学校の正門でロボに追いかけられたのでとりあえず逃げる!
遅刻だ 遅刻だ
うっかり目覚ましをセットし忘れたのが敗因だ。そのせいで朝飯を抜いて全力で高校への道へひた走っていた。
横断歩道を駆けぬける。目の前の角を曲がれば校門が見える。
キーン コーン カーン コーン
おおう、始業のベルが鳴った。ギアを一段上げて角を曲がる。恐らくは生活指導の鬼瓦先生が待ち構えているだろうが、始業のチャイムが鳴り終わるまでに校門を越えれば大丈夫だ。
校門を颯爽と駆け抜け、すれ違いざまに僕の100万ドルの笑顔(死語)を投げかけてやる!
……って、あれぇ……?
今日の鬼瓦先生、でっかくね?
早朝で目がボケてて遠近感がおかしいのかと、目をごしごし擦ってみる。
う~ん、校門の背の3倍ぐらいありそうだ。あれ~、うちの高校の塀って防犯のために確かに低いところでも3メートルあるんじゃなかったっけ。
うっわ!
これ、鬼瓦先生じゃない、ロボだよ!!
全身銀色の金属でできた人型巨大ロボット。後、数メートルで学校、と言うところでようやく勘違いに気がついた。
…… 我ながら、もっと早く気づけ自分! っと思った。
ピ――――ピッピッ
巨大ロボの額に当たる部分から赤いレーザ光が発射され僕の顔に当たる。
チロチロと光の筋が僕の顔をなめるように照射された。
「カミ…… ノ …… マ …… モル」
ロボがなんか喋った。
神野衛。あーー、それ僕の名前。
ズズン
ロボが一歩前に足を出した。地面が軽く跳ねた。
「カミノマモル ワタシ ワタシト……」
ズズン ズズン とロボが僕に向かって歩き出す。
逃げた。
当たり前だ。
逃げなきゃ踏み潰される。
「ワタシト ワタシト ケッ、ケッ……」
ロボは金属的な音声を叫びながら追いかけてくる。
なんだ、なんだ、なんなんだ!
なにが起きてるのか理解が追いつかない!!
「ワタ、ワタ、ワタト、ケ、ケッコ……」
カッ!! ズビャ―――!
目からビームが出た!!
頭上を光の奔流が通り過ぎ、目の前の道路をえぐり、アスファルトが蒸発して行く。
「うひー」
熱波と衝撃波に尻餅をつく。
ズシン ズシン ズシン
そんな僕のことなんてお構いなしにロボが迫る。手が、海辺で広げるビーチパラソルみたいな大きさの手が迫ってきた。
死ぬ 掴まったら絶対死ぬ
しかし、目の前の道は破壊され進むことができない。前を進むとなるともはやボルダリングのレベルだ。
「こなくそ!」
立ち上がるとロボに向かって走る。
そう。残る道はただ一つ。ロボの両足のわずかな隙間だけだ。その隙間を駆け抜ける。
不意を突かれて驚いたようにロボが片足を上げると、ぐらりと大きくバランスを崩した。そして、そのまま、どうっと呆気なく倒れた。
倒れた拍子にロボの頭部がパリンと音を立てて割れた。
意外に脆いな、ロボよ。
と、割れたところから何かが飛び出し、宙を舞う。
女の子だ。
金色の髪をなびかせながらひらひらと女の子が宙を舞う。緩やかな放物線を描きながら頭を下に落ちてくる。このままでは地面に激突する。
「わっ わっ わっ わっ 」
反射的に女の子を受け止めた。
「なんなんだ、なんなんだ、いったい何だっていうんだ!」
気づけば、気を失っている美少女を両腕に抱えて、突っ立っていた。とりあえず腕の中のものをまじまじと観察してみる。
その美少女は半透明なぴっちりしたスーツを装着している。控えめな、しかし上品な胸が呼吸のため規則的に上下している。
どうやら生きている。なんとなくほっとした。
あ、この服、透けてて、乳首の位置とかわかる…… いや、いや、いや、そんなことを考えている場合ではない!
視線を無理やり少女の胸から剥がすと、そっと地面に下す。下して、どうしたものかと途方に暮れた。と、女の子がパッチリと目を開いた。
「カミノ カミノ」
女の子の声はロボから出てきた声に似ていた。少しキーが高いけどロボから聞こえてきた金属っぽい濁りがなく、格段に耳に心地よかった。
「カミノ カミノ」
好みの声だなぁ、と思っていたら思い切り抱きつかれた。女の子特有、いや、女の子に抱きつかれるなんて初体験だから、特有かどうかはわかりませんが、とにかくすごく柔らかいものが体に押し付けられた。
「カミノ カミノ カミノ カミノ!」
なんか、さっきからしきりに名前を連呼されているけど、この子、知り合いだっけ? いや、絶対初対面だよね。
「カミノ ワタシト ケ、ケ、ケッコン」
ケッコン……? 血痕? 結婚??
「ケッコンって、最近はやりの多様性の時代だと一口で表現するのが難しいけど、赤の他人が生活を共にする的なやつ?」
女の子は僕の問いにコクリとうなづく。顔がみるみる赤くなった。
「ソ、ソ、ソウ ワタシ ト カミノ ケッ、ケッ、ケッコン……」
カッ! ビ―――――
うわぁ、目からビームが出た!?
反射的にのけぞってギリギリかわした。
なんだよこの子、素でもビームだすのかよ?!
あ―――、なんだ。その後、その謎の女の子からいろいろ話を聞いた。
何度説明されても頭に入ってこないので、とりあえず言われたことをそのまま伝えることにする。
女の子の名前は、ピエル=エーゼルガーシェ=#412P。末尾に記号みたいなのが入っているけど気にしないこと。僕は彼女のことをピーと呼んでいる。うん、彼女も気に入ってくれているからまあ、それでいいじゃないか。
で、ピーは僕たちとは違う次元の宇宙の出身らしい。彼女の世界は滅亡の危機にあるらしいけど、僕と彼女が結婚すれば救われるらしい。
意味が分からない?
だから最初に断ったでしょ。その手の苦情は全て却下。
結局ピーは押しかけ女房的に我が家にいる。厄介なことに父さんも母さんも、ピーをいたく気に入っている。僕の家的には既にピーは内縁の妻らしい。
まあ、ピーは美少女だ。性格も悪くはない。嫁と言われてもまんざらでもない。ないのだが……
「ね、これ飲んでみなさい」
夕食の時だ。母さんが差し出した味噌汁を受けとる。一口飲んだ。
「どう?」
「どうって、いつもと変わらないよ」
僕の答えを聞いて、母さんとピーがハイタッチをした。ニマニマと薄気味悪い笑顔で母さんが言った。
「それね、ピーちゃんが作ったのよ」
「そう。うまいよ。母さんが作ったのかと思ったよ」
目の前のピーにそう言う。
「ソ、ソ、ソウカ ウマイ カ ウマイ カ
カッ、カッ、カッ ……」
ピーは顔を真っ赤にして片言でぶつぶつ言い始める。これは良くない兆候だ。僕はお膳と晩のメインの皿を手に取り腰を浮かす。横では母さんが鍋、父さんがサラダボールをかかえて逃げる体勢に入る。
「ワタシ ウレシイ」
カッ! チュイーーーン
ピーの目からビームが発射され、我が家の壁を切り裂き屋根を吹き飛ばす。
ピーは照れたりして、感情がたかぶると目からビールを発射してしまう体質らしい。悪気はないのだ。
僕は慣れた動作で瓦礫をかわす。
ホント、これが玉に傷なんだよなぁ。
と、のんきにそう思う僕にはその頃、地球の軌道上に怪しい重力歪みが発生していたなんてつゆとも想像できなかったんだ。
でも、まあそれはまた別のお話。
2021/10/17 初稿
2022/10/08 誤記訂正
アホリアSS様よりいただいた
イラストを末尾に追加
2022/10/30 イラスト差し替えました
本編のイラストの著作権 (С)アホリアSS