23話 魔の島の主
そいつは、不意にそこに現れた。
顎先まで伸びた銀髪をたなびかせる、美男子。
その肌はやや不健康そうに見えるが、それがただの肌色である事は彼の鍛えられた身体を見れば明らかだった。
「……ここは、どうだ?アクレピオス」
「しばしお待ちを……!素晴らしい……!魔王様、この地からは件の病の元となる生物の反応は見られません!」
「なんと……!」
そしてこちらを完全に無視して何か始める侵略者たち。
「おい」
「……ん?」
声は聞こえていたようだ、魔王と呼ばれた銀髪のイケメンがこちらを振り返る。
「人の土地に不法侵入して何勝手な事をしてるんだ、今すぐ出ていけ」
「……人間、魔王様に対して不敬であるぞ」
俺の言葉に答えたのは、魔王ではなく、アクレピオスと呼ばれている生命体。
「まて、アクレピオス」
「……御意」
「……部下が失礼した、私はウィーレアという、この度は……」
「お前がどこの誰でどんな立場に居るかなどどうでもいい、重要なのはここは俺の土地でここに居るものへの命令権は俺にあるという事だ」
「……人間、我々が大人しくしている内に態度を正すべきだな、お前は今、魔王様の御前に居るのだ」
「よせ、アクレピオス、このような辺境に居ては世界の情報など得られよう筈もない、彼はただ自分の言うべき事を言っているに過ぎない。」
「世界?俺にとっての世界とは俺の暮らすこの島の事だ、そしてその平穏を破壊しているのはお前達だ」
俺の言葉に魔王とやらの眉がぴくりと動く。
「……確かにそうとも言える。その事と、突然の来訪は詫びよう……しかし、どうか我々の話も聞いてほしい」
「嫌だね、聞く理由も意味もない、さっさと出ていけ」
「……頼む、この通りだ」
魔王、と呼ばれ部下から様付けされていい気になってる馬鹿が俺に向けて頭を下げる。
それで何かが解決するつもりでいるんだろう、やはり馬鹿だ。
「頭下げたからなんだってんだ、それで何か解決するとでも?俺はここから出ていけと言ったんだ、譲歩などあり得ないぞ」
「頼む、どうか聞いてほしい、世界を死病が襲っている、ここなら、今生き残っている人々を救えるかもしれないのだ」
「関係ないね」
本人なりに必死なのだろう、しつこい。
しかしこっちはそもそも関わらない、と言っているのだ。
「理由が必要なら、私の軍から褒賞をだそう、望むままとは言えないが……」
「褒賞?こんな何もない島で金やら地位やらを何に使えというんだ、妥協点はもう提示している、ここから立ち去れ、関わろうとするな、これ以上の妥協は引き出せないと思う事だな」
「……この通りだ、頼む、国を失い、放浪する人々だけでも、どうか……どうか、助けてくれ!」
更にしつこく食い下がってくる自称魔王。
流石にウザい。
「おい、こっちはそのお前が守るべき人々ってのを皆殺しにしてやっても良いんだぞ」
「なっ!?」
「干潟の路の向こうに1グループ居るな、そいつらに生贄になってもらうとするか」
「ま、まて!何を……!」
「魔王、これはお前が招いたことだ、重々反省するんだな……射石砲、斉発」
砲撃音と一緒に燃料気化爆発のエンチャントを行った弾頭が、狙いたがわず人らしき反応が集まっている場所を直撃する。
レーダー上の反応消失。
よし、綺麗になった。
「な、なにをしたんだ!」
「お前の守る範囲を減らしてやったんだ、感謝されこそすれ怒鳴られるなぞ心外だな」
「なっ……!?」
不意に、胸倉を掴み上げられた。
目の前には、憤怒に染まる魔王の顔。
「言ったろ、お前が招いたことだ、俺に責任転嫁してもどうにもならんぞ」
「ふざけるな!故国を追われ、生きるべき場所を探す人々がお前に何をしたというんだ!」
「お前を俺の元に向かわせた、それだけでもこうするには十分な理由だ、更に言うならそいつらの為にこの島を明け渡せなどと言う脅迫、本気で俺が飲むと思ってるなら馬鹿と言うにも程があるぞ」
「何を……何を言っているんだ、お前は……?」
本気で訳の分からないものを見る目で俺を見る魔王。
「なんなら素直に明け渡すふりをして、飲み水を全て毒に変えてやっても良かったんだ、良かったな、この程度の被害で済んで、這い蹲って俺に感謝しろ」
「っ……!」
今度こそ、憤怒の形相で魔王が俺を睨む。
しかし、魔王も気付いているだろう、俺の背後にある機械弓塔が、既に魔王に狙いを付けていることに。
「アクレピオス、ここは退く」
「し……は、畏まりました」
最低限の状況把握は出来る様だ、次はもう少し賢く立ち回る事だな。
「魔王、一つ覚えておけ、ネズミにパンくずをやると、次はミルクを樽で欲しがるぞ」
「……名を聞こう、いずれ、お前の墓に刻む」
「レムナントだ、お前を殺す人間の名前を覚えておくんだな」
そして、魔王と呼ばれていた馬鹿はようやく俺の前から姿を消した。
***
「ご主人様、言いたい事は色々あるけど、私は魔王の言に全面的に同意するよ」
魔王を自称する馬鹿が居なくなって少し後、神妙な表情のフレーアルが話しかけてきた。
「言っておくが、俺は間違った事をしたとは思っていないからな、大切だと思うものが有るのにその近くを離れた奴が悪い」
「だからって非戦闘員だけの避難民を消滅させることは無いだろう?」
「生きてこの島に来ようとする、それだけで俺にとっては明確な敵対行為であり宣戦布告なしの侵略だ」
この避難民、というのが厄介だ。
あそこでここに立ち入る事を認めれば、奴らは我が物顔でこの島にやってきて、俺が作り上げてきた物全てを否定してこき下ろし、ぶち壊しにしたに違いない。
それを防ぐにはああするしかなかったし、効率的に先兵を追い返すには一番良かった。
それに、魔王に言った事にも嘘はない。
一つ要求をのめば次々と要求をエスカレートさせてくるのが人間というものだ。
それを防ぐには、ああする他に無かったというだけの事で、その引き金を引かせたのは魔王だ。
「これまでにも散々思ったけれど……今回のは特に、最低だよ」
それだけ言うと、フレーアルは立ち去った。
俺は俺の身を守るのに必要な事をしただけなのだが、まぁ理解される事ばかりではないからな。
間違いを許し、認める度量は、どんな人間にも必要になる物だ。
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