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読者が選ぶ物語  作者: 夜行
九つの物語
3/24

流 由大(ながれゆうだい)の物語

 それは生まれ持った本能かーー。

 奪い奪われ。狩り狩られ。

 流由大ながれゆうだいは物心ついた頃にはそんな無法の世界に憧れていた。


 気に入らない奴。自分の幸福に邪魔な奴。それらを暴力で制するのは生物として当然の事。

 その衝動を、上っ面の道徳や偽善を盾に、さらなる暴力で押さえつける。美しい野生を殺す秩序が、彼には憎くてたまらなかった。


 14歳になったその年。ついに彼の野性は牙をむく。


「どんな理由があっても暴力はいけない」それが両親の口癖だった。いや、口癖というより、由大の振る舞いが、それを口にさせていたのだろう。しかし、もうその言葉を聞くことは無い。


 彼らはその牙によって、物言わぬ肉塊となった。


 燃え盛る二つの肉塊をその目に焼き付けながら、彼はつぶやくように、言った。「助けないのはいけなくないのかーー?」


 炎は燃え広がり、全てを灰に変えていく。思い出を焼ききって、燃え上がる生家をあとにーー

 

 彼は今、獣となった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

 暗闇広がる朔の夜。地に伏す四人の男とそれを見下す男。


 ただ、癇に障った。たまたま通りかかった、道端の自販機コーナーの前でバカ騒ぎする派手な格好の男達。

 その姿を見てイラついた。

 ただそれだけの理由で、その衝動を抑え込もうともせず、男は心のままに暴力の嵐を巻き起こした。


 「おい、コスプレ野郎。見世物じゃねぇぞ」


 拳を血で濡らした男が、いつのまにか背後に立っていた、派手な羽織を着た男に、獣のような鋭い眼光を向ける。


 派手な紅の羽織の下には、いたって普通のTシャツとジーパンというアンバランスさは、なるほど確かにコスプレの様だ。


 「コスプレか。ははっ。確かに確かに。そう見えてしまうだろうけど、それはちょっと違うかな。だって僕はそのもの二次元の存在なのだから。ちなみに君も同じだよ、流由大ながれゆうだい君ーー」紅の羽織を着たその男は、獣の目に怯むこともなくーーどころか、笑みすら浮かべて、男に手の平を向ける。


 「--!?」


 瞬間。


 男に手を向けられた瞬間。

 由大の頭の中には、多くの情報が入っていた。

 それらはまるで生まれた時から知っていたことのように、記憶された。


 「ははっ。これは便利だね。同じ話を9回もさせられるのは、あまりにも面倒だしね。一応確認なのだけれど、今のでちゃんと全部理解してもらえたよね?自身が小説の世界の人物だという事。この世界のルール。君の能力『生命の頂点キメラ』の使い方。他の8人の登場人物達の情報」


 「……ほう。なるほどな」由大の右手がぐにゃぐにゃとうねり、原型を失いーーやがてその肉塊は獅子の顎へと変貌した。


 「『生命の頂点キメラ』か。くくっ。こいつは面白い。いくつか気に入らないことはあるが、まぁそれが気にならなくなるくらいにーー面白い!」


 「気に入らない事ーー

 羽織の男が言い終わる前に、不意に獅子の顎が男の喉を噛み千切ろうとする。

 --とは?」しかし、男は余裕の笑みを崩すこともなく、獅子の顎をかわす。炎をあしらった羽織をはためかせ宙を舞い、着地した自販機の上から由大を見下ろし、言葉を続ける。


 「物語による支配。俺の未来が勝手に描かれていくってのは気に入らないな」


 「ははっ。無理もない。君のその性格だと読者投票を最後まで生き残るのは、少々厳しそうだからね。それでかい?今の攻撃。進行役の僕をここで殺して、物語の流れを変えようと目論んだわけかい?」


 「バカかーー」今度はその右手を熊のモノへと変貌させ、羽織の男の乗る自販機を薙ぎ倒す。


 「ははっ。さすがクマさん。凄い力だね」そのまま十メートルほども転がっていく自販機を横目に、またしても軽やかに羽織をはためかせ、今度は由大の真正面に着地する。その余裕の笑みは、まだ消えない。


 「なかなか良い感じだな……」右手を人間のものに戻し、由大もまた不適に笑みをつくる。


 「言ったろ?そんなこと、気に入らんが気にはならん。少し能力を試してみたかっただけだ。俺は好きなように動くだけ。読者の選択だろうが、作者の意思だろうが、この暴力でねじ伏せるだけのこと」


 「……それ、本当にできると思う?」そのまま立ち去ろうとする由大の背に向け、問いかける。


 振り返らず、歩みを止めず「さあな。ただやるだけだ。生きるってのはそういうもんだろう?現実を生きる人間だろうが、小説の登場人物だろうが、それは同じだ」そう答え、そのまま獣は、闇へと消えた。


 「……。いきがったところで、逆らえないよ。物語の流れにはね。まぁ、達観されてもつまらないけれどね。さてーーじゃあ僕も、次へ行こうか」男の羽織が燃え盛り、炎に溶け込むように、彼もまた闇へと消えた。


 朔が終わり、新月が輝く。


 月明かりが、照らしだすーー


 これから起こるであろう、血まみれの闘争を想いーー獣の顔が狂喜で歪む様を。

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