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第3話 戦略的会食(タクティカル・ディナー)

数日後、インカノメザメ侯爵の舞踏会に私たちは呼ばれた。

花嫁修業の成果を見せろとイモ男爵はしきりに言っていたが

そういうおまえはどうなんだ?と心のなかで唱えていた。


さて、私たちはベルサイユ宮殿の鏡の間のような豪華な部屋に通された。

「僕の妻にふさわしく振る舞えよ」 と言うなり男爵は、

豪華な料理テーブルへ迷いなく突進した。


「さすが侯爵。このマッシュポテトは最高ですな!」

男爵は皿を掲げ、ようやく私を思い出したように紹介した。


「これが婚約者のマロン姫です」


インカノメザメ侯爵は私の手に口づけた。

「聡明で美男子な男爵にぴったりだ」

……この言葉に、私は静かに傷ついた。侯爵は、致命的に目が悪いらしい。


男爵は席に着くなり、汚い食べ方でポテトを頬張った。

「ほら、食べなさい。……しかし、君は下品だねぇ。お里が知れるよん」

自分のフォークからポテトをぼたぼたと落としながら、彼は私を罵る。


(立食形式で味見を済ませていたおまえに、下品と言われる筋合いはない)


私は無言で、運ばれてくる料理に集中した。

じゃがバター、フライドポテト、肉じゃが、コロッケ。

夢のような炭水化物の世界。


天使と悪魔が戦っている。

私は食べることが好きだ。

地上のあらとあらゆる炭水化物が好きだ。

糖質が好きだ。

塩分も好きだ。

よろしい、ならば戦争だ!

――私の中の、黒くて重たい何かが、剣を抜いた。


悪魔が勝った。秒だった。天使の屍をよそに

幻のじゃがいもにケチャップとマヨネーズを混ぜてつける、

感動体験に浸っていた。


そのときだった。 「その肉じゃが、実は“男爵イモ”を使っているらしいね」

その声は、この会場の油と塩の匂いを、一瞬で洗い流した。


振り返ると、そこに立っていたのは

――この世界の彩度設定を間違えたような美青年。

キャロット子爵だった。


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