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フォーネウス・ローグ ―その復讐は、贖罪たり得るか―  作者: 愛沢 諒
第二章「学園入学篇」

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第十六話「アークディア魔法学園」

 入学試験当日の朝。

ラクアは黒色の地味なローブに身を包み、トランクを持って玄関に立った。


 ラクアは振り返り、見送るファウロと向き合う。


「それじゃあ、合格したらしばらくは戻ってこないけど、長期休暇にはできるだけ顔を出すよ」


「そうかよ。にしても、あの生意気なチビが自立とは……泣けてくるぜ」


 その言葉に、ラクアは首を傾げた。


「まるで受かる前提で話が進んでないか?」


 ファウロはきょとんとした表情を浮かべる。


「お前が落ちるなんてことはありえねぇだろ。

お前のことを何年見てきたと思ってる」


 次の瞬間、ラクアはファウロに抱き寄せられた。

ラクアは顔が火照るのを感じ、無抵抗のまま俯く。


「胸張って生きろ。お前には俺が……家族がついてる」


「くさいセリフを言うようになったな。年か?」

「うっせえ」


 ファウロはハハッと笑い、抱きしめていたラクアを離した。


 ラクアは改めてファウロと向き合う。


「ファウロ。今まで本当に世話になった」


「やめろよ、後生の別れみたいに言うのは」


 ファウロは真っ直ぐな目でラクアを見据える。


「また、いつでも帰ってこい」


 ラクアは頷き、扉を開けた。

暖かな朝の日差しが、玄関に差し込む。


「いってきます」


 ラクアはそう言って、外へと踏み出した。



---



 一時間後、ラクアは街の外れで捕まえた馬車に揺られていた。


 懐から受験票を取り出し、一つの文を確認する。


『集合場所:各国の飛行車停留所』


――飛行車……空飛ぶ馬車だということは知っているが、いったいどうやって飛ぶんだろうか……


 そんな疑問を浮かべているうちに、馬車は止まった。


 目的地に到着したのだ。


 ラクアは料金を払い、馬車を降りる。

そこは馬車の停留所で、ラクアが乗ってきた馬車の周りにも、いくつもの馬車が規則正しく並んでいる。


 馬車から降りてくる人々は、きっちりとしたローブやハーフアーマーを着た剣士など様々な格好をしていたが、多くはラクアと同じく、ローブにトランクを持った同年代の若者たちだった。


 そういった格好の者たちの中には、期待に満ち溢れた表情をした者もいれば、緊張気味な顔をした者もいる。


 馬車から降りた者たちは、皆同じ方向へと歩いていく。


 人々が進む先に建っていたのは、煉瓦造りの、五十階建てはあるであろう巨大な建物だった。


「すっげぇ!!これがヘルバ最大の建造物、エバーグロス停留所か!!」


 ラクアの耳に、感嘆の声が入る。


 気づけば周囲には、ラクアと同じような格好をした者たちで溢れかえっていた。


 人混みに流されるように、ラクアは停留所へと向かっていく。


 

 中は外よりもさらに多くの人々で溢れていた。

話し声や雑踏の中、一際大きな声が響く。


「アークディア魔法学園に受験する方はこちらへどうぞ!!!」


 ラクアが声のする方に目をやると、そこには紺色のコートを身に纏った大人が声を張り上げていた。


 胸には金色のバッジが留められており、大きな鳥が描かれている。


――フェニックス……アークディアの校章。

あそこで間違いなさそうだ


 ラクアは声の方へと進んだ。

進んだ先には、受験者と思われる若者たちが固まって立っていた。


 ラクアはその集団に加わり、しばらくそこで待機した。


 数十分後、関係者と思われる大人たちの案内によって、集団は列になって進み始めた。


 しばらく進むと、列が止まった。

ラクアが前方を見ると、そこには気が遠くなるほどの螺旋階段が上へと続いていた。


 一行は肩で息をしながら階段を登る。

皆苦しそうな表情を浮かべていたが、ラクアは少しも息が上がることなく足を進めた。


 数分歩いて、ようやく階段が途切れる。

そこからは長い通路が続いており、集団は他の人々が素通りしていく角を曲がった。


 そのまま個室へと案内され、ラクアたちはそこで三つの列に分けられた。


 入ってきた方とは別の扉が開き、ラクアの所属する列が最初に呼ばれた。


 列に従い個室を出ると、そこはバス一台が通れるほどの幅の一本道になっていた。


 奥から光と風が吹き込み、ラクアはそこが外と繋がっていることを悟る。


 だがそれよりも手前にあるものに、ラクアは目を丸くした。


 ラクアが乗ってきたものの数十倍はあるほど長い馬車が停まっていたのだ。


――これが飛行車……


 集団が前へと進んだので、ラクアもそれに続く。

搭乗口に近づいた時、ラクアは再び驚いた。


 馬車につながれているのは、見慣れた茶色の馬ではなく、純白の毛並みに大きな翼を持つ四頭の馬だったのだ。


――あれは、天馬(ペガサス)か!!

この世界に来る前から知っていたが、実際に見るのは初めてだ……


 ラクアはそのまま馬車へと乗り込んだ。

中はバスのように座席が並んでおり、ラクアは空いていた窓側の席に腰を下ろす。


 ラクアと同じ列の全員が搭乗すると、馬車はゆっくりと動き出した。


 やがて速度が上がり、それに伴って天馬たちが大きく翼を広げる。

次の瞬間、道が途切れ、馬車はヘルバの空へと飛び出した。


 受験者たちは一斉に歓声を上げ、手を叩く音が車内を満たす。


 ラクアはその音を聞きながら、窓から下を覗いた。

街がどんどん小さくなっていき、やがてただの模様のようになる。


 馬車はさらに高度を上げ続け、ついには雲を突き抜けた。



 しばらくすると、車内はいっそう騒がしくなった。

受験者同士で会話する者や、呪文を声に出して練習する者がほとんどだったからだ。


 そんな中でも、ラクアは一人、窓の外を眺め続ける。


 緊張していたわけではなかった。

だが魔童園が廃園になって以来、同じ年頃の人間と話す機会が少なかったラクアは、初対面の者と会話する気にはなれなかったのだ。


 しばらくすると、馬車は高度を落とし始めた。

雲を抜け、見えてきた景色に、ラクアは息を呑む。


 そこには、山脈に囲まれた大きな街が広がっていた。


 四王国をまとめる中心都市、アランベール。

ヘルバよりも若干文明が進んでいるように見えるその街の先に、山々を突き破るように巨大な城がそびえ立っていた。


 アークディア魔法学園だ。


 石垣の上に、煉瓦造りの塔がいくつも並ぶその姿に、多くの受験者が感嘆の声を上げた。


 そして、その要塞のような城の遥か向こう。

山の頂上には、アークディアと同等の大きさを誇る城が、もう一つそびえていた。


 馬車は高度を下げ続け、アークディアの手前にある街へと降り立った。


 受験者たちは順番に馬車を降り、ラクアもそれに続く。


 馬車を降りると、ラクアたちはすぐに別の馬車へと案内された。

翼を持たない馬に引かれた馬車に、数人と共に乗り込む。


 馬車が出発すると、レンガ道を進む振動で軽く揺れた。


 揺られながら、ラクアは外の景色を眺めた。

人通りと空を飛び交う空郵便の数が多いこと、そして商店街がなく、様々な店が点在していること以外は、ヘルバと大きくは変わらない。


 だが、しばらくすると景色が変わり始める。

それまでと違い、建物の造りに統一感が生まれ、行き交う人々もラクアと近い年齢に見える者が多くなっていった。


 ラクアは道路脇にある標識へと視線を移す。


『学園都市 アレーナ』


 それを見て、ラクアはこの街に若者が多い理由に納得した。


 アークディアでは、寮で生活する者と、アレーナに住居を構えて通学する者がいる。

中には親と共にアレーナへ移り住む者も少なくない――そのことは、事前に調べてあった。


 やがて馬車は坂道を登り始める。

そのまま城の土台となる石垣を登りきり、馬車は城の西側へと到着した。


 馬車を降りたラクアの前に、大きな門が現れる。

他の受験者と同様に、ラクアもその門をくぐり、紺色のコートを着た案内係に導かれて城の中へと入った。


 中は絵画やランタン、絨毯などで細かく装飾されており、華やかな印象を放っている。


 案内係に連れられ、ラクアたち受験者は大きな円形の部屋へと入った。


 机と椅子が、中央へと下がる階段状に並べられている。

その中心には、厳格な雰囲気の男が一人、静かに立っていた。


 すでに何人かの受験者は席に着き、机の上に置かれた数枚の紙に目を通している。


 ラクアも同じように腰を下ろし、紙に視線を落とした。


『アークディア魔法学園 入学試験 筆記』


――到着していきなりか……


 そう思いながらも、ラクアに動揺はなかった。


 諸注意に目を通した後、ふと周囲を見渡す。


 顔を青ざめさせて震えている者。

深呼吸を繰り返し、必死に気持ちを落ち着けようとしている者。


 それぞれの緊張が、静かな空気の中に滲んでいた。


 やがて席がほぼ埋まり、入り口の扉が閉ざされる。


「これより、筆記試験を開始する!!」


 中央の男が声を張り上げた。


 その瞬間、紙を捲る音が部屋中に一斉に響き渡った。


 筆記試験が始まった。



---



 二時間後。

ラクア達受験者は筆記試験を終え、城の北側にある広大な校庭に立っていた。 


 芝生の上に立つ受験者たちは、皆、覚悟を宿した目をしている。


 その視線の先にある壇上には、先ほど筆記試験の開始を告げた男が立っていた。


「これより、実技試験を行う!!」


 その一言で、場の空気が引き締まる。

受験者達の目は、さらに鋭さを増した。


「諸君らには、三つの項目に挑戦してもらう。

最初に出力測定試験、次に剣術試験、最後に総合力試験だ」


 男は懐から、三十センチほどの棒状の物を取り出す。


――あれは……小型の杖か?


 男はそれを軽く振った。


 次の瞬間、受験者たちから少し離れた場所に、ポンッという軽い音とともに、巨大な氷の像が出現した。


 人の形を模したそれは、透き通る巨体を持ち、まるで氷でできた巨人のようだった。


「出力測定試験は、この氷像に放出系魔法を一撃放つというものだ。採点基準は破壊面積。

飛行車で分けた通り、三班に分かれ、名前を呼ばれた者から前に出ろ」


 説明が終わると同時に、受験者たちは三つの班に分かれて整列する。


 ほどなくして、実技試験が開始された。

 

 ラクアの列の審査員は、目が吊り上がった細身の女と、試験進行を務めているあの厳格な男だった。

 

 前から順に二人ずつ名前が呼ばれていく中、ラクアは城の造形を頭に入れるため、周囲へと視線を巡らせていた。


「お前、田舎もんだろ」


 不意にかけられた声に、ラクアは振り返る。


 前に並んでいた赤毛の少年がこちらを振り返っており、その隣には茶髪のボブカットの少女が立っていた。


 二人とも、ラクアに向けて見下すような笑みを浮かべている。


「あぁ、ごめん、違った?安物のローブ着て、ずっとキョロキョロしてたからさ」

「ちょっとぉ、それは言い過ぎー」


――なんだ、こいつら。

試験会場で喧嘩を売るような発言……馬鹿なのか?


「だったらどうした」


 短く返すと、少年はさらに口の端を吊り上げた。


「ここは優秀な家の奴らが集まる由緒正しい学校なんだよ。そこに、お前みたいな地味な格好の奴が入学できるわけねぇだろ!」

「要するに、恥かく前に帰りなってこと!」


 ラクアは半ば呆れながら口を開く。


「ご忠告どうも。でも、この学校は家柄じゃなく実力を見る場所だ。そのくらい、この学校を目指すなら分かってるはずだろ?」


「はぁ?なにそれ。まるで自分に実力があるみたいな言い方じゃねぇか」

「かっこいいー!自信家すっごーい!」


 ラクアは仏頂面のまま動じない。

だがその反応が、かえって二人の神経を逆撫でした。


 赤毛の少年は一歩踏み込み、ラクアと鼻先が触れそうな距離まで顔を近づける。


「この試験で分かる。

お前と俺らじゃ、次元が違うってな」


 無視を決め込むか、それとも何か返すか。

ラクアがわずかに思案した、その時――


「ソルン・ペオルド」

「イーファン・ショー、前へ!!」


 ラクアの前にいた二人の名前が呼ばれた。

いつの間にか、列は進んでいた。


 二人はニヤリと笑みを浮かべたまま、氷像の前に立つ。そしてそれぞれの氷像に同時に手を向けた。


「始め!!」


「『火炎(イグニアス)』!!」

「『炎弾(フレイム・ブラスト)』!!」


 両者の手から炎が放たれ、氷像を撃ち抜く。


 少女の氷像は腕が吹き飛び、少年の氷像は頭部を撃ち抜かれていた。


「そこまで!!」


 審査員の男が声を張り上げる。

二人はまだ名前が呼ばれていない者たちの横に並ぶ、出力試験終了後の待機列へと戻った。


 すれ違いざま、少年はラクアに薄ら笑いを向けた。


「見ててやるよ。がんばれよー、田舎くんっ!」


 ラクアは少年を見ず、ただ前に進む。


「ラクア・シャーデット、前へ!!」


 ラクアは氷像の前に立ち、思考を巡らせた。


――採点基準は破壊面積……なら急所を狙うのではなく全体を一瞬で消し飛ばせば満点だ。

ターゲットは氷……熱を使うことが第一前提か


 ラクアは手を氷像に向け、目を閉じる。


――筆記は問題なくこなした。俺にとってこの試験は、合格のためだけのものじゃない。

入学後に上の人間から一目置かれる存在になるため、他の受験者と力の差を示す必要がある。

なら、俺の炎は、ありきたりな威力じゃ駄目だ……


 その時、ラクアの脳裏に一つの考えが浮かぶ。


――あの仕組みを使えば……


 ラクアは目を開き、氷像に狙いを定めた。


「始め!!」


 号令と同時に、ラクアは小さく呟いた。


「『(メラーガ)』」


 次の瞬間、ラクアの手のひらに、小さな炎が灯る。


 そのあまりに控えめな火に、審査員の男は目を見開いた。


「なんと……」


 赤毛の少年は、それを見て声を上げて笑い出す。

だが次の瞬間、その笑いは凍りついた。


「『巻風(サイクロン)』」


 ラクアの手を中心に、風の渦が巻き起こる。

炎は風に煽られ、急激に勢いを増した。


 その場にいた全員の表情が、驚愕に変わる。


 炎は膨れ上がり続け、やがて色を変え、青へと染まっていく。


「馬鹿な……!?」


 審査員の男が声を漏らした、その瞬間。


 炎は氷像と同等の大きさまで膨れ上がり、渦を巻いた。


「はぁっ!!」


 ラクアの一声と共に、轟音が弾ける。


 巨大な青い炎が、一直線に放たれた。


 芝生を焼き裂きながら進んだそれは、一瞬で氷像を飲み込んだ。


 数秒後、炎は掻き消え、黒煙だけがその場に残った。


 やがて煙が晴れる。


 ラクアの前方には、何も残されていなかった。

芝生も、氷像も、跡形なく消え失せていた。


 ラクアはゆっくりと周囲を見渡す。


 全員が、言葉を失ったままラクアを見つめていた。

それはまるで、恐怖するかのような視線だった。


 沈黙が場を支配する。


 それを破ったのは、隣に立つ審査員の男だった。


「そ、そこまで……次の者、前へ……」


 ラクアは何も言わず、ゆっくりと待機列へと戻る。


――炎に風を加え、酸素を送り続けることで一瞬で高温へと引き上げる。

強風下でも燃え続ける魔法の炎だからこそ、成立する理屈だな


 すれ違う受験者たちの声が、自然とラクアの耳に入る。


「あれ……融合魔法か?」

「なんだよ、それ」

「まさか……誰も扱えないはずだろ?」

「すげぇ……」

「でも、青い炎って……」


 ラクアはそれらに一切反応せず、歩みを止めない。


 列に戻ると、前方にあの二人の姿があった。


 赤毛の少年と、その隣の少女。


 その表情は、先程までの余裕を失い、恐怖と憎悪が入り混じっている。


「お、お前……」


 ラクアは二人に視線すら向けず、ただ静かに、次の試験へと思考を移していた。

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