3話 俺、追放される(自主的)
12万40回目:スキル「エンチャント」
「よっしゃキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!エンチャントキタコレ!!これでかつる!!」
俺は思わず飛び跳ねて喜んだ、待ちに待ったクリエイト系スキル、しかも付与とくれば応用の利き方が凄い!
ここまでの12万40週、空いた時間を遊んでいた訳ではない。
字が読めるようになる3歳~5歳の間はひたすらスキルに関係する本を読み漁り、情報を集め続けていたのだ。
まず、エンチャントは使いやすい。
消費するのは魔力のみ、しかも魔力は時間で自動回復する!
効果は完全任意、複雑なものは大量の魔力を消費するが、ぶっちゃけ其処らへんの石に魔力蓄積のエンチャントを付けて設置すれば後は魔力吸収との組み合わせで放置しても無限に動かせる動力が完成!
歯車や何かと言った機構を噛ませる必要があるとしても、摩耗無効化すれば交換不要のメンテナンスフリー!
試みに「摩擦完全無効」のエンチャントを付けた石を滑らせてみたら等速直線運動始めたのには腹を抱えて笑った。
次にエンチャントを使うと経験値が手に入る。
普通?スキル「エンチャント」と技能「エンチャント」、同一の筈のスキルで経験値がそれぞれ計算される、と言ったら怖さは判るだろう?
経験値が手に入ると当然強くなる、経験値が手に入る量が多いと当然強くなる速度も上がる。
やれやれ、別にそんなに強くなりたい訳ではないのだが。強くなると噂が流れて余計なのがわいてきて面倒だ。
そして、技能「エンチャント」では何度も訓練を重ね、研鑽を積んで出来る事を増やしていく必要があるが、スキル「エンチャント」の効果によって最初から全てのエンチャントが利用可能になっている。
まさに、才能振れるエンチャンターと言えるだろう。
そしてもう一つ朗報がある。
この世界では、エンチャンターは「外れスキル」であるという事だ。
わざわざエンチャントしなくても、人がエンチャントできる最大値を鼻で笑う位高い性能の魔道具はいくらでも作れるし、そうでなくてもエンチャントは直接の戦闘能力がない。出来る事は多いが、多すぎて逆に多くの者が「広く浅く」な状態になる。
そしてなにより、こんなクソスキルを持っているような奴は、人間扱いされない。
だから、不幸にもエンチャントのスキルを神から与えられてしまったものは、早々に自殺でもするか、世界から身を引いて、世捨て人となる。
あるいは最後の慈悲として、殺される。
幸いにして、今回の男親と女親は末の子供とはいえ、子供を殺せるほどの人間ではないようだ。
これは自分の命を守るうえで上々と言えるが、彼らの「辺境伯」という地位と照らして考えると相当に不安しか残らない。
可能性が兆に一つ、京に一つであったとしても、不安の芽は摘み取っておくのが正解と言うものだ。
なのに、男親にはそれができない。これは為政者として大きすぎるマイナスだろう。
人の上に立つ者というのは孤独だ。
その孤独に打ち勝ったものだけが、初めて人を率いる事を許される。
その意味では、彼は人としては見る所がないが為政者としては失格と思っている。
故に、どんなに悪くても「少し離れた島に流される」程度の理想的な状況になるだろうと踏んでいる。
勿論、あらゆる可能性を考慮しておいて損は無いけれど……
まぁ、いいさ、勝負所は年末だ。
***
そして迎える年末。
子供たちのスキルがどんなものかを確かめるこの儀式は「定命の義」と呼ばれているらしい。
勿論、俺も参加させられている。
あぁ、楽しみだ。
ここまで仕込んできた仕込みが、今日結実するとなると楽しみで楽しみで仕方がない。
陰謀屋?はは、御冗談を
俺はそんなに頭もよくなければ人も悪くない。
さて、午後の教会には俺と同い年の子供たちが親と一緒に集まっている。
まぁ、興味はない。
男親と女親が、他の貴族らしき男女と話をしているが、それも興味はない。
次々と子供たちが呼ばれ、壇上に上がっては据え付けられた水晶に手をかざす。
それを見た神官がその子が持つスキルは何かを伝えているようだ。
誰もかれもが、伝えられて初めて、目を丸くして驚いたり、悔しさに臍を嚙んだりしている。
これはどういう事なんだ?
「そう難しい事じゃないさ、ヒトは5歳で定命の義を受けて初めて、自分のスキルを知るんだからね」
隣に立っているメイドが、小さくつぶやく。
その聞いたことのある声音と口調にそちらを見ると、尻を超えるほど長い金髪ストレートの、同い年位のメイド服を着た少女が、視線だけをこちらに向けていた。
俺が目を向けている事に気付くと、そいつは軽く微笑んで、唇に指をあてる。
「目当てを当てたみたいだからね、追いかけてきたよ、ご主人様」
案の定元アメーバ、個体識別名フレーアルだった。
「なぁ、なんか周り見てると、この儀式で初めて自分のスキルを知った奴ばかりみたいなんだけど?」
「あぁ、そりゃ、アクティベートされる鍵がこの儀式だからね」
「先行してレベル上げてる俺は良いのか?」
「ご主人様の場合は知ってる事を含めて神の加護だから問題ないよ、それに、エンチャントなんて最初からどんな高レベルでも馬鹿にしこそすれ、羨む事なんて絶対にないからね」
「そりゃいい情報だ」
ややあって、直近で並んでいる奴らからも呼ばれるのが出てきた。
今呼ばれたのは……確か双子の兄、だったか。
個体識別名はアルフレッド
「おい、レムナント、家の恥になるようなスキルなんか、手に入れるんじゃないぞ!?」
「いや貰い物だから何貰っても調べるまで判らないでしょう?次期辺境伯殿?」
「ふん!」
なお俺の個体識別名は「レムナント」だ
鼻を鳴らすと次期辺境伯殿はスキルの判定を受けに行く。
自信満々に次期辺境伯殿が水晶に手をかざす。
水晶がまばゆく光り、それが収まると神官が厳かにスキル名を告げる。
「アルフレッド・グリューネベルグ……スキル「天剣」」
ざわり、と周りにざわめきが起こった。
「フレーアル、あのスキルって良い物なのか?」
「あぁ、君が最初に引いた「神弓」の剣バージョンで、強さとしては2番目か3番目の強さかな……最も「神」級と比べれば絶望的な差があるのだけどね」
「へぇ、凄いのか」
「しっかり訓練して、戦場に立てるようになったら英雄にはなれるんじゃないかな」
そう……(興味なし)
「ふん、どうだレムナント、俺としては、まぁ当然の事だが!」
「そう、見事なもんですね、次期辺境伯殿」
「ふん!お前のその物言いも気に食わないと思っていたが、今日は勘弁してやる!俺は心優しく強い天剣だからな!」
わざわざ自慢げに目の前までやってきて、反応が思ったのと違ったら不機嫌になる次期辺境伯殿。
「神として断言できる、大成しないね」
フレーアルがぽつりとつぶやいた。まぁどうでもいい。俺には関係ないから。
次いで俺が呼ばれた。結果の分かってる茶番だが、それでもやらない訳には行かないのが辛い所だ。
実際、もうスキルも技能も使えるんだからこの儀式はバックレても問題ないよね?と逃げる準備はすませていたが、フレーアルから「もう事は教会の権威とか世界の軍事バランスとかそういうのまで関わってくるから出て!世界崩壊RTAにチャレンジしないで!」と泣いて縋りつかれたのでしぶしぶ出ているだけだし。
スキルを手に入れた所から計測開始です。よーいスタート。
「やめて、ほんとやめてくれ」
心を読んだフレーアルが涙声で止めてきた。
計測中止。最初からガバりました。
「では次に、レムナント・グリューネベルグ」
呼ばれたので素直に水晶玉の前に出る。
促されるまま、水晶玉に手を置くと、水晶玉が何の反応もなく文字を浮かべる。
……日本語?
それは、間違いなく日本語だった。
なぜ、と思う暇もない。
「レムナント・グリューネベルグ……スキル「付与」」
ざわ……と周りが騒めいた。
男親、女親とも先ほどまでいい笑顔だったのが、顔面蒼白で真顔になり、次期辺境伯殿は怒りで顔を赤くしている。
俺は大きく息を吸い込むと……
「いよっしゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
右拳を高々と突き上げ、勝利の雄叫びを上げた。
その奇行に、その場の全員が何事かと振り返る。
「あ、元両親と元兄、いえ、辺境伯様と次期辺境伯様、私現時点を持ちましてグリューネベルグの性を捨てますので後よろしく!荷物はもういつでも持って行けるんでそれだけ取りに行きますね!それとあんたらを親兄弟だと思ったことは一瞬たりともないから!じゃあ生涯遭う事もないけど形だけ元気でと言っておきます!!!」
「え、ア、ハイ……」
完全に機先を取られて間抜けな返事をするのが精一杯の男親……いや、辺境伯様を後は無視して、俺は元家へと取って返すと纏めておいた荷物をひっつかんで港へと走り出す。
なにせ港には既に作っておいた自動制御のガレオン船を用意してあるからな!一応帆走もできるけど付与で作った動力による動力船だから帆なんて使わない。あんなの飾りです定期。
船に飛び乗ると、全自動で碇が巻き上げられ、形だけ帆を張って船が動き出す。
行く先の島も目星は付けている、あそこなら誰とも関わり合いにならずに済むだろう。
さあ!俺のスローライフが始まるんだ!!