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「 "僕は子供の頃よく読んだ英雄物語や、異世界の勇者伝に憧れて家を飛び出した。

 僕はみんなが憧れる冒険者に成りたかった。どんな困難があろうとも絶対に冒険者になってやる!

 そう決意した、ルシールクスは冒険者となるべく王都を目指して旅立のであった。"

 っはい! 今日の話はここまでよ」


「ええ!! もっと聞かせて〜!! 英雄ルシールクス聞きた〜い!!」


「ダメですよ。みんなも、素直でいい子にしていないと冒険者にはなれないわよ。

 続きはまた明日してあげるから、ね?」


「「「は~い」」」


 ――――

 ――



 ――数日後――


「英雄はね、才知や武勇などが優れて、普通の人にはできないようなことを成し遂げた人のことなのよ」


「うーん。せんせい、良くわかんなーい」


「そうねぇ、力があるからこそ英雄は誰よりも孤独だったの。

 でもね、その寂しさを分かっていたから、どんな人にも優しくできる人なんだよ。たとえそれが、自分の身が犠牲になろうともね」


「英雄は強くてやさしい人?」


「そうよ」


「すごぉい。せんせい、じゃあさ、じゃあさ。勇者は? 勇者はどうなの?」


「そうね〜、誰もが恐れる困難に立ち向かい偉業を成し遂げた勇気がある者よ。うーん、ちょっと難しいかな……えっと〜何かを成し遂げようと努力している人かな」


「よくわかんなぁーい」


「ふふふ。そうか〜。じゃあ、他人のために、自分より強い相手と分かっていても、それに立ち向かえる人よ。

 自分の身が犠牲になろうとも、誰かを守ると強い信念のある人」


「人のためにがんばれる人?」


「うーん、そんな感じで……いいかな」


「おい! 時間だ」


 一人の男が無作法に入ってきた。


「はーい。みんな今日の授業はここまでよ。次は訓練があるから、訓練の部屋にいくのよ」


「「「はーい」」」


 20人のこどもたちが素直に次の部屋へと移動し始めた。


「しかし、良く考えたものだな。英雄物語や勇者物語を利用して思想誘導するなんてな」


「あら、良いじゃない。英雄って言えば子供たちも喜んで協力してくれるようになったじゃない。何度も読み聞かせるのは面倒だけどね」


「いいじゃあねぇか、それくらい。

 泣いたり、怖がったり、逃げだしたりする子供がいなくなったからな。そっちのが方が面倒だ。せっかく捕まえた素材なんだぜ……」


「そうね」


「しかし、他種族を出し抜くためにってだけど導者様も、よく、生きた人族の魔石から技能習得器官を抽出しようだなんて発想が出てくるよな」


「でも、これが上手くいけば、スキルの習得なんてあっという間よ。

 これで我々、人族は次のステージに進めるのよ。流石だわよね導者様は……」


「まあな。抜かれた子供は死んじまうだろうけど……生きてたってスキル習得できねぇんじゃ不幸になるだけだ。死んじまった方が幸せかもな……」


「そうよ。そのために自己犠牲の大切さを学ばせているんじゃない……ふふふ」


「チッ、よく言うぜ」



 ――――

 ――



 ――数年後――


「導者様、準備の方は既に整っております」


「うむ」


 床に魔法陣が描かれただけの、広く何もない部屋には数十人の子供たちが大人しくキレイに並び寝そべっていた。


 その子供たちに意識はあり、視線はきょろきょろと忙しなく動いき期待を込め瞳をきらきらと輝かせていた。


 そのため、起き上がりどこかかに行こうとする子供は一人としていない。


 それを見た、導者と呼ばれた男は満足そうに頷き、次の指示をだした。


「始めよ」


 導者の合図で、周りにいた数人の魔法使いが、何やら呟き出した。

 すると、描かれていた魔法陣が青白く光輝き始め、天井に敷き詰められた魔石へ向かった無数の光が繋がっていく。


 光は段々と強くなる。子供たちから苦しみ咳き込む者が現れ、苦しさから上体を起こそうとする子供まで現れはじめた。


 それを見た導者は何やら女性に合図を送った。


「ほら、導者様から合図だぜ。お前さんの出番」


「分かってるわよ」


 女性のよく通る透き通った声が、子供たちにゆっくりと語りかける。


「あなたたちは今、試練を受けているのです。

 苦しくて、痛くて当然ですよ。

 みんな苦しいのです。

 みんな痛いのです。

 誰かが逃げだせば、他のみんなに更なる試練が襲い苦しみと痛みが伴います。

 そんなことがあってはなりません。

 さあ、みんなで力を合わせてこの試練を乗り越えるのです。

 そして冒険者に、やがて英雄になるのです」


 上体を起こしていた子供たちが苦しそうにしながらも再び寝そべっていく。


 その後は、苦しさと痛さにうずくまる子供の方が多くなり、上体を起こそうとする子供はいなくなった。


 女性は子供たちが魔法陣から出なければ問題ない。うずくまる子供に向け更に言葉を続ける。


「……そうです。あともう少しの辛抱ですよ。これであなたたちは新たなステージへと進めるでしょう」


 それを聞いていた導者はまた、満足そうに頷いた。


 やがて、魔法陣の輝きはキレイに消え去り、天井に敷き詰められた魔石が淡く輝くのみとなった。


 そして、子供たちは誰一人、声を上げることもなくピクリとも動かなくなっていた。


「終わったか……しかし、何度も見ても気味が悪いぜ」


「あら、子供が黒髪に変るくらい何ともないでしょ。もう死んでるんだから」


「昔から黒髪の人族は魔力に優れてるって言うが、これも何か関係あるのかね」


「さあてね。ほら、さっさと片付けて撤収しないと、王国騎士団が嗅ぎ回っているって話よ」


 ――――

 ――


「ど、導者様!! 騎士団です!! 騎士団がこの屋敷を取り囲んでます!!」


 しばらくすると、外の方から何やら争う声が聞こえてくる。


「うむ。魔石の回収は終わったな?」


「はい。全て回収致しました。しかし、子供の回収までは……」


「ぐぬっ。仕方あるまい急ぎ撤収する。あれを使うぞ、すぐに……!!」


「はっ!!」


「チッ! 王国騎士団め!! ふん。お前たちは後悔すればいいさ……」



 その後、王国騎士団が突入した時にはもぬけの殻となっていた。


「逃がしたか!! おのれぇ、邪教団め!!」


 王国騎士団は数年前から、度々子供が拐われ行方不明となっている原因を探っていた。


 そこで、急に耳にするようになった救世主を求める教団に、その的を絞り張り込みをしていた。


 探り始めて早二年。


 なかなか尻尾を掴めない教団に、焦りを感じていた王国騎士団に降って沸いたように入った今回の情報。


 包囲網を展開し万全の状態で望んだはずだった。

それにも関わらずこの結果……なんたるザマだ。


「くそぉぉ!!!!」


 証拠は、手がかりになるようなものは何もなく、あるのは数十人の犠牲になった子供たちの亡骸。


 この中には行方不明となり、捜索願いの出ていた貴族の子供たちも数名発見された。


 ただ、不思議なことに犠牲になった全ての子供の髪が黒くなっていた。

 それ以外の外傷は何処にもない。


「奴らの目的は何なのだ!!」


 だが、これで行方不明事件の真犯人はこの邪教団だと明白になった。


 ――だが、手懸かりが……また振り出しに戻るのか……


「団長!! 一人、息のある少年がいました!!」


「何!! ほんとうか!!!!」


 だが、その少年は何も覚えておらず、期待した有力な情報を得ることはできなかった。


 数日、様子をみていたが、冒険者になるために町に出てきたと、どこから来たかは分からないとだけいう不思議な少年。


 明るく素直な少年は、とてもウソをついてるようには思えなかった。

 念のため用意した魔道具にも反応はない。


 その後、何の進展もないこともあり、少年の体調が回復するのを待って解放し、泳がせることにした。


 すると、少年はすぐに冒険者となり活動を始めたようだ。


 その後、一年程はりつき目を光らせていたが、この少年の能力はかなり低いようだった。


 この実力では教団との接触はあり得ないだろうと判断され、監視対象から外れた。



 これはスキルを習得できなくなったことを自覚しないまま、冒険者を続ける少年の話である。

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