第4話 戦略的迎撃(タクティカル・カウンター)
「お初にお目にかかる、マロン姫。僕はキャロット子爵」
なびく金髪の美しさ。泥だらけの畑に咲いた一輪の薔薇。
私のセンサーは彼を即座に「要注意人物」へ分類した。
「君のその、物事を斜め45度から断裁するような瞳……嫌いじゃないよ」
彼は男爵の醜態を華麗にスルーし、私の隣に滑り込んできた。
「知っているかい? この『芋の煮っ転がし』の世界で、
僕ら人参は常に脇役だ。だが、彩りのない食卓に未来はないんだよ」
彼の手が私の肩に触れようとする。
その瞬間、脳内にあの夏コミの記憶が閃いた。
爽やかな笑顔で近づいてきた、
あの男。 子爵の胸ポケットのチーフが、勧誘員のバンダナと重なって見える。
「私は現在、芋の出汁を吸い上げることに全リソースを割いておりまして。
子爵様とアライアンスを組む余裕はございません」
「冷たいね。でも、君はまだ気づいていないようだ。
この世界の『真のレシピ』に」
「……そこまでにしておきなさい、オレンジ色の」
割って入ったのはキタアカリ嬢だ。
彼女はワイングラスを揺らしながら冷たく笑った。
「彼女は今、マッシュされるかどうかの瀬戸際にいるのよ。
グラッセにされるのがお似合いの軟派な根菜は、引っ込んでいなさい」
火花を散らす根菜の舌戦。
その傍らで、男爵は「このコロッケ、衣が厚すぎる!」と
調理担当を怒鳴り散らしていた。
完全に戦力外だ。
キタアカリ嬢は私にだけ聞こえる声で囁いた。
「マロン。今夜、扉に『塩』を撒いておきなさい。
浸透圧で、余計な水分を抜かれる前にね」
意味深な警告。その夜、自室にいた私の窓から、
一通の矢文が飛び込んできた。 突き刺さった矢は、鋭く削られた「牛蒡」だった。
手紙には、ただ一言。
『献血の続きを、月明かりの下で』
心臓が嫌な音を立てた。
なぜ、この世界の住人が「献血」という言葉を知っている?
私は震える手で、護身用の「割り箸(夏コミ戦利品)」を強く握りしめた。




