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孤独な十月騎士団団長

 自分の目の前でにぎやかな会話が飛び交うのは好ましい。

 参加しなくてもいい。見ているだけで充分微笑むことができる。

 とくに、その視界のなかには昔から変わらぬようすのハシュがいる。

 それがどれほどユーボットの心を癒してくれるか……。


 ――ハシュ……。


 ユーボットはそのまま子どもだった当時を思い出す。


 ――トゥブアン皇国が明るく穏やか、のんびり気質でいられるのは。


 自身の家族以外でも周囲がいれば、それはすべてが家族で友人。

 誰もが助け合い、温かな愛情、優しさに満ち溢れた愛情を互いに注ぎ合っているからだ。

 ハシュやユーボットの故郷である海辺の町もその気質が当たり前で、どこも家族ぐるみの付き合いがあって、近所の子どもたちは大切な幼馴染であり、兄弟で姉妹だった。

 ユーボットはハシュに対して、それ以上の感情は持っていない。

 それはハシュもおなじことだろう。


 ――だが……。


 いったい、何の因果か。

 ユーボットが「決断の長」である十月騎士団団長の座に据えられたのは、少年兵を育成する十二月騎士団修了と同時のこと。

 何の経験もない十七歳の少年が、突如としてトゥブアン皇国の最高位のひとりとなる。これはあまりにも前代未聞のことで、十二月騎士団の教免たちは学長を含めて強く反対したが、


『現場経験がない? それがどうした。そんなものは現場に立たせて積ませたほうが手っ取り早い』


 と、いつからユーボットの「才覚」に気がついて目をつけていたのか、四月騎士団団長が直々に十二月騎士団へと乗り込み、


『だいたい、教育とはすぐに現場に立つことができるように知識を施すものだというのに、貴様らは何を鈍重に教えている? これだから最近の騎士は武官にせよ文官にせよ、まともに働けるまで年月がかかるのだ』


 ――貴様らは、騎士が皇国に奉職する貴重な時間と労力を何だと思っている!


 四月騎士団団長はそう一喝し、当時の十月騎士団団長と結託してユーボットを「決断の長」として十月騎士団団長の座に据えた。

 そして、得意の侮蔑、嘲笑、唯我を全面に出して鼻で笑う。


『貴様らも薄々は気がついているだろう? このもやしのような男がとんでもない器の持ち主だと』

『……』


 もともと気弱な性格だったため、笑顔になれる友人はすくなかったが、突如と動いた運命のせいでユーボットはわずかな周囲さえ失った。

 思えば、得ても失うばかりの数奇。

 十二月騎士団に入団したのだって、ひとりで生きていくために文官となって、あとは地方役人でもいいから残りの人生を細々過ごそうと思っていたのに、どうして……。

 周囲にはもう笑顔になれるものはない。

 あるのは、ユーボットを「決断の長」として必要とする大人たち。

 日々の公務は国事、国政、軍事といった、ひとつも気の抜けない重要事案ばかり。あまりの重責に震えないことはない。

 そんなとき――。

 ハシュがやっぱり剣技の六月騎士団を夢見て、少年兵を育成する十二月騎士団に入団してきた。しかもそこでは、ユーボットさえ予測もしていなかった馬術に対して才能を見事に開花させた。

 その大輪は騎馬隊で構成する八月騎士団さえ魅了したというではないか。


 ――ハシュ……。


 すべてを失ったユーボットに、たったひとつ残った思い出を共有する少年が手中の範囲で現れた。

 まだ失っていない懐かしい顔が傍にあれば、どうしたって手もとに置いておきたくなる。



□ □



 七年前の、あの悪夢の大海戦。

 トゥブアン皇国は辛うじて勝利に終わることができたが、唯一の絶対防衛の要である海軍騎士の七月騎士団はほぼ壊滅状態。

 誰もが父を失い、夫を失い、兄弟、最愛の家族を失い、失意に暮れた家族や妻たち、子どもたちは国中に溢れた。

 ハシュの母はそれでも立ち直り、まだ子どもだったハシュを温かな身体と愛情で抱きしめてくれた。

 生きることを選んでくれた!

 でも……。

 ユーボットも当時はまだ少年だったが、ハシュほど子どもでもなかった。


 ――きっと、この子ならひとりで生きていける。


 ハシュとはわずか二歳ほどの差でしかないのに、それが最悪な判断材料となってしまい、――海軍騎士の夫を失ったユーボットの母はこれに耐えきれず、数日後の朝には冷たくなっていた……。


 ――その瞬間から、ユーボットは孤児になった。


 それから十二月騎士団入団までの年月を孤児院で暮らし、だが運命はなお数奇をユーボットに与え、何かを託すように「長」と「孤独」を与える。

 すべてを失った彼にとってハシュだけが唯一残った思い出、そのものだった――。

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