信仰心
彼女の願いによって、醜い獣だった僕は変わった。
彼女が心をくれたから、僕は祟り神から変じた。
神と言えるほど力は強くはないだろう。
けれども弱くもない。
だって彼女が心をくれたから。
「…あれ?身体が急に楽になった」
彼女が不恰好でも、祠を直してくれたから。
彼女が毎日お供え物をくれたから。
彼女が僕に心をくれたから。
僕は、力を得た。
少なくとも、彼女の寿命が尽きるまで見守り続けることが許されるほどには。
「あれ?あれ?身体がふっくらしてきた?痣が消えた?なんで?なんで?」
戸惑う彼女にどう声をかけるか迷う。
その時、彼女が直してくれた祠が壊れた。
かといって僕が消えるでもなく、ただ僕が解き放たれただけだけど。
「え、え、え!」
僕は、獣ではなくヒトの形で解き放たれた。
「…つまり、お兄さんが私を助けてくれた神さま?」
「そうだよ」
「すごーい!」
ぱっと花が咲くような笑顔。
頬もふっくらしたから、可愛らしい。
「でも、お兄さんは…これからどうするの?」
「もし君が許してくれるなら、君をこれから先ずっと守りたいな」
「ずっと?」
「ずっと」
彼女は可愛らしい顔でこっくり頷く。
「いいよ!」
「ありがとう」
僕たちが人間社会に紛れ込むには、戸籍や住民票などを弄って周りに暗示もかけないといけない。
けれど彼女の真っ直ぐな信仰心とも言える気持ちのおかげで、今の僕にはそのくらいは朝飯前だった。
「僕はこれから、君の歳の離れた従兄になるよ」
「そんなことできるの?」
「もちろん」
ぱちんと指を鳴らす。
これでおまじないは完璧。
人間社会に紛れ込むには充分。
「ああ、それと…山を降りる前に一言だけ」
「?」
「僕を信仰してくれてありがとう」
「信仰?」
「信じてくれて、ありがとう」
僕の言葉に彼女はまたぱっと笑う。
「うん!神さま大好き!」
「ふふ、人間社会に紛れ込むんだからこれからは…そうだな、兄様とでも呼んで」
「兄様?」
無邪気な顔で復唱する『従妹』に目眩がするほど愛おしさを感じる。
これからは僕が、しっかり守ってあげなくちゃ。
僕はこの子の『従兄』だからね。
ちなみに一応言っておくと僕は『僕の村』は愛しているが『村の跡地に建てられた新しい村』に興味はない。
今の村は…この子を迫害する村は、僕の愛する村ではない。
「さて、君が幸せになるための第一歩として…色々、きちんと断捨離しようね」
「幸せに?断捨離?」
「君は僕の幸せを願っただろう?僕の幸せは君自身。だから君が幸せになったら僕は幸せなんだよ。そのために断捨離頑張ろうね」
「断捨離…」
「君にとって要らないものは捨てちゃおう!」
にこっと笑って言えば、彼女はわからないなりににこっと笑った。
さてさて、どこから手をつけようか。