第3章「29歳彼女いない歴=年齢の真性童貞がナンパをしてみた」①
毎日更新します。
非モテ童貞の生々しい内面と足掻きをコメディタッチで描いていきます。
今、俺は大阪にいる。
大学時代から大阪に住んでいる高校時代の友達に会いに来たのだ。
せっかく関西に来たのでその友達──中嶋──に俺はある提案をした。
「ナンパ?」
「あぁ、お前得意そうじゃんか」
「いや、やったことねぇけど。まぁでも、経験としてやるのはアリだな。俺の友達にナンパ師がいるんだけど、そいつが言うには東京よりも関西の方がナンパの反応がいいらしいしな」
「マジか! そりゃあもうやるしかねぇ!」
というわけで、トントン拍子で俺達はナンパスポットでもあるという大阪・ミナミのグリ下に行ってみた。
すると早速、若者で賑わうグリ下で一人、何をするでもなくボーっと座っている女の子を発見した。
俺はその子の姿を一目見て衝撃を受けた。
めちゃくちゃカワイイ!
こんなカワイイ子がホントに実在するのか?
というくらいの別嬪さんだった。
こんなカワイイ子が一人でいたら他の男が放っておくはずがない。
他の男に取られてしまう前に声を掛けなければ!
俺達は酒でテンションが上がっていたので早速声をかけようということになった。
話しかける口実のために、ボトルワインをコンビニで買っておいたし、紙コップもある。
「こんばんは、よかったら一緒に飲みませんか?」
俺はチキンなので最初に話しかける切り込み隊長は中嶋に押し付けた。
中嶋がワイン片手に軽快なノリで声をかけた。
女の子は特に警戒する様子はないが、こちらに関心があるという風でもなく、
「えっ、わたし?」
と自分を指さして言った。
小顔のロリ系で目はパッチリ。
シルクのような黒髪をサラサラとなびかせている。
そして、何よりも目を惹くのは圧倒的なバストサイズ。
推定Hはありそうな豊満な果実に、俺達はタジタジだった。
二次元美少女を三次元に変換したらきっとこんな風になるんだろうなというような清楚系黒髪美少女だった。
切り込み隊長が道を拓いてくれたので、俺は酒で脳を狂わせて緊張を解いた頭でこのガチ美少女と会話を試みる。
できるだけさわやかに、にこやかに。
「誰か待ってるの?」
「いや、別に」
「じゃあここで何してたの?」
「うーん、ボーっとしてただけ、かな」
女の子はクスリと笑いながら答えた。
俺はその小さな微笑みを見逃さず、これを切り口に楽しいムードを作ろうと思った。
中嶋の合いの手のような笑い声も相俟って、やりやすかった。
「黄昏るってやつね」
「そうそう、黄昏てた!」
乗ってくれた。
このままこちらのペースにどんどん引き込んでいく。
「ここでよく黄昏てるの?」
「うん」
「大学生?」
「うん」
「へぇー、僕も大阪住みで同志社出身なんですけど、どこ大ですか?」
と中嶋が訊いた。
「〇大です」
「あっ、〇大なんだ! 何を勉強してるんですか?」
「えぇっと、外国語、かな」
「何語?」
と俺。
「英語」
「すごいねぇ、じゃあ英語喋れるんだ」
「いやいや、そんなに喋れないよ」
とまぁ、こんな感じで女の子と他愛ない会話を続けた。
「そういえば、名前を聴いてなかったな」
俺達はまだこの子の名前を知らなかったので、俺が聞いた。
すると女の子は少し考えてから、
「じゃあ、ミユキで」
と名乗った。
「じゃあ?」
「さっきまで中島みゆき聴いてたから。仮名」
ミユキちゃんは微笑んだ。
なるほど、こういう場では本名を言わないこともあるのか。
こちら側は別に隠す必要もないので本名を名乗った。
……というか、その年で中島みゆき聴いてるのかよ。
俺ですら世代じゃないぞ。
超有名な曲以外じゃ、銀の龍の背に乗って~くらいしか知らん。
「あなたは大阪の人ですか?」
とミユキちゃんが俺の方を見て言った。
名前を名乗ったのに「あなた」呼びなのが少し残念だったが、俺は笑顔を崩さず答えた。
「俺は東京。今、旅行でこいつの家に泊ってるんだ」
傍らの中嶋を親指で指しながら言った。
「そうなんだ」
「ところで、ミユキちゃんは出身どこ?」
「山梨」
大阪にいて山梨という単語を聞くとは思わなかったのでやや戸惑った。
確かにこの子、関西の訛りは一切ないから関西出身ではないことは分かるのだが、だからといって山梨はないだろう。
いや、別に山梨でも全然構わないのだが、思わぬ方向からだったので一瞬の間ができてしまった。
だが俺は頭の回転が速いので即座に自分の中の山梨知識を動員した。
「山梨ね! うちのバーチャンの墓が甲府にあるよ! この前墓参りの帰りにほうとう食ったんだけど美味かったよ。ちなみに山梨のどの辺なの?」
「北杜」
「あっ、北杜! ……北杜と言えば、俺の大学の時のゼミの先生が北杜出身だわ~!」
山梨なんかバーチャンの墓のある甲府の一部しか知らないのに山梨ネタを掘り下げてしまったせいでクソつまらない返ししかできなかったことを俺は恥じた。
赤の他人の大学時代のゼミの教授の出身地の話など誰が聞きたいのだろう。
大体何で俺は大学時代のゼミの教授の出身地なんか知ってるんだ。
雑学王か。
「てかさ、ミユキちゃんは趣味とかあるの?」
山梨ネタをこれ以上引っ張っても会話が弾まないと判断したであろう中嶋が話題を転換した。
そうだ、趣味の話なら広げやすいかもしれない。
ナイス、アシスト。
「アニメ観たりとかかな」
「最近ハマってるアニメあるの?」
「う~ん、推し〇子とか」
「推〇の子いいよね~。俺2週くらいしたよ~」
俺が観ていないアニメだったので中嶋が知っていてよかった。
ところで、アニメで思ったが、ミユキちゃん、なんかやけに声がいいな。
俺はおだてることも兼ねてそのことをミユキちゃんに言ってみた。
すると思わぬ返答があった。
「実は私、声優やってるんだよね」
「声優? マジで?」
「えぇっ、すげぇ!」
と中嶋。
「うん、チョイ役だけどね」
「いやいや、チョイ役でもすごいよ。俺、声優の知り合いなんていないからビックリだわ」
と俺。
「ちなみに、どのアニメに出てるの?」
中嶋がこの流れでは当然のごとき質問をした。
「それはヒミツ」
まぁそうだろうなと思いつつも、ヒントくらいは欲しかったので聞いてみた。
「バトルもの、かな」
「今やってるアニメ?」
「そう」
どうやらミユキちゃんは今放送しているバトル物アニメのチョイ役の声を担当しているらしい。
実際のところそれが本当である証拠などないのだが、しかし、嘘をつくにしてもわざわざ声優などというチョイスをするだろうか。
確かに声は良いわけだし、本当にチョイ役くらいならやっているのかもしれない。
まぁ俺としてはミユキちゃんが声優をやっていようとなかろうと実のところ割とどうでもいい。
ここで重要なのは、この子をナンパできるかできないか、それだけだ。
今までの他愛無い会話もその手段に過ぎない。
そろそろ、核心をついていかなければならない。
「なるほどねぇ……。ところで、メシ食った? どっかメシでも食いに行こうよ」
会話がマンネリになりそうなところでの俺の核心をついた一言は、状況を一気に前へ押し進めた。
なんとミユキちゃんがOKしてくれたのである。
中嶋も俺を尊敬の眼差しで見つめていた。
こういう時はいかに素早く決断できるかが重要だ。
続いて俺はスマホで近辺の飯屋を検索した。
「じゃあ、この居酒屋に行こうか」
俺は大衆居酒屋と高級居酒屋の中間くらいのそこそこオシャレな雰囲気の居酒屋に行くことを提案した。
「いいよ、行こう」
まずは第一段階クリア。
俺達は期待に胸を膨らませて居酒屋に向った。
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