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第4章「29歳彼女いない歴=年齢の真性童貞がバイト先の女の子にアタックしてみた」③

毎日更新します。

非モテ童貞の生々しい内面と足掻きをコメディタッチで描いていきます。

峰岸さんに彼氏がいるかどうかで悶々とするのは俺にとって大きなストレスだった。

このシュレディンガーの猫みたいな状況はあまりに苦痛なので、俺は決意した。

峰岸さんをデートに誘おう、と。


彼女のような可愛くて明るくて優しくて、しかも趣味も合う女の子なんてこの先そうそう巡り合えないだろう。

ここは一世一代の大勝負に出るしかない。

29歳彼女いない歴=年齢の真性童貞が「男」を見せる時が来たのだ。

俺はこの前、中嶋から貰ったよみうりランドの割引券を握りしめ、峰岸さんの前に立った。


「み、峰岸さん」


「なんですか?」


何も知らない峰岸さんはいつもの微笑みを浮かべて俺の言葉を待つ。

ごめん、峰岸さん。

びっくりするかもしれないけれど、今から僕は、君を「大人の女性」と思って話すよ。

僕達は、好きな小説の話ができる何気ない友達のような関係だったかもしれない。


だけど、やっぱり僕達は「男」と「女」なんだ。

男と女が顔を合わせれば、いつの間にか二人の足元には恋の花が咲いてしまうのさ。

聞いてくれ、僕は───、


「あのー、ここここれこれ、よよよよみうりランドの割引券なんだけどぉよかったらどぉ?」


言った。

ついに言っちゃったぁ!!! 

しかし、峰岸さんはやや困惑した表情を浮かべながらこう言った。


「えーと……みんなで、ですか?」


「あ、うん、そう、みんなで!」


「みんなで」この一言で俺は愕然とした。

峰岸さん、君はなんてニブい女なんだ。

大の男がだよ、よみうりランドの割引券を渡してくるということはさ、「君と二人で行きたいんだ」と言いたいに決まっているじゃないか! 

何故そこを察してくれないんだ。


まさかあれか、これは暗に断っているってことなのか? 

「あなたと二人でよみうりランドに行きたくないです」と、つまりそういうことなのか? 

俺も俺でチキって「みんなで!」なんて言っちゃうし、どうしてそこで「二人で!」と言えないんだよバカ野郎! 

だから俺は29歳彼女いない歴=年齢の真性童貞なんだよクソ野郎!


「あぁ、そっかぁ……そうだ! じゃあ神保町の古本市にでも行かない? 峰岸さん〇大だから近いでしょ? よかったらぁ……ね?」


俺は咄嗟に機転を利かせて別のデートの提案をした。

古本市ならまさにお互いの趣味にがっちりフィットする。

しかし峰岸さんの表情は曇ってゆく。


「え、私どこの大学通ってるか言いましたっけ?」


しまった。

思わず峰岸さんの通っている大学を言ってしまった。

何故なら俺は、彼女から聞く前に彼女の通う大学をある手段を使って知ったからだ。

そして俺は焦りから更に口が滑ってしまう。


「あっ、いやーそのー、ほら、ネットだよネット! 峰岸さんの名前グーグルで検索したら〇大の日本文学科のゼミのページが出てきたんだよね。それで、あっ、峰岸さん〇大なんだぁ~ってね! ……あっ」


「えっ、待ってキモい」


みんなも一度くらい経験があるだろう。

好きな子の名前をネット検索にかけるという行為を。

峰岸さんのフルネームはシフト表に記載されていてそこで知った。


何気なく検索したら自治体の広報誌で当時小学生の峰岸さんと同姓同名の女の子が表彰されていたし、ローカルのニュースサイトに中高一貫校に通う同姓同名の子のコメントが掲載されていた。

同じ県内でしかも年齢も同じな同姓同名の人物などそうそういない。


そして極めつけは、〇大日本文学科のゼミのページである。

日本文学科であることは本人から聞いていたから、これはもう確定だった。


つまり俺はネット検索で峰岸さんの小学校から大学までの経歴を全て知ってしまったというわけだ。

何度か休憩中に雑談をする仲でしかない29歳彼女いない歴=年齢の真性童貞にここまで簡単に個人情報を知られてしまうとは、ネットは本当に恐ろしい。


それはそうと、今はこの修羅場をなんとかしなければならない。

俺は脂汗をダラダラと流しながら釈明する。


「いや、ごめん。だって、ネットに書いてあったんだもん。悪いのは個人情報ガバガバなゼミの先生じゃないかな? いやよくないよホント、うん」


「チョーキモい! 名前調べるとかストーカーじゃん」


謝るつもりが責任転嫁の言い訳で火に油を注いでしまった。

もうこうなったら火を消すことは諦めて、俺の心の内を全てぶちまけてしまえ!


「お、俺はただ、君をよみうりランドに誘いたかっただけなんだ! つーか君のことが好きなんだよ!」


すると峰岸さんは激しく手を横に振って拒否反応を示す。

そして俺が最も聞きたくなかった一言を発した。


「無理無理無理! こんなキモいストーカーとなんて絶対無理! 大体私彼氏いるし」


「は?」


「だから彼氏いるの! はぁー、マジでキモい。この調子で他の子にもちょっかいかけようっていうならやめた方がいいですよ。ここ、みんな彼氏いるんで」


……うん、まぁ、そんなことだろうと思ったよ。

君みたいな可愛くて明るくて優しい子に彼氏がいないはずがないもの。

でも、それが事実として確定してしまったのはやっぱりショックだった。

 

しかも、他のバイトの女の子がみんな彼氏持ちということもショックだった。

俺にはこのバイト先でチャンスなどハナからなかったということなのだから。


「お取込み中のところすいません、もう話いいすか?」


「えっ?」


背筋に衝撃が走る。

振り向くとそこにはなんと金髪と優男が立っていた。


「陰で聞いてましたけど、山田さん、ケッコー大胆っすね(笑)」


「29でハタチに告白はちょっと(笑)。俺の兄貴より年上だし(笑)」


聞かれた。

俺の惨めな告白を陽キャ大学生二人組に聞かれてしまった。

もう頭の中が掻き混ぜたサラダのようにグチャグチャになった。

俺はこれからまだ仕事があったが、仕事着のまま店から飛び出した。

そしてその日の内に辞めることを店長にラインで伝えた。

次の日、俺は一日寝込んだ。


 辞めたのはいいものの、仕事着を店に返さないといけないことに加えて、着の身着のまま出て行ってしまったので金庫に私物を置きっぱなしだったのでもう一度店に行く必要があった。


案の定、峰岸さんの件は既にバイトの子達には知れ渡っているらしく、主に女の子達からの嘲笑の視線に全身をメッタ刺しにされながら控室に入った。

さっさと用を済ませて帰ろうと思っていたら、陽キャ大学生二人組の金髪と優男が椅子に座って喋っている最中だった。


「あ」


二人組は俺の姿を見ると、会話を止めて俺を見つめていた。

俺は一秒でも早くここから立ち去りたかったのでヤツらの視線を無視して金庫の暗証番号を入れていると、金髪がニヤケ声で言った。


「山田さんって、ホントは院生じゃないんですよね?」


「えっ」


本来はこんな状況なら他の人間の声など耳にも入らないはずなのだが、聞き捨てならない一言に俺は思わず金髪の方を見た。


「どうしてそれを……」


「店長が言ってたんすよ。フリーターなんですよね、ホントは」


「なんで店長がそれを知ってるんだよ。履歴書には院生だって……」


「あぁ、なんか店長の友達が〇×スーパーの店長みたいで、その人から聞いたらしいっす」


「はぁ?」


「勤務態度悪くて嫌われてたっぽいっすね~。いやー、世間って狭いんだなぁって思って怖くなりました(笑)」


信じられなかった。

峰岸さんへの告白の大失敗だけに留まらず、経歴詐称していたこともバレるだなんて。

しかもその出所が前のバイト先の店長だなんて。


確かに前のバイト先の〇×スーパーとこの居酒屋は近所だが、だからといってそこの店長同士が知り合いで、しかもバイトの個人情報をペラペラ喋っていただなんて、そんな悲劇が重なるか? 

まさに泣きっ面に蜂。 

あまりの急展開ぶりに頭の中が真っ白になっていると、優男が言った。


「マジな話、普通に就職した方がいいですよ。29のフリーターがバイトの若い子狙うのダサいし、年の差ありすぎて無理ですよ。なにが楽しくて金のないおっさんと付き合うんだって話でしょ。就職して社会人の彼女見つけた方が良いと思います」


俺は優男の言葉を聞き終えると、矢吹丈のように全身真っ白になりながら、風に吹かれた灰のように店を去った。


「キモ」


店を出て行く直前に誰かに背後から何かを言われた気がしたが、もう何も気にならなかった。

お読みいただきありがとうございました。

よろしければ評価と感想をいただければ励みになります!

第4章はこれにて終了です。

次回、最終回になります!

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