表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/30

2話 リセマラの始まり

「さて」


 おおよそ布と名のつくものは一切合切なにも身に付けない状態で、元アメーバが仁王立ちに立ってこちらに向き直る。

 とにかく目のやり場に困るんだ、何とかしてくれ。


「よし判った、なんとかしよう」


 そいつがそう言うと体全体がまばゆい光に包まれ、それが収まった時、股間部分に葉っぱが一枚ひっついていた。一応股座は隠されている。


「わぁ……おおきぃ……なんだろう、くぬぎかな……?いや、ちがうな……くぬぎの葉は、もっと幅が広いもんな、ばーって……」

「一応まずい所は隠したが、まだ何か問題が?」


 ありまくりだ馬鹿野郎


「おいおい、私は一応女神なんだから、野郎はないだろう。せめて女郎と……」

「そういう問題じゃねぇ!?」


 ツッコミが居ない。その恐怖を俺はひしひしと感じていた。


***


「さて、真面目に説明しようか」


 突然、この上もなく真面目ぶった表情になると、元アメーバが語り始める。


「ご主人様、君を転移させるのはいわいる「ゲーム的なヨーロッパ風」の世界だ、ナーロッパと言ったほうが通りが良いかな?」

「つまり魔法あり、スキルあり、古代文明あり、レベルあり、ステータスオープンあり?」

「話が速いというのはとても助かる。ちょっと前までは「ドラクエ風」だの「FF的」だのと言っていたんだが微妙に掠らないからね、「エルダースクロール風」と言った所で洋ゲーRPGやらない人には意味不明な状況だ」


 俗っぽいなお前


「神様なんて素面でやってられる奴がいたら、それこそそいつの正気とSAN値を疑うよ、あとインポスターじゃないかと疑うよ」


 殺される神様とか聞いた事無いので吊りますね^^


「まぁ待ちたまえ、ここで私を吊っても意味はない……という小洒落た冗談はさておいて、だ」


 こほん、と空気を入れ替えて、元アメーバが続ける。

 そういや元々アメーバなんだよなこいつ……それに欲情してた俺っていったい……


「何を遠い目をしているんだい、説明を続けるよ?」


 説明は概ねどっかで聞いたような状況だったので、半分聞き流す。

 まぁ向こうも、最初に端折ってるのでお互い様だろう。


「まぁ、概ね判った……好きにやっていいんだな?」

「あぁ、目的達成とみなされるまで、例え死んでも私が再度転生させよう」


 懸念点を確認、問題がない事に内心安堵する。


「いいかい?5歳になったら君の記憶が目覚め、同時にスキルが芽生える。そのスキルを活用して生きていくんだ。スキルは一つ、ランダムで必ず付く……じゃあ、私も直ぐに追いかけるから、待っていてくれよ、ご主人様」


 元アメーバが何事か唱えると、光が俺を包む。

 視界が白く塗りつぶされ……俺は意識を失った。


***


 意識が戻った時、体が思う様に動かなかった。


 声を出そうにも出てくるのは「あ~」だの「う~」だのと言った意味を成さない唸り声のみ

 さらに視界もぼやけて周囲に何があるのかが判らない。


「どうしたの~?おなかすいたかな~?」


 不意に視界全体が暗くなり、何か話しかけられながら持ち上げられる。

 おそらくは親、女親だろう。

 どうやら本当に転生はした様だ、となれば、動けるようになるまではホントに何もできないはずだ。

 目の視点がようやく会うあたりに、女性の顔が映った。

 まだ幼さも残る、柔らかそうな銀髪の、優しそうな表情が其処にある。

 年齢は、まだ15か6、と言った所だろうか


 これ以上考えても意味はない。

 俺は暫くの間、思考を放棄する事にした。


***


 そして時は流れて、5歳。

 物心ついてから、毎日の走り込みと覚えているスポーツ科学に基づいた徹底的な訓練の結果、同年代とは一線を画するフィジカルを手に入れていた俺は、ふと目が覚めた時、もうスキルが身についていることに気が付いた。


「ステータス」


 簡単な言葉を言い放つ、それと一緒に、「それを見ることができる」と強く思う。

 そうする事で、自分の能力……ステータスを見ることができる。


「えぇと……」


 これまでにつけられた家庭教師が皆驚愕した数値はスルー、こんなもの後から装備でいくらでも補正が効く。

 それよりもスキルだ。


 与えられたスキルは「神弓」

 弓、機械弓、対城弩……その種類を問わず、弓を己の手足のように操り、その一撃が獲物の急所を外すことは無い、まさに弓の申し子、と言われるようになるスキル。


「ゴミだな」


 けれど、俺の目的には合わない。

 しかしスキルは交換も変更もできなかったはず。


「しかしどうすれば……あ、そか」


 どうやって、スキルを別のものにするか、それを考えていた時。

 「死んでも目的達成までは転生させる」と言っていたアメーバの言葉を思い出す。


「よし」


 そして俺は、建物の最上階、高い塔の最上階から、下にある尖った柵めがけて、身を投げた。

 狙いたがわず、十分に勢いのついた俺の体は、先の尖った柵に貫かれる。

 痛みを感じたのは短い間、そして俺は意識を失う。


***


「えぇ……」


 再び意識が戻った時、テレビで俺の様子を見ていたのだろう元アメーバがドン引きしていた。

 画面に映っているのは、俺の死骸を発見して泣き崩れる女親と、言葉もなく膝から頽れる男親。

 ま、こんな茶番はどうでも良いんだ、何の価値もない。


「さ、次」

「いやあの……え?この絵面見てなんとも……?いや再転生は問題ないんだけど、なんでいきなり自殺したのかは教えてくれないか?」

「スキルが狙ったのと違ってた」

「……いや確かにこれは効率良いけれど……けどこれは……」


 画面の中では俺の葬式が始まっているようだ、女親が死骸に縋りついて泣いている。

 ありゃ無理だな、心が壊れてる。男親の方も次の妻探したほうが話は早いだろう。


「……ほんの僅かでも、両親だった人たちの姿に、思う事はないのかい?」

「なにが?そんな事より次の準備だ」


 一々名無しのNPCに構ってられる程ヒマじゃないだろ、時間は無限にあるとしても。


「リセマラはスピード命だからな、回数こなさなきゃ」

「ご主人様、私は今君を恐ろしいと思っているよ……どんなスキルを求めてるのかは、教えてくれないか?」

「制作系だな、錬金術とか、クラフトとか、そういうのが良い」

「そりゃまたどうして?」


 元アメーバの疑問に、俺は軽くため息を吐く。元単細胞生物だけに察しも悪いらしい。


「言わなくても、心位読めるんだろ?」

「まぁ、ね……ただ、ご主人様の口から聞きたい、ご主人様なら、心と思考で真逆の事を考えててもおかしくない、と考えを改めたからね」


 なんとも、疑り深い神様だ、俺はため息をつきつつ口を開く。


「とりあえず転生先は貴族っぽいのが判った、正直面倒くさいし関わり合いになりたくない、なんかクリエイト系のスキルが付けばああいう所は家の恥とか言って追い出そうとするだろうから、そっからどっか無人島にでも行ってスローライフを目指す」

「普通の相手なら、神の加護受けて求める生活がそれかいっ!って突っ込むところだけど、ご主人様の場合それが一番の正解の様な気がしてくるから複雑な気分だよ」


 そりゃどういう意味だ。


「ところで、元アメーバ」

「それだよ……一応、もうアメーバの姿は取ってないんでね、できれば名前で呼んでもらいたい」

「教えてもらってないんだが」

「ま、無いからね……仮に「フレーアル」とでも呼んでもらうよ」

「判った、フレーアル、ここから回転を上げていく」


 遅れは取り戻さなくては。

 そういう俺に、フレーアルは何故か大きくため息をついて見せた。


***

 2回目:スキル「英雄の腕」……リセット

 3回目;スキル「精霊に愛されるもの」……リセット

 4回目:スキル「竜人化」……リセット

 5回目:スキル「愚者の機転」……当然リセット

 6回目:スキル「太陽の使徒」……リセット

 7回目……

 8回目……

 1025回目……


「うん、ちょっとそのリセマラ待とうか」


 流石に待ったがかかった。

 けど確かに、ここらで一回休んでもいいだろう。まったく、これだけ引いてるのに目当てが欠片もでないとか、クソ仕様にも程がある。


「あぁ、少し休む……俺の引き運、ここまで無いとは」

「いやどれか一つ取っても十分英雄になれる奴だからね?」

「他に人間の居ない無人島で英雄になれるスキルがなんの役に立つんだよ、それならDIYが上手になる、とかのスキルのが有難いわ」


 そこで、フレーアルがあぁ、と得心が行ったように頷く。


「なるほど、つまりご主人様はほんとにスローライフ系を目標にしている訳だね」

「あぁ、目立つことなくひっそりと細やかに生きていたいんだ」


 つまり、自給自足だ。

 勿論、現実の自給自足が言うほど簡単じゃない、という事位知っている。

 テレビで流れるような「自給自足」は「短期間かつ少なくとも政令指定都市級の大都市が近くにある」前提で成り立っているのだから。

 しかし、出来るはずだ。

 魔法やらスキルやらって反則(チート)があるこの世界なら。

 完全な自給自足も出来るはずだから。


「さ、休憩も十分にとった、リセマラの続きだ」

「……ご主人様、今私は幸福量保存の法則ってのはあるんだなって実感してるよ」


 なぜか、ため息つきつつフレーアルがそう言った。

 なんでだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

\製品版が聖華文庫より発売/
詳細は下記画像をタップ!


導線バナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ