僕とトマトとお世話係
こんにちは。
焼き肉&カラオケオールのせいで寝過ごしました。頭いちゃい……
総合評価500Pt&ブックマーク100件突破することが出来ました!ありがとうございます!!
これからも頑張って書いていこうと思います!!
白み始めた空が朝の訪れを告げ、緑豊かな壁面に生えた木々から甲高い歌声が響く。そちらにちらりと視線を向けると、美しい瑠璃色の鳥が数羽集まって即興の音楽会を開いているところであった。
やはり外の世界と直接繋がっている入り口は少し違うのか、あの洞窟の中よりもこの場所では野生動物を見る機会が多い。
視線を下に向けると、柔らかな下草の生えた緑色の絨毯が視界を覆い、その上をキラキラと光る何かを運ぶ小さな蟻のような虫が隊列を成して歩いていくのが見えた。
その自然そのものと言った光景を目にして、ふふふ、と口から笑みが溢れる。
ああ、自然というのはやはり落ち着く。こうして小動物たちの営みを見ているだけで、僕の心は穏やかになり、清々しい気分になっていく。
『✕✕、✕✕✕。✕✕✕✕✕』
つい、と顔を横に向けると、そこには体に鎖を巻かれた猪がモリモリと眼前に積まれた草や果実を食べている所だった。
どうやら彼が食べていた結晶は必ずしも食べないといけない訳ではないらしく、時折巻かれた鎖が鬱陶しそうに体を揺するものの、基本は大人しく出されたものを食べているのであった。
美味しそうに食べるなあ、と僕は猪の腹に納められていく植物達を見る。結晶で出来た歯はとても強靭らしく、彼は大きな根菜にも似た植物でさえもバリバリと音を立てて噛み砕いている。
『✕✕✕!✕✕✕✕✕!✕・✕・✕!』
ぐっ、と口を引き結んで上を見上げると、ここと地上では温度差があるのか、薄い靄のようなものがこちらに流れ込んでいる様子が見て取れた。
途中で空気中に溶けていく白い靄に光が透過して、様々な色を僕に見せる。その幻想的な光景に、僕は感動で目を輝かせた。
ああ、なんて美しい光景だろう─────
『✕〜、✕✕✕✕✕。✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕……』
『✕✕✕✕!✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕、「✕✕✕✕」?』
『✕✕✕✕✕✕✕ジーク!……✕✕、✕✕✕✕✕!』
「……んやっ!」
─────だからその口元に寄せてくる赤いやつを退けて下さいお願いします。
しかめっ面で僕の口元にフォークらしきもので突き刺した赤いやつを持ってくる「✕✕✕✕」さんを半眼で睨み、ぷいっと顔を背ける。
その僕の態度が気に食わないのだろう、逆に意地になった様子の彼はぐいぐいと頬に赤いソレを押し付けてくる。
『✕✕✕✕、✕✕✕✕✕✕』
「んううう……!」
恨みがましい目で彼を睨むものの、彼はイイ笑顔を浮かべると僕の口元に赤いヤツを差し出してくる。
ほら、もう諦めろ。
そんな彼の声が聞こえるかのような窮地に、僕は思わず涙目になりながら猪にアイコンタクトで助けを求めた。
……あっ駄目だ、猪のやつ食べ物貪るのに夢中でこっちに気付いてない。バカ!アホ!アンポンタン!と心の中で猪に対する罵詈雑言を喚き散らしつつ、僕は潤む視界の中心にその憎たらしい赤いヤツを捉えた。
髪を梳く櫛にも似たオーソドックスな切り方で一口サイズに切り分けられたそれは、真っ赤に染まった実の中になんとも形容し難い黄緑色のゼリーのような物体を詰め込んでいる。
僕の鼻をツンと刺すように漂うその匂いはとても酸っぱいもので、その匂いを嗅ぐだけで僕は記憶が刺激され、苦手なあの味を思い出そうとしてしまう程だった。
うぷ、駄目だ吐きそう。
誰かから出された物は基本ありがたく食べる事を信条とする(と今決めた)僕だけど、コレはその対象外だ。僕はこれを食べる時は世界からコレ以外の食べ物が消えた時か食べるか死ぬかの二択を迫られた時だけと神に誓っている。
……僕をここまで追い詰めている食べ物とは、そう。
トマト(らしき野菜)だ。
『✕✕✕、✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕!』
「うにゃー!いやっ!」
『✕✕✕✕✕✕✕……ジーク!』
『✕✕✕✕……』
「やあああ!!やっ!きらい!」
赤いソレを全力で拒否する僕に業を煮やしたのか、とうとう✕✕✕✕さんは近くで僕たちの攻防をニヤニヤしながら眺めていたジークさんに声を掛けた。
やれやれ、とでも言いたげな表情で僕を捕まえ膝の上に乗せるジークさん。全力で暴れる僕を赤子の手を捻るように簡単に押さえつけると、頬をむにっと押され、強制的に口を開かされた。
ふにぃぃ!!と威嚇の声をあげる僕に惘れた表情を見せるジークさんと✕✕✕✕さんだったけど、涙目の幼女である僕に容赦する事なく、ぽいっと口の中にトマトを放り込むと吐き出す暇もなく直ぐに口を閉じさせた。
『✕✕✕✕✕〜、✕✕✕✕✕〜』
「むぐぐぐっ!」
『✕✕、✕✕✕✕……』
『✕✕✕……』
無理矢理トマトもどきを食べさせられた僕に、他のお兄さん達が可愛そうなものを見る目を向けてくる。そんなお兄さん達の手には僕が食べているものと同じ野菜の入ったサラダが。
今は恐らく朝食の時間。彼らが大きなテントをいくつも建てた野営地、その中央に設けられた広場にて僕たちは朝ごはんを食べていた。
最近の日課としてやっていたラジオ体操が丁度終わる頃合いに動き始めた彼らは、この洞窟で採集しているらしい食材と羨ましい限りの調味料を使い、様々な料理を作っていた。
昨日飲んだものとはまた異なる種類の赤いスープ、バターのようなものが上に乗った熱々のトースター、目玉焼きが添えられた葉物野菜のサラダなど、様々なメニューの中で一際僕の目を引いたのがこの赤いヤツだ。
葉物野菜のサラダの上にちょこんと乗っていたコイツを見た瞬間僕は逃亡を図り、✕✕✕✕さんから即座に捕まえられた。
その後の流れはまあ、先程見た通り。無理やり食べさせられた僕は涙目になりながらも仕方なく咀嚼する。
もしゃもしゃ……と半泣きでトマトもどきを噛む僕を、笑っていいのか悪いのか分からないといった微妙な表情で見守る男たち。
しばらく噛んだ後こくりと飲み込み、トマトもどきを腹の中に送り込んだ僕は、大変不服ながらも口を開いた。
「……うぅ、おいしい」
僕が想像していたような味は一切せず、匂いから予想していた変な甘みや酸味なども一切無かった。
むしろ柑橘類を彷彿とさせる爽やかな酸味だけが実の中に詰まっているゼリー状の部分に集約されており、赤い果肉や皮の部分は全くと行って良いほど味がしなかった。
強いて言うならばゼリー状の部分と果肉や皮の食感の組み合わせが相変わらず苦手だったのだが、そこにさえ目を瞑ってしまえばフルーツと言われても納得できるくらいには美味しい生野菜に変貌していたのだ。
このトマトもどきみたいなトマトがあったなら……!
打って変わって大人しくトマトもどきを食べつつも、うぬぬ、とやっぱり恨みがましい目で残りの欠片たちを睨む僕を、✕✕✕✕さんとジークさんは不思議そうな目で見つめていた。
そんなこんなで朝食を食べ終わると、✕✕✕✕さんは食器を片付けていたお兄さんたちの中から一人を呼び寄せた。ジークさんと同じ金髪の優男風なイケメンだ。
『ケヴィン、✕✕✕✕✕✕✕』
『✕、✕✕✕、✕✕!?』
『✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕。✕✕ジーク✕✕✕✕✕✕✕✕✕』
『✕✕✕✕✕✕!』
『✕✕、✕✕。ケヴィン✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕』
✕✕✕✕さんはその優男さん─────名前はどうやらケヴィンさんと言うらしい─────に何かを指示すると、僕の頭をポンポンと叩いてテントの方へと歩いていってしまった。
恐らくだが、この人が僕のお世話係みたいな感じなのだろうか。
迷惑をかけてしまって申し訳ないとは思うけど、これも僕がこの世界で生き残るためだ。遠慮なくお世話されることにしよう。
むん、とお世話されるための気合を入れ、ケヴィンさんと向かい合う。何故かとても緊張した様子の彼を真正面から見つめると、僕は取り敢えず名前があっているかの確認をすることにした。
えーっと、確かさっきの会話の発音はケヴィンであってるはず……。
「……けびん?」
『ヴッ』
ケヴィンさんが倒れた。
な、何があったんだろうか!?誰がこんな事を!?焦ってあわあわと周囲を見渡す僕の視界に、ゲラゲラと腹を抱えて笑うジークさんの姿が見えた。なんで笑ってるんですかね!?
「だ、だいじょぶ……?」
『✕、✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕……』
カリカリと地面に何かを刻むケヴィンさん。あっ、これなんか今さっきも同じような光景を見た気がするぞ。
何故か放心状態のケヴィンさんの頬をぺちぺちと叩きながら彼を介抱する(つもり)の僕の側に、ブモモンという聞き慣れた鳴き声と丸っこい体が近寄ってきた。
猪だ。どうやら鎖は外されたらしい。
「あ、いのしし」
『ブモ』
『✕✕✕!?』
ふんす、と生暖かい鼻息を僕にかけた猪は、ケヴィンさんの脇腹にゴスッと牙の一撃を加えると、地面に伏せて僕の方にちらりと視線を向けた。どうやら背中に乗れという事らしい。え、君いきなりどうしたのさ。
悶絶するケヴィンさんをちらちらと気にしつつも大人しく毛皮をよじ登りいつもの場所に落ち着くと、何故か猪はケヴィンを見下ろして「ブモモン、プヒッ」となんとなく馬鹿にしたような感じの鳴き声をあげていた。
……本当に、いったいどうしたのだろうか、彼。
リテラチュアとか歌いやすい歌を選んでも89点止まり……
うむむ……歌唱力よわよわだな……