筒井 好一(つつい こういち)の物語
筒井好美は最高の妹だ。
お兄ちゃんLOVEという現実離れした奇跡の属性を持っている。
兄がギャルゲーに興じていようとも、ヒクこともない。どころか兄の好きなキャラを真似て、髪をツインテールに束ねている。
ちょう萌える!
見ていると心打たれる程の頑張り屋さんだ。
幼い頃に交通事故で、両足の膝から下を失った。それでもへこたれない。
自分一人でできそうなことは、出来る限り自分でできるようになろうと頑張っている。
まだ十歳なのに、一人、車椅子で電車に乗って、お買い物に出かけたこともある(心配でたまらなかった兄がバレないように後をつけていたが)。
全力で守ってあげたくなる!
あいくるしい甘えん坊さんだ。
たまに頑張らずに、抱っこでの移動を要求してくる。
兄の膝の上が彼女の特等席で、頻繁にハグを求めてくる。
可愛すぎてつらい!
筒井好一はそんな妹を溺愛していた。
何にも勝る優先順位。
ピラミッドの頂点。
彼女が自分の傍で、幸せそうに笑っていてくれるなら、彼にとってその時は常に人生の絶頂だった。
今でも十分に幸せだったのだ。
今まではそれが最高の幸せだったのだ。
これ以上の幸せなど、長らく考えたことも無かった。
知らなければ良かったーー
知りたくなかったーー
それ以上の幸せなんてーー。
幸せになる方法を知ることで、今の幸せが崩れていく。
羽織の男ーー描。彼の手によって、好一は知ってしまったのだ。
人の命を奪えば妹の足を治せることを。
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好美は今まで、一体どれほどの事を我慢してきただろうーー諦めてきただろう。
それを全て取り戻せる方法があるーー。
自分が人を殺せばーー
「おにいちゃん?」
好美の声で、好一は我に返った。
妹を膝に乗せてアニメを見るという至福の時間中に、物思いにふけるなどあってはならない愚行だ。
今まで一度たりともそんなことをしたことは無かった。
それが好美を不安にさせてしまったようだ。
好美は勘の良い娘だ。
好一は何か悩み事を抱えている。
それを察した彼女は、あえて訊くことはせず、慰めるように好一の顔に頬を摺り寄せ、いつも以上に甘えてくる。
好一は好美の髪を優しくなでる。
やはりーーそうなのだろう。
わかっていたことだった。わかりきっていたことだった。
人殺しなんて悍ましい真似、出来るはずがない。
人の命を奪うなんて重みに、耐えられるはずもない。
ましてやそれが悪人でもないなら、なおさらだ。
……そう頭では考えていながらーー殺せる。
殺せてしまえる。
好一にとって、好美の幸せが最優先なのだ。
彼女のためなら、なんでもできる。
いや、なんでもしたいのだ。
どれだけ迷おうともーー
悩もうともーー
結局最後にはーー
殺すことを選ぶ。
好美のためならばーー筒井好一にとっては正義すら、倒すべき敵になりえるのだ。