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2 「言語理解」スキルはついてこなかった・・・

舞台設定の説明回となっております。

 体の自由は利かないままだが、言葉に耳が慣れてきたおかげで、周りの大人たちの会話が少し分かるようになってきた。赤ん坊の柔軟な耳と脳と、前世記憶である程度保障された知能レベルがあってこそのチートだろう。前世で俺、別に語学得意じゃなかったしな。


 で、分かったところによると、だ。


 俺はどうやら、王子様らしい。名前はエルメリ・ヘイキネン。ヘイキネンは王家の家名のようだから、セカンドネームはなさそうだ。

 黒髪美人の母親はイロナという名前のようで―――よく言えば一児を生んだとは思えないほど線の細い―――悪く言えばどう見ても虚弱体質そうな、華奢な女性だ。産後の肥立ちはあまり良くなさそうだが、今のところ俺を乳母に任せる気はないらしい。

 むしろ・・・乳母に任せるとマズいと思っている節がある。せっかくの王子様転生だが、俺の存在は、王家としてあまり歓迎されてはいないようだ。

 母・イロナの家名はヴァリス。「黒の魔女」の系譜と言われているらしい。つまり、王侯貴族では―――ない。「黒の魔女」というのがどういう存在なのかはまあ、今のところ不明だけどな。ただ、響きからして魔法には強そうだ。


 そう、ここはどうやら、剣と魔法の世界らしい。


 俺はガッツポーズした。

 いや、見た目にぎにぎ程度だっただろうが、それはまあそれとして。


 ゲーム世界じゃなかったことに若干落胆していたけれど、異世界転生の王道は外していないみたいだ。


 滾ることに、この世界にはステータスが存在するらしい。


 いや、滾るだろ、そんなもん。ゲーム仕様の世界観だぞ?ゲーム世界じゃないってガックリしていたところへ来て、だぞ?ちょっと無駄にワクワクするだろ?

 知りたいなあ、俺のステータス。

 いや、まあ、赤ん坊のステータスなんて大したことないだろうけど、大したことないならないで、レベル上げする楽しみってものがあるからな。



 そうこうするうち、数カ月たってやっと顔を見せたイケメンが、どうやら俺の父親らしい。

「失敗作か。」

俺の顔を見てそう言った父親に、数秒、固まった。

 失敗作ってのは、俺のことか・・・?

 それが、我が子を見て、最初にかける言葉か?

 っていうか、母親には何も声を掛けないのかよ!?お前の嫁だろ!?

 そもそも、失敗ってのは、顔面か?ステータスか?どっちだ?どうしよう、どっちも今の俺には確認できない。

 まあ、あのイケメンの血を引いているのなら、前世ほど箸にも棒にも掛からない顔じゃないはず・・・だよな?だとしたら、ステータスの方か・・・?それはそれで、せっかくの転生ウキウキ感に水を差されてショックなんだが・・・

「必要なものがあれば、サムエルに言え。三年後まで生きていたら、披露目を行う。」


 王に子供が生まれた場合、三歳で王城での貴族へのお披露目、五歳で王都での行事に参加して国民へお披露目、男児なら七歳で王家の直轄地の中からどこかを統治することで政界デビュー、女児ならサロンを持つことで社交界デビュー、ということになるらしい。まあ、七歳児が実際に領地経営だのサロン運営だのなんて出来るわけがないから、実際に運営するのは後ろ盾になる母親の生家だろう。

 ちなみに、サムエルというのは王の右腕となっている行政官の名前らしい。


 初めて会った我が子にそれだけ言うと、俺にも母にも興味を示さず、さっさと去っていく後ろ姿。


 若き国王、ヨハンネス―――地位も身長も顔面偏差値も兼ね備えた、男の劣等感をこれでもかと搔き立てる仕様の英雄王は色好みでもあるようで、立場的に本来は手出ししてはいけなかった我が母イロナを無理矢理手籠めにした挙句、孕ませたらガン無視・・・という俺たち母子にとっては最も身近な敵だとこの時知った。


 華奢な母の肩を、抱きしめてやれない、自分の身体が恨めしい。



 決めた。


 俺が失敗作だと思っているなら、思っていればいい。いつか、見返してやる。




 それからの俺の赤ん坊生活は、大きく変わった。


 とにかく、情報収集だ!

 それにはそう、言葉だ!



 言語習得を急いだ俺は、一歳になるころには会話だけなら前世並みにこなせるようになり、子供向けの本を一人で読める程度の識字を達成していた。うっかり見られてしまったメイドさんにはぎょっとされたが、母がそのメイドの配置転換を願い出て事なきを得た。

 母は、俺の言語習得の早さを「天才児」ともてはやすより、ひた隠すことに決めているようで、俺が言葉を発した日から、俺の周りの使用人の数を減らし、子供向けの本をたくさん取り寄せるようになった。親バカの教育ママという悪い噂が独り歩きしても、笑っていてくれる。そりゃ、赤ん坊が十代の若者並みに喋ったら確かに不気味だし目立つだろう・・・俺が勉強に夢中になって気づかなかったことを、的確に処理してくれた。我が母上ながら、美人なだけではなく、賢いひとだと思う。なんだってこの母のことをこんなにも打ち捨てておけるんだろうか・・・あれから一度も姿を見ない父に改めて腹が立つ。



 子供向けの勉強本も、バカにはできない。

 俺はこの世界についてかなりの基礎知識を得ていた。


 ヘイキネン王国は、この世界で一番歴史のある国のようだ。国土の広さは第二位。剣聖、賢者、勇者がそれぞれヘイキネンから排出されるということで、一番の大国と見なされているものの、経済力ではやや劣っている。斜陽の大国・・・といったところか。

 前世記憶にある、漫画にありがちな亜人種―――エルフやドワーフ、猫耳少女など―――は存在しないようで、皆、いわゆるところのヒト的な外見をしているようだ。ちょっと残念。

 身分制度は国によって違い、ヘイキネンでは王族、貴族、平民、奴隷の四分類で、身分制度の外側に剣聖、賢者、勇者、聖女、黒の魔女が存在する。剣聖、賢者、勇者は全ての身分から選ばれる可能性があり、聖女は教会関係者から、黒の魔女は母の実家であるヴァリス家から必ず選ばれる。剣聖は当然、剣を極めし者。賢者は攻撃魔法を極めし者で、勇者は対魔物の戦闘に長け、定期的に出現する魔王を討つ使命を背負う。聖女は回復魔法を極めし者で、黒の魔女というのは・・・どうやら俺が期待していたような魔力のお化けというわけではなく、大陸最高峰の薬師を指すようだ。医療技術が発達しておらず、治癒は回復魔法が当然という世の中で、薬草を煎じて人体に影響を与える薬師の存在は驚異に映るのだろう。明らかに弱っていた母が、俺の言語習得意欲に気づいたらしい時期から王城が手配した回復魔法使いを遠ざけて薬研をゴリゴリし始めたのでギョッとしたけれど、自信があったってことだよな。しかも、あっという間に回復したし・・・流石は黒の魔女の系譜、ってところか。

無口で、あまり語らない母だけれど、行動で俺への愛の深さが分かる。明らかに俺を守ろうとしてくれているもんな―――多分、俺は目立ってはいけない王子なんだろう・・・陰険な政争とか、ありそうだしな、貴族社会って。母の愛はむず痒いけれど、嬉しくもあり・・・王城で目立たないようにしたそうな素振りだったのにこの調子で大丈夫だろうかと不安にもなる。

―――まあ、奴隷に転生する可能性もあったわけだし、王子様転生なんだから俺は恵まれているんだろう。

 平均的な貴族の子供は、7歳まではゆとりたっぷり、遊ぶことが仕事ってな具合に育てられるらしい。育てるのは両親ではなく屋敷で働く女性たち。俺の場合は王子なので、王城で乳母やメイドに傅かれる予定で・・・でも、なんとなく、イロナは―――我が母は、自分の手で俺を育ててくれそうな気がしている。7歳からは男性は騎士教育、女性は良妻賢母教育を受けるらしいが、これも王族の場合は語学と帝王学がとって変わってメインになるようだ。勿論、お貴族様なので礼儀作法は必須だ。ただ、魔法適正が優れていれば、男女の区別なく魔法教育が施されるらしい。魔獣との戦いが日常のこの世界では、魔獣相手の火力として魔法使いは貴重だからだ。

 平民の教育制度については王城で手に入る子供向けの本では描かれていない。教会が寺子屋的な存在として機能するらしいけれど、それが全てというわけでもないようだ。

公的な教育制度としては、剣士を養成する、軍務省が管理する騎士学園、魔法使いを養成する、魔法省が管理する魔法学園、王家が後援の、官僚を育成する王立学園の三つの学園が存在する。入試の年齢制限は15歳で、基本的には3年で卒業。つまり、15歳までにそれなりの教育を受け、才能を示さなければ将来が開けない。逆を言えば・・・入試に受かりさえすれば幼くても入学は可能。最も、15歳に満たずに入学した者は居ないようだ。平民でそれだけの教養を身に着けるには時間がかかるし、貴族ならそんなに焦って入学する必要がないということらしい。

 成人は18歳。結婚適齢期は女性が15~20歳で、男性が18~25歳と女性が少し早め。平均寿命は35歳と若い。衛生状態や栄養状態、医療提供体制、魔獣の脅威などが原因だろう。

 世界には魔素と呼ばれる物質が存在し、それが一定程度滞ると魔力だまりと呼ばれる危険地域を形成する。魔力だまりは魔獣を生み出し、魔獣は災害のようなものとして扱われているようだ。そして災厄と呼ばれるような強大な魔獣は魔王と呼ばれ、勇者にしか倒すことが出来ない・・・むしろ魔王を倒した者が勇者と呼ばれる。

 ふむふむ。俺はかなりこの世界に詳しくなってきたんじゃないだろうか。


 そして、魔法だ。


 この世界の攻撃魔法は、前世知識で言うところの、精霊魔法というやつに近いようだ。この世には魔素だけではなく妖精もふわふわ漂っているらしく、各種妖精から元気を分けてもらって(笑)魔法は発動する。自分が加護を受けている精霊の支配下にある妖精が協力してくれるわけだけれど、加護をはっきり知る方法は今のところ確立していない。あらゆる属性の魔法を試し、自分に合っているかどうか経験則で見極めるようだ。自分の属性を分かっていないと永久に無駄な努力をすることになる反面、賢者と呼ばれる存在ともなると加護をいくつも持っていたりして夢がある。

 回復魔法は、神の加護の大きさによって・・・神からの寵愛の大きさによって威力が変わる。この世界の神は「浄化の神」らしく、魔素を払うもののようだ。


 で、ここからが異世界転生メインイベント!

 ステータス!!


 ステータスはHP、MP、筋力、頑丈さ、魔法攻撃力、魔法回復力、素早さ、運の8つの基礎パラメータに、武器の性能+筋力で表される物理攻撃力、防具の性能+頑丈さで表される物理防御力の複合パラメータを足した10項目で表される。ゲームっぽくてシビれる。レベル1の初期値は持って生まれたもののようだが、レベルが1上がると基礎パラメータが合計5上がるらしい。ただ、残念なことにどのパラメータにポイントを振るかは選べない。運命は神のみぞ知る、ってやつだ。まあでも、レベルがあるってんなら・・・上げるでしょうよ?


 問題は、経験値ってやつがどういうシステムで貯まっていくのか、謎だってことと、ステータスを確認する方法が今のところ俺には無いってことなんだよな・・・


 ちなみに、顔は確認した。母親譲りの黒髪・色白、父親譲りの青い瞳。うん、そこまではいい、そこまでは。

 俺・・・一歳児だよな?

 一歳児って普通、どんな不細工な子供でも可愛く見える魔法の時期だよな・・・?

 だというのに、俺は・・・驚くほど可愛くない。可愛くないぞ、なんだこれ。いや、だからって失敗作呼びは失礼極まりないけれど―――うん、可愛くは、ない・・・

 兎に角、目つきが悪い。なんというかこう、不細工では決してない、ないと思う、けれど・・・三白眼の赤ん坊ってだけで残念仕様だろ。「目つきが悪い」がデフォルトのアニメキャラみたいだ。しかも、隈がある。いや俺、一歳児よ?何だったら一生で一番すくすく寝て育つ時期よ?ナニコレ!?色白だからやたら目立つし!隈が出来るような生活はしていない―――とすると・・・シミなのか?アザなのか?・・・考えたら負けなのか・・・?

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