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スキルショップの画面いっぱいにドラム式のルーレットが現れた。
「なんだ、これは!!」
【ルーレットチャーンスッ!!】
「どうしたのルシール?」
シャルさんが突然戸惑い始めた僕を不思議そう見つめてくる。
「はい。なんかルーレットしてスキルが賞品として貰えそうなんです」
「何それ、そのスキルおかしい」
「確かにそうね。レジェンドスキルだからかしら……私の常識を軽く越えているわ……」
さすがのシャルさんも頬に手を当て理解できないと首をゆっくり振った。
「レジェンドスキル!?」
そう言ってフレイが固まった。驚愕の表情をしているつもりかな? 普段より目が少しだけ開いている。気がする。
――おっと、そんなことよりルーレットだ。
僕はルーレットというものが気になって仕方なかった。
だって賞品がスキルだなんて嬉しすぎる……
――えっと……
今、僕の目の前の画面にはスキル名が大きく上から下にかけて、五つ並んで見えている。
そのスキルは上から〈石積み〉〈石投げ〉〈石食い〉〈石割り〉〈石ころ〉で、真ん中だけ金の枠があるから、この真ん中の位置にきたスキルが貰えるんじゃないかな……
――んー、この五つのスキル……凄いのかな? 凄いんだろうね……でも、この石食いってスキルなんか嫌だな……
【さあ、どうぞスタートと念じるだけです】
――あ、はい。よ、よし。スタートと念じるぞ。
「……はあぁ、ふうぅ……」
僕は深呼吸をして気合を入れた。
――……スタートッ!
僕がスタートと念じると同時に、ドロドロドロッと太鼓のような何かを叩く音が頭に響いてきた。
そしてルーレットと言うだけあってスキル名が凄い勢いで下方向に回りだした。
――速すぎる……速すぎて……何も見えない。これはもうあれだ。諦めて運に任せろってことかな……あ、でももう少し待ってたらゆっくりとかならないかな……
じーっと眺めて見るけど、やはりそのスピードが緩くなる素ぶりはなかった。
――どんなスキルがあるか見たかったけど……仕方ない。ここは意を決して……ストーップッ!!
そう念じると同時に、ルーレットのスピードが徐々に遅くなっていく。
すると回っているスキルも少しずつ見えてきた。
〈身体強化〉〈腕力UP〉〈経験値上昇〉……すごく良さげなスキルがどんどんすぎていく。
――ああ、もう少しで止まりそう……おっ、おっ、おおぉぉ!!
……〈聖剣召喚〉〈魔力無限〉〈疲れ知らず〉……
――うおぉぉぉおっ!! せ、聖剣召喚ってのがきた! 来たよ、スキル名からしてこれはきっと凄いはず!!
……〈覗き見〉〈聖剣召喚〉〈魔力無限〉〈疲れ知らず〉……
――そ、そこ。とまれっ! とーまれー!! ストップ、ストーップッ!!
……〈競歩〉〈覗き見〉〈聖剣召喚〉〈魔力無限〉〈疲れ知らず〉……
――おおおおおぉ。せ、聖剣召喚スキルが、ま、ま、真ん中に……きたぁぁぁっ! おおお……
つるっ!
――えっ!? ……今……滑ったよね。
パンパカパーンッ!!
【おめでとうございます。〈覗き見〉スキルが当たりました。ご利用は計画的に……】
――あーちょっと待って、これって犯罪スキルじゃないの? せめて使い方、スキルの説明をしてくれよ。
【獲得した〈覗き見〉スキルにら説明があります。説明を省略しますか?】
――はぃじゃない、いいえ、いいえだ。ぜひ、説明をお願いします。
【はいでは。覗き見スキルとは覗き見するスキルです】
――はい、それで……
【親指と人指し指で○を作りその○を覗くことでスキルを発動します】
――ほほう……
【まず、右手の○使用の場合レベル1で200メートル遠方まで見ることができます。レベル1UP毎に200メートル距離が伸び、最大のレベル5では1200メートル遠方まで見ることがでにます】
――おお、意外に凄かった。犯罪スキルじゃなくて良かった。
【次に左手の○使用の場合】
――へぇー左手もあるんだ……
【レベル1で相手の性別が分かります】
――あれ、こっちは鑑定スキルのようなものかな?
【レベル2では相手の種族が、レベル3では相手の名前、レベル4では相手の年齢、最大レベル5では相手のスー……】
――ス……何? 聞こえないよ。もしかしてスキル? それならすご……
【最大レベル5ではスリーサイズが分かります】
――ぶっ!! す、スリーサイズですか。ま、まあ、予想外の結果だけどちょっと嬉しかも……えへへ。
これはシャルさんとフレイには内緒にしーとこ……
【右手と併用することで遠方の相手にも使用できます。説明は以上です】
「ふぅ……」
僕はスキルショップを閉じた。興奮したせいか物凄く疲れた。精神的に……
「ねぇルシール……」
――ギクッ。
「しゃ、シャルさんどうかしました?」
「その覗き見スキルは何かしら、それが当たりなの? ……説明してくれるよね?」
そう言ったシャルさんは笑みを浮かべてテーブルの上を小刻みにとんとん指で叩いている。
――ひぃっ!? こ、このシャルさんの笑みじゃない笑み……な、なんで、なんでバレてるの。
そこまで考えたが、すぐにいつもみたいに魔法で見られていたのだと気付いた。
――……これはもうダメな奴だ。
僕は笑みを浮かべたシャルさんに嘘を突き通す自信が……じゃなくて、嘘はいけないよね。嘘は……
「も、もちろんですよ……」
僕は諦めて……じゃなくて、進んで覗き見スキルの内容をそのままシャルさんとフレイに説明した。
「ふーんルシール。その効果で間違いないのね」
「はい。間違いないです」
「ルシールの左手の親指と人指し指は……必要ない」
「なっ! ひ、必要に決まってるだろ。絶対にシャルさんとフレイには使わないから」
「そう、私たち以外に使うのね」
「嫌だなぁシャルさん。も、勿論誰にも使いませんよ」
――二人がいるときにはね。だってせっかくのスキルだもん。使ってみたいよ……
「ふーん。まあいいわ。でも遠方の様子が探れるそのスキルは役に立ちそうね」
「はい」
その後、食事をして今日のところは解散になった。
シャルさんも買いたいスキルがあるようだけど、今はまだいいそうだ。遠慮なんてしないでいいのに……
――……もしかして、ものすごく高いものかな?
僕は馬小屋に戻るなり、早速〈覗き見〉スキルを左手で使ってみた。
「ほほう、こんな感じになるのか。きみが雄馬、そっちが雌馬ね。あっちも雌馬、ふーん。あれは雄犬。へぇー」
このスキルは動物にも有効で新鮮で面白かった。
「あー、楽しかった……」
意味の無いことをして満足した僕そのまま馬小屋で一夜を過ごした。
翌朝、シャルさんに何故か覗き見スキルを使ったことがバレていた。仁王立ちだ。笑顔なのに。笑顔に見えない。
「ふふふ、ルシール……」
「は、はい……」
罰として石材運搬の報酬1万カラが2千カラになった。
言い訳すればなんとかなる、何て考えた僕はバカだ。
結果、石材運搬の報酬がどんどん減っていってシャルさんとフレイに4千カラずつ締め上げられた。
――とほほ……
二人はそれで嬉しそうにお揃いの可愛い外套を買っていた。
僕も欲しいけどお金が足りない。だから一番安い藁の外套を買った。500カラだった。
藁の外套はちくちく、ガサガサ鬱陶しいから人気のない商品だ。だからこの価格。それでも今の僕には痛い買い物だ。
他には食料や細々したモノを買った。これはシャルさんが出してくれた。やっぱりシャルさんは優しい……
「忘れ物はないかしら?」
「大丈夫」
「はい。食料も積みましたし……他にも色々……はい、大丈夫です」
この町から馬車小屋で二時間程進めばヌボの沼らしい。
「うん。それじゃ行きましょう」
僕たちはトバリの町を後にヌボの沼に向かった。
「……ん? ボックリくん?」
何気に首にかかったボックリくんがニヤリと笑っていた気がしたけど気のせいだろう。
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【名前:ルシール:Lv7】ギルドランクG
戦闘能力:120
種族:人間
年齢:14歳
性別: 男
職業:冒険者
スキル:〈スマイル〉〈料理〉〈洗濯〉
〈文字認識〉〈アイテムバック〉〈貫通〉
〈馬術〉〈カウンター〉〈治療:2〉
〈回避UP:2〉〈剣術:3〉〈見切り:2〉
〈捌き:2〉〈毒耐性:1〉〈覗き見:1〉new
魔 法:〈生活魔法〉〈初級魔法レベル1〉
*レジェンドスキル:《スキルショップ》
所持金 :2,213カラ増
借金残高:4,849,850カラ
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