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第3章「29歳彼女いない歴=年齢の真性童貞がナンパをしてみた」③

毎日更新します。

非モテ童貞の生々しい内面と足掻きをコメディタッチで描いていきます。

俺は近くのネットカフェに入り仮眠をとると、その日は街を適当にぶらついて過ごした。

中嶋の家に戻らなかったのはもちろん気まずかったからだ。


朝方には中嶋から謝罪のラインが来たが、俺は気持ちの整理がまだできていなかったので返信しなかった。

ネカフェにもう一泊して俺は中嶋の家に戻った。


「あの時は悪かったよ。俺も酔ってたし、何よりミユキちゃんを放っておけなくてさ、ついあんな暴走をしてしまった。パスモを折ったのも申し訳ない!」


中嶋が開口一番頭を下げてきたので俺は、


「いや、もういいよ。俺の方こそ悪かったな。元はと言えば俺がミユキちゃんに声を掛けようと言ったわけだし、責任は俺にもある。パスモのことも気にしなくていい」


と、こちらの非も認めつつ、お互い様ということにした。

俺としては納得のいかないところもあったが、ここはお互い様にしておいたほうが今後の関係のためにも得策だと思った。


それよりも俺には気になることがあった。


「ところでさ、あの後、お前どうしたんだ? その、ミユキちゃんは……」


俺は当然の疑問を口にした。

あれだけの出来事があって、その後のことが気にならないはずがない。


「あぁ、まぁ……ヤったさ」


「そうか……」


大方予想はついていたが、改めて聞かされると衝撃が走る。

あのバケモノとヤったのか……。


「口元と臭いはアレだったけど、カラダはまぁまぁよかったぜ。あれさえ気にしなければ案外あいつは穴場だぜ! 穴だけに、な! ハハハ……」


中嶋は明らかに疲弊していたが無理に笑顔を作っていた。

なんだかここまで来ると中嶋に申し訳ない気持ちが芽生えてきた。

こいつは俺の代わりに犠牲になったのだから。


「てかさ、お前何でマスクしてんの?」


俺は中嶋を一目見てから気になっていたことを指摘した。

あの晩のショックで風邪でも引いたかと思っていたのだが……。


「あぁ、これな。別に風邪ではないんだけどさ……」


「じゃあどうして?」


「なぁ山田、俺達友達だよな?」


「なにをいきなり。当たり前だろ」


「お前のその言葉、信じるぜ……」


俺は中嶋が何を言いたいのかさっぱり分からなかったのでキョトンとしていると、中嶋がおもむろにマスクを外した。

すると俺は瞬時に異変に気付いた。


「山田、俺……」


「あ……あ……あぁ……」


「あの女の激臭が移っちまったんだよぉ!」


中嶋の口から激臭が漂い、鼻をあらぬ方向へ捻じ曲げた。

そして臭いに乗ったあの晩の禍々しい記憶が嵐のように吹きすさぶ。


グリ下で声を掛けて談笑してから、居酒屋でメシの味がわからなくなるくらいの激臭に耐えて、駅の改札前で中嶋にパスモを真っ二つにされて、タクシーに乗ったらラブホで、そして3Pを迫る中嶋と真夜中の鬼ごっこをして……。


「うわあああ!」


思わず絶叫してしまった。

俺は急に襲う吐き気を堪えながら中嶋に問うた。


「お前まさか、あの女とセックスしただけじゃなくて、キスもしたのか……?」


「まぁな……」


「嘘だろ? あのブラックホールに? お前正気かよ?」


あの全人類の業を煮詰めたような激臭を放つ暗黒に飛び込んだだと? あまりの衝撃に俺は思わずポロっと本音を漏らしてしまった。すると抜け殻のような遠い目をしていた中嶋の目が血走った。


「うるせぇよ! セックスしたらなぁ、キスもするんだよバカ野郎! ていうかセックスの前にもするもんなんだよキスはよぉ! そんなことも分かんねぇのかこのクソ童貞が!」


中嶋が激臭を撒き散らしながら迫ってきた。

あまりの激烈な臭いに、中嶋の口からどす黒い煙が出ているかのような錯覚を感じた。

身の危険を感じたので俺は中嶋に土下座して詫びた。


「すまん! ホントにすまん! 俺のせいでお前に辛い思いをさせてしまってすまなかった! この通りだ、許してくれぇ!」


「元はと言えばお前があの女に声を掛けようと言い出したのが全ての始まりだったんだ! そしてお前は言いだしっぺの癖に肝心なところで逃げやがった! どうしてくれるんだよオイ!」


「悪かったよ! もう全部俺が悪いよ! 何度でも謝るよ、ていうかお前に貰った3万返すよ! だから勘弁してくれぇ!」


「全部悪いって言ったな? だったら責任取ってもらおうじゃねぇかよオイ! 口貸せよこの野郎! お前にも俺の苦しみを味わわせてやる! こうなったら一蓮托生だ!」


「いやいやいや、全部ってのは言い過ぎた! お前も一緒にナンパしたわけだし、俺はあのバケモノを見てさっさと帰ろうと言ったのにお前が無理矢理引き留めたんだから、お前も半分、いや、3分の2、いや、9割型悪いよな!」


「あ? 今度は俺が悪いってのか! 俺に責任押し付けやがって、口貸せよこの野郎! こうなったら一蓮托生だ!」


どの道一蓮托生じゃねぇかというツッコミを入れる余裕すらなく、とにかく俺と痛み分けしようとベロチューを迫ってくる中嶋から逃げるように家を飛び出す。

そして今度は真っ昼間からバイオハザード鬼ごっこを繰り広げた。


俺は持ち前の逃げ足の速さで今度もゾンビ中嶋を振り切ると、電車に飛び乗って再び大阪市内に戻った。しばらくは中嶋の家には戻れそうもなかった。


俺は大変申し訳ないが、口内から細菌兵器を発する中嶋とこれ以上一緒にいられなかったので翌日、予定よりも早かったが中嶋の家に置いてある荷物をまとめて逃げるように東京に帰った。

結局、ミユキちゃんに移された激臭は1週間取れなかったという。


今では笑い話になっているが、友情どころか生命(いのち)まで脅かされる出来事だった。

俺はもう二度とナンパはしないと誓った。

お読みいただきありがとうございました。

よろしければ評価と感想をいただければ励みになります!

次回から第4章に入ります。

居酒屋でバイトを始めた山田に恋の予感が……?

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