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7話 流れ着いたもの


 最近浅瀬を渡って大陸から魔物がこちらに向かってくるようになった。

 無視できないような大型まで混じってきてるので、迎撃システムを新たに森の城壁に組み込む。

 対中型以下用として連発式機械弓、連弩。

 対大型用として自律制御型カタパルト、長距離用として自律制御型射石砲

 城壁まで接近されたら熱した油が落ちる様に設計してある。

 勿論対物センサーによる自律可動だ。


「本気で適当な所にしてくれよ?この世界の戦争はまだ、騎士道に乗っ取った白兵戦主体の戦争なんだ、そこに近・現代的な殲滅戦の概念を持ち込んだら文字通り戦争が変わる」

「いずれそうなるんだろ?早いか遅いかの違いだ」

「……大航海時代の、一部先進国の国民以外は皆野獣の変種!って考え方に現代的な殲滅戦の概念が加わったら最悪の事態になるとは思わないかい?」

「ここの情報を持って外に出る奴が居なければ問題ない、そしてこんな所に来ようとする変態なんぞいるわけがない」


 石を切り出す応用で地下をマイニングして、鉄やらなんやら大量に手に入ったのでそれで一気に兵器の進化が進んだ。最も、核や何かと言った「他国と対等の地位に立つための最低限の防備」が無いため泡沫国家のそれと大差ないが。


 戦争なんてものは、ボタン一つで決着がつかなければならないんだ。

 それも、完膚なきまでに相手を叩きのめして。

 相手の降伏文章へのサインなんぞ、指一本だけ残っていれば血判で事足りる。


***


 さて、防備をある程度整えはしたが、もっぱら平和な日々が続いた。

 幸いなことに、俺の作成したタレット群は正常に動いており、毎日大量の魔物を屠り続けている。損害なしで。

 ただ、その死骸の臭いに釣られてさらに大型が寄ってくるのは想定外だった。

 そしてその日、どんな大型の魔物よりも厄介な生物が引っかかる事になる。


「なぁ、ご主人様?なんでさっきから射石砲が連続で砲撃を繰り返しているんだい?」

「そりゃ、レーダーが何か物体を捉えたからだろ?」


 何を狙ってるかは判らない。何せ水平線の向こうの話だ。

 それが見える所まで高い所に登るのもたるいし、仮に船か何かだったとしてもこんな所に来る方が悪い。


「勝手に縄張り作って近づいたやつは許さない、か……ご主人様?君はどこの中東で反乱を起こすつもりなんだい」

「戦闘機がありゃあなぁ……Mig21bis(フィッシュベット)でも良いから」

「やめて」


 フレーアルの返答がやたら素だった。

 なんだ?西側の戦闘機の方が好きなのか。旧ソ連製の性能だけを極限まで突き詰めた武骨さの中にある優雅さが判らんとは。

 やがて、砲撃の音が止む。


「お、終わったか」

「……はぁ」


 なんでため息をついてるんだ此奴は。


「呆れてるんだよ」


***


 半日後。


「あぁ、青い空、青い海というのは本当に……気分悪くなるな」

「日光に当たると気分悪くなるとかどんな体質だい?」


 しょうがないだろそういう体質なんだから。


「しかし、随分と船の残骸が流れ着いているね」

「言いたいことははっきり言え」

「生存者の救助」

「必死の努力を致しましたが無念な事に生存者は居ませんでした」


 ジト目でずばっとイヤな事を言ってくるフレーアルにこちらもズバっと言い返す。


「まぁ、ほぼ絶望的なのは判るけどね……けど、生きている者を見つけたら助けてほしい、強者の義務として」

「なら、俺には適応されないな、俺は徹底的な弱者だ」


 そう、無茶やってると誤解されがちだが俺は弱い。

 あくまでもタレットやエンチャント、装備が強いのであって俺自身が強いわけではない。


「そういう意味じゃない、と言って聞くご主人様じゃないね……はぁ」


 そんな事を話しながら歩いていると、やや大きめの残骸が打ち上げられており、そこに人間らしき影が見えた。


「ご主人様!人かも!」

「俺は何も見なかった」


 無視するに限る、生きていたら厄介だ。

 そんな事を考えている間にフレーアルは何も言わず人影の方に走っていった。

 止めるべきだった、けれど、出来なかった。

 フレーアルを捕まえるべき手は中途に伸びた所で止まり、制止をかけるべき声は引っかかったように出てこない。

 必然俺も追いかける。


 船の残骸と思わしき比較的大きめの塊に、女性が二人倒れていた。

 一人は、ふくらはぎまである長い赤髪の、深窓の令嬢らしき女性。

 もう一人は、紺色の髪を短く切り上げた令嬢と同じ位の年齢に見える女性。

 こちらは侍従なのか、メイド服を着こんでいる。

 どちらの着ている服も、ずたずたに引き裂かれ、濡れてボロボロになっている。


 とりあえず、二人の着ているものを脱がす。これで布地が確保できた。

 細かいアクセサリーやなにかは溶かして金属として利用できる。

 宝石は魔力を通す効率がいい、良い動力になる。


「何をやってるんだご主人様っ!!」


 フレーアルがノーモーションでどついてきた。


「こいつらにはもう必要ない」

「死体から持ち物剥ぎ取ってるような事言ってるんじゃない!まだ十分生きてるんだぞ!」

「さぁ、海へおかえり……」


 剥ぎ取るものは全て剥ぎ取ったので適当な木の板に女二人を結び付けて海へ還す。

 俺は人間というモノを用いないほど非効率的ではないが信用したり信頼したりするほど愚かではない。


 がしり、と肩を掴まれた。


「何をしようとしているんだい?」

「海から来たモノだ、海へ還すのが道理だろう」

「な・に・を・得体のしれない死骸を見たクソ田舎の村長みたいな対応しようとしてるんだい!」


 フレーアルがガンガンに怒鳴り散らしてくるので、最低限生命の確保はしなければならない。

 しかし現状、見ず知らずの人間にそれをするという事は、自分の死刑執行許可書に自分でサインをするという事だ。

 それが愚かだという事は誰の目にも明らかだろう。

 だから、最低限の安全確保はさせてもらう。


「判ったよ、だが、枷は付けさせてもらう」

「なにを!」

「俺が命を奪われないという保証が何処にある、俺は俺を守る為に必要な事をしているに過ぎない」

「海に投げ出されて気絶した上全裸に剝かれた女性がどうやって君を害するというんだ!」

「そこらの石を持ち上げて殴り掛かれば、女の細腕でも人は殺せる」

「それを出来る状況じゃない上に既に本人たちが命の危機だよ!」


 あぁ煩い。


「フレーアル」


 しっかりと、元アメーバを睨みつける。


「俺が決めた、だからそうする」

「……はぁ……ご主人様、賜ったけど、君は最低のクソ野郎だよ」

「ありがとう、心のこもった言葉をかけられたのは久しぶりだ」


 胸にくる、とはこの事なのだろう。

 心のこもった言葉、というのがこんなに温かいとは。


「イカレきったサイコパスをさらに歪めるとこうなるのか……」


 フレーアルが、俯いて何かつぶやいていた。


***


 ともあれ、入れておく場所を作らないと話にならないのは間違いない。

 砕石所に適当に石をくりぬいた穴がいくつも空いているので、その一つを多少整えて石を加工した寝床を置いておく。


 穴の入り口は鉄格子でしっかりと塞ぎ、その鉄棒は簡単に切ったり、折ったり、腐食させたりできないように加工し、なまじの事では抜けないように深く深く差し込んである。


 女二人を加工した穴に放り込む。これで仕事は終わりだ。


 やるべき事はやった、後は知らん。

 ここまでだって相当に妥協してるんだ、文句を言われる筋もない。


「で、素っ裸に剥いた美少女二人を眼前に並べて、何をする気なんだい?最低男(ごしゅじんさま)

「安全確保だ」

「ガチの本気でそれ言ってて微塵も欲情していなければ欠片ほども反応してないのが嫌な所だね」


 とりあえず、赤髪の方の胸に手を置く。


「付与 『隷属』『敵対行動禁止』『強制停止』」


 これらを心臓に付与する。

 紺色の方も同じだ。

 心臓は魔力の流れにおいても起点。

 ここに付与をかければ、解除される確率は減り、時間と共にこの付与が無ければ体が弱る様になってくる。


「おい、心臓になにを仕掛けてるんだ、クソ野郎(ごしゅじんさま)

「安全装置だよ、お前は弾丸満載したデザートイーグルでロシアンルーレットする趣味でもあるのか?」


 これがなければ不安だ、もう眠る事すら不可能になる。

 だから、当然の権利として、仕込ませてもらった。


 さて、後は目が覚めた時の尋問の準備か。

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