全滅寸前の勇者パーティの勇者ですが、寿命を犠牲に魔王を倒して田舎に引っ込んだらパーティの女の子たちが捜しにきました
「最後の勇者パーティ諸君、その程度かね。実にがっかりだよ」
魔王城。
魔王のいる玉座の間では人類最後の希望である勇者たちが満身創痍で倒れ伏していた。
人間界に突如現れた魔王ベルーガは魔族や大量の魔物を引き連れて攻め入ってきた。
人間側はこれに対抗するため数多の戦士を戦わせたが魔王に領土を奪われる一方。
そこである国の王は女神アルテイシアに願い異世界から勇者召喚の方法を教えられる。
召喚された勇者たちを鍛えて戦場に送り出し領土をいくつか取り返したものの、肝心の魔王を倒すことはできず勇者たちは倒れていった。
最後に召喚された勇者ソーマ、剣聖ランディス、大魔導師アリシア、聖女ルイーズは人類の希望を背負って魔王直下の四天王を倒し魔王までたどり着いたが圧倒的な魔王の強さの前になすすべがなかった。
「『エリアヒール』……もう、魔力が足りない……ごめん、みんな……」
聖女ルイーズが癒やしの魔法を使おうとするが、ここにきて魔力が枯渇してしまっていた。
「さて、もう終わりかね。我を玉座から動かすことすらできなかったな。ここで貴様らを滅ぼして、人間界を制圧するとしよう」
長く青い髪に頭の両側からねじくれた角が生えている魔族の王ベルーガは、玉座から立ち上がることもなく簡単な魔法だけで勇者パーティを一掃していた。
それほどまでに両者に力の差があった。
そして、勇者ソーマは覚悟を決める。
「ラン、アリシア、ルイーズ。聞いてくれ。僕が魔法を使うから、それを合図に最後の総攻撃を仕掛けるんだ」
勇者の言葉で三人が黙って立ち上がる。
「ほう、最後に何をする気かね? よかろう、見せてもらおうではないか」
「帰還魔法『リターン』」
三人の足下に魔法陣が浮かびあがり、姿が少しずつ消えていく。
「ソーマ、どういうつもりだ!」
ランディスが悲痛な面持ちで勇者を見る。
「君たちを死なせたくないんだ。後は僕に任せて。みんな、どうか幸せに」
「待って、ソーマくん! 君がいないと意味が……」
すでに弱っている三人は勇者の魔法に抵抗できず、ルイーズの声も最後まで届くことなくその場から姿を消した。
「無駄なことを。貴様を殺しそのあと彼女たちもいずれ後を追うだけだ」
「……僕はこの異世界に転移させられた。最初はイヤだったけど彼女たちがいてくれたからここまでやってこれた。死なせるわけにはいかない」
そしてソーマは懐から光る石を取り出す。
「なんだそれは」
「僕はね、女神が言うには大器晩成型の勇者らしいよ。先に喚ばれた勇者たちがお前に殺されたから僕には時間がなかった。この石は僕を全盛期まで無理矢理成長させるんだ」
勇者は女神がこれを渡すとき、『できれば使うことがないように。あなたの寿命を縮め、死ぬかもしれません』と言っていたことを思い出す。
「バカな、神の力を行使するか。死ぬぞ」
ソーマはそれに答えず『女神の石』に魔力を込めた。
あたりがまばゆい光に包まれ、魔王でさえ思わず目を閉じた。
◇◇◇
光が収まったあと僕には力が溢れていた。
これは誇張でもなんでもなく魔王を倒せる力が手に入ったのだ。
「バ、バカな……これほどとは……おのれ女神めっ!」
思わず玉座から立ち上がった魔王は体が震えている。
「我が最大の魔法で葬ってくれる! 『深淵の闇に飲まれろ、ダークエターナル』!」
魔王の等身大の黒い塊が僕に向かってくる。
「やあっ!」
「なんだとっ!」
僕は手に持っている聖剣で黒い塊を斬り捨て、ダークエターナルは空中へ溶けるように消えていった。
「時間がない、これで終わりだっ!」
この力を得て分かった、本当に時間が短い。
元の世界で見た特撮ヒーローだってもっと長いだろう。
魔王を目がけて突進し、聖剣で袈裟懸けに斬る。
魔王から黒い血しぶきがあがり、魔王の体がズレ落ちていく。
さらに斬撃は魔王を貫通して玉座もその後ろの壁をも斬り裂いた。
「バ、バカな、我がまったく歯が立たぬだと……ありえぬ……」
両断された魔王の体が地面に倒れ、やがて砂になって消えていった。
「終わった……。僕の命もここまでか……。みんな、どうか僕のことは忘れて幸せに……」
急激に力が抜けていく。
窓の外を見ると、空の暗雲が晴れていく。
僕は膝をつき、前のめりに倒れて意識が遠のいていった。
◇◇◇
王城。
剣聖ランディスは、ソーマに飛ばされた先の王城の部屋で意識を取り戻した。
「うう……。ここは……。はっ、ソーマ!」
「よかったランディス様、目が覚めたのですね!」
王城に仕える侍女がランディスの目覚めに気がつく。
「くっ、体が……いやそんなことよりソーマは、どうなった!」
「勇者様の活躍により空を覆う黒雲は晴れました。魔王は倒されたのです」
「だからっ、その勇者はどうした!」
「申し訳ありません、王様が魔王城をくまなく捜させたのですが、勇者様のお姿はなかったと……」
「そんなソーマっ、私は認めないぞっ! 私との約束は……」
ランディスは思い出す。
魔王の軍勢に襲われ、家族が殺された。
復讐のため騎士団に入り剣術の才能を開花させたランディスは剣聖となった。
やがて召喚されたばかりの勇者ソーマに剣術を教える役目を受けた。
ソーマは亡き弟にとてもよく似ていて、接するうちにとても仲良くなった。
『師匠、また一本取れませんでした』
『そんな簡単に負けてたまるか。だがさすが勇者だな、私も危うい場面が多くなってきた。だから、もう師匠と呼ぶな』
『だけど……』
『お前の訓練が終われば同じパーティを組むことが決まっている。そうなれば対等だ。だから名前で呼んでくれないか、「ラン」と。私の死んだ弟もそう呼んでいた』
『……わかった。ラン』
最初は師匠呼びをしていたソーマだったが、訓練をつけて実力が上がったから師匠呼びをやめさせた。
そして、約束をしたのだ。
『ソーマ、戦いが終わったら私の故郷に来ないか? 私は、自分の故郷を復興させたいんだ』
『僕も喜んで手伝うよ、ラン』
『ありがとうソーマ。だから絶対に死ぬなよ』
故郷の復興をダシにしてソーマとの約束をとりつけた。
最初は頼りなく弟のようにしか思っていなかったソーマだったが、たくましく成長していく彼にいつしか惹かれていたのだ。
だから、私との約束を破るなんてそんなことは認めない!
◇◇◇
ほぼ同じ時刻、大魔導師アリシアも王城にある自分の部屋で目を覚ました。
「ここは……。そうです、ソーマはどうなったのでしょうか。空が晴れている。つまりソーマが魔王を倒したんですね。ならソーマも生きているはず」
まだ治りきっていない身体をベッドから起こして外を見る。
アリシアは今でこそ勇者パーティに抜擢されるほどの魔導師であったが、以前は女であるということで魔法の実力を認めてもらえなかった。
だが、召喚されたばかりの勇者ソーマはそれを見ておかしいと声をあげたのだ。
『彼女の魔法は誰にも引けをとらない。それに陰で努力もしている。なのに女だからというだけで冷遇するのはありえない!』
それを証明しようとソーマはアリシアとともに戦場に赴き、数多の魔物を葬り去ってきた。
やがてアリシアの功績が認められると他のくすぶっていた女魔法使いたちも奮起して、今では女だけの魔導師団も結成されるようになった。
ソーマの勇者の訓練が終わり、魔王討伐に旅立つときアリシアはパーティメンバーに志願するとともに王様にある条件を認めさせた。
『アリシアよ、そなたの活躍はめざましい。今まで活用できてなかった女魔導師たちを目覚めさせ魔王軍の前線を押し下げていった功績は褒美に値する。何か希望はあるか』
こっそりと王の執務室に呼ばれたアリシア。
『でしたら王様、勇者ソーマのパーティメンバーにくわえていただきたいです。それと、魔王を倒した暁には勇者ソーマとの結婚を認めて下さい』
『なるほど。そなたの活躍の発端はソーマであったな。儂の娘と結婚させようと思っておったが……。よかろう、許可する。ただし、ソーマがそれを望めばであるがな』
『ありがとうございます! 必ず魔王を討伐してソーマと結婚します!』
『そこは嘘でも「魔王を討伐して民に平和をもたらします」と言って欲しいところじゃがのぅ』
王様は白いあごひげをなで回しながら苦笑していた。
起き上がって頭がはっきりしてきたアリシア。
「私にとってはここがスタート地点なのよ。ソーマの姿は見えないけど彼を捜して結婚してもらわなきゃ!」
◇◇◇
聖女ルイーズも目を覚ました。
「大丈夫ですか、聖女様!」
聖女を見守っていたメイドが彼女の目覚めに気がついた。
「うーん……ここは……。確かソーマくんが私たちに嘘をついて帰還の魔法を使って……。あっ、今どうなってるの、魔王は、ソーマくんは?」
「魔王は倒れ空が晴れました。ですが勇者様は行方がわかりません。もしかすると相打ちになったかもしれません」
「そんな……」
泣き崩れかけるルイーズはソーマとの出会いを思い出す。
『お前の回復なんかいらねえんだよ、気持ちわりぃ! なんで女の格好してやがるんだよ!』
『私だって好きでこうしてるわけじゃ……』
魔王軍との戦いで引っ張り出されていたルイーズ。
男として生まれたが、顔がとても可愛らしかったため両親は女の子の服を着せて育ててきた。
成長しても女の子と間違えられる容姿や体型のうえ、持っているスキルは【聖女】。
戦場の救護所で回復役として配属されたが、紛らわしくないよう聖女らしい格好をしろと言われているためルイーズの出自を知る者からは忌避されていた。
『やめろっ、彼女はよく働いているじゃないか! 彼女の回復がないと戦えないんだぞっ!』
ルイーズが心許ない言葉を投げつけられるたび、ソーマはそれを庇っていた。
『まったく……ルイーズの回復魔法は優秀なのに。ルイーズ、気にしなくていいよ』
『ありがとう、ソーマくん』
ソーマはルイーズのことを女と思っていたが、それはルイーズにそれは関係なかった。
勇者パーティ結成のときは、回復役として立候補してくわえてもらった。
戦っているソーマの姿に惹かれ、いつしか彼の側に居たいと思うようになる。
同じ前衛で戦えないことを何度悔しく思ったことか。
女の体を持ち剣聖でもあるランディスが本当に羨ましかった。
「ソーマくんの元に行かなきゃ!」
◇◇◇
剣聖ランディス、大魔導師アリシア、聖女ルイーズは王の間に呼ばれた。
「そなたたちの心中察するに余りある。だが、魔王亡きあとも残党たちが未だ活動している。そこで、三人には各地に赴いて掃討してほしい。勇者の抜けたあとというわけではないが、第一王子を同行させよう」
三人は顔を見合わせた。
「王様」
「どうだ、ランディス」
「恐れながら、殿下の同行はありがたく思いますが、万が一のことがあった場合取り返しがつきませぬ。私たちも勇者ソーマとともに戦い強くなりました。おそらく四天王クラスであれば私たち三人でも倒せるでしょう」
「ふむ」
「であれば、殿下をわざわざ同行させるまでもありません」
「そうか。だが、各地の残党は掃討してもらいたい。人手が足りないのだ。魔王が倒れたいま、新たな勇者を召喚することはできない」
ここでアリシアが大きな声をあげた。
「新しい勇者なんて要りません! 王様、どうかソーマを探させてください!」
「とは言っても、まだまだ民の被害が起きている。それに我々も勇者の捜索は続けるつもりだ。納得してくれまいか」
不意に、ルイーズの体が光り輝いた。
そして王が玉座から降りて頭を垂れる。
『久しいですね、王よ』
聖女ルイーズの体に一時的に女神が降臨したのだ。
「女神アルテイシア様、ご機嫌麗しゅう。いかがなされましたか」
『魔王が倒れて不完全ですが私の力も戻りつつあります。私の力で魔物たちの力を抑えることもできるでしょう。最後の勇者ソーマは魔王城の遙か東の辺境にいるようです。この三人を向かわせなさい』
「ははっ!」
『ソーマがどうなっているのかまでは私にもわかりません。気をつけていきなさい。それが私からの魔王討伐の褒美よ……』
そして女神が消えて、ルイーズの体から光が消えた。
王は立ち上がりゆっくりと玉座に戻る。
「女神様の命により、辺境に向かうのだ。できるだけ途中にいる残党たちを掃討してもらいたい」
「はいっ!」
三人が明るく答えた。
厳しい顔をしていた三人だが、ソーマが生きていると知って少し顔色がよくなった。
◇◇◇
「……あ、あれ僕は生きている……?」
ソーマは魔王城で意識を取り戻した。
「ここから出なきゃ……。その前に喉が渇いた。水は、どこ?」
誰も居なくなった魔王城から這いずるように出たソーマ。
思うように動かない体を引きずって、方向もわからないままデタラメに彷徨う。
やがて、小川を見つけた。
「よかった、水があった……。こ、これは!」
水面に映った自分の顔。
真っ黒だった髪は白髪になり、顔はシワだらけだ。
夢中で彷徨っているときは気づかなかったが、腕や手も枯れ葉のようにしぼんでいる。
これが『女神の石』の代償。
寿命と引き換えの全盛期の力だったけど、死ななかったよりマシか……。
みんなに合わせる顔がないな。
彼女たちには申し訳ないけど、僕が死んだと思って諦めて別の幸せな人生を歩んで欲しい。
『やあっ、とおっ!』
『せいっ! ……ふっ、まだまだだなソーマ』
『師匠、強すぎです。これじゃあ魔王に勝てないかなぁ』
『異界から召喚された勇者ソーマ、気にするな。勇者は例外なく全ての技能を高レベルで扱えるのだ。今はまだ雌伏の時』
『はいっ、これからもよろしくお願いします、師匠!』
『ふっ、鍛えがいがあるな』
僕がこの異世界に呼ばれて剣聖のランに鍛えてもらったときのことだ。
懐かしいな。
最後は総合力で彼女を上回っていたはずだが、純粋な剣技なら彼女に勝つことは難しいだろう。
せめて一本は取ってみたかった。
『ソーマ、この世界では女がどんなに優秀でも下に見られがちなの。魔導師団長なんて夢のまた夢』
『そうなんだ、アリシアさんはこんなに魔法が得意なのに』
『ソーマのいた世界ではどうだったの?』
『そうだね、女の人でも実力があればそれなりに認められていたと思うよ』
『いいなあソーマの世界。私もいつか行ってみたい』
『でも魔法とかはないよ?』
『それは残念。とりあえずこの世界での常識を教えてあげるよ。いきなりソーマが私のことを庇ったから今更かもしれないけど』
『この世界になじめるよう努力します』
アリシアには魔法の使い方やこの異世界での常識を教えてもらった。
女性が上の地位に上がれないのは、最初の僕のやらかしのせいで多少は改善されたと思うけど。
今のアリシアの肩書きは魔導師団長だしね。
『ソーマくん、傷だらけじゃない! 「ハイヒール」!』
『ありがとうルイーズ、助かるよ』
『えへへっ、いつでも治してあげるからね。でも演習中だからって油断しちゃだめだよ』
『ごめん、まだ勇者として未熟だから……』
『期待してるからね、ソーマくん』
僕がまだ勇者として訓練中のことだった。
召喚されてから鍛えられている間、常に傷だらけだった僕を治してくれて、パーティを結成してからもお世話になりっぱなしだったな。
ああ、まだ僕は未練タラタラらしい。
けれど僕はもう先がないんだ。
寿命を犠牲に年老いて戦う力もほとんどない。
もし会えてもすぐにお別れになるだろう。
このまま会わないほうがいいはずだ。
◇◇◇
辺境に向かう途中の街。
かつての炎の四天王配下の残党があちこち襲撃していた。
「これ以上街を破壊させないぞ、『剣聖一閃』!」
剣聖ランディスの一振りで魔物が倒されていく。
やがて魔物を全滅させたとき、最後の魔物から燃えるような赤い宝石が出てきた。
「これは、何かしら? ルイーズわかりますか」
水の魔法で魔物を全滅させたアリシアがルイーズに問いかける。
「うん、『鑑定』。……『炎の魂』というみたいね。エネルギーが凝縮された塊だって。持って行きましょう」
街を救った勇者パーティの三人は人々に感謝されながら次の街を目指す。
同じように各地の魔物を倒しながら進んでいった三人は、『氷の魂』『岩の魂』『嵐の魂』も手に入れた。
そして、ソーマがいるはずの辺境に到着する。
◇◇◇
辺境の村。
ソーマは魔王城から歩いて流れ着いたその村を終の棲家と決めて静かに寿命が尽きるのを待っていた。
「ソーマさん、今日も天気がいいですなぁ。魔王軍の残党もこんな田舎には来ないでしょう、ほっほっほっ」
「そうですね。ここは落ち着きますね。今日も畑を耕すのにちょうどいい」
「あまり無理はしなさんなよ」
村人はソーマのことを勇者だったと気づいておらず、余生を過ごしにきた老人としか思っていなかった。
かつては最後の勇者として民衆の期待を背負っていたソーマからすれば、それが心地よかった。
王城や城下町では最後の勇者としての期待のため丁寧に接してもらっていたがもし期待に添えなかったらどうしよう、などと内心ではビクビクしていたのだ。
王様からは申し訳なさそうに『女神様の力も残り少なく、新たに勇者様を召喚する魔力は残っていない。どうかこの国を……』と言われていたのでなおさらだ。
だが……
「うわー魔物だー」
「助けてー」
「なんでこんな辺境の村に……」
村が魔物に包囲されていた。
「オラオラ、新生魔王さまのお出ましだぞ、ひれ伏せゴミのような人間ども!」
黒い人型の魔物が大声を上げた。
「魔王にしては下品で威厳がないな」
ソーマが剣を持って魔物の頭領に向かっていく。
その姿を見た村人が声をかけた。
「ソ、ソーマさん、なんで剣なんか持ちだしてるんだよ! あんたも逃げるんだ。この村にも一応シェルターはある!」
「そこにあんたが逃げなさい。ここは任せるんだ。どうせ長くない命、こいつくらいは道連れにしないとな」
村人は村の真ん中にある簡易シェルターに逃げていった。
だが、そんなものは魔物にすぐに壊されるだろう。
村人が全滅するのは免れない。
ソーマはすでに光を失った聖剣をもって魔物の頭領に向かい合った。
少しでも時間を稼ぐために。
「ん~、何だジジイ? 残り少ない余生をさらに縮めにきたか~?」
「新生魔王といったな。かつての魔王には遠く及ばんぞ」
「ざけんな、勇者サマが四天王も全滅させて前魔王もいねえ、俺様が魔王軍で最強なんだよっ! 貴様ら全員俺様の初陣の贄となれ!」
「お前ごときに平和を乱されてたまるか」
「まるでお前が勇者みたいな言い方するじゃねえかよ。威勢だけはいいなジジイ、気に入ったぜ最初にぶっ殺してやるよ!」
「ちっ……」
正直なところ、今のソーマでは倒すどころか相打ちも厳しい。
仮に倒せても、その後ろには大勢の魔物が控えている。
だが、やらねば。
「『パワースラッシュ』!」
重い聖剣を何とか横薙ぎに振るって魔物の頭領に襲いかかる。
だが、頭領の鋭い爪によりあっさりと防がれた。
「パワーだと⁉ そんな貧弱な技で! 力ってのはこう使うんだよ、『地獄爪』!」
頭領が爪でソーマをなぎ払う。
聖剣を抱えたままソーマは吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
「くっ……」
ソーマは何とか起き上がったが、剣を杖代わりにして片膝をつくのがやっとだった。
「ジジイ、根性あるじゃねえか。いつまで保つか、甚振ってやろう! 人間の絶望こそが我々魔族の糧だ、はーはっはっ!」
かつて戦った四天王よりも弱い魔物の一撃ごときでこのザマだ。
まともに体も動かない。
ただ時間稼ぎをするために虚勢を張っているだけ。
「なら、もういっちょ行くぞ、『地獄爪』!」
先ほどよりスピードの遅い爪撃は、本当に甚振るのが目に見えるようだ。
さてこの老体で何回耐えられるか。
◇◇◇
「『光速剣』!」
ソーマの目の前を光の剣閃が通りすぎていった。
「ぐぎゃああああああ! 誰だ、俺様のきっちり手入れした爪を切り落とした奴は!!」
「うるさい、雑魚に名乗る名は持ち合わせていない」
そこには、緑色のポニーテールをなびかせた凜々しい女剣士がいた。
「こんなにソーマをボコボコにして、許さない! 『悪しき魂を滅ぼせ、セイクリッドシャイン』!」
天から降り注ぐ光が魔物たちを包み込む。
頭領以外は消滅し、残った頭領も重傷を負う。
「なんだ貴様らは! こんなことをしてただで済むと思うなよ!」
「消えろ! 剣聖奥義『星辰剣』!」
「ぐぎゃああああ!」
星の輝きをまとった斬撃で魔物の頭領は斬り刻まれ、あっという間に消滅していった。
「ソーマくん、大丈夫ですか! 『ハイヒール』!」
「ああ、すまないルイーズ。助かったよ。みんなも、ありがとう。強くなったね」
「あんな雑魚のことよりも、お前のことだ。その姿はいったい……」
ランディスが悲しそうにソーマに問う。
「話したいのはやまやまだが、少し休ませてくれないか」
ソーマは張り詰めた緊張が解けて気を失った。
◇◇◇
魔物の襲撃を退けた夜。
ソーマが目を覚ました。
「よかった、もう目を開けないのかと思ったぞ」
最初にランディスがソーマの目覚めに気づき、アリシアとルイーズも安堵の表情を浮かべた。
「ラン、だけど僕はもうそんなに長くないはずだ」
「なぜだ」
「それは……」
ソーマは三人に魔王城での出来事を話した。
「またそんな無茶をして……相変わらずソーマは非常識なのね」
「そんなことないよ、アリシア。僕はみんなを守りたかった。あのとき選択の余地はなかったんだ」
「ソーマくん……」
「ルイーズもそんな顔しないで。ホントは僕が生きてるのでさえ運がよかったんだ。みんなに看取ってもらえるならこんな幸せなことはないよ」
「だめ、認めない。何か方法があるはず。女神様、何か……あっ……」
ルイーズの体が光り輝く。
またしても女神が降臨したのだ。
『よく頑張りました。あなたたちがここに来るまでに集めた魂のかけらを私に捧げなさい。それは遠い昔に魔王が私から奪った力のかけら。それが戻れば私は完全に復活します』
「わかりました」
ランディスが懐に持っていた四つの魂のかけらを女神アルテイシアに手渡す。
そして、ルイーズから光が消えてその隣に人型の光が現れた。
『聖女を依り代とせずに下界に降りることができるほど私の力が戻りました。まずは、勇者ソーマを元に戻しましょう』
女神が手をかざすと、みるみるうちにソーマが若返っていく。
「よかったソーマ!」「若返ったのねソーマ」「ソーマくん、これで死なずに済むよ」
三人がソーマに抱きついた。
「く、苦しいよみんな……。でもよかった。これで三人が悲しまずに済む」
『勇者ソーマよ、本当によくやってくれました。私からの褒美があります』
「なんでしょうか女神様」
『力の戻った私なら、あなたを元の世界に帰すことができます。望むなら勇者の力も持ったままです。元の世界で無双できますよ。帰りますか?』
「ソーマ……」
ランディスが不安そうな顔をしてソーマを見つめる。
「ソーマ、ときどき元の世界に帰りたいって訓練中に泣いてたよね。帰っても……いいんだよ」
アリシアはソーマを気遣うような言葉を選ぶが、言葉とは反対にソーマの服をぎゅっと握っていた。
「ソーマくん、私は帰って欲しくないよ。私を必要としてくれる君といっしょに居たいんだ」
ルイーズはソーマを引き留めにかかる。
『どうするのです、ソーマ』
女神が選択を迫る。
「僕は……この世界に残ります。みんなのことが好きだから」
「ソーマ! お前ならそう言ってくれると思ったぞ!」
「本当に後悔しないのね、ソーマ」
「うれしいよ、ソーマくん!」
ソーマの言葉を聞いた三人はパッと顔が明るくなった。
『よいでしょう。勇者ソーマの意思を尊重します。この世界を救ったことに感謝します。私はいつまでもあなたたちを見守っていますから……』
そして人型の光が消え失せ、女神がその場を去った。
「みんな、心配かけたね」
「そうだソーマ、きっちり責任をとって私の故郷に来てもらうからなっ!」
ランディスがソーマの右腕に抱きつく。
「待って、そんな約束してたの⁉ 私は王様にソーマとの結婚を認めてもらってるんだから! 私といっしょに来てもらうの!」
「初耳なんだけどアリシア⁉」
突然のアリシアの告白に驚くソーマ。
「待って、二人ともずるい! ソーマは……ずっと僕の側にいて、僕が癒やしてあげるんだから」
ルイーズがソーマの左腕に抱きついた。
「あれルイーズ、今自分のこと僕って……」
「そうだよ、僕は男なんだ」
「ええーー⁉」
大げさに驚くソーマだが、ランディスが落ち着いて答える。
「なんだ知らなかったのかソーマ」
「いやあてっきり女の子なのかと……聖女でもあるんだし……」
「性別なんかどうでもいいよね!」
「ハハハ……」
困った顔をするソーマ。
このあとしばらく三人による国内を巻き込んだソーマ争奪戦が始まるのだが、それはまた別のお話。
いつもお読みいただきありがとうございます!




