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12話 引き金


 射石砲の砲撃が終わって、完全に力の抜けたミリシアが俺にしなだれかかる様に眠りについてから数時間。

 あの後、ミリシアを探しに来たらしいリーザも満足させると、俺は漂着物探しを始める事にした。


 とりあえず人間の死骸は剥ぎ取れるもの剥ぎ取ったら海にぽい。

 息のあるやつは念のためとどめを刺しておく事も忘れない。

 そう、そうしたら海に流してやればいい、後は海が清めてくれる。

 使えそうな残骸なんかは纏めて集めて資材にしている。

 一人で見て回るのは限界があるが、当然見回り用のゴーレムも存在し、俺と同じように死骸からは使える物を剥ぎ取り、まだ息のある者はとどめを刺してから海に流すようにしている。


 肉と内臓は肥料、皮と骨は素材と人間も捨てる所はないもんだが、元アメーバとリーザ・ミリシアの三人に全力で止められたので妥協点としてこうしている。


***


「しかしまぁ、流れ着く死骸のほとんどは焼け焦げて生きてる奴も時間の問題の大火傷だしな、助からない奴を助けようとするのは無駄の一言だ」

「それをしたのは誰なんだ、と私なんかは全力で言いたい訳だけどね」

「こいつらがこっちの主権を侵さなければこんな事にはなっていない、こいつらが自ら招いた事で、俺は正当な権利を行使したに過ぎない」

「だからと言って、体の内も外も焼いて殺すなど……ただ海を航行したというのは、君にとってこれだけの罰を与える程の罪だというのかい?」


 フレーアルがまた頓珍漢な事を言っている。

 何度も説明しているが、俺は別に先制攻撃をして世界全てを焼き尽くそうとしている訳じゃない。ただ俺の領域、俺の領分を侵してくる奴らが居るから、正当な権利の行使を行っているだけだ。

 あいつらがこっちを認識しそうな距離に近づいてこなければ、俺もあいつらを攻撃したりなどしない。

 俺は目立ちたくないんだ。

 ただひっそりと生きていたいだけなんだ。


 なんで、それを判ってくれないんだ。

 それをフレーアルに言った所で理解はされないと判っている。

 それでも、誰かに知ってほしい、気づいてほしいと思うのは、贅沢な願いなのだろうか?

 有名になりたいだとか、世界一の富と名声を手に入れたいとか、そんな大それたことなんて望んでいない。

 普通の幸せ、普通の生活を望むのは、そんな許されざる罪なのだろうか。


「それを悪いとは誰も言わないさ、ただ、君のやり方が悪いと言っているだけだ」

「ならどうするんだ、良い様に蹂躙される事を良しとして、奴隷として生涯を過ごせと?」

「なぜ君は殺すか殺されるか、奪うか奪われるかの二者択一しか考えられないんだ、ともに歩く道なんていくらでもあるだろう?」

「俺はお前ほど考えなしでもなければ、人間を信用もしては居ない」


 やっぱりこいつは単細胞生物だ。

 人間とは裏切る生き物だという事を理解していない。

 人間は他人から奪ってこなければ幸せになどなれない。

 自分の幸せとは、他人の死骸の山の上にしか存在しないモノなのだから。

 そして誰もが、幸せになりたいと、周りの人間全てが不幸になれと心の底から純粋に願い、祈っているのだから。

 それはきっと、どこまでも純粋で、祈りにも似た願いだろう。

 奪わなければ、奪われる。

 奪われたくなければ、奪い続けるしかない。

 それを邪魔しようとする奴は、力を持って排除するしかない。


 特に、これからは。


「……」


 ……やめろ、その目で俺を見るな。

 お前に、そんな憐れみ、蔑んだ目で見られる謂れはない。

 

 俺の胸中を判る筈もなく。

 フレーアルの視線は、ただ俺を貫いていた。


***


 それから数日……

 夜の間に寝床に潜り込んできたリーザを満足させてから、城砦の様子を見て回る。

 南側、最近いよいよ危険性を増してきた森に面した壁が騒がしい。

 また小型の獣が追いやられて死んでいるのだろうか?


「……なんだこりゃ?」


 そこに見えたのは、それなりの数の人間の死骸だった。

 どれもがある程度の武装をしている。軽く調べてみると、紋章はグリューネベルグの物。

 思ったよりゆっくりだったな、辺境伯殿は平和な時代が続きすぎて平和ボケしているのかもしれない。

 人数としては十数人程度、恐らく偵察だろう。

 いつ死んだものかは判らないが、腐敗臭もしないのだからそう時間が経っている訳ではないはずだ。


「他の魔獣に混じって、接近を許したか」


 とりあえず、壁に何か細工された痕跡はなく、火を焚いたような跡もない。

 しかし、油断していい、という訳ではないな。

 当然これが全部という訳がない、半分は生き残って報告に戻ったと考えるのが自然だ。

 他と同じように、使えそうなものを全て剥いで、死骸は余計なことはせず森に投げ込んでおく。

 がさがさと物音がして、なんらかの気配が投げ込んだばかりの死骸を持ち去っていった。

 獣は不快だ。人ほどではないが。


「……」


 ゴーレムを数台追加で作る。

 もしも生きている人間が居たら、捕らえられるようにトラップを仕込んで。


***


「……なぁ、ご主人様? 君の奇行は今更だからある程度スルーするけど、こりゃ一体全体どういう腹積もりだい?」


 ゴーレムが捕えてきた、恐らくは先日近くを航行してた連中の生き残り。

 それを見ながら、フレーアルが訝し気に尋ねてくる。

 同じように檻の中の連中を見ているミリシアとリーゼも不安そうだ。


「……失礼な、ちゃんとこいつらを郷里に送り返してやるだけさ、お土産付きでな」

「……レムナント様、あなたがそんな事を考える事なんて、あったんですね」


 リーザの一言に、何か言い返してやろうかと思った所で、それをかき消すように声が聞こえた。


「レムナント!? レムナントなのか!!」


 檻の中で金髪碧眼の鍛えられた体を持つイケメンが驚いたような表情を浮かべながら、檻を掴んで叫ぶ。


「レムナント! 俺だ! 覚えていないか!? アルフレッドだ! お前の兄だ!!」

「知らん、俺に親兄弟は無い、家も無い」

「何を言っているんだレムナント! 判るだろう!? お前もグリューネベルグ家の一員なんだから!」


 うるさい。

 当初の予定通り、石棺で檻を包み込み、完全に密封した別の石棺から、中の空気を送り込む。


「……何をやっておられるのです?」

「彼らには、ちょいと風邪を引いてもらう。高熱は出るが、すぐに行動不能になる訳でもない、大人しくしている間に帰ってもらうんだ」


 数日後、石棺を移動艀に乗せて、魔法的な動力でグリューネベルグの適当な港に帰還するように送り出した。


「……ほんと、何をやらかしたんだい? 今度は」


 フレーアルには、意味深な笑みを浮かべる事で答えにする。

 まぁ、あいつらが自己隔離して、一ヶ月もじっとしてれば何の問題もない話だ。

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