五、雨が堕ちる
ふっへー!
なんか俺、毎日月焼更新してるような気がするw
がんばるな~
少し誤解のようなものを解いていきたいと思う。何も誤解などしていないならば、これは単なる負け惜しみの響きになってしまうが。
まず化け狐の姿になった俺だが、なにもその見た目相応の能力を使えるというわけじゃない。
いや、使えることは使える。火を纏ったり、氷の礫を飛ばしたり――できることはできるんだ。むしろそんなことは式神の俺にとっちゃできて当たり前と言っても良い。
しかし、できない。今はできない。
理由は一つ、この場には主となる陰陽師の存在が無いからだ。
本来式神というのは戦闘の際、陰陽師の力の下で成り立っている。陰陽師の莫大な霊力を借り受けてこそ、式神である俺の力は解放する。
言ってしまえば、あなた私が居ないと何もできないのね~状態である。
………………。
今の俺は化け狐でも、ただの化け狐に過ぎない。妖怪が視えて、戦えるだけの、ただの化け狐である。
だから今の俺はぶっちゃけ(現代的な言葉を使ってみた)、動物が使う単調な攻撃しかできないのだ。引っ掻いたり、噛みついたり等々。
正直なところ、俺はこの妖怪をあまく見すぎていた。漆の力無しで十分だと思っていた
結果的なことを言おう。
俺は勝てなかった。
かといって、負けたかと言われればそれは否定する。
俺の攻撃が当たらなかったのだ。一つも、掠りもしなかった。
しかしそれは、相手が俺の攻撃をすべて避けきっているということではない。俺がわざと攻撃を外していたなんてこともない。そんなの笑い話にしかならん。
こいつは俺の攻撃を、゛すり抜けて゛いた。
実体はそこにあるはずなのに、俺の攻撃はすべてこいつの体をすり抜ける。
まるで立体映像に触るかのように、すり抜ける。
ただの化け狐の俺だが、妖怪に触ったりしたりはできる。
だとすればこれは、この妖怪が持つ能力だとしか考えられない。
「くそっ――お前こそ何なんだ、妖怪」
当たらない攻撃をむやみやたらに繰り返すのも無意味と判断した俺は、一旦攻撃を止めた。
「………………」
しかしそいつは答えようとしない。
長い前髪で隠れている顔の中、小さな口だけが見えているが、それも一向に開かなかった。
沈黙が続く。聞こえるのは雨音のみ。
「………………する」
「ん?」
「愛が堕ちる……音がする」
雨音に混じって、小さな声が聞こえる。
ふと俺は視線を空にずらす。そういえば、少し雨脚も強まっているような気がした。
「しとしとと……醜く、哀れに……堕ちる音がする」
醜く哀れに……堕ちる音?
「愛が堕ちるとはどういうことだ。この雨のことを言ってるのか?」
「ふふ……あなたには関係無いわ。式神さん」
「じゃあ私には関係あるかな」
――声がした。突如として、声がした。
この妖怪の声じゃない、もっと甲高くて……生ぬるい声。そんな声がいきなり、俺と妖怪との会話をに割り込んできたのだ。
妖怪とのバトルシーンなんかに似つかわしくないそんな声は、勿論と言って良い程に聞き覚えがあった。
緊張感の欠片も無い登場に、俺は苦笑いをこぼす。
だって、この村にあんな目立つ和服なんて着た奴居ないもんな。
降り落ちる雨の下で、そんな影が見えた。
――園崎漆。妖怪退治の専門家、陰陽師。
「漆……お前、こうなることを分かってて俺におつかいを頼んだな?」
「ふっふーん。私はカルピスの原液が飲みたかっただけだよ~。――ていうか私のカルピスは? どこ?」
「化け狐になるときにどっか吹っ飛んでいった」
「うわぁ、なんか扇のほうを退治したいなそれ~」
緊張感が無いのは口調だけじゃないな。雰囲気までこいつペースだ。
まるで遊びに来たような登場じゃないか、漆。