第1話 チャラ男がトラックTSだと?!
俺の目の前に髪の毛を金に染めた派手な化粧の女の子がいる。いわゆるギャルと呼ばれるその子はオタクの俺とは本来相容れない世界の住人だ。
「ねーねーオタクくぅーん。これどう?めっちゃえもかわくない?ぱない?」
短いスカートの制服姿の彼女は俺の部屋のベットの上に寝転がりながら俺の方にへんてこりんにデコった爪を見せつけてくる。その笑顔はとても可愛らしいし、とても美しいものだった。
「…」
俺は返事をせずにそのギャルをただただ睨み続ける。
「あのさぁ。オタクくぅん。こんな美少女が話しかけてあげてるんだよ?無視?そういうところだぞ?彼女をNTRちゃうのって!」
「そうだな。俺はあのくそゴミカスのろくでなしなチャラ男に女をNTRた陰キャですよ。はいはい」
「はぁ!?ちょっと!オレのこと悪く言うのやめてくれない!!?めっちゃ傷つくし!てか女の子相手に悪口とかなくない?まじぴえん」
会話が意味不明に聞こえるならきっと正常だ。だけどそうなのだ。このギャルはかつて俺のカノジョをNTRったチャラ男なのだ。色々あって俺のカノジョをNTRったチャラ男は女の子にTSしてしまったのだった。意味わかんなぃ…。俺は眉間によるしわを揉みながら過去を振り返った。
俺がネットで推しのVの者に投げ銭していた時のことだ。一通のメールが届いた。タイトルには「うぇーいwww」と書かれ、宛名には俺のカノジョである美土楓綺音の名があった。そして本文にはたった一行だけ、ビデオ通話のURLが貼ってあった。
「なに?話したいなら窓越しでもいいのに」
俺とカノジョはいわゆる幼馴染であり、隣同士の家に住んでいる。俺とカノジョの部屋の窓は互いに面している。窓越しに彼女の部屋を見る。カーテンがかかっていてくらい。だけどカノジョらしき人影がちらちらと見える。
「まあ踏んでみるか」
そして俺はURLを押下してビデオ通話アプリを開く。するとウィンドウに彼女の部屋が映った。ベットの上にはベビドールのエチチな下着姿の彼女が座っている。赤みがかった茶色い長い髪に楚々として美しい顔。
「え…?!」
余りにも扇情的な姿に俺は声が出せなかった。普段は清楚な出で立ちなのにその服の下には我儘なボディを隠している。俺は唾を飲み込む。これはあれだろうか?恋人同士がエッチな画像を送る的なやつだろうか?カノジョがそんなに積極的だったなんて嬉しい。そう思った瞬間だった。
『うぇーいwwwオタクくん見てるぅwww』
やたらと男性ホルモンに満ち溢れた雄臭い、だけどやたらと美声なイケボがパソコンから聞こえてきた。そしてその声と共にボクサーパンツ一丁の男が楓綺音の隣に座って彼女の肩を抱く。その姿に俺は激しい胸の動悸を覚えた。
『これからぁ!君のカノジョをいちゃらぶエッチでオレの女にしまーすwwwオタクくんはそこでシコシコしててもいいよwww』
『謫弥が悪いんだよ。私はいっぱい頑張ったのに。あなたのことが大好きなのに寂しくさせるんだもの…。だからいっぱい後悔して…私が汚れるところ見てて…』
これってあれだよね?このあとチャラ男と俺のカノジョが料理作ったり、お菓子作ったり、縫物したりするようなほのぼのねっとみーむじゃねーの?!まじでNTR?!うそやろ!?そして二人の唇が徐々に近づいていく。
「や、やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
俺は精一杯の声で叫ぶ。だけどカノジョたちには届かない…。そしてチャラ男に俺は彼女をNTR…そうになった瞬間、突然彼女の部屋の壁をぶち破って突入してきたトラックがチャラ男を跳ね飛ばした。
「え?えええええええええええええええええええええ?!」
そしてがしゃーんとすさまじい音が響き、チャラ男が俺の部屋の窓をぶち破って飛ばされてきた。チャラ男は全身ぐちゃぐちゃで血みどろ。素人目にもどう見ても助からない。
「羅文汰くん?!」
外を見るとトラックのフロントガラスがカノジョの部屋を突き破っているのが見えた。そしてカノジョが窓越しにこっちを見て驚いた顔をしていた。そしてチャラ男のことを無表情でじーっと見ていた。そして今度は俺の顔をじーっとなんとも名伏し難い顔で見た後に、突然顔を両手で覆って泣き出す。
「違うの!そこの薄汚いチャラ男が私のことを脅して無理やりやろうとしてきたの!信じて!私は謫弥が好き!大好き!一番好き!愛してる!」
なんか涙声で言い訳を始めるカノジョだった。
「今そんなこと言ってる場合?!ああもう!いったいなんなんだよまじで!!」
俺はすぐに救急車を呼ぶ。そしてぐちゃぐちゃのチャラ男は病院に運ばれていったのだった。
となりを歩く俺のカノジョである楓綺音はずっとぶつくさと言い訳を垂れ流していた。
「だから違うのあれは私そんなつもりじゃなくてあの男が強引に迫ってきて脅してきて逆らえなくてでも心の中は謫弥のことでいっぱいであいつにできることなんてせいぜい体を汚すことだけだったはずだから私を信じて欲しいあれはうわきとかそんなんじゃなくてあいつがぜんぶわるいの」
「いや。お前滅茶苦茶俺のせいにしてたやんけ」
あの日以来俺は女の違うを信じられなくなった。
「言わされてたのあいつのひきょうなさくせんだったのでも謫弥は私を信じてくれるから二人の仲を引き裂けるわけないから無駄よね」
「俺は今お前を全身全霊で疑ってるよ」
俺たちの仲はあの謎のオンライン通話以来ぎくしゃくしている。だけど今日、俺は意を決してチャラ男を含めて話し合いの場を設けることにした。なんとチャラ男、本名茶野羅文汰はあの重体からしぶとく生き延びていた。なんでも世界的名医がたまたま居合わせてその上最新の治験中の実験薬が上手く効いたらしい。まあだからなんだという話であるが。
「失礼します。俺が面会希望の小嶋謫弥です。今日はよろしくお願いいたします」
チャラ男の入院している部屋に二人で入った。するとそこには病人着を着た金髪のとても美しい女の子がいた。なぜかズボンごしに股間を抑えてさめざめと涙を流している。
「あれ?すみません間違えました」
俺と楓綺音は部屋を出る。そして標識を確認する。ちゃんとネームホルダには茶野って書いてあった。
「ありえないんだけど!私以外の女連れ込んでる!羅文汰くん最低!おにおこ!ぴえん!勢!!」
楓綺音は般若のような表情でドアを蹴り飛ばしてぶっ壊し、再び部屋の中へと入って行く。そして中にいた金髪の女の子の胸倉に掴みかかった。
「あんた羅文汰くんの何?!こたえによっちゃ全殺しだから!」
カノジョのキレっぷりに俺は逆に冷静になってくる。
「わざわざ全つける意味ある…?」
「ほらぁ!羅文汰くんだせこらぁ!!」
「ちょ!やめろ!ファノン!オレだよ!オレがラプタだ!」
「はぁ?!なに?!大胸筋をぴくぴくさせてどやるのが好きなラプタ君におっぱいなんてついてるわけないでしょ!むしるぞこらぁ!!」
そう言ってカノジョは金髪の女の子のおっぱいを服の上から掴み捻る。
「いってぇえええええええええええええええええ!!やめろばかぁ!!!!!!!!!」
「とりあえずやめろ」
俺は楓綺音を金髪の女から力づくで離す。てかどういうこと?この金髪の女の子も何を言ってるんだ?
「なあここは茶野羅文汰の部屋のはずだろ。あんたは誰だ?部屋の主はどこ行った?」
「だからぁ!オレが茶野羅文汰!オレオレ!」
「目の前でオレオレ詐欺すんなよくそビッチ」
カノジョが俺の腕の中で暴れながらイキってくる。清楚なイメージがどんどん遠のいていく…。
「だからぁ!まじなんだって!医療ミスでオレは女になっちゃったんだよ!」
「そんなミスあってたまるか!!」
俺は思わず突っ込んだ。
「いえ。大変遺憾ですが。事実です」
知らない人の声が聞こえたので声の方に顔を向ける。そこには白衣を着た医師がいた。
「そちらの茶野羅文汰さんは治療中に使われた厚生労働省未認可の新薬の副作用で男性から女性に生物学的に性転換してしまいました」
「え?なに?どっきり?すべりすぎじゃね?」
俺はそう言ったが、医師の顔は真剣だった。その空気は雄弁にチャラ男がTSしたことが事実だと語っていたのだった…。
プロットに困ったらとりあえずトラック!