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4話 エンチャントの実力


 さて、手に入れたスキルが付与だった為、実の家族から「お前クソだから追放DA!」と追い出された哀しいエピソードの直後から続きだ。


「いやどう考えても有無を言わさず勢いだけで押し切って飛び出してきたよね?一応追放宣言するみたいだったけど言いたい事全部言われるどころか口挟む隙も無くて涙目だったよ?辺境伯」

「結果同じならよくね?」

「ご主人様は世の中結果だけでなくそうなる理由も必要だって事を学ぶべきじゃないかな」

「それはまず結果ありきで、結果に納得できない奴が文句言う為の言い訳だぞ」


 今は、ガレオン(動力船)で流される先の島へ移動中。全自動で航路を修正してくれる上、常に安全かつ最短の距離を進んでくれる。

 索敵・地形走査の並列エンチャントによる地形追従レーダーに連動した操舵システムのちょっとした応用だ。


「……レーダー連動式操舵システムとかご主人様はマジでこの世界の技術体系をぶっ壊すつもりかい?」

「誰も知らない所で変な技術が使われてるからって、誰が困るんだ?」

「……はぁ」


 なぜか頭を抱えてため息を吐く元アメーバ、フレーアル。


 解せぬ。


「いずれにせよ、ほれ、もうすぐ目的地だ」

「……比較的大陸に近め……だけど最短の町からでも、魔物の跋扈する滅びの森を通らなきゃ近くの村にすらいけない、か、良い場所選ぶじゃないか」


 確かに、これなら一時的に追放して、後からこっそり回収して人目に付かない所で生きながらえさせることが出来る。

 そう、できてしまう。


 やはり辺境伯は辺境伯(政治)をするのに向いていない。

 造反、反乱の芽となる可能性を生かしておくなんてありえない。どうかしてる。


「いやご主人様からしたらそうかもしれないが、親としては当たり前の裏工作だからね?」

「そうなのか?」

「……子供に軽々に死んでもらいたい親はいない、一般常識の部類だよ?」

「なら、その常識は俺にとっては非常識だ」


 自動で碇を下ろし、動きを止めたガレオン。

 俺は機構を動かして昇降用タラップを引き出す。


 背後から感じるフレーアルの視線が、憐れんでいるように感じた。


***


 島は目論み通りの無人島だった。

 大きさも人が暮らすには十分、島内で食料になる動植物もある。

 なにより、小さいとは言え川が流れているのが大きい。


 ただ、大きな誤算が一つ。


「なぁ」

「なんだい?」


 引き潮の時刻になり、浮かび上がってきたそれを指さして言う。


「こんな道が出来るなんて、予想外なんだが」


 そう、引き潮で海が浅くなり、遠浅の海底が顔をのぞかせていた。

 それがまるで道のように、ずっと大陸側まで続いているのだ。2キロ位あるのに。


「ま、異世界だからね。ちなみにこの世界、最長20キロの引き潮の時しか通れない道があるよ」

「まじかよ半端ねぇな異世界」

「ちなみにこの辺りは地球で言ったら亜熱帯に属するから、唐突に風邪をひく可能性は低いよ」


 説明を軽く聞いてから、対策を考える。

 まずは「害虫駆除」の効能をエンチャントした木を生木のまま焚火に放り込む。

 もうもうと煙が立つが、これは予定通り、寧ろこの煙が本命だ。

 この煙に含まれる成分で、病原菌を運ぶ虫を一掃する。

 アメーバ(原生動物)が媒体する赤痢みたいなものは別の対策を取る必要があるが、虫が媒介する病気はこうして駆除する事でかなり防げるはずだ。


 さぁ、開拓をしていこう!


***


 とはいえ、5歳児にできる事なんて当然たかが知れている、だからまず必要なのは自動化だ。

 何はともあれ、住むところは実は焦らなくてもいい、ガレオンで暮らせば問題ない。

 しかし何を作るにしても資材は必要で、それをどうこうしようと思ったら一番手近にとれるのは、やはり木だろう。


「付与、水」


 自分の両手に水属性を付与する。

 

「付与、高圧」


 さらにその水を高圧で打てるようにして、即席のウオータージェットを可能な状態に。

 そして一気に、水を吹き出しながら木を切り倒す。

 そこそこの大きさの木がすぱっと気持ちよく切れた。


「解除」


 両手を包む青い光が消え去って、エンチャントが切れる。

 それを見てフレーアルが「へぇ」と声を上げた。


「ウォーターカッターの上位版みたいな威力だね、しかも消費魔力は比較にならないほど低い、詠唱難度も無きに等しい」

「まーウォーターカッターなんだが……魔法?」


 そうだよ、と言いながら、俺が切り倒したのと同じ位の木を指さすフレーアル。


「ウォーターカッター」


 呪文を唱えると同時に、水の刃が指先から飛び出して、木の表面を削って消えた。


「とまぁ魔力で水の刃を作り出して飛ばす奴さ、なり立てマジックユーザーの友の一つだ」

「へぇ、そうなると対策だけは必要か」


 感想はそれだけに留めらる。


「ところで……目の前の現実を忘れたくてこんな雑ネタ披露してたわけなんだが……」


 フレーアルが、眉間をもみほぐしながら続ける。


「ご主人様はなんで、素手で木を加工するなんて訳の分からない事が出来てるんだい?」

「なんでって……手の周りに空気の幕を作って、その空気の幕を超音波振動させてるだけだが?」

「またそうやって訳の分からない事をする……素手で超音波カッターするんじゃないよ」


 すぱっと手刀で木を木材へと整形しているのがどうにも異様だったらしい。

 良いじゃないか、木材は必要で、結果としてこうして木材が手に入ってるんだから。


***


 とりあえず、最低限必要と思われる分の木材は確保した。あと山の様な端材も。

 うん、やっぱ手作業は非効率的だ。


「非効率的だな」

「いや手作業しかないのに何を言ってるんだい」

「そっちもそうだけどそうじゃない」


 水を飲み、近くに生えていた木の実を食べながらついこぼした言葉に、フレーアルが反応してきた。


「非効率的なのは、この口渇感と空腹感だ」

「何言ってるんだ」


 むっちゃ素の答えが返ってきた。


「喉が渇く、腹が減る、その度に作業の手を止めるのは非効率的だと言ってる、労働力は俺一人だからな」


 そう、こと労働力と言う意味で、フレーアルは見事なまでに役に立たない。

 最高効率で動こうとするのに、こいつの存在自体が邪魔になる。

 だから最初の5分でフレーアルには家事やその他をやってもらうことにした。


「……食べる、飲む、寝るは生命の維持に絶対必要なものだって理解してるかい?」

「?」


 そんなのは当たり前だろう、何を言ってるんだ此奴は。


「生命の維持に必要と作業上の効率を悪化させるは全く関係ない事だと思うが?」

「……飲まず食わず眠らずで働いて、その結果過労死続出ってのは、ご主人様は誰よりも体感で知ってるんじゃないか?」


 何言ってるんだ此奴は


「今だってきちんと一日に水コップ一杯、木の実5個、3時間の睡眠はとってるぞ?」

「そのブラックバイトで染み付いた社畜根性捨てろと言ってるんだ」

「ははは、何を馬鹿な、俺は元々バイトだぞ?社畜になんてカウントされる訳ないだろ」

「周りでぽんぽんぽんぽん自殺者と退職者が続出してる職場に疑問は抱かなかったのかい?」

「世界的不況でまともな職なんて望むべくもない中、仕事がある事に文句なんか言ったら罰が当たるぞ」


 仕事を辞めた奴は根性と責任感が無い、自殺した奴は自己責任の敗北者。

 なにを当然のことに疑問符挟んでんだ。所詮は元アメーバか。


「……はぁ……ご主人様はやろうと思えばいくらでもそんな事はやれるんだから、今更私がどうこう言っても仕方がないと判ってるけど……」

「なら言うな」

「そういう訳には行かない、悪いけれど、私はご主人様にはこれ以上軽々に死んでほしくないと思っているんだ……一度でもぶっ倒れたら、生活スタイルはこちらに合わせてもらう、いいかい?」


 こいつの生活スタイルか……非効率にも程があるな。


「……食事と睡眠だけが、妥協点だ」

「……まぁ、仕方ない」


 実際、食事に30分以上かけ、最低8時間は眠り、毎日入浴に1時間もかけるような生活に合わせては居られない。


 食事は1食30秒以内、睡眠は3時間以内、入浴、洗濯は休日に纏めて。

 これは社会的な常識だ、1日に1時間以上体の空いている日があるなら、それはたとえ他の時間全てを勤務していたとしても休日なんだ。

 社会人としての自覚と責任があるなら、最低限これくらいは出来て当然。

 出来る奴はそれ以上にやっているのだから、何をやってもできない、ダメな俺はそういう奴の百倍、二百倍努力してようやく半人前以下なんだ。

 食うなんて余裕は見せてられないはずだ。

 眠るなんて贅沢は出来ないはずだ。

 それは最低限の事はできる人間としてふるまう為には、絶対必要な努力なのだから。


「両親の教育、不況をこれ幸いと利用した社会、本人の資質……噛み合っちゃいけないものが噛み合うとこうなるのか」


 元アメーバが憐れんだような目つきで何か言っている。

 人型になろうとも、所詮アメーバはアメーバ、人間の考えなんぞ判る訳もないのだろう。

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