26話 不信と不和の協力体制 ~勇者起つ~
人と魔が協調路線をとった事で、最も喜んだのは平民たちで、もっとも苦汁を呷る事になったのは貴族達だろう。
少なくとも、平民達が貴族からの独立をより現実的なものとして考えている所はよく見るようになった。
俺は、それはそれでいいと思う。
平民達の中で魔族との交流を得て最も喜んだのはやはり技術者達だろう。
互いにとっての未知の技術が掛け合わされ、既存の技術が刷新され新しい技術が生まれ出る。
それは彼らの様な人種にとって最高の喜びと言えるだろうから。
そして、それを良しとしない流れと言うのも、確かに存在する。
***
「……正気ですか?」
「いくら辺境伯とはいえ、公爵の言の正気を疑うとは、大したものだな?」
人払いされた天幕の中、とある公爵から、と下命された事に、俺は率直な感想を述べる。
はっきり言って、正気を疑うには十分な言だったからだ。
「我々だけで魔の島を攻め落とせという命令が、正気を疑われるには十分な事だと理解はされているのでは?」
「事は最早そういう話ではない、このまま魔族優位で事が進めば、この騒ぎが終わった時のパワーバランスというものが問題になるのだよ」
人族の貴族達が集まった会合で、アルフレッドが下された命令。
それは人族のみで構成された部隊を率いて魔の島を攻略せよ、というものだった。
無論、アルフレッドは反対したが、この騒動の後、自分たちの権威・権力が低下する事を恐れた貴族たちは頑迷であった。
「我々はこの戦が終わった後を見越して行動しているのだ」
「君はこのまま、人が魔族の奴隷として生きる事になっても良いというのかね?」
散々に浴びせられる罵倒に対し、流石にため息の一つもでるというものだろう。
「少なくとも、あの魔王がそういう事をする、とは思えませんが」
「魔王自身はそうだろう、しかしその配下が未来永劫人を奴隷としないとは言い切れまい?」
「そう、我々は百年先を見据えているのだ、人が人として立つ事ができるようにな」
「既に数で魔族に劣る我々は、個の質で魔族を大きく上回るしかない、その旗頭を任せようというのだ、誇りに思いたまえよ」
なにが誇りだ、そんなもん、倉庫の埃ほどの価値もない。
そう言いそうになったのを食い止めたのは、我ながら大した精神力だと思う。
***
侵攻部隊の結成は、恐ろしいほどに素早く進んでいた。
それも道理で、部隊のほぼ全てが平民であり、彼らを強者たらしめていた「笛」も戦術の要である「戦馬車」も取り上げられた状態で放り込まれていたのだ。
年齢も、下は6歳程度、上は50を超えた者と兎に角寄せ集めである事を隠そうともしていない。
「とにもかくにも、何というか……」
「……17歳以下と45歳以上の者は輜重に回してくれ」
「で、輜重隊は絶対前線に近づかないように、ですね」
話の分かる副官というのはこれほどに心強いものか、と俺は頷く。
「しかしアルフレッド卿、それでは使える戦力は精々2割という所だぞ?」
「あぁ、一番数が少ない、だから無駄な被害を最小に抑えることができる……選ばれてしまった者には、申し訳ないがな」
先の戦闘から共に戦い、いつの間にかセットで戦力として数えられるようになった天弓のスキルを持つ弓兵が言う言葉にさらりと本音を返す。
「なら、平民は後衛に、爵位持ちの家系は前衛に、ですね」
「あぁ、こういう時に盾になってこその、貴族の矜持だからな」
「……やりますかね?」
「逃げてくれるならそれでもいい」
やや捨て鉢な発言になったのは否定できないが、それを聞いた誰もが苦笑しつつも頷いていた。
そして誰もが口には出さないが視線で言っていた。「お前がその先陣を切れ」と
なるほど、道理だ。
だが……
「もし一気に離脱する事になったら、その取りまとめ役は君にお願いしたい」
「その適任、と言うならあなたを置いて他にないと思います」
俺が撤退のとりまとめを副官に頼むと、彼は渋い表情を隠そうともせずに言う。
「そうしたいんだが……場合によってはくだらない兄弟喧嘩になりそうだからな、それに隊を撒き込めないのさ」
「なるほど、道理です……しかし、できればレムナントも連れて帰ってほしい、君の兄弟は僕にとっても幼馴染だからね」
お互い、短い期間で失いすぎた。
だから、もう喪いたくない。
そんな願いが、彼の言葉の裏に読み取れた。
***
出陣の前日、魔王に呼ばれた俺は、彼と酒の入ったグラスを傾けていた。
「……そうか、レムナントが」
「すまん……だが、君の弟は危険だ、何がそうさせたのかは判らないが……」
あの島で、魔王はレムナントに会っていたという。
しかし、弟は長い時の中で変わってしまっていたようだ。
無論、自分の目で確かめていない以上、それを鵜吞みにするつもりはないが……。
最近起こった事や、魔王達魔族の被った損害を考えれば、決して的外れな事ではないのだろう。
「無論、心苦しい事とは思う、だが……」
「あぁ、俺も貴族の端くれだ、親殺し、子殺し、兄弟殺しはお家芸さ」
申し訳なさそうに言いよどむ魔王の言を継ぐように、言って見せる。
それに対し彼は「すまない」と頭を下げていた。
「王が軽々に頭を下げるなよ、居辛くなる」
「サンベルタの首都から出るときも、残る者たちに同じことを言われた、私は学習しない男だな」
自嘲を含んだ苦笑をする魔王と、笑いながら酒を飲む。
願わくば、これが最後とならないようにと思いながら。





