19話 魔と人、戦う
如何なる場所、いかなる戦いにおいても、私と私の率いる軍勢は敗北の二文字を喫することは無かった。
サンベルタの地を公皇より委ねられ、新たにリュケイオン魔国の建国を宣言、まずは、混乱し疲弊する国内の平定と改善に取り掛かる事とする。
「さて、各国の様子はどうか?」
「……魔王様におかれましては本来喜ぶべき事ではありますが、各国に混乱が広がっております」
「まぁ、皆複雑な気分にもなるだろうが、こんな魔王の配下になったのが運の尽きと諦めてくれ」
正体不明の病はいよいよその動きを激しく変化させ、罹ったもので助かるものはいない、と言われるほどのものとなった。
ここまでくると、病の方も猫を被るのをやめたのか、これまでも容赦なく殺しにかかってきていたのがますます隙を減らしてくる。
熱が出てから三日。
それが、この病に罹ったものに許された時間であった。
老若男女の区別なく、人を滅ぼす毒。
そして私は、大きな油断があった事を、身に染みて理解する事になる。
***
「……鳥が大量死?」
「は、近隣の住民からしても、過去に例のない事だとの事……一部の死骸をアクレピオスが解析の為に持ち出したほかは焼却処分にしております」
魔軍幹部の一人、蒼角のティールが持ち出した報告。
それが、破滅の引き金だなどと、誰が理解できただろう。
少なくとも、私はそれを見逃した……何故ならば、目の前にもっと対応に急を要する、切羽詰まった問題が起こっていたために。
魔王討伐の諸国連合。
そんなものが急に持ち上がり、このリュケイオンへの侵攻軍が揃えられているという情報が入ったのだ。
ここには、サンベルタの住民たちも多く暮らしているというのに、だ
「さて、諸君……こんな事をしている暇はないと十分承知の上で、人々が我々に対抗するために軍を起こした」
「まったく、死病が世界を席巻しているという時にご苦労な事ですな」
「然り、よもや全てがそこまで阿呆ではないと思いたいが」
会議室に集まった幹部たちに声をかけると、早速バエルとバフォメットが渋面を隠そうともせずに言う。
「或いは、死病が世界を席巻しているからこそ、かもしれませぬ……人間の間では、この病は魔王様が世界中の人間を滅ぼすためにばらまいたという嘘が信じられているとの事……」
バエルと同じように、狡猾な老人の顔をしたラーメイが、その長く伸びた髭を撫でつけながら言うと、対面に座るオルムがドンとテーブルに拳を叩きつける。
「なんなんだそりゃあ!俺らがそんな姑息な手ぇわざわざ使うと本気で思ってんのかよ!人間の奴らは!」
赤龍という種の逆鱗に触れるような誤解だ、というのは判らなくもない。それでも窘めようと口を開こうとした所に……。
「落ち着きなさいなオルム、半分はプロパガンダでしょう?」
透き通るような艶のある声が、オルムを押しとどめる。
声の主は深い紺の長髪を揺らして微笑んだ。
淫魔の女王、ラーグ……その名に似つかわしくなく肌の露出が少ないドレスを揺らして……おそらく、指でも振っているのだろう……彼女は言う。
「対処しようにも原因すら判らない死病が流行し、そこに魔王様が顕現、三大国家の一つがあっさりと敗北し、魔族に寄る国家誕生……色々なプロバガンダと合わせて、一応戦うそぶりでも見せておかないと、国が割れて対処できなくなる、とでも考えたのでしょう……噛みつかれるこっちとしては、いい迷惑だけど」
やれやれと肩をすくめるラーグを見て、その色香に惑わされたのか、それとも自分よりもはるかに小柄な少女にやり込められて、怒る訳にもいかない、となったのか、オルムが仏頂面で腕を組み、自分を落ち着けるように目を閉じる。
「いずれにせよ……」
私は、場が一度静まったのを確認して声をかけた。
「いずれにせよ、我らも軍を出さねばならぬ、今、戦いは本意ではないが座して死を待つのが愚かな事に変わりはないからな」
私に注目する全員が、静かに頷く。
「皆、軍を立てよ、私自らが総大将として立つ」
***
軍勢は、双方ともそれから一月と立たぬうちに整った。
主戦場となるのは、サンベルタ大陸と、旧大陸の間にある大陸。
その東西両端から上陸した両軍は、互いに占領地を増やしながら平原の多い中央部を目指した。
「なんとも、集めも集めたものですな」
「……なんたる事だ、訓練を受けた兵ばかりではないぞ、あれは」
バエルとオルムが、布陣した敵軍を見てそれぞれに思った事を言う。
なるほど、オルムの言う通り同じ隊列内で装備に激しい差がある。
ものに寄っては、杖のようなものを持ち、荷馬車に詰め込まれた若年の平民らしい者が見て取れた。
まだ十代になったばかりだろう少年少女が、先端を鉄でコーティングしただろうだけの棒を持たされて、最前線に立たされているのだ。
「オルム、騎兵5部隊を預ける、荷馬車の前衛をどけてこい、間口を作ったらそこに突入、食い破るぞ」
「御意」
オルムが一礼し、地走竜騎兵を連れて突撃を敢行する。
竜騎兵に追われた平民の荷馬車群はまさに蜘蛛の子を散らすように逃げ回る。
そう、きっと、誰の目にもそう見えた。
いや、常識であればそうあるべきものだった。
しかし、事は我々魔族の想像を超えてきたのだ。
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