第2章「29歳彼女いない歴=年齢の真性童貞がマッチングアプリをしてみた」①
毎日更新します。
非モテ童貞の生々しい内面と足掻きをコメディタッチで描いていきます。
彼女を作ってセックスする。
そのためには何をなすべきか?
俺はやることのリストを作った。
・マッチングアプリを始める
・ナンパをする
・バイト先の女の子にアタックする
とりあえず一番手っ取り早くできるマッチングアプリを始めてみる。
ゲッ、月額4000円!?
たけーなぁ。
女はタダなのにおかしくないか?
……まぁそんなことを言っても仕方がないのでとりあえず課金してみた。
で、俺は3カ月間毎日コツコツとスマホの画面をスワイプし続けた。
無限に画面に現れるどこの馬の骨とも分からない女達に「いいね!」を送り続けた。
マッチング率を上げるために大して好みでもない女にもとりあえず「いいね!」を送ることがコツのようだ。
一体俺はなんのために毎日スワイプしているのだろうという自らの内に湧き上がるクリティカルな疑問を無の心で受け流しながら、ひたすら「いいね!」を送り続けた。
結果、3カ月でマッチしたのは20人。
その多くが別に好みでもない女だった。
とはいえ、中には俺の御眼鏡に適う子もいた。
19歳の女子大生、「かえで」。
ロングの茶髪をカールさせた目のパッチリしたカワイイ子だった。
えっ、俺、こんなカワイイ子とマッチしたの? としばらく信じられなかったくらいだ。
しかも最初、マッチしたとき「19歳!?」と驚いてしまった。
俺とは10歳差だ。
俺は年下でも全く問題ないのだが(むしろ大歓迎)、向こうは10歳も年上のフリーター男と付き合ってもいいのだろうか?
そんなことを思いながら早速メッセージを送った。
俺はマッチング後1通目で送るべきメッセージをネットで調べ、それを参考にしつつ「かえで」にメッセージを送った。
「マッチングありがとうございます☺だーやまと言います! かえでさんは好きな映画などありますか?」
まずはマッチングしたことの感謝を相手に伝える。
あなたのような素敵な女性と巡り合うことができて嬉しいですと、言外に伝える。
次に改めて自分の名前(アプリ内のニックネームでよい)を名乗ることで真面目で丁寧な人間であることをアピールする。
今時の女の子はいわゆるオラオラ系ではなく、真面目で誠実な男が好きだ。
オラついていると恐怖を与えてしまったり、常識がないと思われてマイナス評価となる。
だから仲良くなる前からガッツくのではなく、敬語で礼儀正しく振る舞う。
ちなみに店員にタメ口を使う男は高確率で嫌われるので要注意である。
そして最後にアプリのプロフィールに書かれている趣味や自分との共通点などから相手に質問をする。「かえで」の場合は趣味に映画観賞とあり、それ以外には特に広げられそうな話題がなかったので、どんな映画が好きなのかを尋ねた。
「ファイトクラブが好きです!☺」
……うーん、なるほど?
ファイトクラブ……。
ちょっとアクが強すぎないか?
19歳のイマドキ女子(写真では友達とミッキーのカチューシャをつけている)がファイトクラブ?
あの、お嬢さん、ほんとにファイトクラブ観たことあるのかい?
チアガールの部活物じゃないんだよ?
もちろんそんな疑問はおくびにも出さず、俺はできるだけポジティブに、楽しい返事を書いた。
「ファイトクラブがお好きなんですね! 面白いですよね! 僕も好きな映画です!」
明らかにファイトクラブに関する会話がこんなポップに行われるはずがない。
ちなみに、会話を続けるコツは、メッセージの最後を必ず疑問形にすることだ。
疑問形にしないと女の子はなんと返信すればいいのか分からず、そのまま会話が終わってしまうのである。
だから俺はファイトクラブへの反応に加えて新たな質問を添えた。
「ところでかえでさんは、休日は何をして過ごしているんですか?」
マッチングアプリは、3通目~5通目で会う約束や電話を取り付けるのが定石と言われている。
あまり早くてもいけないし、逆に遅すぎてもいけない。
絶妙なタイミングなのが3通目~5通目あたりなのである。
今、「かえで」とのやり取りは2通目。
定石に従えば次でアポイントメントを取る段階に入る。
とはいえ今の話の流れで会う約束を取り付けようとするのは急なので、まずは休日の過ごし方を尋ねることで自然な形でアポ取りに持っていこうというわけである。
「家でyoutubeを見たり、友達とディズニーランドに行ったりしています!」
極めて無難な回答である。
無難すぎてどう返事すればいいのかわからないくらいに。
こんな普通な会話ができるのに、さっきのファイトクラブは何だったのだろうか。
「そうなんですね! 好きなyoutuberとかいるんですか?」
ディズニーランドは片手で数えるくらいしか行ったことがないしあまり興味がないのでこれ以上触れるのはやめて、残ったyoutubeの話を仕方がないので広げることにする。
すると、「かえで」から好きなyoutuberの名前のあとに(〇海オ〇エアだった)、奇妙な質問が来た。
「だーやまさんはこのアプリを恋人作りのために使っているんですか?」
……どういうことだろうか?
「恋人作りのために使っているんですか?」だと?
当たり前だ。
それ以外何があるというのだろう。
「はい、そうです! かえでさんも恋人作りですか?」
俺は「かえで」の意味深な質問に内心では動揺するも、弱みを見せないために焦りを悟られぬよう冷静に返事をし、さらには同じ質問を相手にそのまま返してみた。
「私も恋人作りで始めたんですけど、なんかこのアプリ、変な人が多いですね」
えっ、どういう意味だ?
変な人が多い?
それは他にやり取りしている男達のことを言っているのだろうか。
だとしても、何故そんなことを俺に言ってくる?
まさか俺もその「変な人」の中に入っているのだろうか。
いやしかし、今までのやり取りを見返してみても変な人要素など一切ない。
実際の俺は変な人かもしれないが、少なくとも「かえで」とのメッセージでは極めて常識的且つ紳士的に振る舞っていたはずだ。
ますます意味深な「かえで」のメッセージに俺は困惑を隠せなかったが、せっかくこんなカワイイ子とマッチできたのだからこのチャンスを無駄にするわけにはいかない。
とにかく「かえで」と会う約束、せめて電話の約束くらいは取り付けないと!
とはいえ、「変な人」の話に話題をすり替えられてしまったため、ここからすぐにアポの話に持っていくのは無理がある。
仕方がないので自然な流れを作るためにここは一旦「変な人」トークに付き合いつつ、こちら側の土俵に再誘導を試みる。
「変な人ですか? まぁ確かに女性はマッチする数が多いのでその分変な人が増えますよね」
と俺は共感を示しつつ、
「ところでかえでさんは好きな食べ物はありますか?」
と少々強引だが話題を変更した。
すると、「かえで」からあまりに急すぎる一言が届いてしまう。
「すみません、お相手が見つかったのでアプリもうやめます!」
終わった。
……まぁそれもそうだろう。
こんなカワイイ子、考えてみれば数多もの男達が狙っているに決まっている。
アプリ内だけでもライバルは数百人はくだらないだろう。
これが自由恋愛の暴力か……。
さて、これで「かえで」は終わったわけだが、一応、礼儀としてなんか返しておこうと思った。
どうせもう脈は無いのだから、肩肘張らなくていいのだ。
思いついた言葉をありのままに送ればいい。
「そうですか、残念です!」
脈が無くなったことで緊張が解け、自然体でメッセージを送れるようになって俺は気が楽になった。
そして、脈無しと分かっている女の子にも一言添える俺はなんて心の広い人間なんだろうか!
そんな風に自画自賛していると、「かえで」からまさかのメッセージが届いた。
なんだ、もうやめるつもりなのにまた何か送ってきたのか。
俺は何気なくアプリを開いた。
「あ、もしかしてまだ何か話したかったですか?(^^)」
目を疑った。
こ……これは、いわゆる「煽り」というやつなのか?
俺はマッチングアプリの女に煽られたのか?
なんというか、怒りよりも驚きの方が大きかった。
よくもまぁ、ここまでデカい態度が取れたものだ。
しかも自分の顔写真付きで。
若くてキレイな女は男から山ほどアプローチされるから女王様気分なのだろう。
自分は「選ぶ側」の人間なんだという絶対的な自信をこの女からは感じる。
これが圧倒的な権力勾配があるという恋愛市場の剥き出しの現実なのか。
言葉を失った俺はそっと「かえで」とのマッチを解除した。
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