俺とカネレと食糧都市
投稿再開!
今回から第二章「食糧都市グナーデ編」開始です。
この章では名前だけ出てきていた魔獣や魔法についてなどの世界観説明が多くなると思います。
それでもしっかりとょぅじょ描写には力を入れたいと思います。ぅゎょぅじょかわいい。
つい先日、総合評価1000Pt突破しました!!
読者の皆様のお蔭です、本当にありがとうございます!
大陸を東西に横断する巨大な山脈「天蓋峰」から北の大地。俺達が住むフィルシオン王国は魔獣の被害を瀬戸際で食い止めている天蓋峰に隣接しており、まだ人間が住む事が出来るとされる領域「内界」の最南端に位置している。
かつては大陸の南側、現在で言う「外界」に領土を構えていたという王国は、数百年前に起こった魔獣の侵攻によって汚染された領土を放棄。この内界へと移住してきた。
その時の被害はそれはもう凄惨なものであったらしく、いつまでも忘れぬように戒めとして、仮成人となる子供達はその年の建国記念の日に保護者からその大移住について事細かに教え込まれる。
かく言う俺も、この国の成り立ちについて口煩い母親から詰め込まれたクチだ。
しかし、そうして脈々と口伝したとしても、時間というのは残酷なまでに「体感」というものを奪ってしまう。
今では魔獣の恐怖を本当に知る者は当時から生き続けている耳長族か、戦線都市ディクスで日々戦いに明け暮れる戦士達以外にいなくなってしまった。
だが、それでいいのだと俺は思う。
危機感が無くなってしまうかもしれないという点は確かに問題だ。しかし、全員がいつまでも魔獣の恐怖に怯えながら暮らすのが正しい姿だとは思わない。
美味いものを食って笑顔になって、いっぱいになった腹を満足げに擦りながら眠りにつく。そんな当たり前の日々を送ったっていいじゃないか。
戦線都市の戦士達は、自分達が最前線で魔獣を屠る事で人々の不安を打ち消すのだと、確かに魔獣に恐怖する自らを鼓舞しながら戦っている。
ならば俺達は美味いものを腹いっぱい、民にもその戦士たちにも食わせることで、自分達が生きている事を実感させてやろうじゃないか。
その思いを、願いを実現する為に、俺は団長の座に着いている。
「……おっ、見えてきたな」
未だ緑の残る内界の大地、そこに広がる田園風景の中心にドンと立つ白亜の壁を見つけ、団員たちも興奮した声を上げた。
団の統制を乱す程のものではないため黙殺しながら、俺は隣ですぴすぴと寝息を立てる幼子に声をかける。
「おーい、カネレ、起きろー。見えてきたぞー」
「うにゅ……✕……?おとた?」
話しかけるのと同時に軽く肩を叩いてやると、まだ眠たそうな様子で結晶に身を預けていた幼子─────カネレが目を覚ました。
しぱしぱとまばたきを繰り返し、くぁ、と小さく欠伸を漏らす様子は小動物の様に愛らしい。舌足らずな口調も更にふにゃふにゃになっており、言葉になっていない唸り声を上げながら目を擦る。
この年から目を悪くしてはいけないのでカネレの手をそれとなく抑えつけると、少し不満げな翡翠の瞳でこちらを見上げた。
そのあどけない様子に頬げ緩むのを自覚しながらも、彼女が見たがっていた都市の外観を見せてやる。指を指して白亜の外壁を示してやると、その存在に気が付いたカネレはパチリと目を開き、興奮した様子で前のめりになる。
「おぉ……!✕✕✕✕、✕✕!✕✕✕✕!」
『ブモモォ……』
「こらカネレ、危ないだろ」
「わぷ」
寄りかかっていた結晶、彼女が乗っている結晶猪の背中から生えているそれから身を離したカネレに心配そうな鳴き声を上げる猪。
彼女が背中から落ちて怪我でもしたら一大事なので一度抱き上げ、少し考えた後に肩車をする。
ブモッ!?と役目を取られた結晶猪がショックを受けたような鳴き声を上げているが、当の本人は視点がいつもよりも高くなったからかキャッキャと嬉しそうな声を上げている。
……おいこら、頭を叩くな髪を引っ張るな牙で腰を突くな普通に痛いし猪お前は危ない。
「おとたん!おとたん!✕✕✕!✕✕✕!」
「はいはい分かった分かった……」
おそらく街というものを初めて見るのだろう。おー、と頭上で興味深げな声を上げる彼女は、これから触れる未知に期待を募らせているようだ。
ひしっと頭にしがみつく小さな手の感触を感じながら、この子は強い子だと思う。幼くも未知を恐れることなく楽しむ事のできるその姿勢はとても大切なものだ。それがあの『食糧庫』を生き抜く為に否応なく身に着けたものなのだとしても、その価値は変わらない。
「さあ、お前ら!凱旋だッ!」
『応ッ!!!』
次第に大きくなっていく白亜の壁。近付く帰還の時に、団員たちに声をかける。俺達の声に気付いたのか、壁の向こうからもドッと歓声が上がった。声のボリュームに驚いたのか、ビクッと体を揺らして固まったカネレに笑いながら俺達は市街門へと進んでいく。
今回は目玉として竜の亡骸がある。いつもよりも騒がしい凱旋になるだろう。
さあ、今年を食い繋ぐための食料を持ち帰る『狩人』達の凱旋だ。
凱旋を終え、拠点へと帰ってきた俺達「グナーデの食料庫」の団員。民衆の視線を一身に浴び続けたカネレは怖かったのか、俺の頭に被さるようにしがみついて離れない。
異邦人である彼女の民衆への紹介も兼ねて、俺の側にいた方が受け入れられやすいかと思って凱旋時も肩車をしていたのだが……少々荒療治が過ぎたようだ。
腕を伸ばし、脇に手を差し込んで持ち上げようとしても足を首に絡ませて離そうとしない。余り強く引き離すのもアレなので、このまま作業を開始することにした。
「フッ、変わった帽子だな」
「いいだろう?」
『ブモモ……ブモォ……』
吹き出すのを堪えているジークに笑みを返していると、結晶猪の幼体が寂しそうな瞳でこちらを、というよりは俺の頭にしがみついて離れないカネレを見つめていた。
地上の王とまで呼ばれる魔物とはいえ幼体だ。親元を離れ、慣れない環境に来て寂しいのだろう。
そう、今回の帰還に際し、カネレと仲の良かった結晶猪の幼体が同行する事になったのだ。成体の肉体言語によると『成長するだけなら食糧庫にいなくてもカネレと一緒にいれば出来るので、親離れも兼ねて一緒に行かせてやってほしい』との事。
正直な所、これまでに少なくない被害を俺達にもたらして来た結晶猪の幼体がカネレとのやり取りを見てきた俺達ならともかく、何も知らない民衆に受け入れてもらえるかは分からないのだが、それでも良いのならという事で連れてきた次第だ。
「うにゅ……✕✕✕✕……?」
「よっ……と。カネレ、しばらく結晶猪と一緒にいい子にして待っていられるか?」
「うん……?」
「いい子。大人しく待っているんだ」
「いーこ?」
「おう」
すると、馴染みの鳴き声を聞いたからかもぞもぞと動き出したカネレ。しがみつく力が緩んだのですかさず剥ぎ取り地面に下ろすと、トコトコとこちらに近付いてきた結晶猪の背中によじ登った。
もはや手慣れた様子でいつもの位置に落ち着いたカネレは、俺の言葉を噛み砕いてしばらく考えた後、ぴっと手を上げて宣言した。
「……ん!カネレ、いいこ!」
「良し。じゃあそうだな……ケヴィン、頼めるか?」
「分かりました。……ああ、丁度アリシアが来てるみたいなので、会わせてみても良いかもしれませんね。カネレもアイツと年が近いだろうし、アイツが良い姉貴分になってくれれば良いんですけど」
「それは良いな。試してみる価値はある」
いつものようにケヴィンに世話を頼むと、どうやら彼の妹であるアリシアが拠点に来ているようだった。
物好きなもので、あのマスターに時折魔法を習いに来ている彼女はケヴィンとはかなり年が離れており、成人してガタイも良い彼とは対象的に線の細い少女だったはずだ。
同年代の子供と遊ばせるのも良いが、年上の姉貴分を作ってやるのも良いかもしれない。そう思った俺はカネレの頭をポンポンと撫でつつ、ケヴィンに彼女を預けた。
ばいばい、とこちらに手を振るカネレの仕草に頬を緩ませ、彼女の姿が見えなくなった所で気合を入れ直す。
「……良し。ジーク、今日の予定は?」
「収穫物の収納に収穫量の再集計、そこから今回の収益を計算して、今回の狩りで出た損失の埋め合わせや装備の調達に関する報告書の作成だな。明日からもまた忙しいぞ」
「ハァ……帰ってきたら帰ってきたで面倒くさいんだよな」
「しょうがねぇだろうよオッジ。これも可愛い娘のためだぜ?」
「……そうだな、頑張るか!」
ジークの言葉に頷き、グッと拳を握る。既に他の団員達は動いている。まずは収穫物を倉庫に収めなければ。
収穫物を運んできた馬車から食物の詰まった木箱を両肩に担ぎ、俺は動き始めた。
次回、新キャラのアリシア登場です。
リアルとの兼ね合いから今回と同じ時間に更新するようになると思います。




