天才の怒り
黄色いスーツ! 真っ赤な瞳! 体には雷のライン! 鋼鉄を貫く拳に音より速い足!
彼の名前は、「ミスター・サンダーボルト」
彼がどこの誰で何のために現れるのか、誰も知らない。しかし、我々は知っている。彼の善行を、彼の栄光を。彼は味方だ。我々の味方なのだ!、、、、
少々、苛立っていたスティーブはTVの電源を乱暴に消した。そしてまた書面に向き直る。『ミスター・サンダーボルト 強盗団の撃退 逮捕に協力』
正直、最初はここまで大事になるとは思っていなかった。コスプレした青年がチンピラを退治したからといってわざわざ新聞には乗らないだろう。そんなふうに考えていた。しかし、私は世間の目を侮っていたようだ。人々はお堅い研究や学問の発表には目もくれず、たった一人のヒーローに注目する。それはいつの時代もそうだったが、もう過去の話だと思っていた。確かに、彼の行いは多くの命を救い、多くの低所得者を救っただろう。犯罪者の目を回し、経済も回した。(彼が活躍するだけで、彼のグッズは飛ぶように売れるからな) しかし、それがなんだというのだ。世紀の大発見や奇跡の発明に比べれば何のことはない、ただ喧嘩が強いだけじゃないか。ほんのちょっと音より速く走れるからなんだ。そんなこと、僕の研究に比べれば鈍間な亀も同然だ。そうだ、何を卑屈になっている。そんな事だから何時も影にいたんじゃないか。もう立派な学者なんだ、研究成果も発表している。あとは世間の馬鹿共や偉い研究者がこちらを向けばいい。僕は椅子の上で踏ん反り返っていればいいのさ。
少し落ち着いたスティーブは新聞を置き寝室に入る。
数日後 ニューデトロイト某所
大規模な武装集団が町で破壊活動を行っております。地域住民の避難は未だ完了せず、混乱する市民により軍は介入できないとの事です。これを受けて政府は…
TV画面に映る武装集団、映像は上空から町を捉えていた。逃げ惑う人々、爆散する車、まさに地獄絵図そのもの。
しかし、そこに一筋の落雷。暴れ回っていた武装集団総長 スティール・ボーグが動きを止める。彼だ 彼が現れた! 人々は口にする 彼の名を! 人々は仰ぐ 彼の姿を!
『現れたな、邪魔者』 スティールが吼える。
「呼ばれてないけど来てやったよ。また、物騒なもの担いじゃって、最近酷いぞ メタルおじさん?」
お互いに挨拶を済ませる。
同時にスティールの軍団が襲いかかる。
一筋に走る黄色い閃光
彼、 そう!彼は!
「罪なき人を脅かし、文化を紡いだ町を破壊する行為…決して許しはしない!貴様らを成敗するのは 音速の稲妻、サンダーボルトだ!」言い終える前にスティール軍団が弾け飛ぶ。
長いセリフは僕には似合わないね。
なんだこの騒ぎは。分かっていながらも心底うんざりした。思っている事がはずれていて欲しいと心で十字をきる。無論、僕は宗教なんて信じていないが。
ああ、やっぱり信じます。ですからお願い神様、この事件をなかった事にしてください。自分がこれから向かうはずの町で大規模な戦闘が続いている。そう、彼だ。派手好きの彼だ。なんて野郎だ。僕の晴れ舞台をメチャクチャにしやがって。明日の新聞の一面は僕が飾るはずだったのに。きっとこう書かれているだろう。『ミスター・サンダーボルト 武装集団撃退 お間抜けスティーブの講評会を潰す』
もうだめだ、これで何度目だ。怒りがピークを越え、もはや垂れ流し状態である。皺だらけの顔で飛んできた鉄の破片を蹴っ飛ばす。大きな音がなり複数のアームドがこちらを向く。しかしそんな事目に入らなかった。とにかく怒りをぶつけたかった。
「形振り構っていられるか‼︎今日‼︎今‼︎ここで‼︎僕の講演会の始まりだチキショオオォォォ‼︎‼︎」
アームドは戸惑いながらも銃を乱射してくる。後ろの市民たちにも流れ弾が飛んでいく。しかしそれは空中で静止した。それはスティーブの周りだけ時間が止まったような光景だ。静止した弾丸は向き直りアームドに襲いかかる。スティーブの顔は真っ赤。彼を止められる人はもういないだろう。
試しに書いたものだが、考えて書いている内は楽しいもの。だけれど、絶対に読み返したくはない。