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29話 決戦 ~滅びた世界における最後の戦い~


 作戦は成功した。

 人間爆弾を送りつけようとしたところで、元アメーバに邪魔されるのは先刻承知。

 重要なのは、そのエンチャントを組む過程で作る事が出来た、個々の魔力パターンを解析し、追跡する手法だ。

 特定の魔力パターンをターゲットとして、そこにメガトン級の爆発力を持った巨岩を打ち出し、誘導させれば簡易的な大陸間弾道弾の完成だ。

 もっとも、射程距離的に中距離弾道弾と言った所だが……一番役に立たねぇ。


 ともあれ、その射程内に人魔連合の本拠地があったのは幸いだった。

 そこを叩き潰せば、俺のスローライフを邪魔する奴はこの世に存在しなくなるわけだから。


 絶え間なく打ち出される大口径射石砲の弾丸。

 あぁ、心地いい。

 勝利の気分とはこれほどに清々しい物なのか。

 敵の巣が判ったなら、それを叩き潰さない理由と言うのは一切ない。

 過剰火力の飽和攻撃で押しつぶせば、最終的に被害は最小になる。

 それはこちらにとってもあちらにとってもいい事だ。


 降伏し、自ら命を絶ってくれるならそれが一番楽なんだが。


「随分と、夜明け前から張り切っているものだね」

「これでようやく、スローライフを始められるからな」

「それについてはもう良いさ、それで、この先の事だ」


 不意に話しかけてきたフレーアル。

 この先と言っても、人魔連合を叩き潰した後何があるというんだ。


「君以外のヒトが一人も居なくなった世界で、君はどうやって連れ添いを見つけて、子供を作るのかな?」

「お前は何を言ってるんだ」


 やばい、こいつが何を言ってるかまるで判らない。

 言葉は判るのに会話が通じない。


「何を言ってるか判らないから、判る単語のみ返答するぞ? 他人はこれ以上要らない、そしてガキは嫌いだ、居なくていい」

「そうか」


 フレーアルはそれ以上何も言わず、日課の散歩に行ってしまった。


***


 偵察用ゴーレムが持ち帰った情報で、人魔連合の根拠地は徹底的に焼け野原となっていることが確認できた。

 思ったよりも高揚感や満足感は無い。

 なんというか、面倒くさい掃除をようやく終えた、という感想が一番近いだろう。

 俺を害そうとするすべては、排除しつくした。

 さぁ、今日からはのんびりスローライフだ。


 誰にも邪魔されず、心と体を癒そう。

 ようやく、俺は救われる。

 俺から幸せを奪おうとする奴がいなければ、俺は幸せになれる。

 それは極めて論理的な帰結だ。

 間違いなどなにもなく、美しい。


「いい加減何もかも奪われすぎたんだ、俺が俺の幸せを奪い返して何が悪い」

「そうか、それが、お前の戦いの根源だったか」


 不意に聞こえた声。

 それと被る様に正面の空間が揺らぎ、漆黒の鎧とマントを身に纏った銀髪のイケメンが現れる。


「……」

「……久しいな、魔の島の主」


 魔王、多分この世の誰よりも俺を逆恨みしている危険人物。


「……本当に、お前はお前の幸せを、世界によって奪われたと思っているのか?」

「そうだ、誰もが手を取り合い、仲良く幸せになれる程世界は優しくはない、誰かが幸福を享受するという事は、誰かが不幸を押し付けられるという事だ」


 魔王の呟いた言葉に答える。

 そう、誰もが幸せになる、なんて絶対に無理だ、あり得ない。

 こういうと、訳知り顔の馬鹿が「絶対なんてことは絶対にありえない」と言い始めるから、俺が代わりに言ってやる。

 「誰もが幸せになる世界など絶対にありえない」

 幸せは、他人から奪ってくる以外に生成できないのだから。

 誰かから奪ってくるという事は、奪われた方は不幸になるという事だ。

 そんな事も判らないバカが、世界には多すぎた。


 本当に幸せになりたければ、自分以外のヒト全てを皆殺しにして、幸せを奪ってくるしかない。

 そうでなければ、決して幸せにはなれない。


「……哀れな」


 魔王がこぼした言葉が、耳に刺さる。


「護る物もなく、大義もなく戦う今のお前は、殺戮機械と何が違う?魔の島の主よ、人とは人の犠牲の上に何を得られるなどと……」

「黙れよ、御大層な御託が聞きたい訳じゃない」

「お前の生きてきた世界にも、青い空があるだろう、美しい海があるだろう、深い緑に萌える自然があり、その世界で生きている人々は完全に善良でなくとも、誰もが出来る範囲で優しく在ろうとしていたはずだ」

「俺は黙れと言ったぞ、魔王」

「頼む。この世界を狂わせないでくれ、そして……願わくば、私にお前を救わせてくれ」


 深い、慈愛と懇願。

 おそらく、魔王は間違いなく慈愛の人なのだろう。

 優しい世界に生まれ育ち、人を信じるという最悪の選択を最良と勘違いしながら生きてくる事ができた、愚かと言うにも愚かしい存在に違いない。

 絶対に許さない、殺すと誓いながら、目の前の敵を理解し、和解の道がないかと探り続ける。

 事は最早、そんなレベルにはないというのに。


「もう道はねぇんだよ、魔王、残されてるのは、俺が死ぬか、お前が死ぬかだ」

「……どうあっても、止める気はないんだな?」

「くどい」


 魔王が静かに構えを取る。

 俺の周りには神級のスキルを揃えた無慮多数のゴーレム。


「行け」


 俺の呟いた言葉で、ゴーレム達が一斉に魔王に襲い掛かった。


***


 魔王と、神級スキルを付与されたゴーレム達の戦いは、熾烈を極めた。

 これまでにないほどの数のゴーレム達が打ち倒され、対人防衛機構もダメージを受け、機能不全を起こす所が出てきたほどだ。

 しかし、魔王がどれほどの強さを誇ろうとも、所詮は「個」の強さ。

 飽和攻撃には絶対に勝てない。

 ほどなく、魔王はゴーレム達を避ける方向に思考をシフトした様だ、攻撃が俺に集中してくる。


 剣戟、魔法……ありとあらゆる攻撃スキルが俺に向かって襲い掛かってくる。

 圧倒的な力、これが魔王という存在。


「はい、お疲れさん」


 その全ては、俺に届く前に消滅する。


「悪いな、完全防御なんだ」


 慣性停止と魔力消滅のエンチャントを組み合わせた、絶対防御が魔王の悪あがきを全て無力化した。

 それに驚いたのか動きを止める魔王。それは戦いの場において絶対にやってはいけない事だったに違いない。

 神級ゴーレム達が、魔王に己の武器を、持てる最大のスキルを叩き込む。

 ダメージを受け、全身から血を流し、整った顔が苦痛に歪む。


「っ……だが、それでもっ!!」


 突如としてこちらに突貫する魔王。

 その手は固く握られ、こちらに殴りかかろうとしている。


 まずい、反応が追い付かない……!


 とっさに腰を引き、腕を前に出してなんとか防御をしようとする。

 しかし、魔王の拳が俺を捉えるよりも早く、魔王は神弓ゴーレムの放った矢に撃ち抜かれ、勢いのまま地に伏せる。


「……あぶねぇ……流石魔王って所か」


 一筋流れた冷や汗を拭い、息を吐く。

 魔王は、最期に受けた一撃で絶命していた。


 いつも通り装備を全て剥ぎ取り、死骸は海に流す。


 さあ、今日も楽しく、スローライフだ。

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