慣れない嘘
『カンパ~イ!!』
今日は同期の剛に誘われて新橋で3対3の合コンに参加することに、
あまり参加する気分ではなかったのだが、
人数が足りないと半強制的に参加せられて今この場に座っている。
男性陣は剛と自分とそしてやはり同期のひかるの3人
女性陣は剛が先日知り合ったという某航空会社のキャビンアテンダント3人だった。
一通り自己紹介がおわり、和やかに話に花が咲いている中の会話、
『直樹さんは、今どちらにお住まいになられていらっしゃるのですか?』
話は弾んでいるのだが、
キャビンアテンダントということと、彼女達も少し緊張しているせいもあり、
言葉がまだぎこちなく、若干の固さが残る。
『自分ですか? 自分は東急東横線の多摩川駅の近くなんです。』
実は千葉県野田市なのだが、彼女達の雰囲気でつい嘘をついてしまった。
『え~、田園調布の隣じゃないですか? いいとこに住んでらっしゃいますね。
一人暮らしなんですか?』
『あっ、ええ、土地がらのわりに安いアパートが見つかったんで、
まぁ駅からちょっと歩くんですけどね。千恵さんはどちらなんですか』
『私ですか、実家が柏市で成田空港にも通える距離なので、いま両親と一緒に住んでいます。』
『あっ、そうしたら近くだね。』
『えっ? 近くというのは?』
『あっ、ゴメン、友達が野田に住んでいて良く行ったことがあるんで、、、、。』
行ったそばから自分が嘘をついていたことを忘れて、
思わず出てしまった言葉だった。
つくづく自分は嘘が苦手だと実感していた。
『野田市って、お醤油が有名ですよね。わたし一回工場見学に行ったことがありますよ。』
『そうそう、工場のなかで「利醤油」ができるんだよね』
と固さが残る中、他愛も無い話で盛り上がり、
アルコールもそこそこの量をこなし、時間も過ぎて行った。
そして、時間もそろそろ22時をすこし回ったところで
今回の合コンもお開きになった。
『これから柏まで帰るんでしょ? そしたらタクシーで送るよ。』
と直樹が話で盛り上がった麗子に声をかけた。
『えぇ~、遠いんでいいですよ。申し訳ないですし、、、。』
『大丈夫、大丈夫。ほらまたレイソル話とかワンピースの話の続きもしたいし。
それに、今電車で帰ったら途中で終電に間に合わなくなるんじゃない?』
直樹も麗子もお互いにフィーリングが合っていて、
もう少し一緒にいたいという気持ちがあったためか麗子はこう答えた。
『そうですか、、、、、。そうですね。じゃぁお願いします。』
新橋の駅前でタクシーをつかまえて乗り込む二人、
麗子の家のある柏市へ向かう途中、ワンピースの話で盛り上がる。
しかし、直樹は普段から飲み慣れないワインを飲んだためかいつの間にか眠ってしまった。
しばらく時間がたち大きな声でこう呼ばれて直樹は目を覚ます
『お客さん、お客さん。着きましたよ、起きてください。』
はっと目を覚まし声の方を見るとタクシーの運転手さんが
後ろを振り返りながら声をかけていた。
一緒に乗ったはずの麗子がいない。
『えっ? ここどこですか? 一緒にいた彼女は?』
『お客さんが寝ていたので、柏で降りましたよ。
それで、お客さんの家が多摩川だっていうので多摩川の駅まで来たところです。』
『えぇ~!!』
その瞬間、愕然となりメーターの料金を見てさらに驚愕した。
時間は夜中の1時30分になろうとしていた。
『あ、、、、、。すみませんありがとうございます。』
『カ、、、カード、使えますか?』
さすがに、再び千葉の野田へ帰るためのタクシー料金がもったいないため、
ひとまず降りて駅から歩いて24時間のファミレスに入り
コーヒーを頼み一息つく。
慣れない嘘と酒は自分には合わないなぁと
つくづくと思いふけりながら
ふと上着のポケットに手を入れると
覚えのない紙切れが入っているのに気づいた。
『直樹さん
今日はどうもありがとう、とても楽しかった。
またこんど一緒に食事でも出来たらうれしいな。
麗子 090-XXXX-XXXX』
麗子からのメモと1万円札
客もまばらな店内、
日中は賑やかな街道も時々車がとおる音がするだけであった。
ひとりポツンとカウンターに座り、
メモを眺めながらニヤける直樹。
初夏の夜が静かに更けて行った。