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月焼  作者: だるま
~醜く哀れな雨の音~編
4/8

四、居た

う~眠い

そろそろ扇くんのイメージ図でも描かないとな~

 運が良いことに、宿の近くにあった駄菓子屋は空いていた。

 漆のお目当てであるカルピスの原液とやらも売っていたので、レジの老婆に千円札を渡して、ビニール袋に入れてもらった。無論、そのときの老婆の顔も無表情で、俺の目を一向に見ようとしないような姿だったということなどは言わずと知れたこと。もはや見飽きたと言っても良いほどだった。

 しかしそれでもお釣りの計算くらいはできるようで、的確な額で返ってきたお釣りに対して、使い道をどうするか考えていた。

 漆にはお小遣いにして良いと言われたものの……そこまで俺が欲しがっている物など無い。もしあったとしても、駄菓子屋には売ってないだろうし、残ったお釣りでは買えないような代物だろう。

 俺は陳列棚を適当に見渡した後、偶然目に留まった『うまくない棒』という棒状のお菓子を十本手に取った。それをレジに持っていき、買う。

 それでも無駄に残るお釣りをポケットに閉まってから、駄菓子屋を後にした。

 その際、「ありがとうございました」などという味気の無い言葉が背にかかったが、振り向くことはなかった。


 ――さて、帰るか。

 ビニール袋の中から、うまくない棒を一本取り出す。

 それを開け、丸ごと口の中へ放り込んだ。


「……うまくないな」


 そんな独り言を呟きながら、特に急ぐこともなく俺は宿への足を進める。

 その間は勿論、このお菓子のうまくなさを噛み締めながら歩いていた。

 ――そんなこんなで、宿の手前にあった踏み切りまで来ていた。

 うまくない棒も二、三本食べ終えたところで、もう一本を口に入れる。そこで俺はあることに気づいた。

 ――雨。

 そう、雨が降ってきたのだ。小雨ではあるが、頭には確かに冷たい感触がしている。

 しかし、これくらいの雨なら大丈夫だ。雨宿りする必要など無い。

 この踏み切りを渡れば宿は目の前だ。雨が強くなる前に帰ろう。


「………………」


 ――と、普通は思うところだろう。

 もしここが普通の村で、雨の日も晴れの日も変わらず平和な毎日が送られているような村だったら、俺はこんな雨など気にも留めないだろう。

 しかしこの村は――へんじゃ村は、そんな村じゃない。晴れの日も雨の日も変わらず平和な毎日が送られているような村なんかじゃ――無い。


 雨の日に、現れる村だ。

 妖怪が、現れる村だ。


「――よう」


 俺は話しかけた。

 見えた゛そいつ゛に――否、視えた゛そいつ゛に、話しかけた。


「こんなあいにくの雨の日、子供゛みたいな゛俺に何の用だ?」


 ゛そいつ゛は、踏み切りを挟んで俺の前に居た。

 まるで現れたように、突然として、立っていた。

 女だった。

 白い、喪服のような服で身を包んでいる。足まで届くような長い――ロングヘアーの域を越えているような黒髪で、顔は前髪で隠れていた。

 ――間違いない、こいつは妖怪だ。式神である俺の目がそう錯覚するんだから、間違いない。


「あなた……私が見えているのね」


 妖怪は、喋る。

 意思を伝えるため、妖怪は言葉というものを使う。自分の存在を分かってもらうため――確認するようためのようにも思えるがな。


「あなたは…………何」

「俺は大人だよ」

「…………」

「まぁ大人と言っても……俺は人じゃあないが」


 そんなことを言い残しながら、俺は゛変身した゛。

 ……いや、変身したというのも言い方が間違っている。逆に俺にとってすれば、人間の姿で居るときが゛変身している゛姿と言うべきなのだ。こうも人間の姿で居るときが多くなると、体感というものが違ってくるものだから厄介だ。

 訂正しよう。

 俺は、元に戻った。化けの皮を剥いだとでも言うべきか。

 ――しかし、化けの皮が剥がれたところで、俺がなるべき姿は『化け狐』だけどな。

 体長二メートルはある、化け狐だ。


「妖怪が見えるってことは……陰陽師か、何か?」

「その式神だ」


 俺――化け狐は、そのまま妖怪に襲い掛かった。

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