僕と皆と朝ごはん
毎日更新継続!!
感想、ブクマ、評価などなど、ありがとうございます!
僕がお兄さん達に拾われてから2週間ほどが経った。
お兄さんたちはみんな優しくて、いつも僕に笑いかけてくれる。まだこの世界の言葉を完全に理解することはできないけど、話しかけてくれる言葉の感じはとても明るくて優しい。
最初は親猪さんの姿に警戒していた様子の彼らも、今ではすっかり彼女達の存在を受け入れてくれたみたいでしばしば一緒に洞窟に潜っては協力して収穫作業を行っているようだった。
お兄さん達はこの世界の農家さんのような職業なのか、毎日休む事なくあの不思議な洞窟の中へと潜り、色とりどりな植物や種類も様々な動物達を採取、狩猟してきては食べられる様に加工している。
出される食事はその収穫物の中から賄っているようで、その日の取れたものによってメニューが変わり飽きが来ることはなかった。
まるで食紅を溶かし込んだかのように鮮やかな赤色に発色するスープ。
スープと言うよりは餡に近いのではないかと思うくらいに粘性の強い謎の物体。
どういう原理なのか焼いている筈なのにりんごに近いシャクシャクとした食感がするパンのような食べ物など、僕が食べた物はやはり異世界産らしく前の世界とは全く違う見たことも聞いたこともない食べ物ばかりだった。
時々僕の知っている「普通の」パンや食事が出る事もあるけれど、異世界情緒に溢れた斬新に感じる料理の数々は僕に様々なカルチャーショックを与えてくれた。
バナナっぽい実を剥いたら真っ青な実が出てきた時は何事かと思って叫んじゃったけどね。
「らじおたいそう、おわり!」
『ブモモ!』
今日も日課である朝のラジオ体操を終え、猪と一緒に背伸びをする。空を上り始めた太陽の光が斜めに差し込み、緑に覆われた壁面を鮮やかなオレンジ色に照らしていた。
僕と猪のラジオ体操を少し離れた所で見守っているのは微妙な雰囲気の親猪さんと、何故か妙に優しい目を僕に向ける✕✕✕✕さん。
何日か前にラジオ体操を見られて以来、いつの間にか親猪さんと一緒に僕達を見守るようになっていた。
何となく恥ずかしさを感じつつも、体を動かしておかないといざという時に満足に身動きが取れない事もある筈なのでやめる訳にはいかない。
異世界という事でどれだけ警戒していても損はない。それに、この洞窟にだってどんな危険が潜んでいるかは分からないのだ。
✕✕✕✕さん達がいつまで僕の事を保護してくれるのか分からない以上、いつ独り立ちしても良いように備えておくのは必要だと思うのだ。
そんな訳で、僕は今日もラジオ体操に励んでいるのだ。
『カネレ、✕✕✕✕』
「✕✕✕✕さん、✕✕✕✕」
『……✕✕、カネレ✕✕✕✕✕✕✕✕』
ふう、と額に浮かんだ汗を拭う振りをしながら✕✕✕✕さんの下へ行き、朝の挨拶をする。最近覚えたこの挨拶はどうやら前の世界における「おはよう」に当たる挨拶のようで、昼や夜にはまた別の挨拶を交わしている様なのだ。
まあ日本語にも朝昼夜の挨拶はあるし、英語だって「はろー」とか「ぐっどもーにん」とか「ぐっない」とか色々ある訳だし。異世界語にもそういった挨拶があるのは至極当然の事と言えるだろう。覚えられるかはともかく。
僕が挨拶を無事に終えると、✕✕✕✕さんが頭を撫でてくれる。男性らしい無骨な手でわしゃわしゃと頭を撫でられるこの時間が僕は好きだった。
もしかしたら僕の前世は雄の犬だったのかも知れない。
……想像してみたけど、犬として生きるのもちょっと楽しそうだと思った。わんわん。
目を閉じて頭を撫でる手の感触を楽しんでいると、脇に手を入れられて抱え込まれる。大人しく✕✕✕✕さんの首に手を回して、目線の高くなった世界を楽しんだ。
猪も僕達の後をトコトコとついてきて、親猪さんはそれを静かに見送っていた。どうやら親猪さんは食べるものが僕たちとは違うらしく、猪も食べていたあの結晶じゃないと生きていけないらしいのだ。
じゃあ猪はなんで……と猪の方を見るけれど、僕の視線に気がついた彼はこちらを見上げてブモモッ、と明るい鳴き声をあげるだけだった。
今日のご飯、楽しみ!とでも言うかのような猪の鳴き声になんとも言えない気持ちになりつつも、僕と✕✕✕✕さんと猪は広場へとやって来た、
『✕✕✕✕、カネレ!』
「✕✕✕✕」
『✕✕✕、✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕、カネレ。✕✕✕✕』
『んにゃ……✕✕✕✕』
『✕✕✕✕✕、✕✕✕✕✕カネレ!』
「んにぃ、じーくさん」
『✕✕!ジーク✕!』
広場に出ると、綺麗に並べられた長机の上にほかほかと湯気をたてる皿の数々が置かれていた。今日の朝ごはんは目玉焼きにパン(らしきもの)、そして謎の葉物野菜のサラダと軽く焼かれたベーコン風のお肉だ。
付け合わせにスープもあるらしく、少し離れた場所から良い匂いと共にガヤガヤとお兄さんたちの話し声が聞こえてくる。
✕✕✕✕さんに抱かれた僕を見て挨拶をしてくれるお兄さん達に同じように挨拶を返していると、後ろから近付いてきたジークさんに頭をガシガシと撫でられた。
ジークさんに撫でられるのは嫌ではないんだけど、頭が揺れてちょっとクラクラするのが難点。一通り撫でられた後に抗議の意を込めてジト目で彼を見るけれど、豪快に笑ったジークさんはその視線を気にした様子もなくスープを取りに行ってしまった。ぬぐぅ……!
むすっとした僕の表情を見た✕✕✕✕さんが笑いを堪えるような顔で席に座り、僕を膝の上に乗せて全員の準備が終わるのを待った。
これまでの様子から察するに、✕✕✕✕さんはどうやらこのお兄さん達の中で一番偉い立場らしい。テントも一番大きい物を使っているし、出される食事も若干だがお肉が多かったり予め準備されていたりと至れり尽くせりだ。
何故か僕も同じ扱いを受けているのだけれど、一度手伝おうとしたら慌てて止められたから動こうにも動けない。甘んじてVIP待遇を受ける他ないのであった。
『✕✕✕✕✕✕✕、✕✕✕✕✕✕』
『『『✕✕✕✕✕✕』』』
「✕✕✕✕✕✕」
準備が終われば、✕✕✕✕さんが代表して食前の挨拶をするのに合わせて同じように挨拶をする。
この世界では手を合わせるのではなく、フォーク等の食器を一本握り、その持ち手を額に付けながら挨拶をするのが基本のようだ。
僕も周囲を見ながら見様見真似で食前の挨拶をすると、それを見ていた✕✕✕✕さんから頭を撫でられた。
やった。
と言う訳で、挨拶も終わったためまずは目玉焼きから攻略を始める。✕✕✕✕さんに取ってほしい皿を指差すと、ちゃんと手渡してくれた。
伝わらないかも知れないけれどちゃんとお礼を言ってから、片面焼きらしき目玉焼きをぱくりと一口。
シンプルに塩コショウで味付けされた目玉焼きの塩気が全体的に味の薄い卵にアクセントとして加わり、卵の特徴的な食感と見事なコラボレーションを魅せてくれる。
一口では流石に食べきれなかったため、予め切れ込みが入れてあるパンに残りの目玉焼きを挟んで食べると、パンの優しくも甘い味わいに目玉焼きが加わり美味しさ倍増。
きちんと発酵させているらしく白くふわふわとしたパンの食感とプリプリの白身や、少しモッサリとした黄身の独特の食感がまた美味い。
『✕✕✕、カネレ。✕✕✕✕✕?』
「……ん!✕✕✕✕!」
『カネレ✕✕✕✕✕✕✕!』
ポンポンと軽く頭を撫でられ、その感触にはにかみながらも僕は食事を進める。
キャベツっぽくもありレタスのようでもある謎の葉物野菜が刻まれたサラダにフォークを刺して、口の中に放り込む。ドレッシングがかけられていないのが少し気になったけれど、生野菜が食べられない訳ではないのでそのまま咀嚼する。
すると、噛んだ葉っぱから滲み出た水分が薄めたレモン汁のような独特の味で僕の舌を刺激した。予想だにしない味に思わず驚いた僕だったけれど、慣れればザワークラウトのような癖になる味わいで食が進む。
ベーコン風のお肉はそのまんまベーコンだった様で、塩コショウで味付けされた肉は本来の旨味と塩味、そしてコショウのスパイシーな味わいの調和によってほっぺたが落ちそうになるくらいに美味しかった。
「おいしい、おいしい!」
『✕✕✕✕✕、✕✕✕✕』
『✕✕✕!カネレ✕✕✕、✕✕✕✕✕✕?』
「にぇ?」
にこにこと頬が緩むのを自覚しながら食べ進めていると、近くにいたお兄さん達から色々と食べ物を差し出される。さっき僕が食べていたお肉だったり、あるいは僕が一口で食べられるように切り分けられた目玉焼きだったり。
突然の餌付けに戸惑いながら✕✕✕✕さんを見ると、なんだか✕✕✕✕さんもそわそわした様子でこちらを見ていた。
……なんだろうか、この謎の圧は。
釈然としないものを感じながらも、取り敢えずくれるといった食べ物はありがたく貰っておく。
フォークを差し出してくれていたのが女の子であれば間接キスだのなんだのとドギマギしたのかもしれないが、相手はガタイの良いお兄さん達だ。特にそういった事を気にする気にもならず、パクパクと差し出された物を食べていく。……うん、美味しい。
『✕✕✕✕?✕✕✕✕?』
「ん、✕✕✕✕」
『✕✕✕✕✕✕✕✕✕!!!!』
『ジェイドォォォォオオオオ!!!!』
『ケヴィン!?✕✕、✕✕✕✕ッ!!?』
ドタバタと何かを言い合いながらケヴィンさんとジェイドさん?が食卓を離れ掴み合いの喧嘩を始めた。いや、喧嘩というよりもジェイドさんにケヴィンさんが一方的にキレている感じだ。
一体どうしたのだろうか。
『ブモモォォォォンッ!!!!』
『『ギッ!?』』
「あ、いのしし」
✕✕✕✕さんを始めとして周りのお兄さん達は誰一人としてその喧嘩を止めないので、僕も食事を一旦中断してその様子を眺めていると何故かやる気満々の猪が参戦し二人を轢き倒していた。
二人のどてっ腹に結晶の牙がずぶりと刺さり、とても痛そうな声を上げながら広場の外へと吹き飛ぶ二人。
そんな彼らを見て周りのお兄さん達は皆大笑いだ。
ふんす、と謎の達成感を醸し出す猪は二人の方を見るとまるで煽るように『ブモモモ、ブピピッ、プヒッ』と鳴いていた。
……僕、前にもこの光景を見た気がする。
『✕✕ッ!!ジェイド!✕✕✕✕✕!』
『✕✕✕ケヴィン!✕✕✕、✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕!!』
『ブモモ……プヒプヒ、ブモ?ブモモォ?』
『『✕✕✕✕✕✕✕!!』』
吹き飛ばされた二人は怒りで引き攣った怖い笑みを浮かべつつ、徒手空拳で猪へと襲いかかった。そしめそれを煽るように顎をクイクイと上下させながら甘んじて受け止める猪。
突如始まった乱闘に喝采を上げるお兄さん達に何とも言い難い目を向けながら、僕は黙々とご飯を食べ進めたのだった。
ちなみに、勝者は途中参戦で二人と一匹を瞬殺した親猪さんでした。もう絶対に怒らせないようにしよう……。
感想欲しい(小声)




