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第4章「29歳彼女いない歴=年齢の真性童貞がバイト先の女の子にアタックしてみた」①

毎日更新します。

非モテ童貞の生々しい内面と足掻きをコメディタッチで描いていきます。

俺は前のバイト先をやめて、某居酒屋チェーン店で新しくアルバイトを始めた。

で、このバイト先なのだが、高校生や大学生の本当に若い子がバイトの中心だった。


そんなわけで29歳フリーターの俺は若干居た堪れないわけだが、俺はこのバイト先であることを企んでいた。

そう、「彼女作り」である。


実を言うと、俺が居酒屋をバイト先として選んだのは、近所であることに加えて、若い女の子が多そうだからでもあった。

前のバイト先のスーパーは7割が男だったし俺の働く時間は9割型男でロマンスもへったくれもなかった。


それに対してここは男女比半々。

まるで小中学生の頃に戻ったかのようなステキな環境だった。

バイト先で何を不純なことを考えているのだと言われるかもしれないが、俺は29歳彼女いない歴=年齢の真性童貞である。


ナンパもアプリも試して失敗した今、出会いの場はもう職場しかないのだ。

そして、勤務初日、俺は運命的な出会いを果たしたのである。 


「山田さん、お疲れ様でした!」


初仕事を終え、帰ろうとした俺に、一人の女の子が声を掛けてきた。

俺は驚いて振り向く。


「お、お疲れ様でした。えーと……」


「あっ、名札外しちゃってた! 私、峰岸です!」


俺は胸を打たれた。

一目惚れだった。

大きな瞳に弾けるような笑顔。

戸田恵梨香似の美少女がそこにいた。


さっきは仕事で忙しすぎて周りにどんな子がいるのか全然見ていなかったが、こんなに可愛い子がいたのか!


「仕事はどうでしたか?」


「あぁ、そうですね。色々覚えることが多くて……」


「私も入りたての頃は大変でしたけど、すぐに慣れますよ」


「そうなんですか」


「なんで敬語使ってるんですか。タメ口でいいですよ。年上ですよね?」


「いやぁ、バイトでは後輩っていうか、僕、新入りだし」


「いいですよ、気にしなくて。ここは年齢関係なくみんなフランクな仲なんです」


「あぁそうなんだ……じゃあ、タメ口で」


こんなカワイイ子と口を利いたのは一体何年振りだろう。

大学を出てからというもの、まともに女の子と接する機会がなかったから感動的だった。

俺は峰岸さんとの会話を楽しむことにした。


「峰岸さんは、大学生?」


「はい!」


「何年生なの?」


「何年生だと思います?」


上目遣いで聞いてくる峰岸さん。

そのイタズラな仕草に更に胸を打たれる。


カワイイ!

可愛すぎる! 

あぁ~、気が狂いそうだ!


「う~ん、3年生?」


「すごーい正解です!」


大学3年生、ということは20歳そこいらということか。

若い、若すぎる。

俺にはあまりにも眩しい年齢だ。


「ちなみに大学では何をやってるの?」


「日本文学です!」


「日本文学! いいね、小説好きなの?」


「はい、本は結構好きです!」


「そうなんだ、俺も小説は割と読むよ。朝井リョウとか好きかな~」


「私は梶井基次郎とか二葉亭四迷とか読みます~」


まさかの居酒屋のバイトで同僚の女の子とこんな文学トークができるとは思わなかったので俺は素直に嬉しかった。

すると峰岸さんが急に話題を変えてきた。


「山田さんって大学院生なんですよね? 院生ってすごいですね!」


「えっ、いやぁ、全然そんなことないよ」


そう、実は俺はウソをついていた。

本当はフリーターなのに「大学院博士課程に在籍している研究者志望の大学院生」という設定でバイトを受けたのだ。

流石に29歳フリーターとしてやっていくのはそろそろ社会的にキツくなってきたからだ。


博士課程の院生なら29歳でもまだ沢山いる。

大学時代の友達も28歳で博士課程の院生をやっている。


というわけで、なりすますなら院生しかないということで、大学院なんか行ったこともないのに院生を装った。

所詮バイトだから履歴書の学歴も適当に書いた。


仮に大学院のことを深堀りされても対応できるように自分の卒業した大学の大学院の名前を書いた。

幸い、大学時代はそこそこ本を読んでいたので、院生っぽい振る舞いもできるはずだ。

まぁ、1年留年したんだけど。


「大学では理論的な授業とかあるんですけど、難しいです」


「そうだねぇ。院生の俺でも難しいと感じるよ。俺は完全に専門外だけど、文学の理論っていうと、テクスト論的な?」


「そうそう! 山田さんすごい! 文学も知ってるんですか?」


「ん~、ホントにちょっとだけ、ね?」


カワイイ子に褒められる、なんて甘美な喜び! 

俺は本を読んでいて初めて得をした気がした。

まさかテクスト論を知っていたことで女の子に尊敬の眼差しを注がれることになろうとは夢にも思わなかった。


「あ、時間だ。じゃあ私、もう上がりますね! また日曜日、よろしくお願いします!」


峰岸さんは笑顔を崩さず丁寧にお辞儀をして帰っていった。

もう俺の心は完全に彼女の虜になっていた。

お読みいただきありがとうございました。

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