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フォーネウス・ローグ ―その復讐は、贖罪たり得るか―  作者: 愛沢 諒
第零章 心火篇

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第十三話「双魂」

 暗く、果ての見えない一本道を歩いて行く一人の少年がいた。

左目瞼にかかる黒髪の下で、青い瞳がわずかに光を宿している。


 少年は不安げな表情のまま、ゆっくりと足を運ぶ。

硬い地面を踏み締めるたびに、足音が暗闇に反響した。


 少年は不意に立ち止まり、目を見開いた。

視線の遥か前方。

暗闇の中に、小さな光の結晶が浮かんでいる。


 少年は再び、光に向かって歩き出す。


 前へと踏み出される足の動きが徐々に早くなっていき、ついには駆け足になった。

それにつれて呼吸が荒くなり、息を吐き出す音が足音と共に響き渡った。


 光との距離がどんどん縮まり、手を伸ばせば、届きそうな距離まで迫る。


 突然、少年の足元が不気味にうごめく。

次の瞬間、地面から四本の腕が伸び、少年の体へ絡みついた。


 冷たい指が胸元を締めつけ、別の手が口を塞ぐ。

少年は声を上げることができず、必死にもがいた。


「行かせねぇよ」


 背後から低い声が発せられた。


「このまま何もかも忘れて、幸せに生きられるとでも思ったか?」


 そこに立つ男は、少年とよく似た黒髪をしていた。

白衣をまとい、眼鏡の奥の黒い瞳が、冷たく少年を見下ろしている。

 

 整った顔立ちの大学生ほどに見える男が、冷えた声で続ける。


「見せかけの力振りかざして、結局誰も守れやしない自己満野郎が」


 足元の地面は、いつの間にか沼のように柔らかく変わっており、少年の体は、腕によって地面へと引きずり込まれ始めた。


「お前がいるから人が不幸になるんだよ」


 冷たい泥が少年の胸を越え、喉元まで迫る。


 息苦しさに悶えながらも、少年は必死に手を伸ばした。


 そんな少年の耳元で、男が恨みがましく囁く。


「そんなお前を、僕は絶対に許さない……

お前がこれからやるべきことは―――――」


 言葉の続きを聞く前に、視界が闇に塗りつぶされる。

沈みきる寸前、男の声だけが、遠く、かすかに残響した。



---


 

 黒髪の少年、ラクア・シャーデットは、跳ねるようにベッドから身を起こした。


「はぁっ、はぁっ……」


 荒い呼吸が、静かな部屋に響く。


 胸の奥に残る不快な感覚に、ラクアは眉をひそめた。

確かに夢を見ていたはずなのに、肝心の内容が思い出せないのだ。

ただ心をざらつかせる何かだけが、はっきりと残っていた。


 ラクアは大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出した。

 胸のざらつきが、わずかに薄れていく。


 視線を巡らせると、勉強机の上にあるカレンダーに目が移った。


“六月十二日”


 勉強机の前にある窓からは、柔らかな朝日が差し込んでいた。

窓辺では、クルーガと呼ばれる綿毛のように白く丸い小鳥が二羽、仲良く声を揃えてさえずっている。


 変わらない朝の光景に、胸の鼓動が少しずつ落ち着いていく。


 ラクアはベッドから降りた。


 去年の七月に八歳を迎え、背は伸びたが、まだどこか幼さの残る体をしていた。


 そのまま部屋を出て階段を降り、居間へ向かう。


 ラクアが角を曲がったその瞬間、何かが勢いよく飛び出してきた。


「うわっ!」


 ラクアの太ももに衝突し、後ろによろめいたのは、ラクアよりもずっと幼い少年だった。


 ラクアは咄嗟に手を伸ばす。

少年の腕を掴み、間一髪で転倒を防いだ。


「危ないぞ、ロイン。

また母さんに怒られたいのか?」


 ラクアは落ち着いた声でたしなめる。

ジークと同じ栗色の髪をした少年は、能天気な表情でラクアを見上げた。 


「ごめん兄ちゃん。ママがパパを起こしてきてって言ったの。僕、行かなきゃ!」


 そう言うとロインは階段を駆け上がり、あっという間に姿を消した。


 その背中を見送った直後、居間からメリダの声が響いた。


「きゃっ!!ルージュ!またこんなにこぼして……!」


 おおよその光景を思い浮かべながら、ラクアは居間へと足を踏み入れた。


 ラクアの目に入ったのは、床にひっくり返った木の器と、こぼれたシリアルとミルクだった。


 そのそばにメリダが屈み、雑巾で床を拭いている。


 すぐ横の椅子には、少女が座っていた。

ロインと同じ栗色の髪をおさげにしていて、目には涙が浮かんでいる。


「ごめんなさい、ママ」

「泣かないの。もう二歳になったんだから、お姉さんらしくしなきゃ駄目よ?」


 いつもと変わらない朝の光景の中、ラクアはキッチンへ向かい、雑巾を取ってメリダを手伝った。


 そのあいだも、ルージュは小さく鼻を鳴らしながら泣き続けている。


 二年前、リーアが誘拐された日の一ヶ月後に生まれた双子のロインとルージュ。


 ラクアやリーアとは違い、二人は感情を隠すことなく泣き、笑い、騒ぐような子供だった。

そしてそのたびに、メリダとジークは手を焼かされていた。


 床を拭き終え、キッチンで雑巾を水ですすいでいたメリダは、小さく息をついた。


「年齢からして普通なんでしょうけど、やっぱりあなたやリーアと比べると感情の起伏が激しいわね。まったく、誰に似たんだか……」


――たぶん母さんだと思うけど………


 テーブルでパンを切り分けていたラクアは視線を感じ、顔を上げると、ちょうどメリダと目が合った。

メリダは笑顔だったが、目はとても笑っているとは言えない。


「何か言った?」

「いや、何も」


 目を泳がせていると、リーアが洗濯籠を抱えて居間に入ってきた。


「お母さん、もう乾いてたよ」


「あら、もう? 暑くなったわね」


 メリダは水を止め、リーアから籠を受け取る。


「ありがとう、リーア。助かるわ」


 そう言ってリーアの頭を優しく撫でると、リーアは満足そうに目を細めた。


 ロインとルージュが生まれてから、メリダの家事はさらに忙しくなり、ジークやリーアが手伝うことも増えていた。

その甲斐あってか、双子はすくすくと育ち、家の中は以前よりもいっそう賑やかになっていった。


 ラクアが食事を終え、洗濯物を畳むリーアを手伝っていると、階段の方から賑やかな声が響いてきた。


「パパ! だっこしてってば!!」

「また後でにしてくれないか? 父さんはお腹がぺこぺこなんだ」


 苦笑しながら、ジークが居間に入ってくる。

その足にはロインがしがみついていた。


「やだ。だっこして、だっこ!!」

「パパ! あたしもあたしもー!!」


 今度はルージュが反対の足に巻きつき、ジークは完全に身動きが取れなくなる。


 困ったように笑うジークを見て、メリダが二人を軽々と引き離した。


「こら、お父さんが困ってるでしょう。今日は休日なんだから、後でいっぱい遊んでもらいなさい」


 解放された双子は、不満そうに声を揃えて返事をする。

そのあと顔を寄せ合い、何やら小声で相談したかと思うと、悪戯っぽい笑みを浮かべて部屋を飛び出していった。


「あなたも、ちゃんと叱ってあげないと、ろくな子に育たないわよ?」

「あんなに可愛い我が子を叱るだなんて、私にはできないよ。君も一度しがみつかれてみるといい。

口角がよく鍛えられるよ」

「もう、ジークったら。私を抱きしめるのはあなたで充分よ」


 そう言って、メリダはジークの頬に軽く口づけをした。


 お決まりのやり取りに、ラクアとリーアは顔を見合わせて苦笑いした。


 やがてラクアはリーアとともに居間を出て、クローゼットのある二階の部屋へ向かった。


 手際よく衣服を収納しながら、リーアがラクアに問いかけた。


「ねえ兄さん、お母さんへのプレゼント、もう用意してあるの?」


 その言葉に、ラクアは自分から切り出した提案を思い出す。


 この世界では、誕生日に盛大な祝いをする習慣はほとんどなく、贈り物を交わすことも少ない。

代わりに、十年ごとに日頃の感謝とこれからの健康を祈る「祝願日」という節目がある。


 今日、メリダは三十歳を迎えた。

だからこそラクアは、贈り物を用意したいとジークとリーアに申し出たのだった。


「俺は昼から先生と隣町の近くで訓練があるから、帰りにその町の商店街で花を買おうと思ってるんだ」


「お花かー。確かにお母さん、お花育てるの好きだもんね!」


 明るくうなずくリーアを見て、ラクアは胸を撫で下ろした。


――リーアにセンスが無いとか言われたら立ち直れないからな……


 やがて日が高く昇り、昼食を済ませたラクアは身支度を整える。


 出発の直前、買い出しに出ているリーアを除き、家族が玄関に集まった。


「じゃあ父さん、あとは頼むよ」


「ああ、任せてくれ」


 ロインを抱いたメリダは、そのやり取りにきょとんとした顔をした後、雨が降るからと言って傘を手渡した。


「いってきます!」


 ラクアは勢いよく扉を開け、家を出た。



 一時間後、ラクアはリーファとともに隣町を歩いていた。


「今日はいつもと違う訓練を行う。お前の成長を測らせてもらう」


「具体的には何を?」


「着けば分かる」


 そう言って、リーファは歩みを速める。


 しばらく進むと、巨大な建造物が視界に現れた。


 ドーム状の建物で、入口には黒と白のローブを着た男が二人、門番のように立っている。


「着いたぞ。ここが目的地だ」


「何をするのか、まったく想像がつかないんですが……」


「ここは防衛員の育成場だ。今回は特別に使用許可が下りた」


 二人はそのまま中へ足を踏み入れる。


 薄暗い通路を進み、やがて視界が開けた。


 そこには陸上競技場ほどの広さを持った空間が広がっていた。

吹き抜けの天井からは、まっすぐに日光が差し込んでいる。


 準備運動を終え、ラクアはリーファとともに広場の中央へ立つ。

地面は土がむき出しで、踏みしめるたび細かな砂が足跡を刻んだ。

 

 二人は距離をとって向かい合い、リーファが口を開いた。


「今日の訓練は至ってシンプルだ。

私に一撃を当ててみろ。

もちろん、使う魔法に制限はない」


 その言葉を受け、ラクアの胸がわずかに高鳴る。

緊張と同時に、抑えきれない高揚が込み上げてきた。


――俺はこの時をずっと待っていた。

いつかくるリーファとの戦いに勝つために、俺は対リーファ用の戦術をいくつも考えて来たんだ


 リーファは手を掲げたかと思うと、次の瞬間には木刀を握っていた。


「手加減は要らない。全力で殺しに来い」


 ラクアも手に魔源子を集め、集中力を高める。


――リーファの強みは、目で反応できない光速移動。

それを可能にしているのは、体の一部を魔源子に変換し、魔法そのものへと昇華させる特異体質だ。

あの力を封じなければ、俺に勝ち目はない


「始め!!」


 号令と同時に、ラクアは地に両手をつけた。


「『石垣(トーテム・ロックス)』!!」


 詠唱と同時に、地面からいくつもの石がせり上がる。

それらは積み重なり、ラクアとリーファの間に五本の巨大な石柱を築いた。


 リーファは間髪入れず木刀を振りかぶる。


――させない!!


 ラクアは地面から手を離した。


 支えを失った石柱は轟音とともに崩れ落ち、あたりは濃い砂煙に包まれる。


 ラクアはすかさず手を前方に突き出した。


――この戦法でリーファの強み、速度を潰す!!



---



 砂煙の中、リーファは感覚を研ぎ澄ませる。


――なるほど……標的が見えなければ、私も光速で間合いを詰めることはできない


 次の瞬間、ヒュッという風切り音とともに、水の矢が砂煙を裂いて飛来した。


 リーファは木刀でそれを軽々と弾く。

続く二本も、無駄のない動きで叩き落とした。


――ラクアには“眼”がある。この状況なら、私を一方的に攻撃できるというわけか。


「考えたな」


 リーファは剣を持たない手で地面に触れ、静かに唱える。


「『巻風(サイクロン)』」


 その瞬間、リーファを包み込むように竜巻が発生した。

渦は瞬く間に広がり、砂煙を吹き飛ばす。


 視界が晴れるや否や、リーファはラクアを捕捉。

間合いを詰めようとしたその時、再び五本の石柱が立ち上がり、次の瞬間には崩れ落ちる。


「芸がないぞ」


 短く呟き、リーファは上空へ跳躍。

そのまま一直線に急降下する。


 ラクアは火の弾丸を放つ。

リーファは難なくそれをかわし、火球はそのまま空へと消えた。


 落下の勢いを乗せたまま、リーファの剣が振り下ろされる。


 間一髪、ラクアは強風を放ち、その反動で横へ跳んで回避した。


 両者は着地し、向き直る。


 再び睨み合う二人。

ラクアの右手には、なお小さな火が灯り続けていた。



---



 リーファを睨み据えたまま、ラクアは思考を巡らせる。


――対策されたか。だが想定内だ。

速度を封じる手はまだある……


 ラクアは右手を後ろに回して、今度は左手だけで地面に触れた。


「『浮遊(リフラクト)』!!」


 次の瞬間、崩れ落ちていた石柱の残骸が一斉に浮かび上がる。


――この数を自在に操ることは出来ない。

だが、浮かせるだけなら……!


 石片が二人の間にある空間を埋める。


 ラクアとリーファは、互いに一歩も動かぬまま睨み合った。


――移動速度が上がったとしても、思考処理まで上がるわけじゃない。この状況で光速移動を使えば、無事では済まないはずだ!


 先に動いたのはリーファだった。


 浮遊する石を木刀で弾き飛ばしながら、一直線に突進する。


――速い! 能力を使わずにこれかよ!!


 二人の距離が急速に縮まる。


 ラクアは浮遊魔法を解除し、同時に強風を放つ。

その反動で自らの身体を後方へ弾き飛ばした。


 着地と同時に視線を上げると、リーファはラクアの数メートル先で、すでに居合の構えを取っていた。



---



 リーファの目は、ラクアを完全に捉えている。


――石柱による煙幕も間に合わない。私の勝ちだ


 次の瞬間、リーファは音を置き去りにする速度で前方へ飛来し、刃を振るった


 だが、振り抜いた先にラクアの首はなかった。


 一瞬、リーファの目が見開かれる。


 視線を落とすと、ラクアは身を低く屈め、刃を紙一重でかわしていた。


 右手には炎。

 左手には、水の球。


 相反する二つの魔法が、静かに唸りを上げていた。

 

 ラクアが両手を打ち合わせた瞬間、水蒸気が爆発的に広がった。


――これは、まさか融合魔法!?


 再び視界を奪われたリーファは、煙幕から脱するべく高く跳躍する。


「『凍結(フリージオ)』」


 ラクアの声がリーファの耳に届いた刹那、周囲を満たしていた水蒸気が、一瞬で氷へと変わった。


 空中にあったリーファの右足が凍りつき、動きを止められる。


――今までこれを使わなかったのは……石柱無しで煙幕は張れないと思わせ、私を誘い出す為か!!

 

 その時、頭上から熱波が降り注いだ。

リーファが天を仰ぐと、巨大な火球が一直線に迫っていた。


ドオォーン!!


 火球は着弾し、爆音とともに衝撃が広場を揺らした。



---



 煙が立ち込める中、ラクアは咳き込み、ふらつきながらも構えを崩さなかった。


 肺が焼けるように熱く、視界がわずかに揺れる。


 やがて煙がゆっくりと晴れていった。


 煙の向こうに立っていたのは、傷一つないリーファだった。


――嘘……だろ……


 表情は相変わらず変わらない。

それでも、その瞳の奥に宿るわずかな熱を、ラクアは確かに捉えていた。


 そして、それが高揚であることを直感的に悟った。


「よくここまで考えたものだ。私をここまで熱くさせたお前は、もはやただの少年ではない」


 リーファは剣先をラクアへ向け、腰を落として構えた。


「敬意を表し、私の全力をお前にぶつける!!」


――まずい、来る!!


 ラクアがとっさに手を伸ばしたその瞬間、リーファの姿が消えた。


 直後、顎に強烈な衝撃が走る。

視界が白く弾け、そのまま意識が途切れた。



 ラクアが気絶してから二時間後。

二人は夕焼けに染まる街を、並んで歩いていた。


「まだ意識がはっきりしないか?」


 リーファがラクアに問いかける。


 ラクアの傷はリーファがすべて治療していたが、一時間以上意識を失っていたせいか、足取りにはまだわずかなふらつきが残っていた。


「大丈夫です。ちょっと頭が重いだけで……」


 ラクアは力なく笑って答えた。


「それにしても、あんな形で自分の長所を封じられたのは初めてだ。ずっと、私に勝つことを考えて訓練していたのか?」


「はい。俺の目標は先生ですから」


 その言葉に、リーファは困ったような笑みをわずかに浮かべた。


「お前の戦法でいくつか気になったことがある。

私の足を凍結させた後に放った火球だ。

あれほどの火球を一瞬で作り出せる力は、お前にはなかったはずだが……」


 ラクアは少し考えてから口を開いた。


「二回目の砂煙を抜けた先生に向けて放った火弾ですよ。

先生がかわした後も上空で維持して、魔原子を送り込みながら徐々に大きくしていたんです」


「それで、手に残った残り火と作り出した水球で水蒸気の煙幕を張り、私の意識を地上へ集中させた……というわけか」


「はい。でも、俺が二種類の魔法を同時に扱えることを隠していなければ、対策されていたはずの陳腐な策ですよ」


 その言葉を聞き、リーファは口を閉ざして立ち止まった。


「先生?」


 ラクアは訝しげに、リーファの顔を覗き込んだ。


「おそらく、そのことを知っていたとしても対策に遅れを取っただろう」


 その言葉に、ラクアはきょとんとした表情を浮かべた。


「どうしてですか? 俺はまだ子供ですが、大人の魔法使いなら、同時に魔法を使える人だってたくさんいるでしょう?」


 リーファは少しだけ間を置いて答えた。


「私がこれまで出会った魔法使いの中に、二つの魔法を完全に同時に扱えた人間は、一人として存在しない」


 ラクアはしばらく口を開けたまま固まった。

そんな様子を横目に、リーファは説明を続ける。


「だが、過去にそうした人物が存在したことは記録に残されている。

何百年も前には、世界に百人以上いたらしい。

ただし、その力を持つ者は皆、何らかの精神的な障害を抱えていたそうだ。

その為、その技術を完全に掌握できた人間は、過去数百年でただ一人……」


 リーファはラクアを真っ直ぐ見据えた。


「その名は……人界破匡(じんかいはきょう)魔神、ヴェルズアーク。八百年前、この世界の破壊を望んだ史上最悪の魔法使いだ」


 ラクアは目を見開き、言葉を失った。


――は?……どういう事だ?

なぜそんな力を、俺なんかが………


 途方に暮れるラクアを見かねたのか、リーファは軽くラクアの肩を叩き、付け加える。


「そんな顔をするな。私たちが使う放出系魔法は、六大魔術を除けば難度を極限まで下げた“劣化版”だ。

誰でも扱えるようにした魔法体系だからな。

そこに関して、お前に少し才能があったと考えればいい」


「そう……ですね」


 ラクアは歩きながら、静かに考え込んだ。


――確かに、極悪人に出来たことが俺に出来るというだけで、“ラクア・シャーデット”まで極悪人になるわけじゃない。今はただ、新しい長所が出来たことを素直に喜ぶとしよう

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