第6話 戦略的シナジー(タクティカル・栄養素)
「わ、わァ……!」「フ!!」
目の前でぷるぷると震えながら、小さな拳を構える――
二頭身の戦士たち。
その愛らしさとは裏腹に、
夜気を切り裂くようにキャロット子爵の冷徹な声が響いた。
「フッ、、そんな軟弱なちびっこ有機野菜たちで、
僕の『真のレシピ』が防げると思っているのかい?」
「軟弱かどうか、その身で味わいなさい」
キタアカリ嬢が、巨大なお玉を指揮棒のように振り上げる。
「5彩! フォーメーション・サラダ!」
「ヤー!!」
叫びとともに、彼らが一斉に動いた。
私の戦略的センサーが、瞬時に各個体のスペックを解析する。
まず飛び出したのは、『隊長トマト』。
彼は自分のヘルメット(ヘタ付き)を叩くと、口から真っ赤な液体を噴射した。
「リコピン・スプラッシュ!!」
【能力:抗酸化・目潰し】
「うおっ!? 目が……リコピンが、強すぎる……!」
ただのトマトジュースではない。
凝縮された酸味と旨味が、悪意の彩度を中和するように子爵を襲う。
間髪入れず、『騎士ナス』と『戦士ブロッコリー』が左右から展開。
騎士ナスは、艶やかな紫のアーマーを活かし、地を滑るように子爵の足元へ。
「ポリフェノール・ホールド!!」
【能力:アクによる拘束】
ナス特有の“アク”が糸のように絡みつき、動きを封じる。
そこへ、戦士ブロッコリーがモコモコの頭部を棍棒のように叩きつけた。
「ビタミン・パンチ!!」
【能力:高密度繊維による物理打撃】
見た目に反して、その一撃は鉄塊のように重い。
「ぐっ……! この、蕾の集合体め……!」
「今よ、盾パプリカ! 剣士カブ!」
キタアカリ嬢の鋭い号令。
『盾パプリカ』が体を極限まで膨らませ、私の前に立ちはだかる。
「彩り・ウォール!!」
【能力:視覚的攪乱と防壁】
鮮やかな黄色が残像を生み、
キャロット子爵の放った《人参の手裏剣(薄切り)》をすべて弾き飛ばした。
そして――真打ち。
『剣士カブ』。
普段は泣き出しそうな表情の彼が、静かに白い剣を抜く。
「……シュッ!!」
【能力:根性の一閃】
一見か弱い刃が、子爵のオレンジ色のマントを鮮やかに切り裂いた。
「ハァ……ハァ……」
キャロット子爵が、膝をつく。
「……個々の栄養素が、完璧に連携している……?」
私は割り箸を構えたまま、冷静に分析を終えた。
(……強い。
個体値は低い。だが、シナジー効果が完全にカンストしている。
煮っ転がしにおける『彩り』の重要性を、そのまま戦術に落とし込んだ構成……)
「助かりました、5彩。皆さんの鮮度、見事です」
そう告げると、彼らは一斉に、
「エッ!」「ワァ……!」
と顔を輝かせ、私の周りでぴょんぴょん跳ね回った。
――だが。
「……ふふ」
倒れていたはずの子爵が、静かに笑った。
「……あはははははは!」
嫌な、乾いた哄笑。
「いいだろう。想定以上だ。
だがね……これは実験の前段階にすぎない」
彼の手には、いつの間にか鈍く光る凶器が握られていた。
「調理法を変えるとしよう。
……これを見るのは、初めてかい?」
それは、野菜たちの天敵。
どんなに硬い意志も、
どんなに瑞々しい希望も、
一瞬で形を失わせる魔道具。
――『千切りおろし器』。
「ひっ……」「ぴゃあぁぁ……!」
野菜戦士たちの顔から、一瞬で血色が引く。
キャロット子爵は、ゆっくりとこちらを見据えた。
「さあ、煮崩れる準備はいいかな? まずはキタアカリ嬢から・・・おまえからだ」
その瞳が、狂気を孕んで爛々と輝く。
千切りおろし器シュレッダーが光る。
「覚悟できてるね?」
その声には、
もう、笑みはなかった。




