あと一歩のところで……!
前回までのあらすじ!
「ハイ右、左……そうですよー、一歩一歩がんばってぇ~」(←脳裏)
「アンタを待ってるのは、辛く苦しいリハビリ生活よ」
(リハ……はぃぃ!? リハビリって、怪我したリした時の、あのリハビリ?)
「そうよ? それ以外に何があるっての?」
(いやさ、なんか俺の知らない魔法用語とかかなあぁって)
「そんなワケないでしょ。いい? アンタの動きたい、って思考で宝珠はエネルギーを出すけど、それを完全に感知できるほど、エネルギーを受信する装置は性能が良くないの。……まあ、高価な装置があればまた別なんだけど……少なくともここの工房にそんなお金はないわ。頭の方を慣らしていくしかないのよ」
(貧乏なのか、ココ)
「それは間違いないわね。この工房で一番高価なもの、何かわかる?」
(……?)
ぐるっと、見える範囲を見渡してみる。が、下を向いていた時と景色が変わったところで、見えてくるものは結局、ガラクタばかりに見える。魔法陣は売れないだろうし。となると……
(んー……このゴーレム?)
甲冑のような外見は、ほかのゴーレムとは一線を画しているし、そこそこいい値がするんじゃないかというのが俺の予想。
「惜しい。その頭よ」
(へ? ……俺?)
「そう。魂の宝珠はものすごく高いの。ネクロマンサー協会が生産工程を絶対に外に漏らさない、この世界で唯一『考えるゴーレム』を作ることのできる秘法だから。そうね、村一つくらいは買えるんじゃないかしら」
(村ぁ……!?)
「ま、規模にもよるだろうけど。でもだから、あの子達も、アタシも、失敗できないのよ」
(マジカ……それはちょっと予想外だ……)
「だからね? しっかりリハビリビ励みなさい。少しでも早く、お金になってあげて。そうしなきゃ……」
(そうしなきゃ?)
「……いいわ。アタシから言うことじゃない。ともかく、そういうことだから! あんまりサボるようだと記憶消すからね!! 以上!!」
言うだけ言って踵を返し、シキは俺の視界から姿を消した。
(記憶消したら露頭に迷うのはお前もじゃねーか。今の話じゃさあ)
ポリカちゃんの出て行った扉のほうへ向かっていた足音が一瞬止まる。あ、やべ、聞こえてた。
それでもシキは引き返してくることはなかったようで、遠くで扉の開く音がした。
「もう大丈夫よ。アタシが最低限の躾はしておいたから。頭と身体がシンクロするまではちょっと大変だろうけど、ツキイチくらいではアタシも見に来るから」
(おー。そんときはシマパンでよろしくなー。やくそくわすれんなよー?)
「うっさいわねヘンタイッッッ!!」
「ふええええええっ!? ごめ……っ!?」
「あああああゴメン、ポリカっ、アンタのことじゃなくって……今、ちょっと悪霊が」
(都合の悪いことがあると全部悪霊のせいかー。ネクロマンサーっていいなー)
「ぐ……!」
ずいぶん遠くまで俺の思考は届くらしいので、俺は一ヶ月先までないであろう会話をここぞとばかりに満喫した。
(ひゃっひゃっひゃ。まあ、それなりにやってみるよ。色々聞かせてくれてサンキュなー)
それからしばらく、ポリカちゃんと、コルセアさん、シキの3人の声が聞こえていたが、その会話もしばらくするとなくなった。
ちょっと静かになって、それからしばらくして、ヒールの音が近づいてきた。
(コルセアさんだ……は! そうだ! コルセアさんもミニスカだ! キタコレェェェェェ!!)
俺は、本日二回目のスーパーパンツタイムに心躍らせた。コルセアさんが近づいてくる。が、俺の念じる心が足りなかったのか、残念ながらあと一歩ではないかというところまで来ているはずなのに視界にパンツ様は降臨せず、コルセアさんは短い謎の呪文を唱え、、工房の明かり……魔法陣がひとつ、また一つと消しはじめた。
(ああ、消灯時間ね……ちぇ)
ヒールの音がまた遠のいていき、残っていた魔法陣の明かりが消えて、最期に、ちょっと優しい感じの、コルセアさんの声が聞こえた。
「……お休み。ティンコ」
ああ、クソ。忘れた頃に……っ!
俺は自分の付けた名前に毒づきながら、寝ることにした。
第九話:「あと一歩のところで……!」完
よーし日曜だし何話か落としてみましょー的な(えー) 来週はちょいとばかり忙しくなりそうなので、いーまーのーうーちー