僕とお菓子と有罪猪
どうもー、作者ですけど。主人公の名前出るのまーだかかりそうですかねぇ……?
感想、評価、ブックマーク等々いつもありがとうございます。
何だか猪の様子がおかしい。
✕✕✕✕さんやジークさん達が出掛けていきしばらくした後。猪の一撃を受けてダウンしていたケヴィンさんが復活し、僕におやつをくれた辺りから何かに怯えるようにぷるぷると震え始めたのだ。
今僕がいるのは、朝ごはんを食べたときと同じ広場。貰ったお菓子を食べるために猪から降りて、切り株に似た形の椅子にちょんと腰掛けている。地面に届かない足がぷらぷらする感覚が少し面白かった。
「いのししー?どうしたの?」
『ブ……ブモ……ブモモン……』
「んー?」
隣に伏せている猪に話しかけたけれど、何を考えているのかよく分からないが、猪は何故かとても気まずそうな表情でつつつ、と僕から視線を反らした。
……まあいいか、お菓子食べよと僕は考え、ケヴィンさんから貰ったお菓子を食べる。
分厚い葉っぱを器の代わりに使ったそのお菓子は、見た目で言えばわらび餅そのものだった。ただ一つの違いは、色が透明な紫色であること。
ケヴィンさんがぶどうの様な見た目をした果物の皮を剥くと、このような宝石みたいな果肉が姿を表したのだ。
中に一粒の種が入っているのが見えるが、それさえ取り出してしまえば後は美味しいもちもち食感の不思議スイーツだ。
「にへへ、ぷにぷに〜」
摘み上げると、ぷにぷにとした触感が気持ち良い。しばらく指に力を入れたり抜いたりして、宝石のようなぷにぷにを楽しむ。あんまり力を込めすぎると潰れて果汁が飛び出るから注意が必要だ。
そのまま食べても柔らかい甘さととろみのある果汁が口の中に溢れて美味しいのだが、ここで更にもう一手間加えるのがこのお菓子の通な食べ方らしい。ケヴィンさんがそれっぽい動きで何かを話してたから違いない。
それが、葉っぱの端にちょこんと乗せられたピンク色の塩のような粉。そう、わらび餅で言う所のきな粉ポジションだ。
ポンポンと摘んだぶどうもどきで叩くようにしてそのピンク色の粉をつけると、粉が地面に落ちないように注意しながらパクリと一口。
目を閉じ、じっくりとその味を吟味した僕は、カッと目を開いて叫んだ。
「……おいしい!」
『ブモモ……』
元々の味は優しい甘さのみで、大量に食べると少し飽きが来るかな?といった印象を抱くぶどうもどきだが、このピンク色の粉をつけるとその甘さに対する強烈なアクセントとして強い酸味が追加される。
塩味とはまた違うその刺激は、甘さだけでは物足りなさを感じていた僕の舌にクリティカルヒット。甘酸っぱい味は僕の好みに合っていて、食べる手が止まらなくなった。
何故か段々と元気がなくなっていく猪が心配だけど、お腹が空いているという訳では無いみたいだし、今朝のケヴィンさんへの一撃といいどうしたのだろうか?
「いのししも食べるー?」
『ブモン』
仕方が無いから残りのぶどうもどきを猪の口元に持っていき、分けてあげようとしたけど拒否された。
ぷい、と顔を背けた猪に変なの、と首を傾げた僕だけどいらないならいいかと最後の一個であるぶどうもどきを口に放り込んだ。
もっちもっち、と咀嚼する度に伝わる食感に頬を緩ませながら食後の余韻に浸っていると、何やらケヴィンさん達を始めとしたキャンプ場に残った人たちが慌ただしく動いているのが見えた。
一体どうしたんだろうか。とはいえ彼らの事を何も知らない上に言葉も通じないため、手伝おうとしても邪魔になるだけだと思った僕は、その場で余韻に浸り続けることを選んだ。
美味しかったなあ、また食べたいかも。
これまでに食べたファンタジー果実ナンバーワンの座を射止めたぶどうもどきに思いを馳せる僕。
ケヴィンさんが種を取ってくれたから食べやすかったけど、今度は自分で種を取らなくちゃなあ、などと考えていると、にわかに騒がしくなったキャンプ場の奥、✕✕✕✕さん達が入っていった洞窟の奥から音が聞こえてきた。
『─────ァァァ』
『ブモッ』
その音が聞こえた瞬間、ビクッ、と体を揺らす猪。どうしたのだろうか、と僕が猪の方を見たのと同時に、もう一度、今度ははっきりとした咆哮が僕の耳にも聞こえた。
『ル゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!』
あっ、これ親猪さんだ。
咆哮の主に心当たりがあった僕は、続いてその声に明らかな怒りが含まれている事に気がついた。これはアレだ、猪が親猪さんに構ってほしくて親猪さんの脇腹を牙でゴリッとやった時と同じくらい怒ってる時の声だ。
一体何が、と親猪さんがここまで怒っている理由を考えた時、ここに来る前にあった一幕を思い出した。
『ヴルルァ……』
『ブモッ』
『ヴルヴル』
『ブモモッ』
……そう言えば、猪に運ばれてここに来る前に親猪さんが猪になにか言ってた気がする。
当然僕は異世界語なんて分からず、異世界猪語なんて以ての外なので内容は推測するしかないけど、恐らくは「離れた場所に行くんじゃないよ〜」みたいな感じだったのではないだろうか。
さて、ここで猪の様子を見てみよう。
『ブ、プヒ……プヒィ……』
はい有罪。
これは間違いなく何かやらかしてますねコイツ。鳴き声も変わってるしお前実は猪じゃなくて豚だったりしない?
それはさておき、激怒な親猪さんと✕✕✕✕さんやジークさんがかち合うと少し不味い事になると思う。だって親猪さん見た目は完全にモンスターそのものだし、彼らは武器を持っていた様子からして狩人とか兵士とかそういった職種の人間なのだろう。
口からビームを出せちゃう親猪さんが倒される光景なんて想像できないけど、✕✕✕✕さん達がやられる光景は簡単に想像できる。
……ご飯もくれた人達が誤解のまま死んじゃうのは、かなり悲しい。
「いのしし」
『プヒ……プ、ブモ?』
「れっつごー」
『ブモォ!?』
「はいきりきりあるく!」
という訳で、猪をスケープゴートにします。
よっこいしょ、と椅子からぴょんと飛び降りて、お皿を椅子の上に乗せておく。続いて猪の毛皮を掴んでよじ登ると、いつもの位置に座り猪の背中をポンポンと叩いた。
現実逃避に豚さんごっこをしていた猪がこちらをちらりと見てきたので、にっこりと笑い咆哮の聞こえた穴の方を指差して一言。
そんな殺生な!?と言わんばかりに目を剥いた猪の背中をぽむぽむと叩くと、猪はこの世の終わりのようなため息を吐いた後にハイライトの消えた死んだ目でトボトボと歩き始めた。
そんなに親猪さんから怒られるのが嫌か、君。
『✕✕、✕✕✕!?✕✕✕✕✕✕、✕✕✕✕✕✕!!』
「けびんさん、すぐにかえりまーす。ほら、いそぐ!」
『ブモォォン……』
僕たちが洞窟に行こうとしている事に気が付いたのか、焦った様子で僕たちを引き止めようとするケヴィンさん。そうだよね、あの声滅茶苦茶危なそうだもんね。でも大丈夫、たぶん死ぬのは猪だけだから。
ぺちん、と力を込めて背もたれにしている結晶を叩くとようやく覚悟が決まったのか、トコトコと洞窟に向けて進みだす猪。
「もっといそがなきゃ!」
『ブモ、ブモモ〜ン……』
急かす僕に泣きそうな声で答える彼には少し同情するけど、自業自得というわけで情状酌量の余地はない。甘んじて親猪さんの刑を受けると良い。
トコトコと歩くスピードから、ドコドコと駆け足くらいのスピードになる猪。ケヴィンさんを振り切るにはもうちょっとスピードがいるかも。
そう考えてもう少し早くと急かすと、猪の中で何かが吹っ切れたのか、彼が出せる最大スピードで走り出した。
毛皮をしっかりと握り、振り落とされないように結晶の背もたれにちゃんと背中を預ける。木々の間を縫うように駆け抜ける猪の目から、きらきらと輝く粒が舞っているのが見えた気がした。
「みえた!」
『ブモモン!!ブモ!ブモォ!!』
『ヴルルルル……』
『✕✕✕!?✕✕✕✕✕!ケヴィン✕✕✕✕✕✕✕✕!?』
『✕✕✕✕!✕✕✕✕✕✕✕!!』
しばらく走ると、見えたのは激しい戦闘があったのだろうと一目で分かる荒れ果てた森の姿。
木々はなぎ倒され、実った果実は地面に落ちて潰れてしまっている。所々ガラス化して抉られている地面は親猪さんのビームが貫いた箇所だろうか。
『ブモモ!ブモブモ!ブモモォン!!』
『ヴルァァァ!!!』
『ブヒャ!!?』
立ち止まった猪から滑り台の要領で降り、お疲れ様と労いの言葉をかけると、猪はそれを聞いているのかいないのかすぐに親猪さんのもとへと駆け出して、その足元で何やら事情説明らしき鳴き声を上げた。
が、すぐに一喝した親猪さんの前脚にプチッと潰されている。あっ、牙で腹を打たれて吹き飛ばされた。結晶にヒビが入ってる。痛そう。
ブモモォン、ブモモォンと悲しそうな声で呻く猪は自業自得なので放っておいて、親猪さんと戦っていたであろう✕✕✕✕さん達に近寄った。
猪と親猪さんの親子喧嘩 (というより説教?)をあっけにとられた様子で見つめる彼らは傷だらけで、所々血が出ている箇所もあった。
見たところ死人は出ていない。
なんとか最悪の自体は免れたようだ。
はふううう、と大きく安堵のため息をついた僕は、ぺちゃりとその場に崩れ落ちたのだった。
年末年始はちょっと忙しいので更新が遅れるかもです。
毎日更新は少し保証できそうにないので、その点どうかご了承下さい。




