僕とスープと✕✕✕✕さん
異世界ファンタジー日間ランキング155位でした!
ありがとうございます!
今回は餌付けされるようじょのお話です。
前略、怖いお兄さん達に捕まりました。
『✕✕✕✕?』
『✕✕✕✕✕〜』
『✕✕✕✕、✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕……』
「ひえぇ……」
僕と猪の周りを取り囲むように陣取ったお兄さん達は、僕の前にスープらしき汁の入った皿を差し出しながら何事かを言っている。
正直なところ、お兄さん達がもうこちらに敵意を抱いていないというのは理解している。そして、恐らく食べ物を分けてくれようとしているのだという事も。
けど、だからといって感じた恐怖が無くなるかと言ったら、それとこれとは別なのだ。
お腹が鳴った時は正直恥ずかしくてそんな事を気にする余裕なんて無かったけれど、改めてお兄さん達に向き合ってみるとやはり最初の恐怖がじわじわと足元から上ってくるような感覚に陥る。
めっちゃ怖い、とこの場において唯一の味方である猪に抱きついて精神の安定を図る。顔を毛皮に埋め、すーはーと息をすれば嗅ぎ慣れた獣臭さが鼻孔を擽る。
正直あまり良い匂いとは言い難いのだけれど、今の僕にはこれ以上ない程に安心できる香りだった。
「……よ、よし!」
『✕、✕✕✕✕✕✕✕✕✕』
『✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕』
『✕✕✕✕〜』
ぐっ、と体に力を入れて、お兄さん達の方に視線を向ける。僕の様子をじっと観察し続けていたらしいお兄さん達は僕が再起動したことに気が付くと、口元に笑みを浮かべて再び何事かを言いながら僕の口元に器を寄せてきた。
器の中をもう一度覗き込むと、そこにはなんとも美味しそうな金色のスープが並々と注がれていた。
見たところ、コンソメに近いだろうか。たっぷりと時間をかけて作られたように見えるスープからはとても香ばしい香りが漂っており、僕のお腹が再びきゅるきゅると音を立てた。
もう我慢できない。
久方ぶりの温かい食事、それも果物ではないきちんとした『料理』を前にした僕の食欲はもう限界だった。そっとお兄さんの手から器を受け取ると、縁に口を付けつるつると口の中に注ぎ込んでいく。
『✕✕✕?』
「……おいしい」
ぷは、と器から口を離すと、器を渡してくれたお兄さんがにやりと笑いながら何かを僕に聞いてきた。何を言っているかは分からないけど、何となく察することは出来る。きっと「美味いか?」とかそれに近い事を僕に訪ねているのだろう。
一旦器を下げ、僕は笑みを浮かべてお兄さんに一言「美味しい」と伝える。きっと言葉は伝わらずとも、伝えたい意味は理解してくれるはずだ。
そしてその予想は正しかったのか、お兄さんは嬉しそうな表情を浮かべると、僕の頭をポンポンと撫でてくれた。
少し力の強い、けれども温かい感触。
「……にへへ」
思わず笑みが溢れる。お兄さん達の視線が少し照れくさくて、深皿で顔を隠すようにスープを飲んだ。
透き通る金色のスープには匙が無くても食べやすいようにだろうか、細かく刻まれた具材が入っていた。
口の中につるつると入っていくスープは沢山の食材の味がそれぞれを助け合うように混ざり合っており、複雑ながらも調和の取れた深い味わいとなっている。
更にこれは……玉ねぎだろうか?みじん切りにされた野菜と思わしき欠片は僕の舌でも潰せるほどに柔らかく煮込んであり、スープの味とはまた違う仄かな甘みを僕の舌に伝えてくる。
底の方に溜まり始めた具材は、くるくると深皿を動かす事で再び浮き上がらせる。そしてずずっと飲みこめば、温かくも美味しいスープと一緒に小さな具材たちがやってくるのだ。
猪にもこの美味しいご飯を分けなければ。
そう思って下を見ると、僕と同じように耳の長いお兄さんが果物を猪に食べさせていた。
猪は君、ホントに野生動物?と言いたくなる程に無警戒な様子で美味しそうにムシャムシャとお兄さんの手から果物を貪っている。僕の視線に気が付いたのか、一瞬チラリとこちらを見た猪だけど、すぐにお兄さんの持つ果物を食べるのに戻ってしまった。
貪りつつも上に乗っている僕が揺れないように気を付けてくれているようだけど、僕の持つスープには興味を持たなかったようだ。
……いいもんね、スープの方が美味しいし。
スープに欠片も興味を見せなかった猪にムッとした僕は全部飲んでしまおうと一気に深皿を傾けた。
くぴくぴと最後の一滴までありがたく飲み干した僕のお腹は満腹となっていた。スープだけだったらここまでお腹も膨れなかっただろうが、一緒に入っていた具材が良い仕事をしてくれた。
玉ねぎの他にも、人参らしきオレンジ色の欠片や、薄いピンク色のお肉のような欠片、後はよく分からなかった白っぽい欠片など、様々な具材が入っていて、土台となるスープの味に様々なアクセントを加えてくれていた。
具材同士の味も上手く噛み合っていて、甘味や旨味、酸味などの全ての要素が無駄になる事もなく、腕の良い料理人によって完璧に整えられたと思える素晴らしい料理であった。
「ごちそーさまでした!」
『✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕』
『✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕』
食べ終わったお皿を、渡してくれたお兄さんに返却しながらご馳走様を言う。料理を作ってくれた人には感謝を込めて言わなければならない。何かが僕にそう言っていた。
もちろんその言葉に異論は無く、笑顔でお皿をお兄さんに返すと、お兄さんもニッと男らしく笑みを見せながらもう一度ポンポンと僕の頭を撫でてくれた。
彼の後ろでは、優しそうな金髪のお兄さんが笑顔で頷きながら何かを言っている。彼から果物を与えられていた猪は食べ終わって眠たくなったのか、ブモブモと呑気にいびきをかいて眠っていた。
『オッジ、✕✕✕✕✕✕✕✕?』
『✕✕✕✕✕✕✕✕。✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕。✕✕✕ジーク✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕』
『✕✕✕』
何かを言い合っている二人のお兄さん。聞き慣れない言語で交わされるその会話を何となく聞いていると、何やら名前のような単語が会話の端々に現れていることに気が付いた。
僕にスープを渡してくれたお兄さんの名前はよく聞き取れなかったけれど、僕と同じように耳の長い金髪のお兄さんは「ジーク」と呼ばれているようだ。
「じーく、さん?」
『✕✕、✕✕✕……ッ、✕✕✕!?✕✕、✕✕✕✕✕✕!?』
『✕✕✕✕ジーク!……✕✕、✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕?』
「……?」
『……✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕。✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕……?』
『✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕!✕✕、✕✕ジーク、ジーク!』
「じーく?」
『✕✕、✕✕ジーク!』
試しに耳の長いお兄さんを「ジークさん」と呼んでみると、お兄さん達はとても驚いた様子でこちらを見た。
その後に何を言っているのかは分からなかったけど、とても嬉しそうな様子のジークさん(暫定)が何度も自分を指差してジークと言っていたので、恐らく彼の名前は「ジーク」で確定だろう。
問題は僕にスープをくれた黒髪のお兄さんなのだが……
『✕✕、✕✕✕✕✕✕「✕✕✕✕」✕。「✕✕✕✕」』
『……✕✕、ジーク、✕✕✕✕……!!』
「……✕✕✕✕?」
『『ッ!?』』
ジークさんがお兄さんの方を指差して何か言っている。繰り返している所を見るに、どうやら黒髪のお兄さんの名前らしい。
何故か名前を呼ばれたお兄さんは怒ったような表情だけど、どうしたのだろうか。何やらニヤニヤとした表情のジークさんに嫌な予感を感じながらも、僕は取り敢えず彼の教えてくれたお兄さんの名前を呼ぶことにした。
教えられた発音を慎重に思い出しながらお兄さんの事を呼ぶと、何故かジークさんまで愕然とした表情でこちらをじっと見つめてきた。
な、なんだろう。凄く不味いことをしてしまったのだろうか……?
不安になり、半泣きになりつつお兄さん達を見つめていると、フリーズの解けたお兄さん達はいきなり僕の目の前でがっしりと握手を交わした。
『✕✕✕✕✕✕、ジーク』
『✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕「✕✕✕✕」?』
『✕✕✕……✕✕✕✕「✕✕✕✕」✕✕✕ッ!!』
『✕✕✕〜』
「ふぇ……じ、じーくさん?『✕✕✕✕』?」
『『✕✕✕、✕✕✕✕!!』』
「ぴぃっ!?」
なんだろう、凄く失礼な言い方だけど……二人とも本当は凄いポンコツな気がする……。
様子のおかしい二人を心配して僕が呼びかけると、凄まじい速度で反応するジークさんと「✕✕✕✕」さん。その圧に思わず涙目になり、僕は周囲の人達に助けを求めた。
……あっ、凄い気不味そうな表情で目を逸らされた。
あわわわ、とテンションの上がり続ける二人を焦りながら見つめていると「✕✕✕✕」さんから持ち上げられ、猪の上から下ろされてしまった。
安住の地を離れてしまった事に更に焦りと寂しさ、そして辛さを感じてぎゅっと目を閉じると、体を不思議な暖かさが包み込んだ。
いい匂いと言うより、安心する匂いと言うのが正しいのであろう不思議な香りに包まれる。恐る恐る目を開けるとそこは「✕✕✕✕」さんの腕の中だった。
外套のようなもので素早く体を包まれた僕は、どうやら彼に抱っこされているようだ。
『✕✕✕✕✕、✕✕✕✕』
「あ……ぅ……」
優しい表情でこちらに何かを言いながら背中をトントンと叩いてくる「✕✕✕✕」さん。
その軽い振動と暖かさ、そしてなによりも心地よさに解され、今までどこかで感じていた緊張の糸が切れたような感覚を覚えた。
急速に視界がぼやけていく。
瞼の重さが増し、どんどんと視界が狭まっていく。
思考にもやがかかり徐々に夢の世界へと誘われていく中で、心のどこかで彼の事を「お父さんみたいだ」と思う僕がいた。
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