転生トラック
僕の仕事はブラックにホワイトだ。
今日も僕は相棒に乗り、ハンドルを操作してアクセルを踏みしめる。交通法をきちんと守ってお仕事をするのが鉄則である。
僕の仕事は広義的には人助けと言えるものであり、上司もガンガン頑張ってくれと言っていた。
「良いですか、新人さん。困っている人や疲れている人、今にも倒れそうな人を見かけたら決して無視してはいけませんよ。大変そうな人を助けてこその私達ですからね」
「はい!」
「新人さんには大変なお仕事をお任せしてしまいますが、それも全てはその後の憂いを無くす為。諸々の手続きなんかはこちらで済ませますし、新人さんのお仕事が達成されればあとはこちらでやりますからね。無理をしてはいけませんよ」
正に女神な上司はとても美しくてとても優しい。
労働条件なんかもかなり気にしてくれており、少しでも僕が疲れているとわかったらちゃんと休暇をくれるのだ。
僕の職場は上司以外にも、先輩達にも恵まれている。
「いよぉ、新人か」
「お疲れ様です、先輩」
「いやいや、お前こそ新人なのに大量の仕事で大変だろ。ったく、最近は生きる事を諦めたようなヤツが多くっていけねえよな。今までの人員じゃ間に合わないくらいに忙しいったらねえぜ」
「ブラック企業なんかも多いですからねえ」
「その点うちは真っ黒にホワイトだからな!」
「うーん矛盾が酷い」
「事実だろ」
喫煙所帰りの先輩とわはわは談笑出来る余裕もあるこの仕事は最高だ。色々なバイトをしてきたけれど、この職場はとても僕に馴染んでいた。
そう、僕は元々定職につく前に色々学ぼうと思い、色んなバイトを掛け持ちしまくっていたのだ。
けれどどれもしっくりこないし、まあまあ認められても嬉しくない。お金を得る手段としては良いけど、という感じで『だけど』がついてしまう。
そんな中、この仕事と出会った。
バイトの中には酷いブラックな職場もあった。僕はバイトだからすぐに逃げられたけど、正社員の人達は特殊メイク無しでゾンビ映画にエキストラゾンビとして出れそうな顔色だった。
そんな人達を知っているからこそ、僕は今の仕事を誇りに思い、全力で頑張ろうと思うのだ。
「あ、居た居た。ターゲット候補」
わが社のカーナビはちょっと特殊で、映画のナンカスゴイ車に積載されてるような検索能力がある。
仕事の対象になりそうな人をピックアップし、その中から近くに居る人の場所を特定。車から認識可能な距離になったら簡単な個人情報まで教えてくれる。
「うーん、大分お疲れみたいだな」
ターゲットであるそのサラリーマンは三十代くらいだろうか。髪はボサボサで、顔はやつれ、目の下には隈が出来ており、何なら死人のように目が落ち窪んでいるように見える。
シャワーすら浴びれていないだろう髪の様子、皺が寄っているスーツ、丸まった背中にふらふらと揺れている重心。うむ、間違いなくターゲット。候補どころか確定と言って良いだろう。
僕の会社はとってもホワイトなので、ターゲットはあくまでターゲット『候補』扱いである。
もし生きる希望があるようならそれを奪うのも、という優しい職場。けれどどれだけトテモスゴイ車やチョウヤバイデータがあっても、人間が実際に見て感じる印象は重要だ。
データでどれだけ不幸そうでも、本人が満足してそうかどうか、というのは人間が判断しなければならない。何故なら、チョウヤバイデータではそこを判断出来ないから。
僕の会社はそういう、人の機微を察するのに長けていて、運転免許証を持っていて、人の幸せの為だから少しの犠牲は仕方ないよねと割り切れるメンタルを持っている者が選ばれる。
そして選ばれた僕は、あのサラリーマンをターゲットだと判断した。なのでメッチャスゴイ車にあるカーナビ的なヤツにターゲット確定と一回タップ。ハンコを押すように申請されたソレは承認され、サラリーマンの様子がより一層ふらつき始める。
「お、来た来た」
僕の前にある信号が青になった。サラリーマンが行こうとしてる信号は赤。けれど元々青信号でも動けない程に頭が停止してしまっているらしいサラリーマンは、ふらふらと足を動かし始める。
時間帯が時間帯なので誰も止める人が居ない中、僕は思いっきりアクセルを踏む。それだけで一気にスピードが出る。サラリーマンはふらふらと道路に出る。僕が合図のように鳴らしたクラクションに一瞬ハッとしてこちらを見るが、もう遅い。
直後、近隣住宅の睡眠を妨害しそうな強いブレーキ音が響き渡った。
「よーし、今日のノルマ達成! 今日は十二人だからちょっと多かったけど、それだけ生きるのを諦めた人達が救われるんだしね!」
轢き逃げみたいな形になるが、僕は死体になったサラリーマンをそのまま置いて会社へと戻る。死んだ彼のその後については女神さまな上司が全部やってくれるので問題無い。
「仕事多い日はこれで直帰出来ると楽だけど、流石にトラックじゃな~」
わが社のお仕事道具であるモノッソスゴイトラックは自動洗浄機能がついているとかで、返り血なんかは放っておけば勝手に消える。なので直帰しても問題は無いのだが、僕の家は普通の家なので車庫にトラックが入らないのだ。
「いやあ、やっぱり仕事終わりは清々しいな。でもお腹空いちゃった。会社帰る前にまだやってる深夜ラーメンのお店とか寄っちゃおうか悩む~!」
ちなみにわが社の仕事とは、生きるのに疲れて今日明日死んでも不思議じゃない人間をトラックで轢き殺し、お望みの異世界へとアメニティグッズ持たせて送り出すアレである。




