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フォーネウス・ローグ ―その復讐は、贖罪たり得るか―  作者: 愛沢 諒
第零章 心火篇

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第八話 「崩園」

ここから先の話は、これまでの話よりも衝撃的な内容が含まれます。

苦手な方はご注意ください。


 入園式から一夜が明け、ラクアはオリエンテーションの日を迎えた。


 早朝から慌ただしく動き回るメリダを横目に、ラクアは朝食を済ませ、いつもより念入りに身支度を整える。


 メリダが用意した制服に袖を通し、ファウロが作った弁当を手に取ると、靴を履き、出発の準備は整った。


 玄関先で、メリダとファウロがラクアを見送る。


「ラクア、今日はルーマスの森に行くのよね。

危険な生物はいないって言われてるけど、無茶はしちゃ駄目よ? ちゃんと先生の言うことを聞いて、もし遭難したら、私が言った通りに空郵便を――」


 矢継ぎ早に言葉を重ねるメリダを、ファウロが苦笑しながら制した。


「おいおい、メリダ。自慢の息子じゃなかったのか?

ちゃんと信じてやれよ。こいつなら、何かあっても何とかするさ」


 ラクアは二人を見上げ、はっきりとした声で言った。


「ありがとう、ファウロ。

母さん、心配しないで。楽しんでくるよ」


 それからラクアは、ジークと共に馬に乗り、魔童園へと出発した。


 魔童園に到着すると、園児たちはすでに教師たちの手によって整列を始めていた。

 

 あちこちから楽しげな声が上がり、朝の空気は妙に浮き足立っている。


 ラクアは慌てて馬から降り、ジークに手短に別れを告げると、急いで列に加わった。


 十分ほどして全園児の集合が完了し、教師五名と新入生五十名は、ルーマスの森へ向けて出発した。


 先頭を行くのは第一組。

三列に並んで歩き、その後ろにラクアの属する第二組、最後尾に第三組という隊列だ。

 

 道中、ラクアは赤毛の少女リマンダや、のっぽのマールボロと他愛のない会話を交わしながら歩いた。


 精神年齢が遥かに下の園児たちとの会話は、正直に言って刺激的とは言えなかった。


 だが、純粋な期待と好奇心に満ちた少年少女たちの空気は、ラクアの心を不思議と和ませていた。


 やがて一行は、ルーマスの森へと足を踏み入れる。


 そこは、ラクアがこれまでに見てきたどの自然よりも雄大だった。


 二十メートルを優に超える巨木が立ち並び、澄んだ空気が肺の奥まで染み渡る。


 森の中では、小鳥やリスといった小動物の姿も頻繁に見かけた。


 その光景を眺めながら、ラクアはふと考え込む。


――やはりこの世界は、妙に俺のいた世界と似ている。魔生物と呼ばれる存在がいる一方で、馬や牛といった地球と同じ生き物もいる。

食事も見覚えのあるものばかりだし、月や太陽も同 じように存在する。

異世界と呼ぶには、どこか不自然だ。


 思考に沈むうち、ラクアの視線は宙を漂っていた。


 それに気づいたのか、リマンダが不思議そうに顔を覗き込む。


「ラクアくん? どうしたの?」


 ラクアははっとして、慌てて表情を取り繕った。


「な、なんでもないよ。あまりに自然が広大で、感動してただけ」

「こーだい?」


――まあ、その謎も、いつか解明すればいいか


 ラクアはそう結論づけて、再び会話を楽しんだ。


 二時間ほど歩き続け、ようやくラクアたちは目的地である“精霊の滝”へと辿り着いた。

ルーマスの森は「森」と呼ばれてはいるものの、奥へ進むにつれて地形は大きな山へと変わっており、ラクアは登山を成し遂げた達成感を覚えていた。


 担任教師のシルバリスが、朗らかな声を張り上げる。


「お疲れ様、みんな! ここでお昼ごはんにするぞ。先生たちの見える範囲で食べること!」


 注意事項が終わるや否や、園児たちは一斉に散らばり、切り株や木の根に腰を下ろして弁当を広げ始めた。


 すでに疲労困憊だったラクアは、移動する気力もなく、その場に座り込んで弁当箱を開ける。

そのまま、ファウロの作った弁当を口へ運んだ。


「疲れているね。帰りはおぶってあげようか?」


 声に振り返ると、袖を捲り上げ、見事な上腕をあらわにしたシルバリスが立っていた。


 ラクアは苦笑しながら答える。


「遠慮しときます。しかしこの年齢の子たちはすごいですね。まったく疲れている様子がない」

「面白いことを言うね!君だって同じ子供だろう?」


 シルバリスは高らかに笑い、ラクアはその眩しさに思わず目を細めた。


「先生は疲れないんですか?」


「俺かい? むしろ元気をもらってるよ。君たちみたいな子供が大好きなんだ」


「でも、さすがに今日はお疲れでしょう?」


「まあね。それでも俺たち先生は、その姿を園児に見せちゃいけない。みんな、頼れるのは俺たちしかいないんだから。不安にさせるわけにはいかないよ」


 ラクアは、自分の本来の年齢とそう変わらない男が、立派な考えを持っていることにひどく感心した。


「ところで色男よ、行かなくていいのかい?」


 ラクアがふと後ろを振り返ると、入園式の時に集まってきていた少女たちが、不思議そうにこちらを見ていた。


 シルバリスと話していたのが気になったのだろう。


 ラクアはシルバリスに軽く頭を下げて礼を言い、女児たちに手を引かれるまま、園児たちの輪の中へ戻った。


 そうして昼食の時間は、穏やかに過ぎていった。


 昼食後、園児たちには自由時間が与えられた。

少し休もうとしていたラクアだったが、結局捕まり、三十分ほどおにごっこに付き合わされることになった。


 自由時間が終わり、新入生一行は行きと同じように並んで下山を始めた。


 日は少し傾き、小鳥のさえずりはいつの間にか聞こえなくなっている。

 

 代わりに虫の声が森に満ち、心地よい風がラクアの頬を撫でていた。


 隣を歩くリマンダが、眩しい笑顔で話しかけてくる。


「楽しかったね!ラクアくん」


「うん。ちょっと元気すぎる気もするけど」


 ラクアが苦笑しながら答えた、その時だった。

ふいに、前を歩く園児の背中に顔をぶつけてしまう。

 

 進行が、完全に止まっていた。


「ご、ごめん……」


 すぐに謝り、何が起きたのか確かめようと、ラクアは背伸びをして前方を見ようとする。


 その瞬間、かすかな地響きを感じた。


 ドン


 低く重い振動は、次第に間隔を詰め、音量を増していく。

森全体が、何かの接近を告げているようだった。


 次の瞬間、先頭にいたシルバリスが血相を変えて叫ぶ。


「全員!!来た道を走って戻るんだ!!」


 ただならぬ気配に、ラクアの体は強張った。

周囲の園児たちも同じように立ち尽くし、誰一人としてすぐには動けない。


 そして――それらは現れた。


 第二組の隊列、その両脇の木々の間から、異形の影が姿を現す。

 

 カマキリに似たその姿は、しかし常識外れの大きさをしていた。

 

 六、七メートルはあろうかという巨体。羽はなく、胴体は爬虫類のような鱗で覆われている。


 ラクアの脳裏に、かつて読んだ『世界大魔法地誌』の一節が浮かび上がる。


――リザードリッパー。人を喰らう魔生物だ


「うわぁぁぁ!!!」

「…………え?」

「嫌だ…こないで!嫌だぁぁぁ!!!」


 園児たちが悲鳴を上げる中、前方と後方からも同じ魔生物が姿を現した。

 

 完全な包囲だった。


――前からも!?もしかして、一組はもう……


 最悪の想像が頭をよぎった、その時。


「全員、落ち着いて!!俺の後ろにできるだけ集まりなさい!!!」


 シルバリスの怒号が飛ぶ。


 直後、ラクアの視界を、丸い何かが横切った。

ラクアはそのまま、転がった物を反射的に目で追いかけ、そして思わず視線を逸らす。


――………は?


 何が転がったのか、分からなかった。

分かりたくなかった。


 見てはいけない残酷な現実、小さな命が失われる瞬間を、ラクアは目の当たりにしてしまった。


 均衡が崩れたかのように、園児たちは一斉にパニックへと陥った。


「ち、近づくなあぁぁ!!」


 入園式で威張り散らしていたガキ大将も、今は涙目になりながら、指先に灯した小さな火を必死に振り回している。


 だが、その抵抗も虚しく、リザードリッパーは涎を垂らしながら、じりじりと距離を詰めている。


 悲鳴と泣き声が入り乱れる中、シルバリスが必死に声を張り上げる。


「みんな!!俺の近くに来るんだ!!」


 そう叫ぶと、シルバリスは懐から一本の棒状の道具を取り出し、迫る魔生物へと向けた。


「『岩撃(ジェット・ロックス)』!!」


 次の瞬間、棒の先端から拳大の鋭い岩が射出され、一直線にリザードリッパーの胴体を貫いた。


「ギェェェェェッ!!」


 甲高い叫び声を上げ、巨大な魔生物が地面に崩れ落ちる。

 

 だがシルバリスはそれを確認する間もなく、即座に次の標的へと向き直った。


 その直後だった。

背後から伸びた鎌が閃き、シルバリスの伸ばした腕が弾き飛ばされる。


 突然の出来事に、ラクアは時間が止まったように感じた。

 

 さっきまで勇敢に化け物と戦っていた筋肉質な腕が、無惨に地面の上に転がっている


 リザードリッパーたちはシルバリスを囲み、歯をカチカチと鳴らしている。


 攻撃手段を失ったシルバリスは膝から崩れ落ち、それでも最後の力を振り絞って叫んだ。


「みんな……逃げろぉぉぉっ!!!」


 その叫びが、ラクアの体を強く突き動かした。


 ラクアは反射的に、両隣にいた園児の手を掴む。

そして必死に、木々の隙間を縫うようにして走り出した。


 背後から、聞き覚えのある悲鳴が上がった。

少し前まで、笑い合っていた少女たちの声だった。

胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。 


 それでもラクアは歯を食いしばり、視線を前へと固定した。

  

 しかし、腹を空かせた化け物たちは、逃げるラクアたちを捕捉し、執拗に追い立ててくる。


――追いつかれる……!


 恐怖に喉を締めつけられながらも、ラクアは必死に思考を巡らせる。


――何やってんだ俺!!今までやってきたことを、 ここで出すんだ!!


 ラクアは走りながら素早く振り返った。

距離は、二十メートルもない。


 繋いだ手を解き、鱗に覆われた巨大な胴体へ向け、ラクアは足を進めながら手を突き出す。


「『強風(ウィンディアード)』!!!」


 手のひらから、これまで練習してきたものと全く同じ強風が放たれる。


 だが、先頭のリザードリッパーは、大きな鎌を一閃させ、その風を切り裂いた。


 強風は霧散し、化け物は怒りを露わにして、さらに距離を詰めてくる。


――諦めるな……!シルバリスみたいに殺せなくていい。時間を稼げれば、それで良いんだ!


 再び振り返ったとき、距離はすでに十メートルを切っていた。


 ラクアは瞬時に極視眼(ジェノス)を開眼。

視界を一点へと収束させ、巨大な体を支える左脚だけに狙いを集中させる。


 あの日、初めて放った“銃弾のような風”。

その感覚を強く思い描く。


「『強風(ウィンディアード)』!!」


 放たれた風は、細く、しかし鋭く唸りを上げる。

一直線に飛んだそれは、リザードリッパーの左脚を正確に捉えた。


 脚を刈られた化け物は体勢を崩し、轟音とともに地面へと倒れ伏す。


 さらに、その後方を走っていた仲間たちも、倒れた同胞に次々と躓き、連鎖的に崩れ落ちた。


 生まれた一瞬の隙を逃さず、ラクアは園児二人の手を強く握り直し、全力で距離を取る。


 やがて木々が途切れ、視界が一気に開けた。


 そこで、ラクアは絶望する。


 目の前に広がっていたのは、落ちれば命はないであろう深い崖だった。


――冗談だろ……向こう岸まで、四十メートルはあ  るぞ……


 一瞬、思考が止まりかける。

だが次の瞬間、背後から響く怒り狂った咆哮が、ラクアを現実へ引き戻した。


 ラクアはかつて読んだ書物の内容を必死に思い出そうとした。

そして、ある一節が、ラクアの頭に浮かび上がる。


『その体重は凄まじく、飛ぶことは愚か、跳躍力さ らも乏しい』


 迫り来るリザードリッパーの群れ。

ラクアの頭に、選択肢は一つしかなかった。


「二人とも!!俺に、死ぬ気で捕まって!!!」


 両脇から小さな手がしがみつく感触を確かめると同時に、ラクアは限界まで魔源子を手先へと集める。


 狙いは化け物ではなく、自分たちが立つ地面そのものに向けた。


「『強風(ウィンディアード)』!!!」


 強風が地面に叩きつけられる反動で、轟音とともに、三人の小さな体が宙へと浮き上がった。

 

 次の瞬間、鎌が空を裂き、ラクアの目の前をかすめて通り過ぎる。


 三人は勢いのまま、崖を越え、向こう岸へと一直線に飛ばされた。


 やがて、ラクアは地面に叩きつけられた。

全身に激痛が走る。

だが三人は、確かに向こう岸へと辿り着いていた。


 ラクアは安堵する間もなく、即座に起き上がる。

 

 対岸では、リザードリッパーたちが憎悪に満ちた叫び声を上げていた。


 だが、しばらくその場を徘徊した後、化け物たちは興味を失ったかのように踵を返し、森の奥へと姿を消していく。


 ラクアは胸を撫で下ろし、ふと手を握っている二人の園児を見た。

ラクアはその時初めて、自分が手を引いていたのがリマンダと金髪の少年、カールであると気がついた。


 リマンダは顔面蒼白で、瞳は焦点を失い、まるで魂が抜け落ちたかのように虚ろだ。

 

 一方のカールも強い衝撃を受けている様子だったが、かろうじて正気を保っている。


 カールが、震える声で口を開いた。


「……俺たち、助かったのか?」


「いや、まだ安心できない。迂回して追ってくる可能性もある」


 ラクアはそう告げ、先を急ぐべきだと二人に促した。

カールは小さく頷いた。


 だが、リマンダは微動だにしなかった。


 虚ろな瞳のまま、地面を見つめ、唇だけをかすかに動かしている。

その声は、風に掻き消えそうなほど弱々しかった。


「……もう……やだ……」

「……こわい…みんなといっしょがいい………」


 言葉は次第に意味を失い、ただ音として零れ落ちていく。

呼吸は浅く、肩は小刻みに震えていた。


 ラクアが名を呼んでも、視線が合うことはない。

まるで、心だけがどこか遠くへ置き去りにされてしまったかのようだった。


――どうする…このまま、リマンダを連れて動き回る のは危険だ……


 思案しているうちに、空は急速に暗さを増し始めた。

気温が下がり、全身に溜まっていた疲労が一気に押し寄せてくる。


 ラクアは二人の体力も考慮し、移動を断念。

崖の側で休むことに決めた。


――もし追ってきても、また向こう岸へ飛べばい   い……


 三人は、リザードリッパーたちの視界に入りにくそうな葉の生い茂った木を選び、その上へと登る。

 

 身を寄せ合い、簡易的な寝床を作った。


 そこでラクアは、震える指で紙を取り出し、自宅宛に簡単な手紙を書いた。

 

 文字は乱れ、何度も書き直した跡が残る。


―――――――――――――――――――――――


ルーマスの森にて、リザードリッパーの群れと遭遇。

園児に死傷者多数。至急、救援を求む。

 

              ラクア・シャーデット

―――――――――――――――――――――――


 ラクアはそれを折り畳み、封筒に入れて空郵便として夜空へと放った。


 小さな手紙が、闇の中へ吸い込まれていくのを、ただ黙って見送る。


 ラクアは最初、自分だけは起きて見張りをするつもりだった。

 

 だが、魔源子の消耗を考えると、それは得策ではないと判断し、ラクアは追手が来ないことを祈りながら、重たいまぶたを閉じた。


 夜の森は、異様なほど静かだった。


 その夜、ラクアは、何か重たいものが押し潰されるような、鈍く低い音で目を覚ました。


 胸の奥が嫌な予感でざわつく。


――なんだ…?まさか、もう奴らが……?


 跳ね起きて周囲を見渡す。

闇の中に、あの巨大な影も、鎌の輪郭も見当たらない。


 だが、そこでラクアは“違和感”に気づいた。


――……リマンダが、いない。


 寝ているはずの場所が、空白になっている。

名前を呼ぼうとして、喉が張りついた。

最悪の想像が、思考の底からゆっくりと浮かび上がる。


「ラクアくん…どうしたの?顔、真っ青だよ?………」


 眠気を引きずったままのカールの声が、やけに遠く聞こえた。


 ラクアは答えず、衝動に突き動かされるまま木を降り、崖の縁へと足を運ぶ。

 

 否定したい。

間違いであってほしい。


 だが、谷底に目を向けた瞬間、その願いは砕け散った。


 闇の奥に、“それ”は無惨に横たわっていた。


 喉が引きつり、次の瞬間、胃の中のものがせり上がってきた。


「おえぇぇっ………」


 ラクアは耐えきれず、その場に膝をつき、激しく吐いた。


 喉が焼け、呼吸が乱れる。

 何度もえずきながら、視界が滲んでいく。


――違う…こんなの、あっていいはずがない……。


 背後から、木を降りてきたカールの足音が近づく。


「ラクアくん? なにが――」

「来るな!!!」


 ラクアの声は、自分でも驚くほど荒れていた。


「リマンダちゃんがいないんだ、探さないと……」


 その言葉が、刃のように胸に突き刺さる。


――やってしまった、なんで崖の近くなんかで休むことにしたんだ?

彼女の精神状況を考えれば、充分予想できたじゃないか…


 魔源子を回復するためだったという理由も。

二人の体力を気遣ったという判断も。

今のラクアには、そのすべてが卑劣な言い訳にしか思えなかった。


 喉の奥に残る吐き気と、胸を締めつける痛みを押さえ込みながら、ラクアは低い声で言った。


「……カール」


 名前を呼ぶだけで、舌が重い。


「なにも聞かなくていい。俺に従ってくれ」

 

 一拍置いて、言葉を選ぶように続ける。


「すぐに、ここを離れる。音を立てた……奴らが、また集まってくるかもしれない」


 その言葉を聞き、なにか言いたげなカールだったが、ラクアの沈んだ気持ちを感じ取ったのか、黙って頷いた。

  

 二人は言葉を交わすことなく、闇に沈んだ森の中へと足を踏み出す。

枝を踏み、葉を擦る音すら、過剰に大きく聞こえた。

振り返るたびに、あの鎌が迫ってくる幻影が脳裏をよぎる。


 それでも止まることはできなかった。


 後悔も、罪悪感も、吐き気も。

すべてを抱えたまま、ラクアはただ前へ進み続けた。

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