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 今はシャルさんの用事でヌボの沼に向かっている。

 その用事を終えてから王都クイールに帰る予定だ。


 本当なら帰りも運搬系の依頼を受けた方がお金にもなるからいいんだけれど……


 なんとなく見送ることにした。気持ち的に嫌だったんだよね。


 ほら、このまま真っ直ぐ王都クイールに帰るのならいいけど、ヌボの沼に寄ることが事前に分かっているし、僕は駄々でさえ推奨レベルにレベルが達していない。


 もしものときは色々迷惑かけるし、そんなのはダメだ、となんとなく思ったんだ。


 ――シャルさんは何も言わないけど、今回もシャルさんは浄化をするのかな……


 チラリと背後の馬車小屋に目をやったが、その窓はしっかり閉まっている。


 ――うーん。僕が考えたところで、分かるわけないか……


 視線を前に戻し、取得したばかりの〈覗き見〉スキルを右手(・・)で使った。


 ――……ほほう……これ、楽しい~。


 片目だけ遠方のモノが良く見え、慣れるのに少し時間がかかったけど、もう大丈夫。

 右目、左目と意識を変えるだけで、遠方と近場を切り替え使えれるようになった。


 ――いや~、このスキルほんと便利だぁ。あんなに遠いのにハッキリ見えるもん。


 僕は右目で〈覗き見〉スキルを使ったり、左目で普通に見たりと何度も繰り返した。


 ――魔物は……いないっと。


 ――盗賊も……いなーい。


 ――……異常はなぁい。よし。


 ――ついでに冒険者は……あれ、いない? ヌボの沼って人気ないの……


 しばらく馬車小屋を操り向かっていると、黒っぽい靄がかかっている一帯が見えてきた。


「あそこは……」


 ――ひょっとして、あそこがヌボの沼?


 取得したばかりの〈覗き見〉スキルを右手(・・)で使って見る。まあ、さっきからずっと使っているんだけどね。


 あ、決して〈覗き見〉スキルのレベルアップを狙ってる訳じゃないんだよ。


「……沼だ」


 ――ヌボの沼……うん。あそこで間違いなさそうだ。でも、なんだろう。とりまく雰囲気とでもいうのかな、それがなんとなく悪い気がする。


「ルシール」


「うわっ、と、シャルさん……」


 気を抜いていたため背後にある窓から顔を出してきたシャルさんに驚いてしまった。


「何、なんでそんなに驚くのかな? ひょっとして疾しいことでも考えていたんじゃないの?」


「ま、まさか。ぬ、ヌボの沼を覗いて、集中していただけですよ」


「ふーん……そういうことにしとくわ。それでねルシール。

 お昼も近いし、一度そこの木陰で昼食をとりましょう。沼の近くだと食べ難いと思うの」


「はい。分かりました」


 途中の木陰に馬車小屋を寄せて軽く昼食した。ここまで来れば、ヌボの沼はもう目と鼻の先だ。


 ――――

 ――


「シャルさん、あそこがそうですね。でもなんか雰囲気が……」


 気持ち悪いんですとは、さすがに男として言い難いんだよね。


 横目にシャルさんの様子を見てみると、シャルさんは少し困ったような視線を向けていた。


「そう、ね。やっぱり穢気が溢れているようね」


「穢気?」


 フレイが不思議そうに首を傾げてシャルさんを見ている。


 シャルさんはすぐに笑みを浮かべてフレイの方に視線を向けた。


 ――あれ……このことフレイにバレても良かったのかな? ……あ、でもこの場所に連れてきた時点でバレちゃうし、気にしなくていいってことかな?


「フレイには教えていないものね……」


 フレイはこくりと頷いて返事した。


「それじゃあフレイ。今から話すことは黙っててくれる?」


 ――あ、やっぱりダメなんだ……


 フレイが、もう一度頷いて肯定する様子を見たシャルさんは、笑みは浮かべいるけど、どこか真剣な表情を見せていた。


「フレイは、まだ見たことないと思うけど、ここ数十年で世界各地で穢気が発生しているの。あの様にね」


 シャルさんはそう言ってヌボの沼の方に顔を向けると、フレイも追うようにヌボの沼に顔を向けた。


「……薄く白い霧のようなもの?」


「そうね。人族には霧のようにも見えるかもね」


「えっ……僕には、黒くはっきり……」


「ルシールは黙ってなさい」


 ――ひぃっ。


 シャルさんの口調は優しいけど目が笑ってない。


「は、はい」


 僕は返事をすると、シャルさんから顔を背けた。だってそれ以上は口を開くなとでも言うような……迫力があって……


 ――あ、今ボックリくんがきらんって光った?


 まるで慰めてくれてるような優しい光が……と思ったけど、鋭い目がギラッと光っていただけだった。


「それでねフレイ。その穢気によって、各地の動物や植物、そして魔物にも異変が起こり始めてるの……」


「……異変」


「そう。初めは森だけだったの。でも今は、見ての通り森以外でも穢気が溢れだしているみたいね」


「ええ、それってどうなるんですか?」


 そう言った後、しまったと思い咄嗟に口を押さえた。変に割り込んで、またあの笑顔を向けられたら、ほら、ねぇ……怖いし。


「分からないわ」


 ――あれ、今度は大丈夫……


「……このような現象はここだけじゃないようなのよ……

 だから私も、その確認と調査のために来たのよ。

 でも、もう中に入らなくても分かるくらい穢気が漏れてるわね……(悪い予感しかしないわね)」


「……ということは、また……」


「ええ。今回は穢気が溢れだしているところに屋代を建てるつもりよ」


「屋代を建てるんですか?」


「詳しくは話せないけど、このヌボの沼にはその屋代を建てた記録もないの。だから浄化と別に屋代を建てる必要があるの」


 ――あれ?


 そう言ったシャルさんは一瞬だけ、哀しそうな表情をしていた様な気がしたけど……すぐにいつもの表情に戻っていた。


 ――気のせいだった?


「……そう、なんですね」


 なんとなく分かった僕と違ってフレイは意味が分からなかったのか、少し眉間にしわを寄せている。ような気がする。


「フレイ。早い話が、私たちエルフ族は各地に屋代を建てて穢気を防いでいるの」


「シャルロッテさん、屋代ってなんですか?」


「ああそうね。屋代はね……簡単に言うと、漏れ出した穢気を集めて吸収してくれるの。こうすることで、周りの動物や植物、魔物への影響を抑えることができるのよ。

 でもね、さすがに限界もあって定期的に浄化してやらないと吸収できなくなった穢気が溢れ出して大変なことになるのよ」


「そんな……」


「大丈夫よ。そのために来たのだから」


「大変なんですね……シャルさんがんばってください」


「何をいってるのルシール。あなたもよ。はい付与魔法(フィジカルブースト)


「ひぃ!」


 拒む間もなく一瞬のうちに僕の身体は薄い光で包み込まれ僕の身体へと入ってきた。


「しゃ、シャルさん酷い……これって例の魔法、どぁぁ……おおぉ……力溢れてくるぅぅ!! 僕の身体じゃないみたいだよ。ぅぅぅ……」


「ルシール、泣くか、笑うかどっちかにして。気味が悪い」


「フレイは知らないから……ぅぅ……」


「ふんっ」


「間違いなく穢気魔物がいるんだもの。しょうがないじゃない」


「それは、そうだけど……」


「はいはい。ルシールはレベルが低いんだから……ブツブツ言ってないで、ほら行くわよ」


 ――――

 ――


 昼食後、僕たちはぎりぎりまで馬車小屋で乗り入れ、それから徒歩でヌボの沼へと近いた。


 馬車小屋にはちゃんとシャルさんが結界を張っていたから魔物に壊される心配や、盗賊に盗まれる心配はない。


「ふぇ……ここを進んでいくんだ……」


「そうよ。ほら行くわよ」


 ヌボの沼は見渡す限りの湿地帯、そのところどころに濁った沼が広がっている。


 枯木は目立つが、擬似しているトレントという魔物も居るから気を付けるようシャルに言われた。


 その他に、このヌボの沼に生息する魔物はポイズントード、ポイズンスネークなどといった殆どの魔物にポイズンという名がついている。


「はい」


 僕は一応前衛なので二人の前を歩く。


「いやな魔物ばかりいるんですね……あぅ」


 ぐちゃ!


 ――まただ。


 僕は沼を避けて歩くたびに湿地帯の膝半分ほどの深水に嵌まっている。

 すでに靴の中はぐちょぐちょで気持ちが悪い。


「うわぁ……」


 ――変な虫もいるし……


 けど、後ろをついてくる二人は違う。僕が嵌まったところは綺麗に避けているのもあるけど、ちゃんと、膝の上まである可愛らしい防水靴を履いている。


「そんな靴があるなら僕にも教えてくださいよ。もうぐちゃぐちゃして気持ち悪いです。変な虫は入ってくるし……藁の外套はチクチクするし。ああ、こら、この虫は、藁の中に入ってくるな!」


 変な虫を指で弾いて藁の外套への侵入を防いだ。


「ふぅ……虫多すぎ……」


「うるさいルシール。ほら魔物がきた」


「まもの、ふふ、魔物ですか」


 僕はここぞとばかりに右手の風のシルエアと左手のショートソードを振り回した。殆ど八つ当たりだ。


「たぁぁぁ!!」


 シャルさんがバインドの魔法で足止めしてくれるからレベルの低い僕でも狩れる。


「ルシール。いくらバインド魔法をかけているからと言って無闇に突っ込まない!」


 バインドにも色々な属性があるようだけどシャルさんが今使っているのは土魔法だ。岩みたいものが魔物の脚や腰あたりにびっしり張り付いている。だから大丈夫。


「ウィンドアロー」


 水魔法は沼地では効きずらいと分かっているフレイは風魔法のウィンドアローをメインに使っている。


「ルシール、トレント。トレントが来ているわよ」


「うわぁ、お前トレント!! こ、このお!!」


 そして硬いトレントには〈貫通〉スキルで一撃だ。


 グォォ……


 木の魔物トレンドの断末魔の叫びが聞こえる。


 〈貫通〉スキルは強力だった。人には怖くて使えないけど防御無視の一撃は木の魔物であるトレントやポイズントードなどの分厚い皮膚に守られている魔物にかなり有効だった。


 でも、この〈貫通〉スキルは僕自身のレベルが高くなるにつれ身体への負荷が大きくなるらしい。

 けど、今のところは使った後に少し痺れがあるくらいだ。


「むむ、ルシールの癖に」


 〈貫通〉スキルで放った一撃で同体に穴をあけたトレントを横目にフレイは首を振った。

トレントのドロップアイテムは身体の巨木らしくほとんどの場合その身体巨木が残る。


「ふふふ、どうだ凄いだろフレイ。僕に惚れるなょ……わっぷっ! 何、うわっ、くさっ!?」


 フレイにどや顔を向けようとしたのがいけなかった。水面に隠れていたポイズントードの毒唾液を顔を含む全身に受けてしまった。


「このっ!!」


 貫通スキルを絡めた一撃でポイズントードを片付けた。


【ルシールはレベルが1上がった】


 幸いポイズントードの毒唾液は弱く、毒耐性レベル1で十分防げた。けど、これがとても臭かった。

僕の顔と藁の外套には薄い紫色の唾液がべっとり糸を引きながら滴れている。


「ふっ……」


 フレイの口角が僅かに上がった。気がする。


「……ルシール凄い……臭い」


「それ褒めてないだろ。ただ臭いって言いたいだけだろ」


「ルシール、臭いわね」


「うぐっ、シャルさんまで。レベルが上がって嬉しいはずなのに、素直に喜べない」


 僕は直ぐにアカトールを唱えたが、藁の外套に付着したものには意味がなく、紫色の唾液が落ちず残った。臭い……


「ああ……」


藁に染みて染まっていく。


「ダメよルシール。戦闘中によそ見をしたからそうなったの。今回はたまたま運が良かっただけなのよ。あれが致命傷を伴う攻撃だったら、ね。分かるでしょ」


「はい、すみません」


「ルシールダメ。気を付ける分かった?」


「うっ……」


 ここぞとばかりにフレイは嬉しそうに、ない胸を張っていた。ように見えた。


――――――――――――――――――――


【名前:ルシール:Lv7→8】ギルドランクG


 戦闘能力:120→126↑

 種族:人間

 年齢:14歳

 性別: 男

 職業:冒険者

 スキル:〈スマイル〉〈料理〉〈洗濯〉

 〈文字認識〉〈アイテムバック〉〈貫通〉

 〈馬術〉〈カウンター〉〈治療:2〉

 〈回避UP:2〉〈剣術:3〉〈見切り:2〉

 〈捌き:2〉〈毒耐性:1〉〈覗き見:1〉


 魔 法:〈生活魔法〉〈初級魔法レベル1〉


 *レジェンドスキル:《スキルショップ》

 所持金 :2,213カラ増

 借金残高:4,849,850カラ


 ――――――――――――――――――――

 ↑は付与魔法中の印です

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