10
更新遅くなりました、すみません。
1話から9話も少し修正しました。
僕は右手と左手をクロスさせボブゴブリンまで駆け出す。この格好……別に意味はない。
「ふへへ……」
ただなんとなくカッコいいかなと思っただけだった。
「はあっ!!」
僕は右手に握る風のシルエアでボブゴブリンを斬りつけた。
――か、軽い!? これが風の加護……
風のシルエアは僕の想像よりも遥かに優れた斬れ味だった。
「ぁ!?」
いままでと同じショートソードを振る感覚で振り抜いていた僕は、ボブゴブリンを斬り裂いたはいいけど、力み過ぎた身体が右の方に流れてしまった。
――しまったっ!
二体目のボブゴブリンの手には錆びた剣があった。その剣はもう目の前だ。
――くっ!
見切りで剣筋は見えている。けど……
――身体が流れていて躱せない。
僕は咄嗟にショートソードを握る左手に力を入れた。
――これで……
二体目のボブゴブリンの剣筋に交わるように、左手のショートソードを突き出し、衝撃に備えた。
――ぐぅ……ん!?
ボブゴブリンが振り下ろした剣を、ショートソードで受けとめた瞬間、捌きスキルが発動した。
ギャギャギャ!?
僕を斬りつけてきたボブゴブリンは捌かれた拍子に、その剣と身体が流れ、逆に今にも倒れそうになっていた。
――あれれ、もしかしてチャンス?
僕は振り下ろしていた風のシルエアをボブゴブリンの左脇腹付近から切り上げた。
「おりゃぁああっ!!」
風のシルエアはやはり切れ味がよく、抵抗なく二体目のボブゴブリンを両断し、その後に魔石を二個残して光の粒子となって消えた。
「はぁ、はぁ、はぁ……す、すごい」
――風のシルエアすごい……
それも何度か繰り返すと要領をつかんだ。
「捌き、なんて便利なんだ。よーし、やるぞ!!」
その後は、見切り、捌き、カウンター。
見切り、回避、カウンター。
たまに打撲、切り傷、治療が入り、テンポよく瞬く間に僕の周囲に数十個の魔石が転がった。
「ふぅ……やっと終わった。おっ!! レベルも7になってる」
さすがに付与魔法の恩恵はなかったけど戦闘能力が105から120になった。
「やったっ!」
弱かった頃と比べると目に見えて増えていく能力に嬉しくなる。
――僕も戦い方が上手くなっているってことだよね? えへへ……
「どうルシール? 少しは複数相手でも楽になったんじゃない?」
「あ、シャルさん。そういえば、先程よりも楽でした」
「ふふ、まだスキルに流されているようだけど、でも、戦闘の基本は一対一よ。対面で捉えるように意識するの……」
「なるほど。一対一が基本ですか。次からはそう意識してみます」
「そうするといいわ。あーでも、そろそろ日も暮れてきたわね。馬車を移動させて野営の準備でもしましょうか」
「はい、直ぐに動かしますね」
「あールシールちょっと待って。先ずは、辺りに転がっているボブゴブリンの魔石を拾ってきなさい。すごい量になってるわ。
(精霊魔法:森の秩序で増え過ぎて邪魔なゴブリンを呼び寄せてみたけど……やり過ぎたかしら。思った以上に数が多かったのよね)」
シャルロッテは「あ、いっけね」と言いつつも、一人黙々と魔石を拾い始めたルシールの後ろ姿を申し訳なさそうに眺めていた。
――――
――
ゴブリンたちと四度も戦闘した僕の身体は汗と土埃でドロドロに汚れていた。
「ルシール汚い」
「ルシールはそのままお風呂ね」
「へ?」
僕は馬車小屋に入れてもらったはいいけど、そのままお風呂場に直行となった(させられとも言う)が、馬車にお風呂があったことに驚く暇もなく……
「どうしてお風呂があ……」
「いいから黙って入りなさい!」
「あ、はい」
後で聞いた話では、水と火の精霊の力でいつでもお風呂に入れるらしい。でも汚した水はどこに行ったのか、僕の疑問は尽きない。
「シャルさん。ありがとうございました」
「いいのよ。で、はい。お願いね」
お風呂からあがってお礼を伝えると、まるで待ってましたと言わんばかりにシャルさんから大量の洗濯が手渡された。はずなんだけど……
「あれ?」
……だがその時の記憶がない。
気づけば目の前に綺麗になって干された洗濯物と、満面の笑みのシャルさんがいる。
「うん。いいじゃない」
――どういうこと、やだ怖い……
シャルさんが言うには夢中になって僕が洗濯物を洗い片付けていったらしいけど……
「洗濯スキルって怖い……」
この時初めて洗濯スキルの恐ろしさを僕は知った。
「そうなことないわ。ルシールありがとう(ルシールが悪いのよ。人の下着を手に顔を真っ赤にしているから……)」
「あ、はい……」
僕は知らない。本当は洗濯スキルじゃなく、精霊魔法:無心を使われていたことに。
その後は料理スキルをフル発動して、ご飯の準備をして、みんなで仲良く食べた。
「どうです、おいしいですか?」
「うん。ルシールおいしいわよ」
「ルシール、意外」
「よかった」
二人が口にしたのを確認すると僕も食べた。
――うん、うまい。我ながらなかなかのできだ。やっぱり料理スキルすごい。
僕は料理スキルに感謝しつつ、後片付けをした。
片付けが終われば僕もゆっくりと……
――んっ、あれれ??
気付けば布切れ一枚持たされ馬車小屋の外に追い出されていた。
――僕が夜の見張りってことね。分かっていたよ。
「いいもん」
仕方なく、生活魔法の火魔法で火を起こし、手渡された布切れを肩から羽織った。
「あーでも、僕も馬車小屋の中でぬくぬく寝たかったよ。
朝は起こしてくれるってシャルさん言ってくれたけど、よく考えたら僕、寝れないじゃん?」
ただ、やることもなくボーッとしても暇なので、僕はシャルさんから借りた初級魔法書を読むことにした。
「なになに……火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、光魔法、光魔法、闇魔法が初級魔法のレベル1なんだ。全部ボールがついてて面白い……
先ずは、どの属性が僕に合うか全部読んでいけばいいってシャルさん、言っていたよね」
僕は決めていたページをパラパラとめくり開いた。
「やっぱり、初めは火魔法だよ。カッコいいし……えーっと」
――……ふむふむ。なるほどなるほど……あれ? なんだか、使えそうな気がする。
「これを、こうやって……」
僕は魔法書の手順の通り火魔法を行使してみた。
――まずは右手に魔力を集める……
以前の僕だったら魔力の集め方すらできなかったと思う。でも今は――
光魔法は毎日の汚れを落とすために使っていた。
火魔法は野外で食べる昼食で火を起こしていた。
土魔法は食べた後のごみを埋めるために使っていた。
水魔法は飲み水として使った。
風魔法はシャルさんが他所を向いている時にふわっと……こほん。
こんな風に生活魔法を毎日使っていた。
「ファイアボール!!」
マッチボウの数倍火力のありそうな火の玉が右手のひらから発動し、暗闇の街道数十メートル先で何かに当たって消滅した。
「あ!」
確かあの辺りは大きな岩があった辺りだ、と思う。
僕はきょろきょろと辺りを見渡し、誰もいないことを確認すると――
――うん、きっと大丈夫だ。
自己完結した。
――ふぅ……焦ったけど、まさか、一回で発動するとは夢にも思わなかった。
【初級魔法レベル1を習得した】
「おお、一回使ったら火魔法習得しちゃったよ? よーし、この調子で他の属性魔法も試して行こう……?」
――あれ、今、何を習得したっけ?
しばらく思い出そうと考え、自分の馬鹿さ加減に気づいた。
「あいたた。ステータスを見て確認すれば早かったよ」
――ステータスオープン……
「……初級魔法レベル1って表示されてるぞ、火魔法の間違いじゃないのか?」
その後、全ての初級魔法を行使するも、全て一回で発動した。全て使ったけど魔力もまだ余裕がある。
――これはもしかして……全て使えるってことかな? この僕が?
「ははは、これは夢だな。ほら見ろ、さっきまで焚き火で明るかったのに、今は視界が真っ暗になってる」
僕は気づいていない。
最後に使った闇魔法の手元が狂い、自分自身に掛ったことに……
「どうも洗濯スキルを使った辺りからおかしいんだよね。たぶんそこから先が夢に違いない。けど、どうやれば……そうだ。もう一回寝て、起きればいいのかも」
――よし、そうしよう……え? 野営の当番? うん、そんなの知らないよ。
だって今の僕はまだ夢の中、洗濯の最中に倒れたんだよ、きっと……ハハハ。
――――
――
「ルシール!!」
翌朝、シャルさんの拳骨で覚醒した僕は――
「あれ……僕、服……げっ!?」
気づけば、ボックリくんを首から下げてパンツ一丁の僕。
これは物取りだ。あ、でも荷物は初級魔法書だけで無事、装備品はアイテムボックスの中にあるからこれも無事。
僕の周りには金目のものなんて一つもない……
残念だったね、と心の中で思っていると、呆れた顔のシャルさんから説教地獄と、フレイからちくちくじわじわ毒舌地獄を受けることとなる。
――――
――
当然といえば当然なのだが、この馬車小屋にはシャルロッテによって魔物避けの結界と認識阻害の結界が張ってあった。
けど、その事実をルシールは知らない。
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【名前:ルシール:Lv6→7】ギルドランクG
戦闘能力:105→120
種族:人間
年齢:14歳
性別: 男
職業:冒険者
スキル:〈スマイル〉〈料理〉〈洗濯〉
〈剣術:3〉〈治療:2〉〈回避UP:2〉
〈文字認識〉〈アイテムバック〉〈貫通〉
〈見切り:2〉〈馬術〉〈捌き:2〉
〈カウンター〉
魔 法:〈生活魔法〉〈初級魔法レベル1〉
*レジェンドスキル:《スキルショップ》
所持金 :1,213カラ
借金残高:4,349,850カラ
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