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15話 広まる滅び


 世界中に送り込んだ自律型偵察ゴーレムが様々な情報を持ち帰ってきた。

 どうやら、症状を重くしたインフルエンザは世界各国を席巻し、パンデミックを起こしているようだ。

 ちょっと重い風邪位で社会機能がマヒするなど、この世界の人間は労働力としての自覚が無いのだろうか。


「あのね、ご主人様、知らないようだから言っておくけど、インフルエンザは死ぬ病気だからね?」

「なに誰もが知ってる当たり前のことを偉そうに解説してるんだ、頭沸いたか?」


 スペイン風邪がパンデミックひきおこして歴史に残る死者出してるからな、そんなことは小学生でも知っている。


「ならなんでそれを更に遺伝子レベルで強化して人類必ず殺すウィルスみたいなモンつくったんだ!」

「もうずっと人大杉定期」

「そもそも死亡率高い世界だから全世界足しても1億人くらいだよ!因みに惑星サイズは地球の4倍!」

「人大杉」


 多すぎる、間引きは適度に行われなければならない。


「君の基準で考えたら世界が滅ぶ」

「その程度で滅ぶ世界なら滅んでしまえ」

「なにかい?君は定期的に世界を滅ぼさないと生きていけない病にでもかかっているのかい?ご主人様」


 フレーアルの声音は心底呆れていた。

 

「フレーアル、これは警告だ。魔の島に行ったやつが致死性の病気にかかって死んだ……それが何回か続けば、死の呪いを恐れてこの島に人を向かわせようって奴は間違っても居ないって状況になるだろう」

「ご主人様、君はその為にヒトが滅びに瀕しても良いってのかい?」

「自然全体からすれば小さなことだ」


 極端な話、人が滅ぼうが惑星は何の問題もなく存在し続ける。

 個人が死のうが社会になんの影響もないのと同じだ。

 まして俺は人に感染するウィルスをバラまいただけ。

 あとは知らん、ヒトが勝手にやった事だ、という奴だ。


「俺は一人でも殺すどころか殴ってすらいない、それでも人が死ぬことの文句を俺に言われたって理不尽しか感じないぞ」

「こいつは……はぁ……」


 なぜか諦めたようにため息を一つつくフレーアル。

 何度も言うが俺は直接の危害は加えてないし、警告以上の事はしていない。

 もしも人が数を減らして居たり、滅びの危機に瀕しているのだとしても、俺は「或いは万が一、間接的に関わっているかもしれないが基本的に無関係」の位置にいる。

 バタフライエフェクトで話をされてはたまったものではない。


***


 気持ちを切り替えて、改めて島の開発に目を向ける。

 まずは防備を整える事に躍起になっていて、住処は未だにガレオンのままだ、別に困らないのでこれはこれでいいのだが、地に足着いた家が欲しくないと言えばうそになる。


「建てるか」


 例によって魔法で作り出したゴーレムをエンチャントで動かす。

 自動制御は素直でいい。

 家に使う建材の内、石材は石切り場からゴーレムとして自走させる事にした。コンベアは常時防衛設備の増設と弾丸制作でフル稼働しているから、他に回す余力はない。

 せっかく資材その物に動いてもらえるなら、それを使わない手はないというモノだ。

 壁その物として生成したゴーレムを建物を建てる位置まで移動させ、配置した所でゴーレム化を解除、そうするとゴーレムはそこでただの石壁に戻る。

 それを建物の形になる数行えば、外壁が完成、床は木板型のウッドゴーレムで同じように貼る。

 ひとまず、四畳一間の家が完成した。

 ここに居れば基本的に防衛設備にも生産設備にも指示が出せる。

 俗に一国一城の主、とかいうが、実際城の様に大きな建物など必要ない。

 立って半畳寝て一畳、それだけあれば人は十分なのだから。これでも大きく取った方だ。


 ちなみに女性用の建物は同じようなやり方でフレーアルがさっさと建てていた。本人曰く「君にやらせると碌なことにならないから私がやる」との事だ。

 全く持って、こっちをよく理解するようになったもんだ。

 ともあれ、家は完成した、水源から水を引いて上下水道完備、風呂も入れる。

 3畳一間4人部屋、風呂キッチンなしトイレ共同の社宅に比べればなんと素晴らしい事か。

 ほんとあれは、部屋というよりも保管場所だったな。

 労働者と言うリソースを低コストで大量に保管しておくための保管庫だ。


 ともあれ、スローライフの準備は整った。

 畑なんかも完全自動化+専用ゴーレムで24時間運用可能にしてあるうえに、こっちが何か手を煩わせる必要は全くない。

 最近始めた魚の養殖なんかも同じで、ある程度の大きさで区切った海中プールで魚を増やして食べられるようにしてある。最も、卵から育てている訳では無いので、養殖というよりは畜養に近いかも知れないが。

 山中の鹿牧場も同じく畜養だ。全てゴーレムとエンチャントを利用して完全自動化&精肉まで自律可動にしてある。

 ちなみにこの生物、便宜上鹿と言っているが、肉質は牛に近い。

 変な所で異世界感出された気分だった。

 時間が経過すれば、畜養は養殖へと変化し、さらに安定感を増すだろう。

 勿論それでもやる事は山積みなのだが、忙しさに殺されるような状況は回避する事が出来ている。


***


「本当に、何時間かで家を建ててしまうんですね」

「それが、ご主人様の恐ろしい所さ、発想の形が私たちとはまるで違うんだ」


 組みあがった岩石製プレハブを前に、フレーアルとミリシアが話し込んでいる。

 プレハブでこんなに驚いてたらユニットモジュール形式見たらどんな顔するんだ此奴らは。


「こんな技術を思いついて実行できるなんて、ご主人様は凄いです!」


 リーザは見た事もない技術に本心から驚き、感嘆しているようだ。


「この建築技術一つ、金子でも取って指導すればそれなりの大金は易々と稼げるでしょうに、なぜこんな島で隠匿生活をしているのです?」

「……俺は俺の名も、技術も、この世に残る事を望んでいない」


 ミリシアの言葉に、すぱっと答えを返す。


「ちょくちょく思っていた事ですが、ご主人様は変わり者なんですね」

「悪いか?」

「個人の趣味嗜好は好き好きですから」


 ミリシアはそれほどこちらに濃く関わろうとはしてこない。

 ナニする時は甘えに甘えたわんこだが、普段はまさにクールな狼、という感じだ。


「……富も名声も要らない、という方はたまにお見受けしますが、ご主人様はそういうのを抜きでその力や技術を世の中に役立たせよう、とも思われてないですよね」

「そもそも関わってないからな、なんで身銭を切って見ず知らずの人間を助けてやらなきゃならん」


 控えめにいうリーザには、少し強めにいう。

 いついかなる時も、見ず知らずの人間と関わる時は敵意以外向けてはならない。

 それ以外を向ければ、そいつは次々に図々しく要求を積み上げていくのだから。

 「ネズミにクッキーかすをやると、次はミルクを欲しがる」とはよく言ったものだと思う。

 俺はお前に関わらない、お前は俺に関わらない。

 すべてが丸く収まる答えは常識の内にあるというのに、なぜそれをできないのか、俺は常々不思議に思う。


「ご主人様は孤高です、しかし、人々は弱いのです、手を取り合わなければ生きていけません」

「その弱さに胡坐をかいて努力と前進を怠っていいという法はないぞ?」


 こいつらも、やはり俗の側に位置する人間だ。

 俺とは、絶対に判り合えないし、俺も判り合う気はない。

 性処理用の人形、それ位に思っておけばいいという事だ。

 一つの納得が、俺の気持ちを少し晴れさせた。


「ご主人様の最低限の一歩は、並の人が100年かけて歩く道だ、という事をどうか知ってください」

「……リーザ、お前は奴隷の立場で俺に説教しようというのか?」

「いえ、そんな事は……」


 威圧し、黙らせる。

 やはりこれが一番いい。


 ようやく静かな時間が戻り、俺は作業に集中した。

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