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我が真名はティンコ・ティンティン

前回までのあらすじ!


火星人にあやまれええええー!!!


「んーじゃ、始める? なんか目ぇ、醒めちったしね」

「はい! わたしのほうは大丈夫ですよー! 他のみんな、起こさなくていいですか?」

「いいっていいって。どうせ先は長いんだしね」


 コルセアさんは、ごちゃごちゃモノが積みあがった上に魔道書をポンと置くと、俺の前に立って両足のスタンスを少し広く取り、白衣の袖をまくり上げた。


 その腕には炎の紋様っぽい、深紅のタトゥーが刻まれている。


 深く息を吐き、両手を軽く広げた彼女が小さく何かつぶやくと、刺青の上をキラキラした明るい色の赤い光が走りはじめた。タトゥーの色が、少しずつ赤い光に染められていく。


「キレーイ……」

「見惚れてないで、ほら、準備する」

「はぁーぃ!」


 コルセアさんが魔道書を指差し、ちょいと招くと呼ばれた魔道書はフワッと浮き上がる。魔道書はそのまま指の動きに合わせて宙を舞い、彼女の眼前でぴたりと静止しすると、自動でページを繰って見せた。


(おおおおお! 魔法!)


 ぶっちゃけ手品レベルだが、下手な攻撃魔法とか見せられるよりよっぽど、この世界で魔法が日常的なものなんだってことに説得力がある。つまりここは、やっぱり異世界なのだ。


 派手なの見ると、多分CGだって思っちゃうと思うんだよな俺、ヒネてっから。


「コルセアさーん。こっちは準備OKですー」

「うーい。じゃあ、繋ぐよー」


 視界の外からのポリカの声に応じながら、魔道書の文面に目を走らせるコルセアさん。

 そうしている間にも、腕のタトゥーには光がどんどん蓄積していた。

 これ何をする気かなー。と考えてみる。起きたときにいたロリメガネのポリカちゃんは、俺が自分では動けないことを確認した上で、コルセアさんを呼んできた。


 つまり、コルセアさんは俺を動けるようにすることができる、と考えるのが妥当だ。

 さすが俺、名推理。


 次。今の俺の状態は、夜中に何度かかかったことがある「金縛り」の状態に近い。

 目は開いてるけど、不思議と身体が動かせないのだ。上のほうとか向けないし、多分これ眼球も動いてないから、ポリカとコルセアさんは、俺の瞳孔が開いたり閉じたりしてるのを見てるんじゃないかと推測。つまり、今の俺は、脳と身体が繋がってないんだ。


 それでも目が見えて、耳が聞こえるってことは、インプットはできて、アウトプットはできない感じ、ってところか。と、すると、これからコルセアさんの使う魔法ってので「アウトプット」ができるようになる魔法なんじゃねこれ!?


「あー……『我、大神秘たる万物の第一質量……』


(お、始まった)


 コルセアさんがトーンを落とし気味の声で詠唱を始める。歌とか歌うときも低めなのかな、色っぽくていいな、などと考えを巡らせるうちに、この部屋のアッチコッチにある浮いてる魔法陣が一つずつ、光を強め始めた。さっきまでは待機状態だった感じか。


 俺の背後にも魔法陣はいくつも浮いてるんだろう。コルセアさんの指先の動きに連動して部屋がどんどん明るくなっていくのがわかる。


 これがたとえ危ない儀式だったとしても、身体が動かないんじゃ逃げようもない。どうせ何もできないし……そう思うと気楽なもので、衛星やロケットの発射前みたいだなあ、などとワクテカしながら、俺は魔法のプロセスが進んでいくのを見守った。


「『完全なる三要素に働きかけんと言葉を綴る……』」


 ゆっくりとした呪文とは裏腹に、コルセアさんの両手の指が、中空にいくつも存在している見えない竪琴を奏でるかのように、激しく、かつ繊細に中空で律動する。

 その指の軌跡を、タトゥーから爪先へ転じた赤い光が追い、緻密な紋様の魔法陣が描かれていく。


それが尋常じゃなく強い魔力を帯びていることは、俺にでもわかった。


「『只ここに在る影だけの写し身を……』」


 コルセアさんの声が、何かを強く押さえつけようとしている。

 タトゥーに溜まっていた光を全て纏った魔法陣は、その模様がわからないほどに速く回転をはじめ、平面であることさえ維持できなくなりつつあった。


「『影成し波紋生みなす第一質量の理へと紡ぎ変えよ……』」


 コルセアさんの目の前で、バスケットボールほどの真っ赤な光の……まるで太陽のような魔法陣が完成した。掲げるようにしていた、バチバチと小さく爆ぜているそれを、コルセアさんは満足げに、そしてどこかうっとりとした目で見つめた後……


 無造作に俺の足元に放り投げた。


(でえええええええええええええええええ!?)


 突然手榴弾を足元に転がされたようなもんで、思いっきり慌てふためいたものの、今の俺は目を逸らそうにも瞼を閉じることさえできないのだ。


 まあだからといってそんな現実を受け入れられるほど俺の心は広いわけでもないので、気持ちだけでもジタバタしたわけだが……

 魔法陣は爆発することはなく、俺の足元の床に書き込まれた、おそらくこの部屋で一番大きな魔法陣に接触。と同時に火の玉は姿を消し、巨大魔法陣が

俺の周囲に光の柱を立ち昇らせる。


(おおおおー!!)


 なんていうか、派手だ! こうして転生した俺が、この世界で英雄譚を作り上げていく! そのオープニングを飾る演出に相応しい派手さ!! やっぱりこうでなくちゃね!!


「やったあ! 一発! さすがコルセアさんっ!」


 ポルカの声が頭上から届く。なかなか難易度の高い魔法だったらしい。そりゃあ、異世界から来た勇者様ならぬ勇者ロボの俺を起動させる呪文なのだからそうだろう。

 当のコルセアさん自身も、魔法陣に魔力を送り込む作業を終えた重責から解放されて、一転、呪文を紡ぐ口調も軽やかな感じになる。


『「さあ、螺旋の種の子、コルセア・ヴォートの名において命ずる……っ!!」』


 あ。こっちがこの人の本来の魔法のスタイルだな。急に動きもキレが出てきたし、声も伸びやかになった。そんなコルセアさんの声に反応し、魔法陣がいっそう光を強くする。


 そして、俺の脳内で、パシッ、パシッと何かが弾けたり、後ろのほうを引っ張られるような、そんな感じが強くなる。いける、いけるぞ……!!


「『流転の魂よ、そなたの真の名を契約の証とし、ここに定着せよ!!』」


(おうっ!!)


 コルセアさんが、天高く片手を突き上げ、俺の名を呼ぶ!!


「『さあ立ち上がれ……ティンコ・ティンティーーーーーーーーーーーン!!』」


(俺の真の名それええええええええええええええっ!?

……ってか、動かねーし!! ぜんっぜん、体動かねーしいいいいいい!!)


「あ……れ? 失敗……?」


「ごめんなさいー! さっき起動キーはずしたの、忘れてましたぁー!!」


(なぁんですとおおおおおおおおおおおおおおおおお!?

 ああああのチンコですかああああああああああああああああ!!)


 起動キーとやらは、確かに床に転がっていた。



第五話:「我が真名はティンコ・ティンティン」完


とりあえず一回こんなかんじで一区切ります。近日中に続きも出せるかなと。なんかホントにアホですが、感想とかいただければかなり喜びますので、応援よろしくお願いしまっす!!

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