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読者が選ぶ物語  作者: 夜行
九つの物語
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筒井 好一(つつい こういち)の物語

 筒井つつい好美よしみは最高の妹だ。


 お兄ちゃんLOVEという現実離れした奇跡の属性を持っている。

 兄がギャルゲーに興じていようとも、ヒクこともない。どころか兄の好きなキャラを真似て、髪をツインテールに束ねている。

 ちょう萌える!


 見ていると心打たれる程の頑張り屋さんだ。

 幼い頃に交通事故で、両足の膝から下を失った。それでもへこたれない。

 自分一人でできそうなことは、出来る限り自分でできるようになろうと頑張っている。

 まだ十歳なのに、一人、車椅子で電車に乗って、お買い物に出かけたこともある(心配でたまらなかった兄がバレないように後をつけていたが)。

 全力で守ってあげたくなる!


 あいくるしい甘えん坊さんだ。

 たまに頑張らずに、抱っこでの移動を要求してくる。

 兄の膝の上が彼女の特等席で、頻繁にハグを求めてくる。

 可愛すぎてつらい!


 筒井つつい好一こういちはそんな妹を溺愛していた。

 何にも勝る優先順位。

 ピラミッドの頂点。

 彼女が自分の傍で、幸せそうに笑っていてくれるなら、彼にとってその時は常に人生の絶頂だった。


 今でも十分に幸せだったのだ。


 今まではそれが最高の幸せだったのだ。


 これ以上の幸せなど、長らく考えたことも無かった。


 知らなければ良かったーー


 知りたくなかったーー


 それ以上の幸せなんてーー。


 幸せになる方法を知ることで、今の幸せが崩れていく。


 羽織の男ーーびょう。彼の手によって、好一は知ってしまったのだ。


 

 人の命を奪えば妹の足を治せることを。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 好美は今まで、一体どれほどの事を我慢してきただろうーー諦めてきただろう。


 それを全て取り戻せる方法があるーー。


 自分が人を殺せばーー

 「おにいちゃん?」


 好美の声で、好一は我に返った。


 妹を膝に乗せてアニメを見るという至福の時間中に、物思いにふけるなどあってはならない愚行だ。

 今まで一度たりともそんなことをしたことは無かった。

 それが好美を不安にさせてしまったようだ。


 好美は勘の良い娘だ。

 好一は何か悩み事を抱えている。

 それを察した彼女は、あえて訊くことはせず、慰めるように好一の顔に頬を摺り寄せ、いつも以上に甘えてくる。


 好一は好美の髪を優しくなでる。


 やはりーーそうなのだろう。


 わかっていたことだった。わかりきっていたことだった。

 人殺しなんて悍ましい真似、出来るはずがない。

 人の命を奪うなんて重みに、耐えられるはずもない。

 ましてやそれが悪人でもないなら、なおさらだ。


 ……そう頭では考えていながらーー殺せる。


 殺せてしまえる。


 好一にとって、好美の幸せが最優先なのだ。

 彼女のためなら、なんでもできる。

 いや、なんでもしたいのだ。


 どれだけ迷おうともーー

 悩もうともーー

 結局最後にはーー

 殺すことを選ぶ。


 好美のためならばーー筒井好一にとっては正義すら、倒すべき敵になりえるのだ。

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