺ったら、その位置からルシールを風魔法で援護してやって」


「はい」


 僕たちはシャルさんの合図で地を蹴った。


 僕は右だ。襲ってくる蔓を見切りスキルで見えた蔓の軌道から少しずらして――


「そこ!」


 切り落とす。


 ――次は……


 付与魔法と貫通の相乗効果で、さらに伸びて襲ってくる蔓を一振りで切断していく。


 ――くっ、蔓が多くてきりがない。


 僕は更に姿勢を低くして、今度は切り落とすことよりも回避することを優先して一歩でも本体の方へと脚を進める。


 ――多すぎる!!


 絡み草の本体までもう少しだけど、近づくにつれ蔓の軌道が多すぎて回避運動が間に合わなくなってきた。


 ――ああ、もうっ!! 鬱陶しい……


 回避できない蔓は剣を少し当て軌道をずらして捌いていく。切断する余裕がないんだ。切断する時間があるなら少しでも本体に辿り着きたい。


 ――よし、ここだ!


「たぁぁぁ!!」


 僕はどうにかたどり着いた絡み草に貫通スキルを使って風のシルエアで斬りつけた。


 ――くっ、茎が分厚くて切断できない……


 切断しきれなかったため、僕は背後の方へと周りこもうとしたが、無数の蔓がその進行を遮るようにうねうねと蠢いている。


 ――ダメだ。回り込めない。


 僕は回り込むのを諦め切断して切り目ができた茎に向け火魔法(ファイアーボール)を放った。


 しゅるしゅるしゅるっ!


 絡み草が苦しいのか蔓だけじゃなく捕虫葉までも振り回し、溶解液を飛ばしてきた。


 ――あ、危なっ!


 辛うじて避けたが、倒れせるほどのダメージは与えていなかったようだ。


 ――でも、効いてる……


「ファイアーボール」

「ファイアーボール」

「ファイアーボール……」


 激しく振り回す蔓を何度もその身に受けながらも、捕虫葉の溶解液を避けるために、僕は絡み草の茎に張りつきファイアーボールを放った。


「ファイアーボール……」


 何度放ったか分からないけど、激しく動いていた蔓が突然だらんと地面に落ちた。


「……やった、のか?」


 確認するまでもなく絡み草本体も枯草のようになりその活動を停止していた。


「はぁ、はぁ……やった、やったぞ……ぅ、あたた…」


 ――そうだった。


 必死だったから分からなかったけど、少し気を緩めると無数にできた切り傷が痛みだした。


 僕はすぐに〈治療〉スキルを発動した。


 治療スキルは便利だ。すぐに痛みが和らいでいく。


 ――あれ。


 そこで少しおかしいことに気づいた。僕の周りに無数に切断された蔓や捕虫葉が地面に落ちていたのだ。


「ふんっ」


 ――そうかフレイが……


 どうやらフレイがシャルさんの指示通り風魔法で援護してくれていたらしい。杖を構えたフレイがこちらを見ていた。


「フレイありがとう、助かった」


「いい」


 フレイが早く次に行けと、両手で持つ杖を別の絡み草に向けている。


「そうだね」


 僕は首を縦に振って次の絡み草に向かって地を蹴った。


 ――あれ、シャルさんは?


 そう思い横目にシャルさんを確認してみれば、シャルさんは既に三体を片付け、四体目に向かっていた。


 ――うそ、はやっ!!


 もう残りは一体だった。先程の要領で近づく。今度はフレイの援護が分散されてなく、この一体に集中していたためやっかいな捕虫葉を集中的に狙ってくれていた。

 だから僕に襲ってくるのは蔓だけだった。


 ――この数なら……


 身体を低くすれば蔓の軌道も単調で楽に回避できた。

 僕は一気に距離を詰めると――


「はぁぁぁっ!!」


 両手で〈貫通〉スキルを試してみた。貫通スキルのおかげで僕の剣は抵抗なくするりと絡み草を通り抜ける。


 右手の剣を横に払い、身体を回転して伸び上がると、左手の剣を上から下へと切り降ろした。


 十文字斬りだ。上手くやれたか分からないけど、絡み草の茎には十字の切れ目が入っていた。


「どうだ!! おわぁっ」


 絡み草がぐにゃぐにゃと蠢いているような感じだったが、後方から飛んできた風魔法が絡み草の茎をスパッと切断し、その活動を停止させた。


「フレイ危ないじゃないか」


「ルシール甘い。まだ生きていた。手負いが一番危ない」


 ――う、たしかに……茎が太いから……切断できなかった……


「……そ、そうだね。フレイありがとう」


 ふん、とフレイにはそっぽ向かれた。


【ルシールはレベルが1上がった】

【回避UPスキルのレベルが1上がった】


「やった。レベルだけじゃなく、回避UPスキルのレベルまで上がったぞ」


「ふーん」


「ふふふ、どうやらルシールとフレイの方も終ったみたいね。へぇ、ルシールもようやくレベル9なのね」


「はい」


 シャルさんは既に絡み草を片付け外套を羽織り直し待機していた。


 ――あっ。


 服が濡れてて色っぽかったのにと、ちょっと残念に思いながらも絡み草の魔石に視線を向けた。


「ルシールお願いね」


 絡み草の魔石はもちろん上質の魔石だった。僕はせっせとその魔石を拾った。


 ――ふふふ、これでまた僕の借金が減りそうだぞ。


 思わず笑みが溢れた。


「魔石の質も上がってるわ。これは穢気の影響をかなり受けていた証拠ね。さぁ、目的地も近いわよ。気を付けて前に進みましょう」


「はい」


――――――――――――――――――――


【名前:フレイ:Lv10→11】ギルドランクE


 戦闘能力:60→63

 種族:人間

 年齢:13歳

 性別: 女

 職業:冒険者

 スキル:〈棒術:1〉〈文字認識〉

〈魔力操作:1〉〈魔力回復:1〉〈毒耐性:1〉

〈危険察知:1〉new

 魔 法:

〈生活魔法〉〈水魔法:2〉〈風魔法:1〉


――――――――――――――――――――


【名前:ルシール:Lv8→9】ギルドランクG


 戦闘能力:126→138↑

 種族:人間

 年齢:14歳

 性別: 男

 職業:冒険者

 スキル:〈スマイル〉〈料理〉〈洗濯〉

〈文字認識〉〈アイテムバック〉〈貫通〉

〈馬術〉〈カウンター〉〈治療:2〉

〈回避UP:3〉〈剣術:3〉〈見切り:2〉

〈捌き:2〉〈毒耐性:1〉〈覗き見:1〉

 魔 法:〈生活魔法〉〈初級魔法レベル1〉


 *レジェンドスキル:《スキルショップ》

 所持金 :2,213カラ増

 借金残高:4,849,850カラ


――――――――――――――――――――

 ↑は付与魔法中の印です

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