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魔法使い(チェリーマン)のカウントダウン  作者: エドガー・サンポー


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10/10

終章「魔法使い(チェリーマン)のカウントダウン」

最終回です。

アプリで挫折し、


ナンパで恐怖し、


バイトで絶望した。


俺にはもう、彼女を作ることはできないのだろうか。


彼女ができることのないまま一生を終えるのだろうか。


10代から20代半ばの頃、散々ネタにしていた「一生童貞(笑)」がいよいよ洒落にならなくなってきた。


もう童貞ネタで笑うことなんてできない。


バイトも辞めた今、29歳彼女いない歴=年齢の真性童貞に「無職」が加わった。


もう俺は近所を歩くことすら躊躇われる状態だ。


次のバイト先を探すにしても、自宅近辺は無理だ。


それどころか、市外に出ないと安心はできなくなってしまった。


コミュニティ内恋愛でしくじると街すら追われることになるのである。


八方塞がりだった。


もう残された選択肢はない。


というか、もはや恋愛どころの話ではなくなった。


”無職”


この言葉の響きはあまりにも重くのしかかる。


実家住みだから今日明日の生活が危ういということはないものの、無職になった今、改めて自分の置かれた状況に焦りを感じた。


湿った畳の部屋の隅で膝を抱えて思う。


このまま俺はフリーターを続けていていいのだろうか。


一生、不安定で低収入なバイト暮らし。


もちろん傍らには支え合う人もいない。


そして、いつか一人でひっそりとその名前のない命を終える。


俺の人生とは、一体何だったのだろうか……。




”鬱”


”絶望”


そんな使い古された言葉じゃ足りない深くてほろ苦い闇が俺の鼻をするりと抜けた。


ほろ苦い……? 


あぁ、この期に及んで俺はまだ”光”をどこか覚えているのだろう。


このセンチメンタルでナルシスティックな閉塞感に微笑む俺がいた。


時計を見ると、ちょうど0時を回っていた。


「……くっくっく、30歳、店じまいするにはまだ早い!」 


「やってやる、30歳からの青春ってやつを!」 


俺の手元にはギターがあった。


そう、ジモティで1000円で譲り受けたこの小汚いフォークギターで、俺はミュージシャンになる! 


ミュージシャンになって、女にモテる! 


ギターなんてやったことないから一から練習しているが、いつかこのギターの奏でる魔法で世界を酔わせてやる。


湿った四畳半の片隅から、ロックとロマンスの産声が上がった。


この日、俺は30歳彼女いない歴=年齢の真性童貞、魔法使い(チェリーマン)となった。


モラトリアムは、終わらねぇ。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

本作はこれにて完結です。

魔法使い(チェリーマン)となってもモラトリアム全開な山田を見守っていきましょう。

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